上白石萌歌の
ぐるぐるまわる、ときめきめぐり
Vol.9 コラージュ アーティスト M!DOR!

2023.09.28

上白石萌歌さんが、今とても気になる人を訪ねてお話を伺う連載。第9回目は、本誌『装苑』でも活躍するコラージュアーティストのM!DOR!さん。古い雑誌を切って、貼って、そしてそこから生まれるあたらしいクリエーションは、デジタルの勢いが止まらない今の時代だから、逆に新鮮な表情を見せています。手を動かすことによって表現される、M!DOR!さんのアナログ作品の魅力。今回は上白石さんもコラージュに初挑戦していただきました!

萌歌さん、コラージュ初挑戦!

M!DOR! 今日は萌歌さんもコラージュに挑戦して下さいね。思うままに紙をカットすれば大丈夫!背景は、英字や景色の紙を使うとやりやすいですよ。

上白石萌歌(以下 上白石) M!DOR!さんは鋏でカットするんですね。それがいつも使っているM!DOR!さんの鋏ですか?

M!DOR! 小学生の時から使っている鋏で、これが一番切りやすいんです。

上白石 作業するときは無音でやりますか?

M!DOR! いつもは好きなレコードをかけてやります。無音は逆に苦手で。

上白石 では、M!DOR!さんがいつも聞いてる音楽を聴きながらやりましょう!

素材の多くは古い雑誌

上白石 コラージュする素材は、1800年代や1900年代のものが多いと伺ったのですが、今日の素材もそうですか?

M!DOR! 今日あるのは1950年代のものです。

上白石 こんなに印刷が鮮やかなんですね。

M!DOR! そうなんです。意外と紙の質が良くて、味があって、この赤い色も今はなかなか出ない色。ファッション雑誌、インテリア雑誌、料理雑誌があるので、いろいろ使ってくださいね。ポイントは、あり得ないものとの組み合わせです。

上白石 M!DOR!さんの作品を見ると、絶対に同じ所にあっちゃいけないようなものが一緒にありますね。共存しちゃいけないものたちが集められている。ちょっと毒っぽさを感じます。

M!DOR! そこがコラージュの魅力かな。自分の中の異世界を作り出すのが、いちばんの面白さ。

上白石 同じ素材を使ったとしても、自分にしかできないものが完成するんですね。制作中に迷うことはありますか。

M!DOR! 基本直感です。自分なりの気持ちいい構図は常に感じるので、止め時はわかりますね。

上白石 絵画を見ていて、ここで作業を止めたのはすごいなと思うことがあります。この空間に何か描きたくなったけど、きっと止めたんだろうなって。

M!DOR! 始めるときより止めるときの方が難しいですよね。

上白石さんが使った1950年代の雑誌

コラージュは素材探しからスタート

上白石 コラージュの素材はどこで集めるんですか?

M!DOR! フランスの蚤の市とか、古書市とかで。素材集めのために旅行をします。

上白石 神保町の「マグニフ」という古書店知っていますか?私も古雑誌がとても好きなのでよく行くのですが、日本の雑誌でも面白いものがありますね。

M!DOR!  「マグニフ」知ってます!いいですよね。

上白石 M!DOR!さんは鋏を使って、このような昔の雑誌をアナログでコラージュしていますが、デジタルでもできるものでしょうか?

M!DOR! きっと今はデジタルでやっている方が多いと思うのですが、やはり素材を探す楽しみや、素材自体が一回しか使えないというのと、貼ることで出てくる紙の重なりはアナログだからこその魅力がありますよね。

上白石 スマホやタブレットで見るものは、素材を見つけて使っているという感動は伝わりにくいです。

ちょっとシュールなコラージュ作品

上白石 M!DOR!さんの作品は、人の夢をのぞいているみたいですね。自分の夢でもあるような。そう夢日記!

M!DOR! その表現とても嬉しいです。ありえない世界が作品に出ているってよく言われます。“M!DOR!の中を見ているみたい”と。

上白石 M!DOR!さんの頭の中を見てみたいっていう衝動にかられます。作品にはマグリットみたいな要素がありますね。シュルレアリスムの影響は受けてますか?

M!DOR! 受けてますね。あとマックス・エルンストのコラージュとかも。

上白石 そもそも コラージュは誰が始めたことなんでしょう?

M!DOR! 一説によると、ピカソが始まりだと言われています。

上白石 私はマティスが好きなんですが、マティスも切り絵でコラージュのようなことをやっていますよね。コラージュは新しいものと思っていたけれど、意外と昔からあるんですね。

M!DOR! そうなんです。1900年代の前半からあります。

上白石 M!DOR!さんがコラージュに出会ったのは?

M!DOR! 高校生の時、古本屋さんでロシア・アバンギャルドのポスター集に載っていたコラージュを見たのがきっかけです。私は絵を描くのが苦手で、絵は描けないけど何か表現できることはと思ったときに出会って始めました。

上白石 そういう話を聞くと、これからアーティストを目指す若者たちの肩の荷が降りますね。やはり小さい頃から手を動かすのが好きだったのですか?

M!DOR! はい。お菓子の包み紙とか包装紙でちぎり絵とかをやっていました。

上白石 私も折り紙でやりました!今、手を動かしながら童心にかえっています。

好きで始めたコラージュが仕事に

上白石 M!DOR!さんはどうやってコラージュ作家になったのですか?

