上白石萌歌の
ぐるぐるまわる、ときめきめぐり
Vol.10 デザイナー 田中文江

2023.10.28

上白石萌歌さんが、ジャンルを問わず今気になる人を訪ねてお話を伺う連載です。ファッションが大好きな上白石さんが今回訪れたのは「FUMIE=TANAKA」のデザイナー田中文江さん。幼いころから服が大好きで、見事デザイナーの夢をかなえた田中さん。そんな田中さんの頭の中を上白石さんがそっと覗きます。幼いころは?次のコレクションは?将来は?・・・。「FUMIE=TANAKA」の素敵なアトリエで会話がはずみます。

最新の2024年春夏コレクションのこと

上白石萌歌(以下 上白石) 次のコレクションの準備で忙しいときにありがとうございます。今季の秋冬の服を拝見させていただきました。美しいグリーンや柄物のアイテムがたくさんある中、私はグリッターの短いニットがとても気になりました。文江さんの作る服は、特別な日に着たい服です。でも今回はテーマが”365days”ということだから、日常が特別になるようなニュアンスなのでしょうか。

田中文江(以下 田中) 1年前のショーの時に、ロシア・ウクライナ戦争が勃発していて、私自身反戦といえども自分自身どうすることも出来ず、ただみんなに向けてこの気持ちを伝えるということで開催したものでした。一瞬でもいいから今ある幸せを願おうと。モデルの中にはウクライナ人もいればロシア人もいて、ラストではみんなが円になって手を合わせて。感情が高ぶる中でとても複雑な気持ちだったのを覚えています
あれから1年、落ち着いて今の状況を俯瞰で見た時に、いろんな意味で頑張りすぎていたような気がしたのです。今回は”365days”とテーマをつけて、自分の1年はどうだったかなと振り返ってみたコレクションでした。

上白石 今までのいろんなテーマを踏襲した、着たくなるような服がたくさんある感じがしました。みんな特別な服なのに、不思議と日常に溶け込むような服でしたね。

田中 私の服を買ってくださるお客様は、特別な日に着たいとおっしゃいます。もちろんそれは嬉しいのですが、自分で特別な日を作りたくなる服であってほしいとも思います。行動したくなる服って素敵ですよね。

上白石 服を買った時の嬉しい気もちがピークではなくて、その後生活する中で寄り添ってくれる服。服って新しいインスピレーションを与えてくれるものだと思うんです。これを着てあの人に会いたいとか、あの場所に行ってみたいとか、自分だけでは行動できないことに服が力を貸してくれる感じがします。特に文江さんの服は、民族的なニュアンスが感じるので、袖を通すだけで異国にトリップする感覚もあります。服が変わると聞く音楽が変わったり、視点も変わったりするけれど、そんな力が具わっているような気がします。

田中 そう言っていただけると、今までやってきて良かった!って本当に思います。衣食住という言葉があるように、着ること食べること住むことは、生活をしていく上での基礎。その中で、衣服については贅沢に思われがちだけど、そういう言葉が存在するということは、何かしら人の心をコントロールする力があるということ。人の気持ちを動かすって、すごい力ですよね。髪型変えたら服も変えたくなるし、誰かに会うときは会う人を想像しながら服を選んだり。それはとても素敵な時間。

上白石 服って不思議ですよね。900円ぐらいの白Tでも生活できるのに、それでは満足できないときもある。服には特別な一日にしてくれる力があるんですね。

田中 そうですね。それにその服を手に入れるまでのストーリーもありますよね。どうしても欲しいから、仕事を頑張ってやっと手に入れたとか。高価で質のいいものなら、自分の子どもにまで引き継げる服にもなります。

幼いころからデザイナーになりたかった

上白石 文江さんは、幼少期はどんな子供だったのですか?

田中 私は小学生の頃からずっとデザイナーになりたかったんです。あ、でも一度だけブレたことがありました。デザイナーになるかプロレスラーになるかって。勝負が好きで、空手に通っていたりしたから。でもファッションがやっぱり好きだったので、その道は諦めましたけどね(笑)。年齢が上がるほどに、デザイナーへの夢は大きく膨らみました。デザイン画を描いて出版社に送って、その服をスタイリストさんがスタイリングして雑誌に載るという企画がありました。まだ中学校だったかな。

上白石 それはすごいですね!デッサンの勉強はしていたのですか? 

