

2019 年に『21 世紀の女の子』の「reborn」でデビューした後、短編映画を発表してきた坂本悠花監督が、今回初の長編作に挑んだ、映画『白の花実』。少女たちのみずみずしくイノセントな世界観にファンタジーやホラーの要素を込めた、映像美溢れる作品が完成した。坂本監督にデビュー作への思いを伺った。
【インタビュー内容に映画の核心に触れる場所がございます。ネタバレを気にされる方はご注意ください。】

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――今回長編デビュー作となりましたが、ndjc(若手映画作家育成プロジェクト)で企画を磨かれ、長編化が決まり、香港国際映画祭併設の企画マーケット「The Hong Kong-Asia Film Financing Forum(HAF)」では、ウディネ フォーカスアジア賞を受賞されました。改めて製作のプロセスを教えてください。
坂本悠花監督(以下、坂本監督):ndjcは、VIPO(映像産業振興機構)が文化庁から委託を受けて2006年度より運営する人材育成事業なのですが、第1回目の長編映画の企画・脚本開発サポートでコンペティションがあるということで参加しました。そこで出会えたのが、講師であり、この映画のプロデューサーでもある山本晃久さんで、2か月ほど、ひたすら脚本にフィードバックをもらいながら書く、という作業を続けました。今は漫画や小説の原作でないと、中々映画化のチャンスが得られない中で、自分のオリジナルの脚本で長編映画を撮れるというのは、本当にラッキーでした。
――長編映画は、今までの短編作品とどのような面が違いますか?
坂本監督:短編の方が、瞬発力や力強さ、分かりやすさなどを必要とされるので、私はどちらかというと得意ではないと思っていました。長編の方がゆっくり積み重ねていけるし、撮影期間は2週間と短かったけれど、その中で関係も築いていけたので楽しかったなと感じています。
――脚本はどのように練られたのですか。
坂本監督:最初の段階から、“自殺してしまう子がいる”、“閉鎖的な女子校”、そして“鬼火”という3つの設定はアイディアの中にありました。ただ、私はテーマから考えていくというよりは、こういうシーンがほしいなとか、こういうイメージが撮りたいな……と断片的に思い浮かぶ画があるんです。例えば、“鬼火が出てくるシーン”、“女の子がその鬼火と歩いているシーン”や、“ある朝、女の子が自殺をして、皆が動揺しているシーン”など。パズルみたいに、そうしたシーンをどんどん集めていくやり方で、最終、この形の脚本になったという感じです。

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――監督、脚本、編集を一手にされますが、それぞれの仕事の違いを教えてください。
坂本監督:楽しさだけで言うと、撮影が1番楽しいですね。撮影は、そこで起きたことを受け入れていくしかない。でもポジティブに考えれば、もうそれを肯定するだけなので(笑)。あと、周りの方々もプロフェッショナルなので、団体戦みたいな感じでやれるのが楽しくて。
編集は辛いのですが、1番自分と向き合う時間になるんです。ひたすら撮ってきたものを見て、どうやってこれを編んでいこうか、どういうふうに形にしていこうかと真剣に向き合うし、次回はこういう風にしようとか、こういうカットを取らなきゃダメだったなとか、このカットはいらないみたいなこととかも、1番勉強になります。
脚本は、正直1番苦手です。脚本って、可能性が本当に何通りもあるんですよね。可能性がたくさんある中、選択していく作業は怖かったり、大変だったり……現実がある方が向き合っていけるのかもしれません。
――美絽さんから、監督がセリフを自分のキャラクターに寄せて結構書き直してくださったので、演技しやすかったと伺いました。
坂本監督:俳優さんは皆器用だし、上手に見せることはできると思うんですけど、演技が嘘になっちゃうと嫌だなと思っていて。やっぱり本人が心からちゃんとこの登場人物として生きられないと意味がないと思ったので、脚本は大分調整しました。

――映画の中で、ダンスも重要なシーンになっていますね。
坂本監督:大学生の頃、舞踊家の大野一雄さんを特集上映で拝見して、体を動かすというのは、自分の存在を表すものだと知って衝撃を受けたんです。映画的に、言葉にならないものを映したかったので、ダンスはすごく接点があると思い、大切な要素の一つとなりました。
――大学で哲学を専攻された後、映画を学ばれたましたが、なぜ映画の道を選んだのですか。
坂本監督:哲学とは別に、高校の時から映画を見るのがすごく好きで、映画以外にやりたい職業がなかったんです。大学時代、映画サークルに入ったら、ビデオカメラも三脚もある、女優志望の学生もいる、よし撮ろう!みたいな思いつきで始めたので、最初の映画はひどい出来だったと思うんですけれど(笑)。その後も結構紆余曲折があって、何回もやめようと思ったり、映画の技術的な仕事に就いたりしていました。このコンペティションにも、もうこれで最後かな!?くらいの気持ちで出していたので、ここから道がつながっていけばいいなと、本当に思っています。
――今作の思春期の頃の心の葛藤や、死について考えることはとても難しく、また大事なテーマですね。
坂本監督:私自身がティーンの時に、死について近く考えてしまうようなことがありましたが、その頃に救われたのは、「さあ未来に向かって楽しく生きよう!」といったポジティブなものではなく、ちょっと暗い映画や音楽でした。『白の花実』は、もっと社会的に描くこともできたのですが、鬼火のような存在をポッと見せることで、ちょっとの抜け感というか、ポジティブさが生まれてストーリーが広がっていったのではないかと思っています。
――今後の展望を伺わせてください。
坂本監督:考え続けて、挑戦し続けて、他の人が見たことがないものを撮っていきたいです。一人の人の人生みたいなのが好きなので、やはり人を撮り続けたいという気持ちもあります。

Yukari Sakamoto●監督・脚本・編集。1990 年生まれ、埼玉県出身。上智大学で哲学を専攻後、東京藝術大学大学院映画専攻にて編集を学ぶ。2019 年公開の『21 世紀の女の子』で「reborn」を監督。その後、 ‘19 年に制作した自主映画「レイのために」が第15回大阪アジアン映画祭インディ・フォーラム部門などに入選。’22 年にコロナ禍で制作した短編映像「木が呼んでいる」が藝大アートフェス2022でアート・ルネッサンス賞を受賞。本作が長編映画デビュー作となる。
photograph : Jun Tsuchiya(B.P.B.)
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