偏愛映画館 VOL.19『MEN 同じ顔の男たち』

劇場上映中&これから劇場上映となる映画から、映画のプロが選んだ偏愛作品を、
その愛するポイントとともに熱くお伝えします!

recommendation & text  : SYO
映画をメインとする物書き。1987年生まれ。東京学芸大学卒業後、映画雑誌編集プロダクションや映画情報サイト勤務を経て独立。
インタビューやレビュー、オフィシャルライターほか、映画にまつわる執筆を幅広く手がける。2023年公開の映画『ヴィレッジ』をはじめ藤井道人監督の作品に特別協力。「装苑」「CREA」「WOWOW」等で連載中。
X(Twitter):@syocinema

 映画の見方は、人によって様々だ。画一的な解釈――公式なのか識者なのか、に与えられた“正解”を尊んでしまう傾向が少なからずこの国にはあるように思うが、それもまた「映画の見方は人それぞれである」という前提に則ったものかもしれない。個人的には、その見方こそが観客のオリジナリティであり、「そこに注目したんだ」「そう捉えたんだ」という個性や発見があって面白い(問題は、SNS等を介して各々の価値観の是非を他者が断じてしまうこと、さらには自身の価値観の押し付けにある)。

 以前、こう聞かれたことがある。「『パラサイト 半地下の家族』はどう観るのが正解なんですか?」と。そんなものは張本人のポン・ジュノ監督に聞くしかないし、きっと彼もちょっとしたジョークを添えて「自由に観てほしい」と言うのではないか。映画は好きに観るから楽しいのだ。同様の理由から、作り手たちが取材時に「見どころは?」と聞かれて複雑な表情を浮かべるのも非常に納得できる。観賞行為から多様性を奪ったら、何が残るというのだろう? ただの思想の強要ではないか。かくいう自分も映画について書き、飯を食っているわけで、観客各々の見方を制限したり故意に誘導することのない文を書きたいと願う。

 ただ同時に、自分の個性は映画を観れば観るほど濃く、確立されていくような気もする。見方とは、着眼点だ。趣味嗜好とも密接に絡み合っており、様々な作品を観ていくなかで「自分はこういう映画が好きだな」「こういう部分に注目しているな」という自己発見が生まれる。無意識的だった見方が意識的なものへと変わり、各々のスタイルとなっていくわけだ。僕個人でいえば、作る側として「この発想は面白い」「この演出効果は効いているな」みたいに観ることが多い。

 どんな作品でも注視するのは“入り”の部分で、直近の作品であれば『NOPE/ノープ』の冒頭の上手さには「こう来たか!」と心が躍り、Apple TV+映画『スワン・ソング』の出会いから恋に落ちるまでの対話に「完璧だ」と羨望した。『その道の向こうに』『聖なる証』『アテナ』『PLAN 75』に『ニューオーダー』……劇場・配信作品に関係なく、冒頭で完全に“入った”映画はいくつもある。今回紹介する『MEN 同じ顔の男たち』(2022年12月9日公開)も、その1本。冒頭から凶暴なまでの“上手さ”に引きずり込まれ、終盤には唖然とする。個人的には、今年最後の超ド級衝撃作と言ってもいいくらいだ。

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 本作は、『エクス・マキナ』『アナイアレイション 全滅領域』を手掛けた監督・脚本家のアレックス・ガーランドの最新作。日本でも人気を誇り、個人的な“推し”でもある映画会社A24が米国の配給を手掛けた作品でもあり、公開をとかく楽しみにしていた。どういった話か、その詳細はぜひ劇場でびっくりしてほしいため言わないが、ざっくりいうと夫の死を目撃した女性が、心身の療養のためにある村を訪れた結果おぞましい目に遭う――といったものだ。これだけ聞くとよくあるホラーに思われるかもしれないが、本作で突出しているのは「何のために」このシチュエーションを用意しているのかということ。そこに、タイトルの『MEN(男たち)』がのしかかってくる。

 きっと、観賞後はこの部分、つまり本作が持つテーマ性や痛烈なメッセージについて口々に感想を述べることだろう。ただ、僕はこの原稿でそれを行いたいとは思わない。だって僕自身、予備知識なく観てぶっ飛んだから! 見方を強制されるのは作品の旨味を奪われることに同じなので、今は「凄いことが起こるよショックを受けるよ」だけにとどめておきたい。ただ、度肝を抜かれることは保証する(僕は初見時、強烈すぎて一瞬目をそらした)。そして同時に、「このテーマを描くためにこの方法論を使うなんて!」とただただ感服してしまった。

 人は作品を作るときに色々と思案を巡らすものだ。描きたいものにはシチュエーションや人間関係、具体的なシーン等々あるが、「このメッセージを伝えたい」となったとき、それをどう「物語化」するかに、作り手の創造力が問われる。例えば「万引きは犯罪です」と伝えるポスターの手法もそうだが、WHAT(何を)ではなくHOW(どのように)は無限に可能性があって、その引き出しの凄さを見せつけられると「こんな手があったなんて!」とゾクゾクするのではないか。

