偏愛映画館 VOL.39
『ザ・クリエイター/創造者』

劇場上映中&これから劇場上映となる映画から、映画のプロが選んだ偏愛作品を、
その愛するポイントとともに熱くお伝えします!

recommendation & text  : SYO
映画をメインとする物書き。1987年生まれ。東京学芸大学卒業後、映画雑誌編集プロダクションや映画情報サイト勤務を経て独立。
インタビューやレビュー、オフィシャルライターほか、映画にまつわる執筆を幅広く手がける。2023年公開の映画『ヴィレッジ』をはじめ藤井道人監督の作品に特別協力。「装苑」「CREA」「WOWOW」等で連載中。
X(Twitter):@syocinema

Madeline Voyles as Alphie in 20th Century Studios’ THE CREATOR. Photo courtesy of 20th Century Studios. © 2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.

映画関係の仕事をしていると、それなりの確率で「影響を受けた映画は?」と聞かれる。そのため日頃から幾つかのタイトルを常備するようにしているのだが、「影響」という意味だと実はSFが多いのでは?と最近気づいた。『ガタカ』『マイノリティ・リポート』『エターナル・サンシャイン』『her/世界でひとつの彼女』『ブレードランナー2049』『スワン・ソング』『アフター・ヤン』――。なんとなくSFというと自分には縁遠いイメージがあったのだが、どうやらそうでもないらしい。

きっとそれは、「世界観(ビジュアルや設定)に惹かれる」「テクノロジーの発達に伴い、逆説的に“人間らしさ”が浮き彫りになる」といった部分から。上に挙げた作品はいずれも、人・AI・ロボット・クローンといった存在の“心”を描いたもの。デザイン性や映像美に目が喜び、ドラマ面に感情を揺さぶられ――といった様々な刺激を与えてくれる。思い返せば、幼少期にハマったウルトラマンシリーズにもそうした要素はあった。やはり、SFには特別な輝きが宿っているのだろう。

そう改めて痛感したのは、『ザ・クリエイター/創造者』という映画に出合ったから。例によって海外ポスター&予告漁りをしていた際、アジアンな田園風景にロボットが佇む一枚を見つけた。ちょっとスチームパンク風のロボットのデザイン、夕焼けが印象的な色遣い、近未来×懐かしさが融合した雰囲気――。すっかり惹かれてしまった僕は、特報や予告を観てますます観賞欲を掻き立てられた。画面に映る何から何までカッコよく、「人類とAIの戦争の渦中、AI側が開発した最終兵器は少女の姿をしていた」という王道をアレンジした設定や、主人公の潜入捜査官(演じるのは『TENET テネット』ジョン・デヴィッド・ワシントン)が彼女と逃避行をする羽目になる「子連れ狼」的展開にシビれ――。「これは久々に大型のオリジナルSF作品が来たぞ!」と童心に返り、一人舞い上がっていた。

(L-R): John David Washington as Joshua and Madeleine Yuna Voyles as Alphie in 20th Century Studios’ THE CREATOR. Photo courtesy of 20th Century Studios. © 2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.

個人的にだが、娯楽としての劇場映画のパワーが近年ますます問われているように思う。エンタメの氾濫やそれに伴う「ほどほどでいい。気楽だから」という飽和した感情(エンタメの摂取に労力をかけたくないという心理)、あるいはデジタルデトックスな過ごし方――。作品によっぽどの強度がないと「これは絶対に劇場の大スクリーンで観たい」と思えない傾向の高まりを感じているのだが、そんな時代に「クリエイター」「創造者」をタイトルに冠するとは気概を感じずにはいられない。実際、作品を観賞して本作のクリエイティビティに大いに打たれ、劇場映画ブームの復興に向けた救世主たり得る作品だと感じた。

まず、冒頭から映像のクオリティが凄まじい。「人類史にAIロボットがもっと早く定着し、進化していたら?」という「If(もし)」を様々なニュース映像のアーカイブを辿るように見せていく演出の上手さと映像の説得力で一気に引き込み、人類が途方もない巨額をつぎ込んで作り上げた空に浮かぶ兵器が登場した際のインパクトや、薄暗いビーチの水面に特殊部隊が浮上してくる画的なカッコよさで目も心も逃がさない。しかも、AI側のコミュニティに潜入していた捜査官が掃討作戦で愛する妻を亡くし廃人のようになるも、「彼女が生きているかもしれない」という噂を聞きつけて再び作戦に身を投じる――というストーリーライン&心情はスッと入り込めるものだし、「妻に会いたい一心でカギを握る少女=AIの最終兵器を連れ出す→逃避行に」という展開にも違和感がなく、とにかく見やすい。

見やすさは「共感」や「没入感」の呼び水となり、その先に「感動」の大波が到来する。たった一人だけを救う究極に繊細な作品も素晴らしいが、不特定多数を丸ごと動かそうとするエンターテインメントの底力を感じた次第。

Ken Watanabe as Harun in 20th Century Studios’ THE CREATOR. Photo courtesy of 20th Century Studios. © 2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.

SF(サイエンスフィクション)だからといって専門知識が要らない親切設計で、現在社会問題化している「AI」というテーマを盛り込み、AIロボットの多様なデザインや「死ぬ寸前の記憶や人格をデータ化して抜き取る」技術を搭載したガジェット等で魅せ、『ブレードランナー』『AKIRA』といった名作SFへのオマージュも盛り込み――これらは一例で、観た者の感性の養分になるような視覚的なアイデアをとかく惜しみなく提供してくれる。しかも先に述べたように、王道を丁寧に踏襲したエンタメ感は満載。観賞中、実に気持ちよく感動にダイブできた。

もし僕が、まだ感性が発展途上の中高生時代にこの作品に出合っていたらどうなっていただろう? きっと今以上に、以降に自分が生み出す創作物にどこかしら影響を受けていたに違いない。「やっぱりSF超大作って凄いな。映画が持つイマジネーションや映画がもたらす感動って半端ないな」、そう素直に思えて高揚感に包まれる、幸福な体験だった。

John David Washington as Joshua in 20th Century Studios’ THE CREATOR. Photo courtesy of 20th Century Studios. © 2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.

ザ・クリエイター/創造者
物語の舞台は、人類とAIの熾烈な戦争が10年にわたって続く近未来。元特殊部隊員のジョシュア(ジョン・デヴィッド・ワシントン)は人類を滅ぼす兵器を生み出した創造者=クリエイターの暗殺を命じられ、現地に赴く。しかしそこにいたのは超進化型AIを搭載した半分機械の愛らしい少女、アルフィー(マデリン・ユナ・ヴォイルズ)だった。ジョシュアはある理由から彼女を暗殺するのではなく守ることを決意し、やがてジョシュアとアルフィーの間に深い絆が生まれていく。人類とAIの戦争の結末、そして戦いの果てにジョシュアとアルフィーが直面する真実とは。
監督・脚本:ギャレス・エドワーズ
出演:ジョン・デヴィッド・ワシントン、渡辺謙、ジェンマ・チャン、アリソン・ジャネイ、マデリン・ユナ・ヴォイルズ
全国公開中。ウォルト・ディズニー・ジャパン配給。
©︎ 2023 20th Century Studios

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VOL.39『ザ・クリエイター/創造者』
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VOL.41『私がやりました』
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