『オブセッション 災愛』偏愛映画館 VOL.89

劇場上映中&これから劇場上映となる映画から、映画のプロが選んだ偏愛作品を、
その愛するポイントとともに熱くお伝えします!

recommendation & text  : SYO
映画をメインとする物書き。1987年生まれ。東京学芸大学卒業後、映画雑誌編集プロダクションや映画情報サイト勤務を経て独立。インタビューやレビュー、オフィシャルライターほか、映画にまつわる執筆を幅広く手がける。『正体』『汝、星のごとく』ほか藤井道人監督の作品に参加。杉咲花氏の公式インタビュー、中村倫也氏や横浜流星氏のファンクラブ内インタビューを担当。「装苑」「WOWOW」等で連載中。TV番組「シネマ PICK UP」ナビゲーターも務める。
X(Twitter):@syocinema

Emma Stone stars as Michelle in director Yorgos Lanthimos’ BUGONIA, a Focus Features release.
Credit: Atsushi Nishijima/Focus Features © 2025 All Rights Reserved.

いま、ある若手クリエイターの創ったホラー映画が歴史を塗り替えるヒットを記録しているのをご存じだろうか? その名は『OBSESSION(邦題は『オブセッション 災愛』)』。『Michael/マイケル』『プラダを着た悪魔2』『スター・ウォーズ/マンダロリアン・アンド・グローグー』といった強豪たちがひしめく中で劇場公開され、2カ月もの間トップ10に入り続けていることも驚異だが、さらにすごいのは製作費75万ドルに対して世界興収4億ドル超(予算100万ドル未満の映画としては今世紀最高の興収)もの数字を出していること。

映画は1週目の興収や動員に対して2週目以降が落ちるのが普通だが(特にホラーは顕著)、本作は2週目の興収が前週比+30%強となり、衝撃を与えた。しかも、『オブセッション 災愛』はどうも観客の約8~9割が35歳未満らしい。日本だと「若者が劇場に行かない」と言われて久しいが、アメリカにおいては「昨今はZ世代が映画興行を支えている」とのデータも出ているそうで、今回の“オブセッション・ショック”がより証明する格好となった。

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Director Curry Barker on the set of his film OBSESSION, a Focus Features release.
Credit: Manny Liotta / © 2026 FOCUS FEATURES LLC

僕が装苑読者に本作を紹介したいと思ったのも、作品の面白さは言うまでもないが――これらの現象感が関連している。同作を生み出したカリー・バーカー監督は1999年生まれの26歳。次世代のクリエイターがここまで“当てた”方法論や近い世代を熱狂させている手腕を学ぶこともできるし、何より「自分たちの方を向いている映画だ」と強く感じられる喜びが本作にはある。ちょいちょいグロい描写も挿入されるため苦手な方にはゴメン……という気持ちも多少あるが、映画好きのみならず興味を持てる中身であることは確かだ。

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Inde Navarrette stars as Nikki and Michael Johnston as Bear in OBSESSION, a Focus Features release.
Credit: Courtesy of Focus Features / © 2026 FOCUS FEATURES LLC

さて、引っ張ってしまって恐縮だが――『オブセッション 災愛』のストーリーを紹介しよう。僕は「優れた映画は一言で面白そうに説明できる」という持論を密かに提唱しているが、本作はまさにそれ。

「片思い相手が魔法のヤナギで激重彼女化した」が全てとなる。何ともシンプルで、「え、どれだけやばいの?」と観たくさせるゾーン。完全に目新しいものではなく、なんとなくわかる・想像できる範囲に設定して、興味を持たせて予想を超えた中身でファンにするテクニック。もう既にこの映画、上手い。初めて本国版の予告を観た際「この設定でこんなに面白そうなのすごい」とつぶやいたものだが、新味にしすぎない安心設計が行き届いている。

OBSESSION

主人公は長年片思いをこじらせている奥手な青年ベア(マイケル・ジョンストン)。告白できないままの意中の相手ニッキー(インディ・ナバレッテ)が新生活に踏み出すと聞き、告白を決意するも失敗してしまう。落ち込んだ彼は、彼女にプレゼントしようと思ったお守りアイテム「ワン・ウィッシュ・ウィロー(願いのヤナギ)」を自分のために使ってしまう。「どうか彼女が世界で一番僕を愛しますように」と……。

走って彼女を追いかければいいのにどこまでも他力本願な情けないヘタレ感が素晴らしいが(こうした人物設定も現代的で絶妙だ)、そのヤナギの効力は“本物”で、ニッキーは人が変わったようにベタぼれ状態に。だが恋愛依存が強すぎて常軌を逸した行動に出るようになり、「外出するな」「ずっと隣にいろ」「色目を使うな」と束縛されたベアは(反論したら泣き叫ぶなど手が付けられなくなる)どんどん追い詰められていく……。

