上白石萌歌の
ぐるぐるまわる、ときめきめぐり
Vol.1 デザイナー 藤澤ゆき

2023.01.28

上白石萌歌がインタビュー
藤澤ゆきの1点ものの物づくりのこだわり

子どものころからワクワクしていたキラキラ光るもの。あの気持ちが蘇ってきます――上白石萌歌――

上白石萌歌(以下 上白石) 今日はありがとうございました。いつも藤澤さんのアイテムを身に着けるときに、そのアイテムのバックボーンとかを考えるんですが、実際に自分で手を動かして作っていると、より興味が湧いてきますね。こういう箔にも“ぬけがら”というものがあるのは知らなかったです。一度使った箔をもう一度使うというアイディアに驚きました。こうやって物は回っていくんだって。そう思うとより愛しくなりますね。今日、箔プリントした私のハンカチもそうです。
この連載自体、ファッションをはじめ、いろんな観点から物が循環していく感じを伝えたいと思っているんです。ゆきさんのクリエーションを見ていると、まさにこの企画でお話ししたい方だなと思いました。
まず、服作りのきっかけやルーツを教えていただけますか?

藤澤ゆき(以下 藤澤) 私の父はアパレルをやっているんですが、ちょうど私が小学生の時には、子供服のデザインをしていました。かわいい服を着る楽しさが原体験としてあるんだと思います。父が好きな木家具に囲まれて生活する中で、デザインへの興味が始まりました。中学生の時になりたかったのは雑貨のデザイナーです。当時スイマーというブランドが大好きで、そのかわいいシャーペンを使っていると、つまらないテスト勉強もいつもより楽しく感じられたんです。そんな風に、誰かに対してハッピーな気持ちを提案できる仕事に就きたいなと思ったのもきっかけの一つですね。デザインのジャンルを調べていくと、テキスタイルは衣服以外にもインテリアやグラフィックなど、さまざまなジャンルを縦断できる可能性があり、興味を抱きました。

上白石 中学生の時の経験がきっかけとなってテキスタイルに行きついたのですね。実際にテキスタイルの勉強を目指したのはいつぐらいですか?

藤澤 美大を目指す決意をしたのは高校3年です。美大を目指す人はもっと早い時期からデッサンの予備校に通っているので、私はちょっと遅かったですね。一浪して入学しました。

上白石 美大では具体的にどんな勉強をされていたのですか?

藤澤 多摩美術大学のテキスタイルデザイン専攻だったのですが、毎日布を織ったり染めたり。私は染めとウェアデザインを専攻していました。

上白石 小さい頃からの夢がぶれず大学で勉強して、それをそのまま生かして仕事にしているのですね。みんな大学で将来のことを模索して、卒業しても模索している人もいるのに!そのビジョンは最初からはっきり見えていたんですか?

藤澤 今もいろいろ悩みながらやっています。でも思い返すと手を動かすのはずっと好きでした。高校生の時は、部活のポスターを率先して描いたり、家に帰ったらネットのお絵描き掲示板に張り付いて、待ち受け画像を作ってWEBサイトで配布したりしてました。ものづくりで人とコミュニケーションをとれる幸せが、今も変わらず根底にあるんです。

上白石 誰かのために物をつくることが好きだったんですね。いろいろなアイテムに箔を貼ってみようと思ったのも大学の頃だったのですか?

藤澤 大学の課題で、古着を素材として扱ったのが始まりです。一度誰かに手放された服に、染色で光を当て直すことで、新しい命が吹き込まれる。誰かとの時間がつながる面白さにのめり込んでいきました。最初は原宿の古着屋さんであらゆるヴィンテージの洋服を買ってきては、学校で染めたりプリントしたり、さまざまな染色のテクニックと組み合わせる中で、箔の表現に行き着いたんです。箔押しはヴィンテージ特有の、穴や汚れの補修にも適しているんです。うつわの金継ぎのように、欠けていた部分がより尊くなる。表現を模索していく中で、箔が自然と馴染んでいきました。

上白石 箔プリントは触るとかちっとしていますね。初めてゆきさんの商品を触った時に、やわらかそうに見えたんですが意外でした。ちゃんとニットと箔の層が出来ていて、その表情が豊かでとても素敵で。箔に出会ったのはいつぐらいですか?

藤澤 活動を始めた2011年頃から、箔を使い始めました。今では箔はYUKI FUJISAWAの代名詞ですね。

“私のために作られた服!”
そう思ってくれる人のために――藤澤ゆき――

上白石 今のファッションの流行とかをどう思いますか?

