左 長坂真護 右 上白石萌歌
素敵な方たちとの出会いによって、上白石萌歌さんのさまざまな思いが伝わってくる好調の連載。第3回目は、社会活動家でアーティストの長坂真護さん。初めて見たガーナのスラム街のゴミの山に心を揺さぶられ、自ら日本とガーナに会社を立ち上げ、ゴミを素材にアートを制作し続けている。昨年、上野の森美術館で開催した展覧会で、その展示作品に感銘を受けた上白石さん。ゴミから始まるアートのサーキュレーションに話題が広がる。
上野の森美術館で出会ったアート
上白石萌歌(以下 上白石) 真護さんのことは、昨年の上野の森の美術館の展覧会で知りました。作品を見たとたん言葉を失って・・・。あのアート作品のパーツとなるゴミですが、集めるためにガーナには年にどのくらい行かれるんですか?
長坂真護(以下 長坂) 1年間で延べ2か月ぐらいかな。ガーナにも会社を作ったんです。電子機器の墓場と言われるガーナのアグボグブロシーでは、それらを燃やすことで排出されるガスを吸い込んで病気になり亡くなる人もいます。そのような人たちに、農業、リサイクル工場、ビーチクリーニングなどの仕事をしてもらっています。昨年は展覧会があったので、アーティスト活動に比重を置いていました。ひたすら絵を描いていましたよ。話が変わりますが、僕、萌歌さんの「ワイン」という曲がめちゃくちゃ好きで、ずっと聞きながら制作していました!
上白石 ありがとうございます。すごく嬉しいです!そんなにずっと描き続けていたんですね!真護さんはインプットとアウトプットが同じくらいあるのかなと思っていたんですけどいかがですか?
長坂 昨年はアウトプットが多くて、1000点ほど描きました。展覧会は行っていただいた上野と、同時開催で大阪もやっていたので、そのくらいの点数を描かないと成り立たなかったんです。今38歳なんですけど、32歳ぐらいまで売り込みばかりして、路上で絵描きをしていたんです。この数年で世間に知られるようになって。ゴミのシンデレラボーイですね。最初の頃は何やってもダメだった。年間で10点ぐらいしか描いていなかったんですよ。
上白石 上野と大阪は全く別の作品を展示したんですか?上野だけでもすごい点数でしたよね。
長坂 300点ぐらいありましたね。去年はアーティストとしての限界を目指したかな。お酒もやめてひたすら描いて。もうそうなると頭の中が空っぽでスカスカになっちゃうね。
上白石 立体のものも含めて300点の作品は全部イメージが違いますよね。そのインスピレーションがどこにあるのかなって、いろんな作品を目にしながら思っていました。何かのインタビューで真護さんが“1万点を描く!”と言っていたのを読んだのですが、それはどのようなことからその数が出てきたのですか?
長坂 ピカソが生涯描いた13,500点を超えたいんです。僕は絵の才能はないとわかっているので、点数で勝とうと。何か一つのことを継続できる人は天才らしいんですよ。そっちにかけるしかないなって。ピカソを超えた13,501点目がどんなものか自分自身で見てみたくて。
上白石 でもアーティストとしての創作活動だけじゃなくて、ガーナでの全部の取り組みを真護さんがするのだから、とても大変な作業になりますね。
長坂 萌歌さんだって、俳優でありながらミュージシャンでもあって、大変じゃないですか。若いのにすごいなって、逆に僕は思いますよ。
上白石 すかすかになります(笑)。真護さんはすべて出し切ってすかすかになった時、どうしていますか?
長坂 そこなんですよね。アートの制作とは別に、ガーナの会社での問題もあったりしますから。心折れることもあります。そういう時は気分転換にサウナに行ったり、月の部屋(アトリエ内の月の絵だけを飾っている光を落とした部屋)で瞑想したり。マインドコントロールをきちんとしないと続けていけないですよ。上野の展覧会が終わった後、メンタルが落ちちゃって。ちょっとしたことでダメになるから、ある程度自分でルーティーンを作っておかないといけないですね。僕は、絵を描く時間は午前中4時間、午後4時間。そして徹夜はしないと決めているんです。これを崩すと体調が悪くなっちゃう。萌歌さんはどうやって気分転換します?
