『装苑』2026年3月号より転載
匠に聞く!衣装の流儀
記憶に刻まれる場面を作るために

小川さんが手がけてきた『忍 S H I N O B I』『のみとり侍』『岸辺の旅』『国宝』『キル・ビル』のデザイン画。
Costume designer
小川久美子

Kumiko Ogawa
⚫︎福岡県出身。大学在学中からCMのスタイリストを始め、雑誌「an・an」や「クロワッサン」にも関わる。デビュー当時の薬師丸ひろ子の写真集のスタイリングを手がけたことが縁となり、1981年に映画『セーラー服と機関銃』で衣装デザイナーデビュー。以降、数々の名作に携わる。
20年以上ぶりに、邦画実写興行収入歴代1位記録を塗り替えた『国宝』(2025年)、クエンティン・タランティーノ監督の代表作『キル・ビル』2部作(’03年、’04年)、そして公開当時、社会現象を巻き起こした『セーラー服と機関銃』(1981年)――。
映画史に残る数々の名作を、衣装でさらに鮮烈なものに引き上げるのが、衣装デザイナーの小川久美子さんだ。小川さんが手がける衣装はなぜ、深く記憶に刻み込まれるのか? その秘密を解き明かす。
金原由佳=取材・文
interview & text : Yuka Kimbara
登場人物の人物像、
心境を服でデザインする
小川久美子さんの手がける映画衣装は、目には見えない登場人物の心情の変化や、人生を変え得る重要な状況での決意が、鮮やかに立ち上がってくる。そのため観客の記憶に強く残り、映画史に残るアイコニックなファッションとなる。
2025年は、22年ぶりに実写映画の興行収入1位の記録を塗り替えた『国宝』での仕事が多くの観客の目を奪った。
「吉田修一さんの原作は、第三者による語りで主人公の喜久雄を軸とした歌舞伎俳優たちの状況を雄弁に物語るのですが、そのぶん、人物の内面描写はほとんどない。そこを補完するのが映画衣装の役割。ある場面の状況でこの心境だから、と登場人物を服でデザインするのが私たちの仕事だと勝手に思っているんです」
2025国宝


吉田修一が歌舞伎の黒衣を3年勤めて書いた同名小説を李相日が映画化。任侠の世界から梨園に入った喜久雄と、上方歌舞伎の名家の跡取りとして生まれた俊介の長きにわたる芸のやりとりと友情を描く。小川さんは吉沢亮演じる喜久雄は紫、横浜流星演じる俊介を青とし、混ざらない個性を服で表現。喜久雄が成長するにつれ、成功と引き換えに人間らしい多彩な色を失い、最後は「鷺娘」の白の域まで達する様子を映画衣装で構築した。
『国宝』(2025年)監督:李 相日
李相日監督、吉沢亮、横浜流星、渡辺謙ほか出演。公開中。東宝配給。
©吉田修一/朝日新聞出版©︎2025映画「国宝」製作委員会
学生時代、親友の従妹が自由劇場の俳優、吉田日出子さんだったことがきっかけに演劇に関心を持ち、高校卒業後は舞台美術を学ぶため多摩芸術学園(現・多摩美術大学)へ。カリキュラムに衣装の授業もあり、それから在学中より数々のCMのスタイリストを手がけることに。
女性誌の「an・an」や「クロワッサン」のファッションページを経て、薬師丸ひろ子さんの写真集やスタイリングを担当したことで、彼女の主演映画『セーラー服と機関銃』(1981年)の衣装を共同で担当することに。セーラー服を着た女子高生がヤクザの組長になり、機関銃を乱射するという衝撃的なビジュアルとストーリーが、映画におけるセーラー服の役割を単なる制服を超えた少女の強さと反逆の象徴へと変えた。以降、セーラー服はポップカルチャーのアイコンとなり「スケバン刑事」シリーズなどセーラー服+アクションが定番化した。
「あのセーラー服は青いリボンを胸もとに置くのが嫌で、セーラー衿のVのネックラインを上げ、リボンがそのすぐ下にくるようにデザインしています。薬師丸さんが演じた星泉の私服はボーイッシュなイメージで、本当はチェックのシャツとかを使いたかったけど、当時は女性向けのそうしたブランドがなかったので、私の弟の服をトレースして作りました」
1981セーラー服と機関銃

赤川次郎の同名小説を相米慎二が映画化。薬師丸ひろ子の歌う主題歌を含め、40億円を超える大ヒット作となった。小川さんの手がけた夏服は紺のセーラー衿をコンパクトにし、ウエストを絞り、着丈もショートにしてボーイッシュな雰囲気を強調。ブリッジをしたり、走ったり、機関銃をぶっ放したりとアクションの多いストーリーと合わせたフォルムに。大人の女性へと移行するラストはオール紺の冬服に。本作におけるセーラー服は元祖アイドルカルチャーのアイコンとなった。
©KADOKAWA 1981
『セーラー服と機関銃』(1981年)監督:相米慎二
日米で共にアイコンとなった
女子高生の制服のデザイン
20年後、小川さんが手がける制服が再びアイコンに。クエンティン・タランティーノ監督の『キル・ビル』(2003年)で、栗山千明が演じたゴーゴー夕張の衣装である。紺のブレザー、白シャツ、赤いリボン、チェックのマイクロミニのスカートにハイソックス、このいでたちで流星錘(メテオハンマー)を振り回し、ユマ・サーマン演じるヒロイン、ザ・ブライドと激しい戦いを繰り広げる。徐々に赤い血で染まっていく彼女の黄色いトラックスーツは小川さんが生んだ映画の顔(クレジットにはCatherine Marie Thomasと併記)。ここは2004年のThe MTV Movie Awardsで、ベストファイト賞にセレクトもされた。

©︎Moviestore Collection/AFLO
「クエンティンは世界中からデザイナー候補を7人選び、各自にポートフォリオを送ってとオファーしてきたんですが、当時、猛烈に忙しくて、かなりラフなスクラップブックを作って送ったら、逆に衝撃を受けて選んでくれたそうです(笑)。創作には多くの裁量を任され、例えばザ・ブライドのトラックスーツのデザインのキーワードとして〝毒蛇〟との言葉があったんです。そこから脱皮のイメージを受け、バイク用の黄色い皮ジャンとスラックス、それを脱ぐとジャージー素材が出てくるデザインとしました。ゴーゴー夕張は当初、可愛いセーラー服姿で戦うほうが、ギャップ感が出ると考え、タランティーノもそのバージョンを気に入っていたのですが、『セーラー服と機関銃』と同じだなと思い直し、ブレザーに変えました」
2003,2004キル・ビル

©︎Moviestore Collection/AFLO
『キル・ビル』(2003年)『キル・ビル Vol.2』(2004年)
監督:クエンティン・タランティーノ
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『キル・ビル』から『国宝』へ。
世界が認めた才能が、いま若き世代へ語り継ぐ
「映画衣装という名の財産」について。
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