高木ユーナの同名コミックの映画化を、10年越しに実現した松居大悟監督の『不死身ラヴァーズ』。この作品は恋愛映画のセオリーをことごとくふっ飛ばしていく。「好きです」というまでのドラマではなく、「好きです」と告白してからが何回も繰り返される物語なのだ。主人公、長谷部りのは幼少期の命の恩人とも言える甲野じゅんを運命の人として思い続け、高校時代に再会した瞬間から怒涛のごとくアプローチを開始。ところが両思いになると彼は忽然と消え、新たに違うシチュエーションで甲野じゅんは現れる。このリピート恋愛劇の意図するところは何なのか。常に全力疾走で思いをぶつけるりの役の見上愛と、想い人じゅんを演じる佐藤寛太に、アツすぎる異例の恋愛劇の舞台裏を聞いた。
photographs : Jun Tsuchiya (B.P.B.) / styling : Satsuki Shimoyama (Ai Mikami) , Masahiro Hiramatsu (Kanta Sato,Y’s C) / hair & make up : Kenji Toyota (Ai Mikami),Kohey (Kanta Sato) / interview & text : Yuka Kimbara
映画『不死身ラヴァーズ』より
りのは人をそうやって好きになることで、
自分を肯定している子なのかな。
――りのは、「好きだ」ということを相手に伝えることにまったく躊躇がないという設定ですが、それは幼少期に一度、死んでいたかもしれないという設定が関係していると感じますか?
佐藤寛太(以下、佐藤):他のインタビューでも、ひょっとしてこの映画は、りのの死後の世界のファンタジーじゃないかと前半を見て思った、と言われました。僕らは原作を読んで撮影に入っているから全くその考えを持たなかったんですけど、りのの立場になってみると、要するに今の人生は儲けものだから、当たってくだけろを実践しているように見えるということですよね。
映画『不死身ラヴァーズ』より
見上愛(以下、見上):もしかしたら一度死んでいたかもしれないから、その後の人生、躊躇することがないっていうその考え方はなるほどなと思います。私は、りのを演じているとき、彼女に個人的に共感できるかどうかは考えていませんでした。むしろ、共感できるかと言われたら、共感はできないんですけど、理解はできる。自分自身でいうと、会いたいと思ったらすぐ連絡します。それは、相手が誰であれ、昔からずっとそうです。でも熱狂的に、りのみたいに、“今、何してる?何してるの?”って気にするタイプではないですね(笑)。
佐藤:それは危ないやつだね(笑)。先日、松居さんのコメントを目にしたんですけど、そこで「りのをいわゆる最強の女、スーパーウーマンみたいにはしたくなかった」って言っていたんです。彼女は甲野じゅんにまっすぐ思いを告白する人だけど、強いところだけじゃない。今回の映画は、見ていくうちに、なんかちょっと喉に引っかかるようなところが、彼女に出てくる。後半は、りのの人間くさくて、惨めなところが描かれているのがすごくいいなと思います。最後はディズニー映画みたいにわかりやすいんだけど、そこに至るまではトリッキーだし、恋愛の展開が王道だけで表現してなくて、りのも、じゅんも、ダサいところが映されているのが松居さんっぽくて、そこがすごくいい。ただスッキリして終わる映画じゃないなっていうか。
――私なら、一度ならともかく、2〜3度断られたら、もうめげてやめてしまうと思いながら見ていたのですが、りのが何度でも甲野くんへアプローチをやめない姿勢はどう思いますか?
見上:りのは人をそうやって好きになることで、自分を肯定している子なのかなと。多分、運命だとすら思っていて。 私は、りのをそういう人だと思って演じていました。
――りののように、全てをなげうって夢中になる時間はどういうときですか?
見上:何かを作ることは、ずっと熱中している気がします。ものづくりが気分転換にもなっていて、中高の同級生たちと雑誌を作ったり、陶芸や、最近だと油絵も。この間は湖に絵を描きに行って、自然の中でリフレッシュしました。とにかく作ることはやめられない、熱狂的かもしれません(笑)。
佐藤:友達と一緒にできるのはいいよね。いちばん理想的だ。
僕はこの物語は、マルチバースだと思っていました。
――りのはいろんなシチュエーションで、様々な甲野じゅんに出会って恋をします。最初は華やかな陸上部のスター選手、次は軽音部の部長と、華やかでかっこいい男の子や才能ある人だったりするけど、だんだん変わってきますよね。恋に恋する時期はルッキズム重視だけど、年齢を重ねるうちに、内容を重視していくというか。この映画は、松居監督からの「恋愛の成熟度のステップ」指南みたいに見えたんですけど、どう思いますか。
映画『不死身ラヴァーズ』より
佐藤:そんなこと言われたら、そうなってるのかなって思っちゃいますね(笑)。
見上:どうなんでしょうね。ご指摘の通りだとすると、松居監督、なんかすごいですね。私はシンプルに、バリエーションと捉えていました。でも、言われてみると、確かに甲野くんの中身のタイプは変わっていってますね。
佐藤:演じた僕が言うのもなんですけど、どの甲野くんも割とまっすぐなタイプですね。
見上:りのは嘘のない人が好きなんだろうなっていうのは演じていてすごく感じてました。
佐藤:僕はこの物語は、マルチバースだと思っていました。自分が選ばなかった別の人生が描かれていて、どの選択も普通にあり得た可能性がある。だから、甲野じゅんの人間性が、りのと出会うたびにすごく大きく変わるっていうより、その時々の局面にいた時の自分であるという考え方で演じていました。どのじゅんも全部一貫して彼なんだと。だから人間性が多様でもあるし、演じる僕の表情もシチュエーションで大きく変わる。もっと、え、全部が同一人物だったの!?ぐらいのこともしてみたかったんですけど、ちょっとできなかったですね。
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