上白石 無理にでも自分の時間を作るしかないですよね。
長坂 その時間でどんなことをするんですか?
上白石 散歩とか料理かな。
長坂 いいですね。それはとても大事ですよ。人間は人に持ち上げられると、本当の自分を忘れそうになってしまう。自分の真ん中にあるもの。本来やりたいと強く思っていたことがね。だから少しでもいいから、時間をかけて自分を見つめることが必要になってきます。僕なんて誰にも注目されなかったのに急に持ち上げられて。何で人のために力が出せるんだっけって、時々振り返ります。あと人と比べないことも大事。
ゴミを出さないためにはどうすれば?
上白石 展覧会を見た時が、ちょうど自分が引っ越す時期で、ものの分別をしているときだったんです。やっぱりどうしても捨てるものが出てきてしまうんですよね。この先どうやってものと向き合えばいいのだろうと考えさせられてしまって。ごみをアート作品として作られている真護さんは、ご自身の身の回りのものとどうやって向きあっていますか。
長坂 例えば日本の水と米で作っている日本酒は海外では高いのに、日本でとれないコーヒーは日本で安く飲める。資本主義の国に生まれて、日常でそのようなことが当然になっているけれど、日本はそれだけ人権が守られているということ。だから僕はものを買う時には“MADE IN JAPAN”の物を買うようにしています。そして高くても10年20年使えるもの。服なら長く着られる物を選ぶようになり始めています。萌歌さんの世代の人には、その気付きをあまり与えないほうがいいと思ってやった展示だったので、逆に思ってくれたのがとても嬉しいです。
あるトークショーで今の萌歌さんと同じような質問をされたことがあります。「真護さんの活動に影響されて、作品を作りたいと思い筆を取ったけど、画材の絵具は石油からできている・・そう思うと心が痛くなんです」と。例えば、石油からできている絵具を使って一つの作品を作るとします。その1つの作品を何十万人の人が見ていろいろなことに思いを寄せてくれたら、それは相対的にみたらソーシャルグッド。そう思うようにしたらいいんじゃないかな。
上白石 あの展示を見た人は、きっとみんなものを大切にしようと感じていたと思います。そういう輪が広がればいいですね。実際私も引っ越し作業の中で、服をGAPの衣類回収に持っていったり、人にあげたりしてなるべく捨てないようにしました。そして今度服を買うときはどうすればいいかと考えるようになったんです。自分の中ではそれは革命でした。でも時間が過ぎるとどうしても忘れてしまうんでよね。環境のこととか、欲しい服のこととか。どんどんわがままが出てくるんです。なのでその気持ちを忘れないでいるためにノートに書き留めました。
長坂 僕は強烈なものを見ちゃっているんで、ガーナに一人で行ったあの日からあの光景を1日も忘れたことがない。僕の場合は、アート作品で自分の思いを表現します。絵を買ってもらうことで事業が成り立つ。そう考えるとサスティナブルですよね。道徳とかチャリティーだけで終わらずに、すべてが循環する。アーティストとしてできる最大限の力を込めて。萌歌さんの「ワイン」の曲が僕の頭から離れないのもそれは萌歌さんのアーティストの力です!
ガーナで集めたゴミからできるアート
上白石 展示作品に使われていたゴミのパーツはゲーム機が多かったですね。
長坂 一度でもゲームのコントローラーにさわったことがあったら、ここにそれがあるかもしれないですよ。
上白石 このゴミはガーナからどうやって運んでくるんですか?
長坂 空輸です。カテゴリーに分けることによって空輸できるんです。船はだめなんですよね。日本からは送れるのに矛盾だらけですよ。
上白石 ここにはゴミはどのくらいあるんですか?
