MOKA KAMISHIRAISHI
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KARIN NOGUCHI
1月の初写真展は本当に楽しかった!
上白石萌歌(以下 上白石) 今年の初めに一緒に「かぜとわたしはうつろう」の展示をやった以来だね。約半年ぶりかな。今までやりたかったことを全部放出できた展示だったから、強く記憶に残ってる。
野口花梨(以下 野口) 感慨深い展示だったね。たくさんの人が来てくれて、とても愛に溢れてた。
上白石 自分で表現したものを誰かに見てもらったり、感想をもらうことってあまりないよね。こんなふうに人の力で作ったものを、ちゃんと人の目で見てくれる。人のあたたかさを感じたな。花梨ちゃんはどう感じた?個展も前にやってたよね。
野口 個展「あたたかい身体」をやって、約二年後に萌歌ちゃんの展示をやって。あの時は伊藤紺さんの短歌もあって、とても調和が取れた展示だったね。短歌が交わったことで、あの写真を通してさらに受け取り手があったことが良かった。私はシンプルに萌歌ちゃんの写真が好きだから、一人の鑑賞者としてもあの展示を見られたことが幸せ。
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Vol.16 歌人 伊藤 紺
上白石 撮る人、撮られる人が同時に交わる展示ってなかなかないから、それも不思議。いろんな視点があったよね。花梨ちゃんが私を撮って、私が八木ちゃんを撮って、それを見た紺さんが言葉を添えて。みんなのやりたいことが一致して同じ方向を向いていた。あのとき、30人ぐらい限定トークもしたんだよね。
野口 当日の撮影の雰囲気とか、撮影するうえで何を大切にしているかっていう内容でね。
上白石 膝を交えて話せた感じも楽しかった。
花梨ちゃん、絵も描いてたの⁈
上白石 もともと大学3年のときに知り合ったんだよね。共通の知り合いが多くて、こんなにご縁が続くとは。そもそも花梨ちゃんはいつから写真を始めたの?
野口 始めたのは高校の時。中学の時に通っていた塾の先生に、高校でどんな部活がいいか相談したら、写真部が全国大会に出られるような高校で、すばらしい顧問の先生がいるからどう?って。その頃、絵も描いていたから途中で美術部にも入って。
上白石 じゃあ、今日の撮影場所は花梨ちゃんにピッタリだね。絵はどんな絵を描いていたの?
野口 パステル画。今はなかなか描く時間がないけど。
上白石 その時から色味とかツールを介して見てみたいというのがあったの?
野口 絵と写真を両方やっていたから、その二つを合体させたものを作りたいなって。これは高校三年のときの絵。自分で撮ったポートレートと海辺の写真を重ねて写真を撮って、それを見て絵に。色味とかはフィーリング。写真で出ない色味にしたいと思ってた。
野口さんが高校時代に描いたパステル画
お互い24歳。これから先を真剣に考える時
上白石 絵の道に進むことも選択肢にあったと思うけど、写真を選んだのはどうして?
野口 高校の写真部は指導者が熱心な先生で、コンテストに応募して賞もとれるようになって、そういうのが自信になったのかな。どちらかというと絵を描くほうが自由があって好きだったんだけど、写真を撮ることに自信がついちゃったのかも。
上白石 絵は自分のパーソナルと向き合って、白いキャンバスから始める。写真の方がもともとあるものから自分が見せたいものを切り取っていくよね。その頃はどんな写真を撮ってたの?
野口 高校の時は職人さんを撮るのが好きで、大阪欄間っていう伝統工芸品を作っている方や包丁を作る方とか。自分でアポをとって。足を運んで写真に収めるのが楽しくて、写真を通じて出会いがあるから。
上白石 何かを表現したいという気持ちが10代の時からあって、それが写真の方に爆発。個展を開いたのが2年半前。あの頃からずっと写真を撮っていくって決めていたんだね。私も役者やっているけど、表現する人って自分が名乗ったら、もうそこからはじまっていく。俳優も写真家もそうだよね、ボーダーがない。教師のように資格を取るということではなく。自分の覚悟が必要だよね。何歳ぐらいからこういう気持ちがあった?
野口 写真家には高校三年からなりたいって思っていたかな。一般的に私立の美術系はお金もかかるでしょ。日芸に進学するときに、生半可な気持ちで通っちゃいけないって思っていた。
上白石 結構早い段階だよね。
野口 日芸に入ってからの人との出会いは大きかったな。写真学科にはいろんな教授がいて、教授というより先生という感じなの。
上白石 身構える感じではないということね。
野口 4年生のゼミの時は、先生と呼ばずに苗字で○○さんと呼んでいて。その距離感がいい感じだったんだよね。
上白石 昔、日芸の学園祭に行ったけど、とても雰囲気が良かった。ここからいろんなクリエーターが育つのがわかったし、自由度も高かった。
私たちはもう大学も卒業して社会人になったよね。私は卒業したタイミングで、より自分を律していかなきゃ!と覚悟したのを覚えてる。10代の時から学業と両立して仕事してきたけど、自分を守ってくれる鎖みたいなものがなくなると、こんなに自由なんだって。表現はどこまでも突き詰められるでしょ。年齢や学生からの解放によって変えられるのかなって。
野口 そうだね。私もいろいろ考えるようになった。今、24歳。きちんとこの先のことを考えなきゃいけない時期。写真だけじゃなく、自分の未来をね。
上白石 そう。ちがうフェーズに入ったなっていう感じがして、焦る。
野口 萌歌ちゃんにも焦りってあるの?
