上白石萌歌さんがジャンルを問わず、今気になる人を訪ねてさまざまなテーマでお話を伺う連載。21回目は音楽番組『The Covers』で上白石さんとMCを務めるリリー・フランキーさん。人生の大先輩のリリーさんに、山ほどの質問を用意した上白石さん。リリーさんのウィットとユーモアに富んだ返答に、終始笑顔が絶えず時間も忘れてしまいそうです。
リリー・フランキーさん登場!リリーさんはいったい何者?
上白石萌歌(以下 上白石) 今日リリーさんとお話するために、あらためてリリーさんのことを調べたんですけど、こんなに肩書がいっぱい出てくる方は他に知らないです。
リリー・フランキー(以下 リリー) なんだかインチキ臭いよね。一つの仕事では食えなくて、やることが増えたんだろうねぇ。
上白石 それだけリリーさんの好きなモノとか関心のベクトルが伸びて、今のリリーさんになっているのかなって思うんですけど。
リリー モカオさんもさ、お芝居をすることと写真を撮ったりすることはそんなにかけ離れたことと思ってないでしょ?
上白石 確かにそうですね。
リリー 表現をしたいという気持ちというのは同じで、ただツールが違うだけ。ペンをもったら文書を書く。カメラを持ったら写真を撮る。台本があればお芝居する、とか。
上白石 大きな幹がどんとあって、そこから枝分かれしている感じですね。
リリー 昔から日本は専門職の人が尊いという考えが根強くて、そんな中で僕はあんまりよく思われていないんだろうなって、ひしひしと感じながらやってきたし、今でもそれは考じます。
上白石 役者は役者だけをやっているのが美しいという考え方もありますね。でも今はどんどんボーダーレスになってきているように思います。
リリー 今は若い人たち中心に、多岐にわたってそうするのが当たり前になっているからね。でもプロの俳優や、プロのミュージシャンから見ると、“くちばし突っ込んでくるところじゃねーんだぞ”っていう空気を出してくるよ。今でも“リリーさんて役者ですか?”って言われること多いよ。明らかに悪意を込めて。そういう時は、アルバイトでやらせてもらってますって言う。(笑)
福岡ではスポーツマンだった⁉
上白石 そもそも、リリーさんはもの作りの第一歩としては何が最初だったんですか?
リリー みんな同時だったかな。子供の頃に粘土で絵を描いたり字を書いたり、友達と歌を歌ったり。だから小学校の友達に会うと“ずっと同じことやってるね”って言われる。あと、意外に思われるかもしれないけど、僕には運動しているイメージがあったみたいなんだよね。
上白石 えー!私にはなかったです。
リリー 地元の福岡の人には、“野球やったり、テニスやったり、柔道やったり。運動ばっかりやってたね”って言われる。よくみうらじゅんさんに言われるんだけど、“運動部出身のサブカルはリリーさんだけ”って。サブカルの人は大体帰宅部だからさ。
上白石 足の速いオタクすてき!上京したタイミングは?
リリー 大学に入学するために、18歳の時に。
上白石 武蔵美ですね!
リリー そう。でも東京に来たといってもいちばん最初に住んでいたところは立川の田舎。それでも東京にいるっていう時点で都会に出てきた感じだったな。
上白石 九州と東京では空気が違いますよね。九州に帰った時に、空港の扉があいた瞬間の空気でわかる。自分の肌になじむ空気だなって。東京は東京の空気があるし。軟水と硬水の違いぐらいあると思うんです。
ただ東京に憧れて
リリー 僕なんて東京に住んで40年以上経つけど、いまだに慣れないよ。自分の街と思ったことないし。働きに来ています、という感じ。
上白石 私は、リリーさんはシティボーイのイメージがあります。
リリー シティ感ある?
上白石 東京の男っていうイメージを勝手に抱いていました。だから九州出身という認識もあまりなくて。“あ、リリーさんは福岡だったんだ”って。武蔵美では何を専攻していたんですか?
リリー 舞台美術。
上白石 舞台に関わる仕事を目指していたんですか?
リリー 全然違う。大学では空間演出デザインみたいなものを学ぶんだけど、入学するときはみんな同じ試験を受けるんだよね。グラフィックとかは倍率が40倍ぐらいあって、それは大変だから10倍ぐらいのところを受けたんだよ。
上白石 武蔵美に入ってやりたいことを見つけていこうと?
リリー いや、ただ東京に来たかっただけなんだと思う。
上白石 大学ってあんまり学部って関係なくて、自分の意思がきちんとあればいいのかもしれないですね。
リリー だってメイリー・ムーなんて東大の法学部から、今『星屑スキャット』でしょ。(笑)
原稿書くのは体力勝負
リリー 昔『装苑』で連載やっていたんだよね。その頃は雑誌がたくさんあったから、45誌ぐらい連載をもっていた。週刊誌が多かったんだけど、1日に3本は原稿を書いていたねー。
上白石 信じられない!
