
劇場上映中&これから劇場上映となる映画から、映画のプロが選んだ偏愛作品を、
その愛するポイントとともに熱くお伝えします!
recommendation & text : SYO
映画をメインとする物書き。1987年生まれ。東京学芸大学卒業後、映画雑誌編集プロダクションや映画情報サイト勤務を経て独立。インタビューやレビュー、オフィシャルライターほか、映画にまつわる執筆を幅広く手がける。『正体』『汝、星のごとく』ほか藤井道人監督の作品に参加。杉咲花氏の公式インタビュー、中村倫也氏や横浜流星氏のファンクラブ内インタビューを担当。「装苑」「WOWOW」等で連載中。TV番組「シネマ PICK UP」ナビゲーターも務める。
X(Twitter):@syocinema

Credit: Atsushi Nishijima/Focus Features © 2025 All Rights Reserved.
映画との出合い方にも様々なルートがあるが、自分で見つけるのが好きな性格に仕事柄もあって、作品選びに他者を必要としない映画人生となりつつある。正直「観たい」「気になる」と思う作品が多すぎて、己の欲望のままに更新され続ける長大なリストを追いかけていくだけで精一杯ではあるのだが、自分でも知らず知らずのうちに狭まってしまっているのかもしれない。
だからこそ時折誰かから「きっと合うと思う」と手渡される作品には、新鮮な喜びがある。日々届く一斉送信的な売り込みや、意図が透けてしまう「観てほしい」とは一線を画す、真心のあるオススメとでも言おうか――今回紹介する映画『メモリィズ』(2026年6月12日公開)との始まりは、そうした体温が感じられるものだった。
妻(穂志もえか)に代わり、骨折した義父(イッセー尾形)をサポートするべく九州の田舎町にやってきた雄太(柄本佑)。物静かで優しい義父と共同生活を送りながら写真館を手伝い、彼は目に映る何気ない日常をカメラやスマートフォンで記録してゆく。

あらすじを言葉にすれば、淡々とした劇的な要素の少ない日常系映画に思えるかもしれない。実際僕も、観る前はほぼ予備知識がなく「きっと静かないい映画なんだろうな」くらいに感じていた。だが本作――冒頭からその日常風景の映し方がたまらなく沁みる。なぜか。流れていく風景、記憶から失われていく感情、そうした些細な瞬間を慈しむように丹念に収めているからだ。
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Credit: Atsushi Nishijima/Focus Features © 2025 All Rights Reserved.
父の代わりに犬を散歩する雄太は、散歩コースで見かけた風景を写真に収める。そしてそこにちょっとした変化が訪れたとき、小さな喜びや笑いが起こる。例えば「あの家、今日も変わったタオルを干してて面白いな」だったり「この家の人、今日はご機嫌で鼻歌を歌ってるな」などなど、きっと僕たちにも日常を過ごしていくなかでほんの少し心が動いた瞬間が無数にある。
しかしそれらは、大きな出来事が優先される脳や心の容量確保のために消えていきがちだ。だがこの映画は、そうした名も無き「メモリィズ」をアナログやデジタル、さらに映画というメディアを通して遺そうとしている。
いままさに育児中の身としては、ワンオペ育児を頑張る妻のちょっとした瞬間――子どもの素直すぎる言葉に静かに傷ついたり、人に言うほどでもないが確かに感じている孤独を掬い取ってくれたことに救われた気持ちになった。しかもそうした生活の些事の積み重ねが、後半のドラマの布石になっている。

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柄本佑、イッセー尾形、穂志もえか他のフラットな中におかしみがにじむ妙演、さらに見事な劇伴と美しい映像もあり、物語が最後に向かうにしたがって僕はボロボロと泣いていた。自分でもこんなに感動するとは予想しておらず驚いたが、「これを見たらそりゃあそうなるよ」という納得感の方が圧倒的に心を占めており、なんだかとても嬉しかった。紛れもなく「静」の映画なのに、観ているこちらの反応は限りなく「動」で、そのコントラストも鮮烈に記憶された。
思えば自分は、映画を観ているときに「●年後」とテロップが出ると少し冷めてしまうタイプだ。2時間程度に収めるためには仕方のないことだが、「その空白期間にたくさんのドラマがあったはずなのに」と思ってしまう。
ただ、子どもが生まれて親になり、中年が少しずつ近づいてきた中で感じるのは、自分自身もそうした映画のようにハイライト的でしか記憶が保てなくなってきているということ。毎日こんなに心が動いているのに、それを忘れてしまう。覚えておこうとしても薄れていき、保持できる時間は年々短くなってきている。そのことにひどく落ち込んだりもする。だからこそスマホで家族や空、街をなるべく撮って、日常の隙間に見返しているが、『メモリィズ』はそうした危機感すら浄化し、豊かさで包み込んでくれた。
面白い映画は数あれど、観終えた後に「ありがとうございます」と感謝を述べたくて仕方なくなる映画はそう多くはない。

Credit: Atsushi Nishijima/Focus Features © 2025 All Rights Reserved.
本作を手掛けた坂⻄未郁監督は、本作が長編映画デビュー作だという。『⽉』や『茜⾊に焼かれる』で⽯井裕也監督の助監督を務め、⼟井裕泰監督の『花束みたいな恋をした』『⽚思い世界』ではメイキングカメラマンを担当し、Awesome City Clubのヒット曲「勿忘」のMVの監督を務めた逸材。また一人、追いかけてゆきたい作り手に出会ってしまった。

『メモリィズ』
雄太が九州の⽥舎町へとやって来たのは、⾜を⾻折した義⽗が回復するまで⾝の回りの世話をするためだった。義⽗が営む昔ながらの写真館の仕事を⼿伝いながら、東京にいる妻と娘との間で、スマホで撮った映像を交わす。⼤きな事件は何も起こらないが、⽇々の些細な出来事と、その記録と記憶の連なりに、家族の⼈⽣という⻑い時間の存在が、静かに、鮮やかに浮かび上がってくる──。
監督・脚本:坂西未郁
出演:柄本佑、穂志もえか、梅沢昌代、伊佐山ひろ子、成田裕介、占部房子、香椎由宇、イッセー尾形ほか
東京の「新宿ピカデリー」ほかにて6月12日より全国公開予定。リトルモア配給
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