上白石 ある!人と比べて、いいなぁと思うことたくさんあるし。まわりの同年代の人は人生の駒を着実に進めていくから。私はやっと自分の意志で歩き始める時期だけど。
野口 自分の意志で物事を一つ一つ決定してくことが大事だなって思う。
リセットするための北海道での生活
上白石 学生の頃から撮るモチーフとか対象になるものは変わった?
野口 もともと「あたたかい身体」で撮っていた場所には大学を卒業してからも継続して行ってるよ。あそこは北海道で少し遠いんだけど。
上白石 北海道は写真集を作るという段階から撮影場所に決めていたの?
野口 写真集は自分のなかで大切な場所ができたと思ってから作ったの。大学1年の冬休みの時に行きはじめた場所。人間関係とか悩んでいた時に、今の感情をすべて投げ捨てて、自分のことを誰も知らない場所に行ってみようと。そこで新たに生活をスタートさせたら、どんな楽しいことが待っているかなって。新しい出会いを自分から求めていった。
上白石 それは何週間か行ってたの?
野口 1か月。
上白石 花梨ちゃん、意外とパンクなところがあるんだよね。(笑)
野口 一人で初対面の人のもとで生活始めちゃって。
上白石 あの写真集もドキュメンタリーっていうか、そこに根付いている人たちの息づかいが感じる写真。すごいライブ感があって。破裂している野菜の写真を見て、人の生死を感じたりした。
仕事で迷いはある?
野口 仕事だと被写体を決めて撮ることが重要視されていて、それはそれで楽しいけれど、パーソナルワークだと、自分がいいと思った瞬間しかシャッターを切らない。どっちも大切にはしたい。今は経験値が浅いから、そこはもっと頑張らなきゃいけないところ。
上白石 写真家って、その場の空気を指揮者が指揮棒を振るみたいに操る人だなって思っていて。撮られる側としてはそこに身を置くけど、その場所の空気を動かすのは写真家の人だから、大変な仕事だなって思う。
野口 写ってくれる人がいてこそ成り立つことだなあとよく思うよ。
上白石 撮っていて迷うことはある?
野口 ここで迷わないと言えたらかっこいいんだけど。迷うことはある。求められていることと自分の色がいい感じに融合出来るのが理想。迷っていたら、相手に伝わっちゃうからね。
上白石 それは私も思う。お芝居やっていて、これは私の迷いを感じさせちゃったかなっていうのはある。写真は心が写るでしょ。初対面で急に撮りはじめるのは、すごい緊張感があるよね。言葉を交わさなくても、この人とは通じ合えるという空気っていうのはある。写真も一期一会だね。
表現するために、たくさんの人と出会いたい
野口 私は萌歌ちゃんと初めて会った時から不思議と自然に接することができた。
上白石 私も長く続くご縁になるかなって思った。
野口 好きな音楽とか、結構共通点もあったね。私から見ると萌歌ちゃんは、好きなものをとことん突き詰めるすごさと、視野の広さを持ちそなえている人。その貪欲さがすごく好き。
上白石 知らないことだらけだから、なるべく足を運んで会って話をしたいなって思う。私たちは表現するうえで、なんでもエネルギーになるからね。なるべくいろんな人と会話をしたい。
野口 全然意見の違う人もいるよね。そういう時はどうする?
上白石 いつか自分に生かせるだろうと思って、その人の癖を受け入れてみる。
野口 わかる!私もそうしたらすごく楽になった。
上白石 でもどうしても仕事する上で合わなくて、理不尽なことをされたなっていう人は、私なりのライフハックがあって、ものすごく派手なサンバみたいなものを頭の中で踊らせてみるの。(笑)そうすると、まぁいいかって思えてくる。
息抜きってどうしてる?
上白石 今20代だけど、20代で種を蒔いたことが30代で花開くといいなと思って、いろいろやることがたくさんあって。
野口 プライベートで絵を描いたり手芸したりとか、息抜きみたいなことはやってる?