M!DOR! ずっとコラージュが好きで作り続けていたんですが、ある時展示のお誘いがあって。それをきっかけに仕事としてやるようになり、意識も変わりました。

上白石 好きなものが自然と仕事になっていったのですね。作品はどのように見つけてもらえたのですか?

M!DOR! 私の時はミクシィが流行っていたのでそこで作品を載せて。やっぱり力があると思いました。

上白石 やはりSNSなんですね。今は、自分を知ってもらうツールは山のようにあるけれど、昔の作家さんたちはどうやっていたんでしょう?

M!DOR! ギャラリー展示とか雑誌、書籍の表紙で使われることによって、一般に知られるようになったのではないでしょうか。

M!DOR!さんの作品

上白石 こうやってコラージュ制作に没頭していると、現実に戻れなくなる感覚ありますね。とくに古い雑誌を見ていると時間の概念がなくなっていきます。

M!DOR! そう、朝から作って気づいたら夕方になっていたりします。時間を忘れさせてくれるのもいいところかもしれません。ちょっとタイムスリップした気分になりますよね。

上白石 自分の作品と、仕事では違いますか?

M!DOR! 違いますね。オーダーされるものは、そこにテーマがあって依頼者の思いもあるので、それを汲んで作品に昇華します。自分のフィルターを一度外さないと出来ません。でも自分の作品は自分のやりたいようにやっています。

上白石 アーティストの方のビジュアルも手掛けていますね。存在する人の写真に鋏を入れるのはどんな感覚ですか?

M!DOR! 切らせていただきます!っていう感じ(笑)。

上白石 私が今迷いなく切ることができるのは、知らない人が載っている素材だからですね。

手で触れられる嬉しさと安心感

M!DOR! 萌歌さんは俳優でもありミュージシャンでもありますが、歌で表現するのは演技とはまた違うんですか?

上白石 演じるときとは違う頭をつかっている感じはします。

M!DOR! 俳優やミュージシャンの他に何か表現していることはありますか?

上白石 写真を撮ることが好きなんです。特にフィルムで撮るのが好きなんですが、あるときフィルムで写真を撮るカメラマンの方にその理由を聞いたら、震災を経験してデータの写真が全部だめになったらしいんです。それ以降、触れられるものしか信じられなくなったと。コラージュも触れるだけで説得力を感じます。

M!DOR! 形あるものはすごいですよ。私が所有しているものが、この先に繋がっていく可能性があるのですから。写真もそうなんですね。

上白石 世の中デジタル化にどんどん進むけれど、紙ものはなくなってほしくないですね。今使っている雑誌も、生き抜いてきた感がありますよね。

M!DOR! 過酷な時代を経て、誰かが大事にしていてくれたものを使わせてもらっている。ものを大事にすれば、後々喜んでくれる人がいるんですね。

上白石 前に古本屋さんで本を買ったとき、30年ぐらい前のレシートが本に挟まっていたことがあって。誰かがちゃんと手にとって購入して、その人の生活の中にこの本が存在していたんだと思ったら嬉しくなりました。

M!DOR! 誰かとコラージュやるって楽しいって、今日初めて感じました!いつもは一人なので。

上白石 どうしよう、気になった絵や写真がたくさんあって無限に写真が足せます。

コラージュは人の気持ちも映し出す

上白石 コラージュ作品には言葉では伝えられない真相が表れますね。歌もそう思うのですが、心を見透かされているような感じです。

M!DOR! 歌ってその時その時の気分で表現が変わってきませんか?前にカウントダウンTVで生放送で歌っているadieuさんをみてすごいなって。緊張しませんか?

上白石 緊張するんですが、生放送だとダイレクトに誰かのところに届いているっていう感じはします。ライブとかの方がやりやすいですけどね。コラージュの生配信とかやらないのですか。

M!DOR! よく言われるんです。ちょっとやってみようかな。何もしゃべらないライブ。ただひたすら切って貼って(笑)。

上白石 でも言葉がなくても良さが伝わるのがコラージュの魅力のような気がします。

M!DOR! 実は、コラージュ療法というのがあって、精神的に自分がどういう状態かをコラージュをすることによって判断するんです。どんな色を多く使っているかとか、どんな形が多いかで精神状態がわかるらしいです。

上白石 私が作ったコラージュ、見る人が見たら精神状態がばれちゃいますね。でも、手を動かすのは脳にもいいともいいますよね?

M!DOR! 浄化作用があるんだと思います。

上白石 浄化されて無になるんですね。今は情報がありすぎて、なかなか無になれないから、人間にとって無になるのは必要ですよね。無の状態は、デジタルにはない真空状態という気がします。

NEXT:お二人のコラージュが完成!

RELATED POST

上白石萌歌のぐるぐるまわる、ときめきめぐりVol.8 歌人 木下龍也
上白石萌歌のぐるぐるまわる、ときめきめぐりVol.6 デザイナー 小髙真理
上白石萌歌のぐるぐるまわる、ときめきめぐりVol.7 写真家 石田真澄
文化学園出身の100人のクリエイターをご紹介!
上白石萌歌のぐるぐるまわる、ときめきめぐりVol.5 アーティスト 長坂真護 パート2
Vivienne Westwood(ヴィヴィアン・ウエストウッド)は永遠に