田中 実はデッサンがとても苦手でした。当時は人に物事を伝えることがうまくできず、ファッションでやりたいことはデッサンで伝えるしかなかったので、ひたすらデッサンを学ぶために美術の学校に通いました。美術だけしかない芸術に特化した高校です。

上白石 ビジョンがちゃんとあって、その頃から進むべき道が見えていたんですね。 私、文江さんのデッサンがとても好きなんです。アニメーションみたいに動き出しそうなところが。

田中 頭の中に思い描いているものを一気に表現します。躊躇してしまうとペンが止まってしまうんですよね。その線の強弱やブレで、迷っているかどうかわかります。自分の中にあるものを表現するというトレーニングは常にやっていることで、それが萌歌さんに伝わっているのはとてもは嬉しいです!

上白石 もはや芸術家ですね。画家も素描から始まりますし。根底は一緒で、そこから絵に進むのか、服に進むのかですね。

田中 画家もデザイナーも基本的に自由だと思います。けれど、それを創造できるかどうかということが、仕事として成り立たせることに繋がりますね。

「FUMIE=TANAKA」のイコールに込めた思い

上白石 紙の上に描いた動きのあるデザイン画を、服として立体にするのは大変なことですよね。

田中 私だけでできるわけじゃなくて、まわりの人の助けがあるからこそ。私の心の中の思いをパターンナーが汲み取ってくれて、何度も話し合って出来るものです。私はデザイン画は完全に仕上げず、あえて80、90パーセントにして、パターンナーに対して余白を作っておくのです。そこの部分をパターンナーがどう解釈するかがとても楽しみ。実際に私が思っているより素晴らしいものができることもありますから。

上白石 「FUMIE=TANAKA」のチームには、文江さんの旦那さまもいらっしゃいますね。旦那さまとはずっと二人三脚で一緒にブランドをやっているのですか?

田中 はい。お互いにファッションが大好きで、仕事以外のプライベートの時間でも、ずっとファッションの話をしているんですよ。

上白石 ブランド名の「FUMIE=TANAKA」の間にあるイコール記号なんですが、最初どういう意味かなって思ったことがあって。旦那さまとともにあるブランドだという意味合いなのですね。今日お会いしてこうやって繋がっているんだって納得しました。夫婦というものを超えた戦友というか、人生においての強い意味でのパートナーということが伝わって感動しました。イコール記号にすべてが込められているんだなって。

田中 すごいですね!そこに気づいていただけるなんて。今まで1回ぐらいしか、このイコールの意味を聞かれたことがないんです。私にはものづくりしかできないので、私に出来ない部分を任せています。どこのブランドもそういう方がいらっしゃると思うのですが、それが私の場合はパートナーだった。私の性格も知っているし、質問したことに率直な答えが返ってきます。間違えた方向に行くと軌道修正してくれるし。客観的に見てすべてをコントロールしてくれるんです。

経験の中で培ってきたものづくりへのこだわり

上白石 服を作る上でいちばん迷う部分はどこですか?

田中 毎回ショーが終わった後に、お店のスタッフや服を買ってくれた方々のために、次に何ができるかを考えます。そこを疎かにしてはだめだから。何かをやるのであれば最高なものにしたいと常に思っているので、どういう方法で皆さんに還したらいいか、何をするのか、それを考えるのがいちばん悩むかしら。デザインはどんどん出てくるんですけどね。

上白石 還すという言葉が新鮮ですね。ファッションにおいて循環というものに気を留めたことがありませんでした。お店のスタッフのこと、着る人のことを考えなから作られていること、大きく全部が回っているんだなって思いました。

田中 今はデザイナーって言えばだれでもデザイナーになれる時代。でも年月をかけて築き上げたものには、経験や人との繋がりというものがあります。工場で働いている職人さんにわがままを聞いてもらえるのもそれがあるから。ものづくりはできても、その裏にある経験の深さは、なかなか簡単に手には入れられません。