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 『MEN 同じ顔の男たち』で描こうとしているテーマ・問題意識が明快だからこそ、そのアプローチの特異性に唸らされ、ガーランド監督の手腕と、ホラー/スリラーというジャンルの懐の深さにおののく。そして、そのインパクトは自分で“見つける”からこそ最大値に達せるもの。どうせ同じ観賞料金と時間を費やすなら、見返りがでかい方がいい。こんなことを言うと観賞後に「どうしてくれる」と怒られるかもしれないが、ぜひ気の向くまま、気軽に足を運んでいただけたら……と願わずにはいられない。

 ただ、現在の日本は泣きたくなるくらい貧しい。物価高や増税にあえぐ中、さらにコンテンツ過多で時間も奪われている状況で、2000円弱・2時間弱を気軽に使えないよ!というのが本音かと思う。しかし、だからこそ「偏愛映画館」という“場”が重要なのだとも感じている。僕はこれをただただバイアスなしに「この映画凄かった」と伝えたい想いだけで書いている。それが「何観ようかな」の選択の一助になれば、こんなにうれしいことはない。

 特に『MEN 同じ顔の男たち』は、創意工夫の塊のような作品。各々のクリエイションにも、価値観にも、ひょっとしたら社会の観方や他者への接し方にも影響や変化を与える力がある。いま挙げたように「描き方」が突出しているし、先ほどちらりと書いたように“入り”がまぁ上手いのだ。

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 冒頭で映し出されるのは、オレンジ色に染まった室内で険悪な雰囲気を醸す夫婦。視覚情報としても、物語の切迫度・緊張感としてもいきなりインパクト抜群のシーンからこの映画は始まる。その後、舞台は現在へと移り、映し出されるのは英国の外れにあるのどかな森の風景。オレンジからグリーンという色彩の変化も見事だし、緊迫(室内)から平穏(屋外)のギャップも秀逸。状況説明も実にスムーズで、リフレッシュのためにゲストハウスを借りた主人公ハーパー(ジェシー・バックリー)の情報が、管理人のジェフリー(ロリー・キニア)との会話やルームツアー、友人との通話で自然に開示されていく。

 「こんないい感じのお屋敷を借りてワーケーションできたらいいよな、丁寧な暮らしができるな」と観客が思えて、「でも辺ぴなところだと不便かなぁ」と考えたときに「Wi-Fiが通ってるからワーケーションにも最適だよ」といったようなセリフが入る“サーブ”の美しさ! あざとくなく気が利いていて、すんなり入り込める。その後、ハーパーは周囲の散策に出かけるのだが、そこまでの流れも「自分もそうする」と感じられて違和感がない。最初からこのシーンなら静かすぎと感じてしまうかもしれないが、冒頭のシーンでしっかり「ヤバい映画だ」というメッセージを受け取っているからその心配もない。

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 しかも、オーナーとの会話の端々に不穏さが忍ばされていて、「この人はなんでこんな物言いをするんだろう」とか「苦手だな」と感じる生理的な嫌悪の“兆し”が、後半に花開く“芽”として我々の中に植え付けられる。端的に言ってしまえば伏線であり、イントロダクションとしても機能しているのだ(レスリー・ダンカンの「Love Song」然り、音楽の使い方も絶妙だ)。そして、散策に出た先でハーパーは身の危険を感じる出来事に遭遇するのだが……。配分やテンポ感然り、怒涛の展開に至るまでの“お膳立て”が実に効いている。僕は本作を2度観賞したのだが、「こうすればいいのか……」とある種の教科書として頭に刻み込んだ。

 キーアイテムの林檎はもちろんのこと、トンネルや綿毛等々、多数のメタファーが仕込まれており、知れば知るほど凄味が見えてくるのも『MEN 同じ顔の男たち』の面白さ。ただまずは、頭を空っぽにして“心”で観て、その後にインタビューやらプロダクションノートやらで知識を仕入れて“頭”でも楽しんでいただけたらと思う。

『MEN 同じ顔の男たち』
夫の死を目撃してしまったハーパー(ジェシー・バックリー)は、心の傷を癒しにイギリスの田舎町へ。そこで豪華なカントリーハウスの管理人、ジェフリー(ロニー・キニア)に出会う。奇妙なことに、その町でハーパーが出会う男は皆、管理人のジェフリーと全く同じ顔をしていた。同じ顔の男たち、廃トンネルからついてくる影、木から大量に落ちてくるリンゴ、フラッシュバックする夫の死……不穏な出来事の連鎖の中、さらなる恐怖が正体を現す。『エクス・マキナ』で注目を浴びた鬼才、アレックス・ガーランドの最新作。
アレックス・ガーランド監督・脚本、ジェシー・バックリー、ロリー・キニア、パーパ・エッシードゥ、ゲイル・ランキン、サラ・トゥーミィ出演。
2022年12月9日(金)より全国公開中。ハピネットファントム・スタジオ配給。
©️2022MEN FILM RIGHTS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
WEB:https://happinet-phantom.com/men/

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上白石萌歌のぐるぐるまわる、ときめきめぐりVol.14 写真家 松岡一哲