藤澤 ファッションはさらに二極化していくのかなと思います。安価で手に入りやすいものと、オーダーメイドのような世界に一つしかないもの。安く服が買えるのは消費者としては有難い反面、どうしてその値段が実現できているのかをみんなで考えられたらいいなと思います。ファッションに限らず、物づくりのバックグラウンドを大切にしたいといつも思っています。どういう思いでどんな人たちが携わっているのか、受け取り手に関心をもって応援してもらえるように、きちんと伝えていきたいです。

上白石 古着を好きな友達になぜ好きか聞いてみたら、やっぱり人とかぶりたくないというのがあるみたいで、自分だけのファッションを表現したいからだと言っていました。ゆきさんの作るものも世界に一つだけで、それを手に入れることで自分だけの物になる。ファッションの中でも新しい位置づけですよね。

藤澤 一点物って特別でいいですよね。ふらりと買い物をしている時に、ラックにかかっている服を見て“これって私のために作られたもの!?”と運命的な出会いを感じるとすごく嬉しいんです。萌歌ちゃんはそういう気持ちになったことってありますか?

上白石 あります!

藤澤 私もその感覚がすごく好きで、それが一点物を長らく作っているきっかけなんです。世界にいる誰か1人が“私のために作られたのでは・・”と心が動く出会いを作れたらいいなと思います。

上白石 それこそ、ゆきさんの商品を見てそう思ったんです。私のためにあるって。こんなに服で心が躍ることがあるんだなって。子供の時の幼心がくすぐられたような感覚でした。キラキラしたものって小さな時から女の子は好きですよね。今、大人になってその頃を思い出しながら、ちょっと恥ずかしくなるような嬉しさ。きっとみんなその気持ちを求めてゆきさんの服を見ているんでしょうね。

藤澤 ちょっぴり恥ずかしくなる嬉しさってすごくわかります。昔セーラームーンのスペシャルなカードが特別なキラキラのプリントになっていて、それをガチャガチャで当てた時の感じと同じなんですよね。ちょっとくすぐったくて。それは、いつまでも自分の中に大事にしておきたい感情です。

上白石 子どもの頃、「オシャレ魔女♥ラブandベリー」というカードゲームが流行っていて、それのスペシャルのカードもキラキラでした。そういえば金色の折り紙も好きです。

藤澤 50枚中1枚しか入っていない金ピカの折り紙って、うれしいですよね。大切にしすぎて結局最後まで使えないです。

上白石 運動会でもらった金メダルも特別だし、光るものに惹かれるのはわかります。

服は買い手を選べない。だからちゃんと着てあげないと――上白石萌歌――

上白石 ゆきさんは物持ちがいい方ですか?

藤澤 わりといい方だと思います。小学生の時に父がくれたコム デ ギャルソンの赤いセーターを今でも愛用してます。ものを買うときは、この先も大事に思えるかを大切にしていて、どういう想いを込めてものづくりをしているかを知っている友人デザイナーの服を買うことが最近は多いですね。

上白石 私はシーズンごとに買っちゃうんです。年々物欲がすごくて。

藤澤 物欲があるのは羨ましいです!旅の最中に見つけた陶器や石なんかの小物は年々増えていくんですけど、学生の時よりもワードローブが増えないのが今の悩みです…。

上白石 つい先日、服を整理していてとても悲しい気持ちになったことがあって。箪笥の奥にしまい込んでいた服を見つけて、買ったときはわくわくして着ていたのに最近は愛情が注げていなかった・・・と。なので、欲しいものがあると5年後もちゃんと着ているんだろうかと考えるようにしています。ちゃんと向き合って服を選ぼうと。

藤澤 その時々で装いを変えて楽しむのも、ファッションの楽しさですよね。いろんな服に出会う時間にもきっと意味があると思います。テキスタイル科には洋服好きな子が多くて、私は20代の頃が一番お洋服にお金をかけていました。装って人と会うのが好きだったから、服をきっかけにコミュニケーションをとるのが楽しかったんです。さまざまな服を通して、信念のある物づくりが好きなんだというところに気が付きました。

上白石 いろんな服を買って、中には着なくなるものもあって。でもそれを繰り返すことで自分が好きなものや、ずっと着続けたいものが見えてくるというゆきさんの考えに救われました。雑誌を見ていても、“あ、ほしい!”ってすぐ思っちゃうんです。ゆきさん、最近買ったものは何かありますか?

