池松壮亮が見つめる異色作「オリバーな犬」、『THE オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ MOVIE』への進化と不変。

2025.09.28

2021年に始まったテレビドラマ「オリバーな犬、 (Gosh!!) このヤロウ」が、『THE オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ MOVIE』として映画化された(公開中)。

オダギリジョーが脚本・監督・出演を兼ねるオリジナルシリーズであり、県警の鑑識課警察犬係・一平(池松壮亮)と相棒の犬オリバー(オダギリジョー)が織りなすコメディ。その映画版では、大方の予想を鮮やかに裏切るであろうワンダーな物語が展開する。
いわゆるドラマの映画化とは一線を画すカウンター的な作品に、池松壮亮はどう挑んだのか。

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ビジネスではなくアートに振り切った結果

池松壮亮(以下、池松):まさにオダギリさんの決意表明ですよね。常日頃から、俳優として映画の宣伝に加担はするけれども、作り手としては映画とビジネスというものがどうしても繋がるようには思えない――という意志を感じました。ビジネスではなくアートに振り切った結果、こういった作品ができたように思います。

池松:表面に見えてくるかどうかはわかりませんが、意識はしています。出力先は俳優にとても影響してくることだと思います。例えば、「全世界が観るハリウッド大作の真ん中でお芝居をしてください」と、「街頭でみんなの目を引くようなお芝居をしてください」ではやはり表現が変わってくるものです。特に今、大河ドラマ「豊臣兄弟!」の撮影が始まり、今まで全く経験してこなかったような環境に飛び込んでいるので、余計にそう感じます。

池松:6月から撮影が始まって来年いっぱいかかるため、実質それくらいの計算になります。これだけの時間をかけて一つの役を演じるのは他の国でもなかなかないのではないでしょうか。

池松:そうですね。第1シーズンの制作時、「NHKのドラマを撮っている」と強く意識していた人は少なかったように思います。コロナ禍のあのとき、オダギリさんがNHKという場所で、あえて非常に滑稽な物語を作ろうとする心意気に共鳴して多くの人が集まってきた企画でしたから、この作品ならではの表現を追求しながらも「ドラマだから」という考えをあのときにおいては持っていませんでした。

今作の笑いは、オダギリさんが好きなものを1本の映画という枠にコラージュしたなかの一要素

池松:シーズン1&2のときは、俳優である自分たちの存在意義すら疑ったコロナに対して“笑い”という武器でそれを突破しようとしたところがありました。ある意味、非常にラディカルに物事を進めるための選択だったように思います。自分たちの存在が希薄になりかけていることへの反骨や抵抗から生まれ出たものでしたが、それが『オリバーな犬』という作品性のベースになりました。今回は映画ではありますが、そうした精神性は一貫しているように思います。

ただ先ほどSYOさんがおっしゃったように、ドラマは足が速いものであり、映画はもう少し時間に耐えうる必要性が生じるものだと思います。じゃあ何のためにここで笑いを使うのか――。オダギリさんが『オリバーな犬』を映画化するうえで、様々な選択肢があるなかで「自分がやるべき映画とは何だろう」と模索して辿り着いた“答え”がそれだったのだろうとは思っています。

ご自身の人生を振り返ったり、自分の内なる探求を行った果てに、現実と理想の合間にある夢のようなものを映画として再構築した。その際に、笑いが付随してきたのではないかと。つまり、瞬間的に誰かを笑わせるためのものではなく、オダギリさんが好きなものを1本の映画という枠にコラージュしたなかの一要素という理解をしています。

池松:特に今回はよりシュールな笑いになっていますしね。誰も予想していない角度からくるから、みんなびっくりしたんじゃないかと思います。オダギリさんの映画という総合芸術の捉え方が非常にユニークだからこそ、彼にしかできないオリジナリティを持って表出した作品になりました。これを皆さんにどう観てもらえるのか、気になるところです。

池松:本当にそうですね。VFXチームに「大きなたこ焼きを作ってトロトロにしてください」と頼んでいたんでしょうか。実際、現場でも真面目な俳優さんは「これはなんでたこ焼きなんでしょうか」とオダギリさんに尋ねていましたが、彼は「酔っぱらって書いちゃったから覚えていないんです」と答えていました。

ご本人も捉えようのない感覚をどういう風に進めていったのかは、僕自身も興味があります。今回はこれまでと違って各パートに分かれていたこともあり、自分が出演していないパートに関しては「これを本当にやるのかな、どうするんだろう」とちょっと距離がある状態でした。そうしたら大真面目にやっていたので、どうやって作ったんだろうと思っています。

池松:そうですね。話し合ってどうこうというシーンでもなかったですし。ただ、この辺りがとても信頼できるところなのですが――映画に対する強い気持ちや緻密なこだわりは演出の随所に感じられました。みんなで大真面目に奇妙な世界を作り上げる体験を出来て楽しかったです。

池松:そう思います。僕自身がうまく言葉で表現できないけれど、理解はできましたから。例えばたこ焼きにしたって、あれは概念的なもので絶対的にたこ焼きじゃないといけないものではないと思います。

ただリンゴでは成立しないというセンスと塩梅――メタファーとの距離は理解できるので、取り立ててオダギリさんに問いただす必要はありませんでした。多分聞いても意味がないし、そういうことを映画で捉え直すこと自体に「本当に挑戦していいの?」「オダギリさんが好き勝手やろうとしているこの企画は、どこまで行けるのだろう」とワクワクしていました。

NEXT オダギリジョー監督が作り出す、ものづくりの幸福な磁場。次のページに続く。

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