上白石 服がお店に並んで、手に取って買って着るまでに、いかにいろんな工程があって、そこに見えない人たちの技術や力が加わっているというのがわかります。買うことに集中するとなかなかそこまで見えないけれど、そこをきちんと感じていたいなって思いました。

田中 買ってくれるお客さんは、“あ、この服かわいい!”という、その第一印象で手に取るのでいいと思うんです。でも、作る側はものづくりに対するこだわりは持ちたいですね。それこそ昨日日帰りで新潟に行って、工場の方と打ち合わせをしたのですが、わずか2時間半でも、電話やメールで伝わらない部分を伝えに行くことで、工場さんに真剣度が伝わるんです。時間がない、忙しいじゃすまされないんですよね。

上白石 着る側として、服の第一印象はとても大事ですが、さらにバックボーンに思いを馳せられたら、よりファッションが楽しくなると思います。工場さんとの信頼関係、そこにもイコールがあるんですね。

田中 誰とでもイコールになれます。プラスではなくイコールね!お互い一緒の目線であることが大切なんです。

2023-24年秋冬コレクションを飾った花のドレス

好奇心を持つこと。それが私にとって大事なこと

上白石 デザイナーの仕事は、常に季節を先取りして、1年が目まぐるしく過ぎていくのだと思いますが、そんな中でインプットはどのようにしていますか?

田中 すべてに対して好奇心を持つことでインプットできているかもしれません。“なんで?”って思った時に物事は吸収できるから。子供って成長時期に“なんで?なんで?”って聞いてくるでしょ。あれと同じで、一つ一つのことに“なんで?”って思うようにしているのです。例えば、昨日乗った電車のシートがピンクのジャガードだったのです。なんでなんだろうと外の景色を見ながら考えたんですが、背景の畑のグリーンとの対比の美しさを見せるためだと自分なりの答えが出ました。

上白石 やはり色彩に関して思うことが多いですか?

田中 それももちろんあるのですが、なぜそうしたのかという理由を考えるのです。

上白石 それと感覚が似ていると思うのですが、私はひとりで喫茶店に入って、まわりの人の会話や表情を見て、それをお芝居に生かしているんです。このタイミングでそういう顔をするのかとか、やっぱり驚く時の声はこういうトーンだなって。職業病じゃないけど、普段の些細なことにとても敏感に反応してしまうんです。

田中 特に俳優の萌歌さんはそうかもしれないですね。まわりの表情とかタイミングとか、演技する上で今までやっていたことが実際は違っていたり。人間って本当に驚いたときは声がでなかったりしますよね。
つい先日、あるレストランで思ったんですが、テーブルセッティングも素敵で食事も美味しいのに、消毒用のアルコールがそのままおいてあるんです。入れ替えればいいのになって。そういう些細な事が気になっちゃうんです。

上白石 その日常の些細な“なんで?”を自分の中に取り入れて仕事に生かそうとしたときに、あらためてこの仕事が好きなんだなって気づかされます。

田中 そう。だから常に“なんで?”ということは思っていたいですよね。

上白石 いつか「FUMIE=TANAKA ?」というブランドもできるのでは?(笑)

田中 あ!あり得ますね!(笑)  “なんで?”という疑問をもちつつ、日常に満足しないことは、私にはとても大切です。

上白石 今後の目標はありますか?

田中 目標の一つとして海外進出はあります。ただ海外で発表したら続けなければいけないと思っているので、そのタイミングや発表の都市は見極めなければなりません。そして、もう一つ。もっとお客さんと触れ合える場所があればと思います。それから・・・実はファッションじゃないこともやりたいと思っているんです。でもそれはもっと先のことで、デザイナーを引退をしたときのこと。でもそれは今は内緒です。

アトリエの一角にある田中さんの作業場

海外旅行で買い集めた小物コレクション

ベスト ¥52,800、ブラウス ¥38,500、パンツ ¥41,800、シューズ ¥62,700 全てフミエタナカ(ドール)/イヤリング スタイリスト私物

NEXT:上白石萌歌さんが2023-24年秋冬コレクションを素敵に着こなしたファッションストーリーを。

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