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偏愛映画館 VOL.2『MONOS 猿と呼ばれし者たち』

劇場上映中&これから劇場上映となる映画から、映画のプロが選んだ偏愛作品を、
その愛するポイントとともに熱くお伝えします!

recommendation & text  : SYO
映画をメインとする物書き。1987年生まれ。東京学芸大学卒業後、映画雑誌編集プロダクションや映画情報サイト勤務を経て独立。
インタビューやレビュー、オフィシャルライターほか、映画にまつわる執筆を幅広く手がける。2023年公開の映画『ヴィレッジ』をはじめ藤井道人監督の作品に特別協力。「装苑」「CREA」「WOWOW」等で連載中。
X(Twitter):@syocinema

映画『MONOS 猿と呼ばれし者たち』予告編

昔から、予告編を観るのが好きだ。福井県の田舎町で育った少年時代は町のレンタルビデオ店を頻繁に訪れ、上京した大学生時代は映画館に通い、いまは夜な夜な海外の映画記事を漁り、常に新作の予告編を探している。俳優も監督やスタッフも知らない(なんなら言語もわからない)が、強烈に惹かれる作品との出合いは、9割がた予告編がきっかけだ。

今回紹介する『MONOS 猿と呼ばれし者たち』(10月30日より劇場公開)も、そう。初めてこの作品のことを知ったのは、2019年7月のこと。『パラサイト 半地下の家族』のアメリカ配給や『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』『ボーダー 二つの世界』など、革新的な作品を次々世に送り出してきた配給会社NEONが、コロンビア映画を配給するという。さぞかし強烈な“個性”に出合えるのでは……と期待して予告編を観て、ガツンと食らった。

そこから2年強。新型コロナウイルスによって世界は激変してしまったが、想いは変わらず。ようやく本編を観賞できる日が訪れた。そう考えると、こちらも随分と長い旅をしてこの作品に辿り着いたわけだ。しかも、本編は予告編を優に凌駕する仕上がり。観賞中は脳がはち切れそうな軽いショック状態に見舞われ、観賞後も現実に帰ってくるまで、少し時間を要してしまった。映像・音楽・物語・感情、嗅覚や触覚までも――あらゆる要素が、目や耳、心をこじ開けて蹂躙してくるような観賞体験だったのだ。

本作は、“猿”と呼ばれる8人の若き兵士の物語。彼らは雄大な自然に囲まれた高地で暮らしながら、「博士」と呼ばれる人質を監視している。…こう書くとさぞシリアスな物語が展開するだろうと先入観を抱いてしまうかもしれないが、彼らはとことんピュアで、感情豊か。しかもドキュメンタリータッチで、まるで地上のユートピアを訪れたかのような描かれ方をするため、観客は開始早々にぐさりとやられる。

屈託なく笑う若者たち、その手にはライフル。スマホもネットもなく、見渡す限り見ほれるほどの大自然。ある種デジタルデトックスの極みな生活を送っているが、その実彼らは、大人たちが用意したであろう“システム”の中で育っている。この強烈なシニカルさたるや……。端的に言えば、彼らの笑顔に我々は“怖さ”を抱くのだ。この日常は、明らかに“異常”だ――冒頭シークエンスで観客の心を早くもざわつかせたこの映画は、その後、牛にまつわるとある“事件”を境に、濁流のような急展開を見せる。

高山を降りた彼らは、戦場のただ中へ。人質を巡り、敵の勢力と激しい攻防を繰り広げたのち、舞台は密林へと転換。そこで起こるのは、“猿”同士の内部分裂だった……。“ステージ”が推移するのに合わせて、作品のカラーもどんどん凶暴に変容していく本作。最終的には超シリアス展開に突入していくわけだが、純粋無垢な少年たちのシーンから始めているぶん、観客に与える衝撃は絶大だ。狂気に染まり、理性が失われていく“猿”たち。彼らは道行く人を襲い、裏切り者を追い詰め、密林を舞台に壮絶な追跡劇を演じる。“猿”たちがたどる運命は――。

先ほども述べたとおり、「とんでもないものを観てしまった」という感覚に襲われる『MONOS 猿と呼ばれし者たち』だが、非常に興味深いのは、大人たちに言われるがままだった少年少女たちが、自我を得ていく過程をドラスティックに描いているということ。狂気に染まる者もいれば、良心の呵責に苛まれ、逃げ出そうとする者も生まれる。ゲリラ化するか、一般市民として生きるか。そのどちらも、自らの意志で“選択”する行為の賜物だ。強烈な映画ではあるのだが、それだけには終わらない「通過儀礼」的なテーマ性や映像美、1本の映画としてのダイナミズム、荒々しさと完成度の融合など、あらゆる点で隙がなく、打ちのめされる。

聞けば、本作の“猿”を演じた俳優たちは、8人中7人が演技未経験。標高4000m超の高山地帯での撮影に耐えうる人材を発掘するべく、まずはコロンビア全土から800人以上の候補者を集めたそう。その後、行われたオーディションは演技面は当然ながら、軍事訓練スタイルをとったといい、武装組織コロンビア革命軍(FARC)のメンバーが指導を行ったとか(その後、彼も司令官役で出演)。この逸話を聞くだけでも、“ガチ度”が突き抜けている。

各国の映画賞を受賞し、ギレルモ・デル・トロやアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥといった名監督が絶賛したほか、第92回アカデミー賞国際長編映画賞のコロンビア代表にも選出されたというこの映画。「何も感じない」を許さない力作に、立ち向かう覚悟で観てみるのも一興だ。

『MONOS 猿と呼ばれし者たち』
時も、場所も、定かではない世界のどこか。《猿》と呼ばれた8人の若き兵士がいた――。世間から隔絶された山岳地帯で暮らす8人の兵士たち。ゲリラ組織の一員である彼らのコードネームは“モノス”(猿)。「組織」の指示のもと、人質であるアメリカ人女性の監視と世話を担っている。ある日、「組織」から預かった大切な乳牛を仲間の一人が誤って撃ち殺してしまったことから不穏な空気が漂い始める。ほどなくして「敵」の襲撃を受けた彼らはジャングルの奥地へ身を隠すことに。仲間の死、裏切り、人質の逃走…。極限の状況下、”モノス”の狂気が暴走しはじめる。

アレハンドロ・ランデス監督、モイセス・アリアス、ジュリアンヌ・ニコルソンほか出演。10月30日(土)より、東京・渋谷の「シアター・イメージフォーラム」ほかにて全国順次公開。ザジフィルムズ配給。©Stela Cine, Campo, Lemming Film, Pandora, SnowGlobe, Film i Väst, Pando & Mutante Cine
WEB:http://www.zaziefilms.com/monos/

偏愛映画館
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