偏愛映画館 VOL.17『ザ・メニュー』

劇場上映中&これから劇場上映となる映画から、映画のプロが選んだ偏愛作品を、
その愛するポイントとともに熱くお伝えします!

recommendation & text  : SYO
映画を主戦場とする物書き。1987年生まれ。東京学芸大学卒業後、映画雑誌編集プロダクションや映画情報サイト勤務を経て映画ライター/編集者に。インタビュー、レビュー、コラム、イベント出演、推薦コメント寄稿など映画にまつわる執筆を幅広く手がける。「CINEMORE」「シネマカフェ」「装苑」「FRIDAYデジタル」「CREA」「BRUTUS」等に寄稿。
Twitter:@syocinema

 何かしらの作品をことばで紹介する仕事を行うひとりの人間として思うのは、「一言で表せる作品は強い」ということ。『ミッドサマー』は「卒論研究で辺境の自給自足コミュニティを訪れたらヤバい村だった話」、『LAMB/ラム』は「山奥で暮らす農家の夫婦のもとに、羊とも人ともつかぬ“何か”が生まれた話」、『NOPE/ノープ』は「未確認飛行物体を撮影して一獲千金を狙う兄妹の話」といったように、たった一文で概要を紹介できる作品は「気になる」「面白い」となりやすく、バズりやすい。アルフレッド・ヒッチコック監督の作品はまさにそうで、『鳥』なんて「鳥たちがある日突然襲い掛かってくる話」ただそれだけだ。でも「なんで?」「どんなふうに?」と思わせ、気づけば観賞欲が引きずり出されている。

 「一言で表せる作品」はいってみれば“キャラ立ち”が強いため、上記のようにホラー/スリラー系の作品が多い傾向にあるのだが、不朽の名作『自転車泥棒』は「やっとの思いで仕事にありつけた父子が勤務中に自転車を盗まれてしまう話」、『her/世界でひとつの彼女』は「声だけのAIと恋に落ちる男性の話」といったように、ジャンルも時代も関係なく広がっていく作品は一言で説明できる傾向が強い。これはすなわち、設定や物語自体の独自性でもあろう。

 そして、今回紹介する『ザ・メニュー』もその系譜に連なる作品といっていいだろう。本作は「孤島の隠れ家レストランにやってきた美食家たちがとんでもない目に遭う話」。この一文を目にしただけで色々な想像・妄想が膨らんでくる。「とんでもない目ってどんな内容?」「どんなレストラン? どんな食事?」だったり「『注文の多い料理店』みたいな話かな」「いや『羊たちの沈黙』?」と思う人もいるかもしれない。そして「気になった」時点で我々はもうテーブルについているのも同じ。一度「観たいリスト」にインプットされたら、劇場か配信・ソフトかは置いておいて、どこかしらのタイミングで観ることになるだろう。「味わいたい」というスイッチがもう入ってしまっているのだから……。

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 さらに、キャストやスタッフに注目してほしい。『クイーンズ・ギャンビット』『ラストナイト・イン・ソーホー』アニャ・テイラー=ジョイ『マッドマックス 怒りのデスロード』『ウォーム・ボディーズ』ニコラス・ホルト、そして『シンドラーのリスト』『グランド・ブダペスト・ホテル』『ハリー・ポッター』シリーズのヴォルデモート役で知られるレイフ・ファインズ。豪華な演技派俳優の競演が拝めて、ホルトが調子乗りの美食家、アニャがその付き添い、ファインズが狂気の料理長を演じるときたら演技の圧=“見ごたえ”は間違いなさそうだ。

 スタッフ陣はドラマ『メディア王 〜華麗なる一族〜』を作り上げた面々。そのなかのひとりで本作のプロデューサーに名を連ねるアダム・マッケイは、『ドント・ルック・アップ』『バイス』といった風刺のきいた社会派エンタメを作り上げた人気監督だ。となれば、今回の題材でもブラックな笑いが詰まった作品になりそう……と期待が高まる。

