偏愛映画館 VOL.42
『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』

劇場上映中&これから劇場上映となる映画から、映画のプロが選んだ偏愛作品を、
その愛するポイントとともに熱くお伝えします!

recommendation & text  : SYO
映画をメインとする物書き。1987年生まれ。東京学芸大学卒業後、映画雑誌編集プロダクションや映画情報サイト勤務を経て独立。
インタビューやレビュー、オフィシャルライターほか、映画にまつわる執筆を幅広く手がける。2023年公開の映画『ヴィレッジ』をはじめ藤井道人監督の作品に特別協力。「装苑」「CREA」「WOWOW」等で連載中。
X(Twitter):@syocinema

Madeline Voyles as Alphie in 20th Century Studios’ THE CREATOR. Photo courtesy of 20th Century Studios. © 2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.

映画×物書きの仕事をしている以上、なるべく食わず嫌いはしないように生きているが――「ホラー好き?」と問われると一瞬悩んでしまう。好きは好きなのだが、いくつか条件があるのだ。まず、アトラクション系ホラーはそこまで得意ではない。観客を瞬間的に驚かせたり怖がらせたりすることに重きを置きすぎて、物語的な必然性を感じられない場合が往々にしてあるからだ。決して「これが悪い/嫌い」ということではなく、自分自身がそのターゲティングからはみ出しているためあまり楽しめないのが正直なところ。

クリーチャー系も注意が必要で、現実から離れすぎると「怖くない……」と思ってしまい、どんどん気持ちが冷めていく。しかもこうしたホラー作品は往々にして「みんなで観よう!ドキドキハラハラしよう!」的なパリピ感、ウェイ感――つまりイベントムービー要素が強まり、ホラーより何より陽キャが怖い僕としてはついつい敬遠してしまう。反対に静謐系&クレバーなホラーは大好きで、ホラーという表現を通して何かを描こうとしているもの――『テルマ』『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』『イット・フォローズ』『MEN 同じ顔の男たち』『へレディタリー/継承』等々、挙げればきりがない。ただホラーガチ勢の人々もこれはこれで怖いので、A24などを入り口にしながら限られたゾーンで独り静かに楽しんでいるのが実情だ。

そうした厄介な嗜好の自分が「来た……」と感じた映画『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』(12月22日公開)を、今回は紹介しよう。この映画、一側面だけを切り取るとウェイ要素が強いように思えるが、中身は相当シリアスで真摯。時代の空気も取り入れつつ、容赦のない攻めた描写も内包したハイブリッド作品に仕上がっている。

(L-R): John David Washington as Joshua and Madeleine Yuna Voyles as Alphie in 20th Century Studios’ THE CREATOR. Photo courtesy of 20th Century Studios. © 2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.

概要はこうだ。握って呪文を唱えるとランダムで霊に憑(と)りつかれる「手(の剥製)」を入手したパリピたちが、「90秒憑依チャレンジ」的な降霊会を開催。タイムリミットまでに儀式を中断すれば霊に乗っ取られず、自分が自分でなくなるトリップ感を味わえるというわけ。夢中になる若者たちだったが、あるアクシデントが発生し――。

調子に乗ったパリピたちが酷い目に遭うのはホラー映画のお決まりで、作品によっては「どうでもいい」と思ってしまうことも(僕は)ある。登場人物に思い入れを抱けないと「自業自得じゃん……」となってしまうのだが、『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』においてはその処理がなんともうまい。まず主人公の高校生ミアは、母を亡くして精神的に不安定な状態。このままではだめだと(半ば自暴自棄的に)降霊会に参加するという「動機付け」がしっかりとなされているのだ。ただ「楽しいから」という気持ちだけで人に迷惑をかける若者たちがどんな目に遭おうと観客に憐憫はなかなか生まれないだろうが、この映画は明確に一線を画している。

Ken Watanabe as Harun in 20th Century Studios’ THE CREATOR. Photo courtesy of 20th Century Studios. © 2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.

ミアが「90秒憑依チャレンジ」に積極的に参加するのも、「独りになるのが怖い(から自ら盛り上げ役になろうとする)」「現実を直視するのがつらい」といった逃避行動の表れであり、その結果起こるアクシデントも、「親友の弟に憑依したのが自分の母の霊だったため、止めないといけないとわかっているのに決断できない」ことから発生する。つまり、事が起こるに至る物語上の流れに、「自分もそうするかも」と納得できる強度の高い心情描写が組み合わさっているということ。

しかも、ミアや親友の姿を通して「友人・知人が窮地に陥っているさまをスマホで撮影し、仲間内やSNSで他者に共有する残酷さ」「晒された側は傷つくし、晒した側と立場がいつ逆転するかわからない」といった実感のこもった現実的な描写がちりばめられており、結果的に「自分が母に会いたいがために親友の弟の命を危険にさらした」ミアは、その代償を払わされていく。親友からは当然絶交されてしまうし、父親との溝も広がるばかり。そして、母の死に隠された真実が少しずつ明らかになり……。

ただここも、禁忌を犯した人間が追い詰められてゆく“因果応報”な展開にとどまらず、自分でもコントロールできない「母親への依存」にどう向き合っていくか――という裏テーマと結びつき、ミア自身の成長ドラマが展開してゆく。設定の斬新さに目を奪われがちだが、人物描写の解像度やテーマ性が非常に高く、実に練られた真面目な作品(故に、見ごたえもなかなかに重量級)という印象だ。テンポ感は良いが勢い任せではなくじっくり見せるところは見せ、情報量過多にしない「観客の想像力を信じる」構成なのも嬉しいところ。それでいて、年長者が若者を観察しているような距離感がなく、等身大のライブ感も備わっている。降霊会のシーンなど、スタイリッシュな映像表現もハイセンスだし、なかなかうまく言語化できないが――今風のオシャレ感が飛び道具的にではなく端々に自然と感じられるのも熱い。ただ面白いだけではなく、実に“息がしやすい”ノイズキャンセリングなニューウェーブホラー、これは正直病みつきになりそうだ。

『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー
母を亡くした高校生のミアは、気晴らしに仲間とSNSで話題の「#90秒憑依チャレンジ」に参加してみる。ルールは簡単。呪物の「手」を握り、「トーク・トゥ・ミー」と唱えると、霊が憑依する――ただし、必ず90秒以内に「手」を離すこと。ミアたちはそのスリルと強烈な快感にのめり込み、憑依チャレンジを繰り返してハイになっていくが、仲間の1人にミアの母の霊が憑依してしまい……。
監督:ダニー&マイケル・フィリッポウ
出演:ソフィー・ワイルド、アレクサンドラ・ジェンセン、ジョー・バード
2023年12月22日(金)より、東京の「丸の内ピカデリー」「新宿ピカデリー」ほかにて全国公開。ギャガ配給。
©︎ 2022 Talk To Me Holdings Pty Ltd, Adelaide Film Festival, Screen Australia
WEB:https://gaga.ne.jp/talktome/

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