OBSESSION

冒頭に「ホラー」と書いたが、僕は本作を「怖い」というよりも「笑える」ものとして受け取った。ベアからすると願いが成就したと思ったら悪夢展開だったわけで恐怖でしかないのだが、観客=第三者からするとそれもエンタメなのだ。このちょっとした意地悪な感じは、カフェや居酒屋などで友人や知人の恋愛失敗談を聞くときのそれに近い。

ヤバい恋人に現在進行形で苦しんでいるなら手を差し伸べなければ、と深刻になるだろうが、話者が「あの頃はきつかった」「大変な目に遭ってさ」と過去形として話すことで「じゃあ今は大丈夫なんだ」とネタや娯楽として受け入れられる距離感が、そのままスクリーンの内と外を隔てる物理的な隔絶に合致している。つまり『オブセッション 災愛』は“楽しんじゃっていいんだろうか、不謹慎じゃないのか”と罪悪感をおぼえることがない。意図的に“近い”シチュエーションを設定しながら、あくまで物語として観賞できること――これは昨今、かなり珍しい特徴と言えるかもしれない。

ちなみに本作は、死んでしまった愛猫をベアが見つけるところから始まる。自分も愛猫家として猫が酷い目に遭う映画は苦手なのだが、本作は嫌悪感を抱かずに楽しめた。直接的な描写がないこと、フィクション性が強められていること、そしてベアがきちんと愛猫家として描かれていることなど、さりげなく心配りがされていたからだ。後々「おいマジか」という描写があるものの自分の中でマイナスにならなかったのは、大きな発見だった。

脱落者を作らないシンプルな設計、攻めた描写を入れつつも「ただただ面白く見られる」調整など、随所にセンスを感じさせる『オブセッション 災愛』。もう一つのうまさは、「ミーム化」だ。ミームとはネットミームの略で、SNS上などで面白ネタとして使われる有名な画像やgifなどの超ショート映像のこと。簡単にいえば、『オブセッション 災愛』は切り抜き動画がバズるように出来上がっている。

ニッキーを演じたインディ・ナバレッテの“顔芸”があまりにも素晴らしいためだ。ベアが自分の思い通りにいかないと絵文字のように極端な落ち込み/不満顔をするし、笑顔が張り付いたまま固定される狂気の表情、流血しながらも目をかっぴらいて笑顔を見せる等々、インパクトが強いものがずらりと並び、まさにネタの宝庫(すでに公式がニッキーの表情をステッカー化するなどグッズ展開もしている)。

何気なくSNSを眺めていてこれらの画像やgifを見かけて映画に興味を持つ人も確実にいるだろうし、中身だけでなくて入り口にも意識が行き届いている。若者世代にとってはタッチポイントが非常に多いのだ。

物語の展開についてはあえて書かなかったが、いわゆる“ガワ”の部分だけでも歴史的ヒットの理由が十分に納得できることだろう。「この状況をどうしたらいいのか? ニッキーを元に戻せるのか/戻していいのか?」といった展開の面白さに加え、恋愛映画としても「相手のどこを好きだったのか、仮に思い通りになればそれでいいのか」といった教訓&共感を与えてくれるし、ベアの自業自得感や巻き込まれたニッキーの姿(呪いに抗う姿が時々顔を出すのがつらい……)などに対面コミュニケーションを避けがちな僕たちには耳が痛いテーマ性もしっかり内包し、魅せ方などに映画としての造形の深さを感じさせる『オブセッション 災愛』。避暑がてら、物は試しに観に行ってみると今後の創作や表現活動のヒントをもらえるはずだ。

『オブセッション 災愛』
繊細で内向的な青年、ベアは、アルバイト先の楽器店の同僚で幼なじみであるニッキーに片思い。その思いを打ち明けられないが、どうしても彼女と相思相愛になりたい。ある時、愛猫が急死しさらにニッキーがバイトを辞めるという。寂しさを募らせたベアは、スピリチュアル系のアクセサリーショップで不思議なアイテムを目にする。「ワン・ウィッシュ・ウィロー(願いの柳)」。古風なまじないアイテムに、ベアは「ニッキーが誰よりも僕を愛してくれますように」と願いをかける。するとたちまちニッキーはベアを愛し始める。しかしその愛は徐々に膨張し、思いもよらぬ惨劇を生み出すのだった。

監督・脚本・編集:カリー・バーカー
出演:マイケル・ジョンストン、インディ・ナヴァレッテ、クーパー・トムリンソン、メーガン・ローレス
全国公開中。パルコ、ユニバーサル映画配給。
©2026 Focus Features LLC. R15+

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