リリー あいている時間はバイクで有楽町に行ってラジオの原稿書いたり。でもそういう時のほうが原稿書けるんだよ。原稿書くのって知力じゃなく体力だから。今みたいに原稿書かなくなると、2行のコメント書くのにさえ時間がかかる。床屋さんが正月に3日鋏持たないと、鋏を落とすっていうでしょ。それと同じ。書いているうちはいいんだけど・・・。
あれ?モカオ取材のメモとかとってるの?
上白石 私、丸腰でいけないんですよ・・・。
リリー へぇ、几帳面なところがあるんだね。
上白石 お会いする前に、いろいろ考えてメモをするのが好きで。鶴瓶さんがそうしていたんです。『A-Studio+』の時に、小さいメモ帳にたくさん書いているんですよ。
リリー 鶴瓶さん、そんなことやってる?毎回同じメモなんじゃないの?(笑)
上白石 恥ずかしいから、あんまり見ないでください。
この2年間、リリーさんに支えていただいてます!
上白石 リリーさんと初めてお会いしたのは『The Covers』に出演した時だから、2年前。MCになったのは1年前だから、頻繁に会うようになってから2年も経っていないんですね。
リリー 月に1回絶対に会う人ってなかなかいないじゃない。お芝居で撮影なんか終わっちゃったらもう会わないし。
上白石 本当にそうですね。私はリリーさんを通して自分のことを定点観測しているみたいです。
リリー この年頃の2年間を見ているから、やっぱり変化が著しい。モカオが女の人になっているなって。僕とみうらじゅんさんなんか、この20年毎月会っているのにただボロになっていくだけだもん。(笑)
上白石 始めてMCとして収録でお会いした日は、大学の卒業式でした。
リリー そうだよ、袴でスタジオに来たよね。普通卒業式の後は謝恩会とかあるんじゃないの?
上白石 こういう仕事をしていて定期的にお会いできる方ってなかなかいないから、リリーさんには心身ともに支えてくださっているって感じます。
リリー 福山(雅治)君と話したことなんだけど、僕らみたいに九州から出て来ている人達にとって東京って残酷な街で、一緒に仕事しないと会う機会が減るんだよね。田舎に住んでいると田舎の友達って何となくいつも会えるじゃない。でも、東京にいるとなかなかそうもいかない。だから、小さなことでもいいから一緒に仕事をするっていうのが、東京で友達と会ういちばん手っ取り早いことなんだよね。
上白石 ほんとにそうですね。
リリー 福山君のファンクラブの会報に、マンガの連載を20年ぐらいやっているんだけど、そのことでもしょっちゅう会って話すから、あまり話さないって時間がない。今回ネタどうする?って。久しぶりがない。仕事を一緒にするのは大切なことだし、東京にきて一緒に仕事が出来るっていうのはお互い頑張ってないと出来ないこと。
上白石 東京での繋がりって意外と儚いですよね。
リリー 東京での知り合いは、仕事で知り合った人か飲み屋で知り合った人しかいないのは、仕事をしに来てる街だからなのかなぁ。
ラブシーンって
上白石 作品で一緒になった方とのご縁って心が追いつかないなって思う時があるんです。出会った日にキスシーンしなければいけないときもあるだろうし。そしてその後は二度と会わないこともある。すごく極端で、不思議な世界ではあるなって思います。
リリー よく考えると映画の出会いのシーンはすごいと思う。連絡先も知らない人と、“初めまして”のあとキスしたりするじゃない。前に映画でクランクインの日に濡れ場だったのよ、初対面の人と。そういうのって助監督に対して悪意を感じる。(笑)
上白石 間違いない!(笑)
リリー それで、楽屋に入ったら衣装が置いてあって、前張りとバスローブだけ!一応主役で。主役なのにバスローブと前張り?そのあと“初めまして”でベッドシーンだったりするわけ。それは、ぎこちなくなる。(笑)
上白石 そうですよね。
リリー 昔、写真の仕事で20年くらいでヌードの女性を300人ぐらい撮ったんだよね。ヌードの撮影でその後仲良くなった人は少ない。やっぱり、余計に気を使うから、この後ごはん行きましょうかとはならない。
上白石 不思議ですねそれって。
リリー 極端な出会いをすると仲良くなるのが難しくなる。
上白石 逆に、もともと知っている方とのラブシーンはやりづらかったりするから、心地良い距離感ってなんでしょうね。
リリー 知ってる人の方がやりにくいかもねー。今まで極力ラブシーンは避けてきたのよ。台本にあっても、“ここなんか変じゃないですか”って。なんか照れ臭いし。だからキスシーンとかもずっと回避してきていて、いちばん最初にしたのが福山君だもん。
上白石 え⁉本当に?
リリー 福山君とキスシーンした後、ロケバスで2時間ぐらい泣いたよ。(笑) ナーバスになって、バスから出られなくなっちゃって。 (笑)
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