上白石 最近文章を書く仕事を始めたんだけど、自分の思っていることをかたちにするのは、仕事ではあるけど自分を保っているような気がする。あと友達と会うとか。
野口 友達と会うのは結構息抜きになるね。
上白石 人との会話のなかではっとすることもたくさんあるし。写真も、この空、あのときあの人が言ってた言葉っぽいとか。紺さんの言葉ってそういう感じだったね。
野口 私は友達と会うときは、あんまり深いことを考えずに会話してる。他愛もないことでずっと笑っていたり。
上白石 でもそういう時間は大事。ものを作るって基本的に一人だから、自分との対話で疲れるでしょ。ちゃんと違う人と対話するのがいいなって最近思う。そうじゃなきゃ自分と仲良くなれないなって。
野口 自分と仲良くするっていい言葉だね。萌歌ちゃんのワードセンスって素晴らしいよね。私の場合、マジとか、めっちゃとか、ヤバイとかばっかりなのに、萌歌ちゃんの発する言葉は、生活を感じつつも美しい。
手は、その人の人生。だから撮りたい
上白石 花梨ちゃんに撮られていると、へんな強張りがなくて、ちゃんと呼吸しながら撮ってもらえる。その感じ結構難しくって。カメラって武器っぽいよね。ショットガンみたいに見える時もあるんだけど、花梨ちゃんは圧を感じさせない空気を持っている。
野口 そう言ってもらえるのがいちばん嬉しい!
上白石 今後撮りたいものってある?
野口 ん・・・。人の手!
上白石 手って、その人の生き方が出るよね。
野口 私の手はぽっちゃりしているけど、ちょっとだけ好き。しわになるのがいやだと思っていたけど、歳を重ねるのもいいなって最近思う。
上白石 若い人の表情も年老いた人の表情もその瞬間だけのものだから、そういう刹那的なものを花梨ちゃんの写真を通して見たいな。
野口 萌歌ちゃんの写真も素晴らしいよ。私にはあの切り取り方はできないな。羨ましい。
上白石 難しく考えていないからだと思う。例えばミュージシャンの方がお芝居するときって、とても面白い化学反応が生まれてすごく素敵なの。人の心を動かすのは技術だけじゃないんだなって。何も考えずに飛び込んだほうが、面白いことが出来たりする。そういう感じかも。花梨ちゃんみたいに、いろんなことを知って撮っているのとはきっと全然違うんだろうな。いつもいい刺激をもらってます!違う畑ではあるけれど、同世代のわたしたち、これからも共に楽しく頑張ろうね!
――撮影を終えて――
photographs : Josui Yasuda (B.P.B.)
hair & makeup : Tomomi Shibusawa(beauty direction)
styling: hao
上白石萌歌着用
ワンピース¥38,500 オープン セサミ クラブ/ Tシャツ¥5,720 グッドロックスピード × レイ ビームス、イヤカフ ¥3,960 レイ ビームス(共に ビームス公式オンラインショップ)/デニム¥27,500 ホリデイ(ホリデイ/フラッグシップサロン オフィス)
【SHOPLIST】
ヴァレンタイン
https://valentinetokyo.com
オープン セサミ クラブ
https://www.open-sesame-club.com
コウタグシケン
info@kotagushiken.com
ハルミ ショールーム
TEL 03-6433-5395
ビームス公式オンラインショップ
www.beams.co.jp
ホリデイ/フラッグシップサロン オフィス
TEL 03-6805-1273
Kamishiraishi Moka
2000年2月28日生まれ。鹿児島県出身。2011年第7回「東宝シンデレラ」オーディショングランプリ受賞し、デビュー。2019年、映画『羊と鋼の森』で第42回 日本アカデミー賞 新人俳優賞を受賞。25年1月10日公開予定の映画『366日』に出演決定。数多くのドラマ、映画に出演する傍ら、「The Covers」(NHKBSプレミアム)のMCも務める。adieu名義で音楽活動も行い、2024年7月、約2年ぶりとなる新曲「背中」を配信リリース。8月「SUMMER SONIC 2024」に出演。12月22日には約1年半ぶりにワンマンライブを行う。
Karin Noguchi
1999年11月15日生まれ。大阪府出身。2022年3月、日本大学芸術学部写真学科を卒業。2022年3月 個展「あたたかい身体」をギャラリー千年にて開催。2022年11月 「Dialogue with photography #2 above a nature」神保町テラススクエアでのグループ展に参加。2023年「私が撮りたかった女優展 in PARCO 2019~2023」の浦和PARCOでの展示に参加。2024年1月 上白石萌歌の写真展「かぜとわたしはうつろう」に参加。
WEB:https://milkironohosoimichi.tumblr.com
Instagram:@nk_photo
【上白石萌歌のぐるぐるまわる、ときめきめぐり】
Vol. 1 デザイナー 藤澤ゆき
Vol. 2 ブックデザイナー 名久井直子
Vol. 3 アーティスト 長坂真護
vol. 4 ミュージシャン 奇妙礼太郎
vol. 5 アーティスト 長坂真護 パート2
vol. 6 デザイナー 小髙真理
vol. 7 写真家 石田真澄
vol. 8 歌人 木下龍也
Vol. 9 コラージュ アーティスト M!DOR!
Vol.10 デザイナー 田中文江
Vol.11 ミュージシャン 吉澤嘉代子
Vol.12 デザイナー 竹内美彩
Vol.13 デザイナー フィリス・チャン&スージー・チュン
Vol.14 写真家 松岡一哲
Vol.15 菓子研究家 福田里香
Vol.16 歌人 伊藤 紺
Vol.17 デザイナー 熊切秀典
Vol.18 俳優 長濱ねる
Vol.19 音楽プロデューサー Yaffle