偏愛映画館 VOL.4『明け方の若者たち』

劇場上映中&これから劇場上映となる映画から、映画のプロが選んだ偏愛作品を、
その愛するポイントとともに熱くお伝えします!

recommendation & text  : SYO
映画を主戦場とする物書き。1987年生まれ。東京学芸大学卒業後、映画雑誌編集プロダクションや映画情報サイト勤務を経て映画ライター/編集者に。インタビュー、レビュー、コラム、イベント出演、推薦コメント寄稿など映画にまつわる執筆を幅広く手がける。「CINEMORE」「シネマカフェ」「装苑」「FRIDAYデジタル」「CREA」「BRUTUS」等に寄稿。
Twitter @syocinema

映画『明け方の若者たち』より

 等身大、という言葉がある。「ありのままの姿」を示すもので、映画の評論などで使われる場合、「等身大の演技/キャラクター/物語」など、作り手や演者と物語/役の“近さ”を表現する際に用いられることが多い。

 ただ、この「等身大」、なかなかにくせ者でもある。というのもこの言葉は、往々にして年齢や属性に依存するものだから。大学生には大学生の、中年には中年の“同世代”だからこそ醸し出せるリアリティや価値観というものが、ある。そうした意味で、人気ライター、カツセマサヒコによる初小説を映画化した『明け方の若者たち』公開中)は、“等身大感”がすさまじい青春ドラマだ。

 大学を卒業した“若者たち”が、理想通りにはいかない社会人生活や恋愛に思い悩む姿を描いた本作。まずは監督とキャストをみてみよう。松本花奈監督(1998年生まれ)、主人公の<僕>を演じる北村匠海(1997年生まれ)、恋人である<彼女>に扮する黒島結菜(1997年生まれ)、<僕>の親友・尚人役の井上祐貴(1996年生まれ)といった監督・主要キャストが全員、ドンズバの“等身大”世代なのだ。

 また、『明け方の若者たち』の物語自体は2012年から2017年を舞台にしており、原作者のカツセ(1987年生まれ)、Netflix『全裸監督 シーズン2』「アバランチ」(ともに2021年)で知られる脚本家の小寺和久(1983年生まれ)といった書き手たちにとって“等身大”の時期を描いている。つまり、ビジュアル面を司る【監督&俳優】とストーリー面を支配する【原作者&脚本家】において、ダブルの等身大体制が敷かれているのだ。

 それゆえに、本作は“他者化”、言い換えるなら客観的な目線というものが極めて薄い。その結果、作品で描かれる恋も仕事もリアルな痛さ(生々しさとイタさ、どちらの意味でも)に満ちており、他の作品とは一味違う特別な輝きを放っている。

 例えば、<僕>と<彼女>がふたりで風呂に入る場面。『愛がなんだ』(’18年)や『花束みたいな恋をした』(’20年)でも登場した“鉄板”のシーンではあるのだが、本作のカップルは歯を磨き、口をゆすいだあと排水溝に向かって吐き出す。ラブシーンにおいてもじっくりと時間をかけて愛撫やキスを映し出しており、恋人たちに付随する生活感や性欲といったものを隠さない。中盤以降に登場するガールズバーや風俗店等で交わされる会話も、明け透けな言葉たちがそのまま耳に届いてくる。北村匠海と黒島結菜の自然体の演技はもとより、松本花奈監督による演出も徹頭徹尾リアリティ重視だ。

 仕事においても、会社内の照明の暗さや机の配置、社員たちが醸し出す空気感等々、「あるある」感が絶妙。アーバンでキラキラした大企業でも、フリーデスクなスタートアップ企業でもなく、見るからにお堅い年季の入った中堅企業のリアルな姿が、しっかりと切り取られている。会社内で事故が起こるシーンのエグ味も独特で、観る人によっては驚かされることだろう。ちなみに本作はR15+の観賞制限(15歳未満の入場・観賞禁止)が設けられており、そういった点からも「攻めた描写がある映画」ということがわかるのではないか。

 2021-22年は恋愛×仕事×数年間を描いた「等身大の日本映画」が多数公開。菅田将暉×有村架純が共演した坂元裕二脚本作『花束みたいな恋をした』森山未來伊藤沙莉が共演した『ボクたちはみんな大人になれなかった』松居大悟監督が盟友・池松壮亮と組んだ『ちょっと思い出しただけ』(2022年2月11日公開)といずれも良作ぞろいだが、『明け方の若者たち』はその系譜にある作品の中でも、こと“生々しさ”という点において突き詰められており、極めて異質。作中の“仕掛け”も含めて、恋や仕事の渦中にいる人の愚かしさや余裕のなさを容赦なく見せつけてくる。

 つまりこの映画は、“あの頃”を懐かしむような甘酸っぱい想いで美化するのではなく、全てが“いま起こっている自分事”で構成されているのだ。だからこそ、<僕>が経験する一つひとつの痛みが大小関係なく真に迫っており、観る者の胸をぶすりと刺し貫く。

 余談だが、僕は本作でオフィシャルライターを務めさせていただいている(自分もまた、ドンズバ世代なのだ)。オフィシャルライターの仕事には色々あるが、大きなものはプレス(マスコミ用の文字資料。劇場パンフレットにも転載される場合が多い)の作成。そのため、初めて本編を観賞したのは、原作以外の情報がほぼないタイミングだった。なるほど、これこそが真の等身大か――と感じ入ったことをよく覚えている。整った“見やすさ”よりも現実に対する“誠実さ”を選んだこの映画は、観客の心をどのようにさざめかせるのだろうか。観賞後の声が聞きたいところだ。

『明け方の若者たち』
「私と飲んだ方が、楽しいかもよ笑?」その16文字から始まった、<僕>と<彼女>の5年間を描く。<僕>は大学の終わりに明大前で開かれた退屈な飲み会で<彼女>に、一瞬で恋をする。下北沢のスズナリで観た舞台、高円寺で一人暮らしを始めた日、フジロックに対抗するために旅をした7月の終わり・・・と<僕>の世界が<彼女>で満たされる一方で、社会人になった<僕>は、”こんなハズじゃなかった人生”に打ちのめされていく。息の詰まる会社、夢見た未来とは異なる現在。夜明けまで飲み明かした時間と親友と彼女だけが、救いだったあの頃。しかしそんな時にもいつか終わりが訪れてーー。

松本花奈監督が原作にほれ込み、映画化を熱望したという本作。Amazon Prime Videoではスピンオフドラマ「ある夜、彼女は明け方を想う」も公開中。

松本花奈監督、小寺和久脚本。北村匠海、黒島結菜、井上祐貴ほか出演。全国公開中。パルコ配給。

WEB:http://akegata-movie.com/
©カツセマサヒコ・幻冬舎/「明け方の若者たち」製作委員会

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