長坂 1トンぐらいかな。趣味嗜好とか感覚とか概念を変えていくとゴミだったものがゴミに見えなくなる。
上白石 きれいなものに見えてきます。さわっているといとおしいですね。最初はごみを捨てた人が許せないと憎しみがあったけど。
長坂 人ってゴミをゴミだと思っているだけなんですよ。本当は地球上にゴミなんてないはずなんです。
上白石さんが、ゴミの中からさまざまなパーツを見つけ出して作ったアート作品。この後、長坂さんがペインティングを施してコラボアートとして完成する予定。完成作品は後日装苑オンライン内で発表!
長坂 萌歌さんは落ち込んだときはどうしてますか?
上白石 私はエンタメが好きなので、へこんだ時は、もしその時ドラマを撮っていたらドラマを見たりします。自分がその時携わっているものを。へこんだらどうなりますか?
長坂 心が内向きになったら大変ですよ。毎日大雨な気分。でも気持ちが上がっている時は、キャンバスに絵が浮かんで見える。ぜったいいい絵になるってわかる。野球の選手でホームラン打ったとき、ボールが止まって見えたって言うじゃないですか。あんな感じ。
上白石 私の仕事は、自分でOKを出せないんですけど。自分が納得しなくてもそれで成立したりします。アーティストはそれがないですよね。絵はどんどん足していけるし。
長坂 それはここがストップという訓練だと思います。僕は結構わかります。ここで終わるのがいちばんいいとか、何かが少し足りないとか。点を一つプラスしたり、1本の線を違うように描いたりするだけで絵の価値が変わったりするんです。そういうのが1ミリ単位でわかるから、基本的にあとからやり直しはしないですね。たとえば部屋に入って何かがちょっとずれていただけでも違和感を感じる。アシスタントは気づかないのにね。そういうバランス感覚はあるほうだと思っているんですよ。
――撮影を終えて――
左 ガーナから運ばれたゴミ
右 上白石さんのアシスタントとして作業する長坂さん
左 これらのパーツがアート作品へと生まれ変わる。
右 ガーナのビーチクリーンで拾ったシーグラスは
アトリエの壁の石膏ボードに使用 撮影・上白石萌歌
photographs : Jun Tsuchiya (B.P.B.)
hair & makeup : Karen Suzuki
styling: hao
オールインワン ¥63,800 アキコアオキ
WEB:https://www.akikoaoki.com/
ニットセーター ¥35,200 アカネ ウツノミヤ
WEB:www.akane-utsunomiya.com/
イヤリング ¥3,500 グレイ
WEB:https://graey.jp/
ネックレス ¥12,900 miyu nakamura(ロードス)
TEL:03-6416-1995
ローファー ¥26,400 カンペール
TEL:03-5412-1844
Kamishiraishi Moka
2000年2月28日生れ。鹿児島県出身。2011年第7回「東宝シンデレラ」オーディショングランプリ受賞し、デビュー。2019年、映画『羊と鋼の森』で第42回 日本アカデミー賞 新人俳優賞を受賞。adieu名義での音楽活動を行う。4月からスタートのTBS金曜ドラマ「ペンディングトレイン―8時23分、明日 君と」に出演。
Nagasaka Mago
1984年生まれ。2017年6月、ガーナのスラム街・アグボグブロシーを訪れ、先進国が捨てた電子機器を燃やすことで生計を立てる人々と出会う。以降、廃棄物で作品を制作し、その売上から生まれた資金でこれまでに1,000個以上のガスマスクをガーナに届け、スラム街初の私立学校を設立。この軌跡をエミー賞授賞監督カーン・コンウィザーが追い、ドキュメンタリー映画“Still A Black Star”を製作。2021年アメリカのNEWPORT BEACH FILM FESTIVALで「観客賞部門 最優秀環境映画賞」を受賞。スラム街をサステナブルタウンへ変貌させるため、日々精力的に活動を続けている。