藤澤 自宅用のうつわを買いました。それも5回ぐらいお店に見に行って、どの子がいいか悩みながら、先週やっと決断してお迎えしました。

上白石 最近は物欲に駆り立てられると同時に、自制心も働くようになったんですが、ゆきさんはかなり買い物に対して慎重ですね。

藤澤 お気に入りのものだけを身の回りに置きたいなと思って、昔よりも慎重になりましたね。萌歌ちゃんは他の人のお芝居とかを見て吸収したりしますか?

上白石 はい。それこそ一日お芝居してすべてを出しつくしたから、映画を見て一呼吸したいと。休みの日も1作品はみます。演劇も含めて。

藤澤 それがまた活力になるんですね。

上白石 そうなんです。ゆきさんはそういうのはありますか?

藤澤 あります。購入体験が新しいアイディアを連れてきてくれることもたくさんあるんですよね。自分の中に新しいものを受け入れる柔軟さを身につけたいなと、今日お話ししてより感じました。

上白石 服は買い手を選べないですよね。思わぬ人に着られてしまったりすることもあります。だからちゃんと服は責任をもって着ないと。

藤澤 小学生の頃、服をまたいだら父親に“服をまたぐな!”って怒られた記憶がすごく残っています。そういう姿勢を見てきたので、選ぶ時も責任も感じて、手に取るのが慎重になっているのかもしれないです。
服の中でも、手編みのニットには特別な時間の流れを感じます。たとえばおばあちゃんが編んでくれたニットってなかなか捨てられないですよね。一目一目に愛情と時間が詰まっているハンドニットは、衣服というよりも工芸品に近い存在だなと思います。

上白石 そこに箔がのるとまた表情が変わって、新しい時間が流れるんですね。

上白石 生活空間でのこだわりはありますか。例えば猫との生活とか。

藤澤 最近家をリノベーションしたんです。猫のための小さいドアも作りました!家具を揃える時に考えたのは、長く受け継いで暮らしに取り入れられるかどうか。特にウェグナーやデンマークのヴィンテージ家具が好きですね。

上白石 猫からインスピレーションを受けることはありますか?

藤澤 たくさんの心のゆとりをもらっています。私は生まれてからずっと動物と暮らしているんですが、今一緒にいる猫は特におっとりさんで、毎日のんびり生きていて、そばにいるだけで幸せな気持ちになります。人間だって同じように、生きているだけで十分だよね、と感じます。

上白石 でも、物づくりに追われて寝られないこともあるのでは?

藤澤 昔は徹夜したりアトリエに寝泊まりしたり、全速力で走り続けていました。自分自身を消費するばかりになるとアイディアも出てこなくなって、何も手につかない時期もありました。ものづくりが嫌いになってしまわないように、自分なりの緩急の付け方や、心地よくクリエーションをできるよう模索中です。

上白石 最後に、物づくりの中でときめく瞬間を教えてください。

藤澤 予想していなかったものが出来上がった時ですね。誰かに風を吹き込んでもらって、思いも寄らなかったところに着地できるのが一番うれしいです。2019年に原美術館でプレゼンテーションをしたのですが、プロデューサーさんやカメラマン、モデルさんなど沢山の方の力があって実現しました。ドラマを作っているようで、楽しかったです。またそういった催しもやりたいですね。

上白石 いろんな人が参加することで、より奥深いものが出来ますよね。新しい何かが吹き込まれて、予想しない化学反応が起きて。またそのようなプレゼンテーションやっていただきたいです。いつかショーもやってほしいです。例えばみんなで箔をはって、一斉にはがすとか。アイディアは無限ですね。今後のクリエーションもとても楽しみにしています。

――撮影を終えて――

photographs : Josui Yasuda(B.P.B.)
hair & makeup : Tomomi Shibusawa(beauty direction)(上白石萌歌)、 Asumi Washizuka(藤澤ゆき)

ワンピース ¥64,400 ユキ フジサワ
info.yukifujisawa@gmail.com

カットソー ¥27,500 ビューティフルピープル
TEL03-3560-7457

Kamishiraishi Moka
2000年2月28日生れ。鹿児島県出身。2011年第7回「東宝シンデレラ」オーディショングランプリ受賞し、デビュー。2019年、映画『羊と鋼の森』で第42回 日本アカデミー賞 新人俳優賞を受賞。adieu名義での音楽活動を行う。テレビドラマ「警視庁アウトサイダー」(テレビ朝日系)に出演中。

Fujisawa Yuki
東京都出身。多摩美術大学生産デザイン学科テキスタイル専攻卒業。2011年、テキスタイルレーベル“ユキ フジサワ”設立。インテリアテキスタイルの提案、舞台衣装、講演など、多岐にわたり活動。
WEB:http://yuki-fujisawa.com

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