 また、スタジオも重要。本作はサーチライト・ピクチャーズによる作品。元々は20世紀フォックスのインディーズ系レーベル「FOXサーチライト」で、ウェス・アンダーソン監督の作品や『リトル・ミス・サンシャイン』『(500)日のサマー』『スリー・ビルボード』『シェイプ・オブ・ウォーター』等を世に送り出してきた映画好き御用達の存在。個人的には、日本でも人気のA24の先輩的存在という感覚だ。つまり「ここの作品は独自性があって面白い」と信頼できるブランドである。

 …とまぁこういった感じで、作品の概要を一言聞いただけで「面白そう」となり、キャスト・スタッフ・スタジオを知れば「満足できそう」と安心できる『ザ・メニュー』。あとは予告編を観れば作品のゴージャスかつ常軌を逸した雰囲気の片鱗はつかめるはずだ。僕自身も「これは“アリ”だ」と判断し、試写会に参加して、久々に痛快な胸糞エンタメを観た気分になった。ブラックで滑稽で、ここで笑うのは人間性的にアウトでは?と思いつつも吹き出してしまう。これは良い意味でしかないのだが……教訓めいたものが何も残らない、それでいて攻めていてかつしっかりした娯楽作だったのだ。

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 たとえば出てくる料理一つひとつにはある意図が込められているのだが、その制作過程が異様に丁寧で、込められた執念は常軌を逸している。「そのためにこんな手間暇かけたの⁉」と突っ込みながらも、画的なリッチさに満足もしている状態に陥る。これがチープだったら破壊力が弱いものの、細部まで美意識が“無駄に”行き届いているため「本気かよ(笑)」と認めつつ、笑ってしまうという……。一流の作り手たちが本気で仕掛ける悪戯をかぶりつきで観られる、なんと理想的な観賞体験であろうか。

 一言で表せる作品の良さはもう一つ。人に薦めやすいことだ。「すごい悪趣味なんだけど笑っちゃう映画を観てさ……」みたいな感じで、話題に上げやすいというのも本作の強みだろう。作品の事細かな面白さはもちろん説明できるのだが、説明せずとも十分伝わる。「レストランの客がマジでひどい目に遭うんだけど、それが衝撃で。それは実際に映画を観て確かめてほしい」で事足りてしまうのだ。こういう単純明快かつインモラルなシャレのきいた映画は昨今なかなか作られることがなく、観ている間はひたすらニヤニヤしてしまった。

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 コンテンツ過多の時代において、観賞欲を刺激してくれる作品は重要だ。「観たいけどいつでもいいや」ではなかなか選ばれないし、配信・ソフトリリースまでのスパンが短くなったからこそ「どうしても早く、最高の環境で観たい。だから劇場に行きたい」と思えないと映画館に足が向かないものだろう。ただ、映画史的に重要な作品はそのぶん観る側にも覚悟を要する“重さ”があり、娯楽大作は的が広すぎて薄味のものも多い。

 それでいうと、『ザ・メニュー』は決して万人向けではなく、適度に軽くてお高くとまっていない、がしかし味はしっかりしているというなんとも絶妙なバランスなのだ。一人で観ても楽しめるし、複数で観て観賞後に「あそこヤバかったね(笑)」と語り合うのも良さげ。ちょっとクセが強くて、でも小粋で口当たりがいい――あれ、ひょっとして俺はこんな映画を待っていたのかもしれないぞ……。

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『ザ・メニュー』
世界で最も予約の取れないレストラン、ホーソンに招かれたのは、著名な料理評論家や人気映画俳優、投資家、富裕層の熟年夫婦など選び抜かれたゲストたち。天才的なセンスとカリスマ性を持つホーソンのシェフ、スローヴィクがふるまうのは、芸術的なまでに美しく、完璧なコース料理の数々。しかしゲストたちは、コースが進むにつれてスローヴィクの狂気性に気がついていく。メニューには想像もできないサプライズと思いがけない結末が添えられていた……。スリルに満ちたフルコースの行方は?

マーク・マイロッド監督、セス・リース&ウィル・トレイシー脚本、エイミー・ウエストコット衣裳、レイフ・ファインズ、アニャ・テイラー=ジョイ、ニコラス・ホルトほか出演。
2022年11月18日(金)より、東京の「TOHOシネマズ日比谷」ほかにて全国公開。ウォルト・ディズニー・ジャパン配給。
©2022 20th Century Studios. All rights reserved.

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