自分も気持ちよく、聞く人にはハッピーになってほしい。
──通常はバンド編成でのライブが主体ということですが、ギターを弾き語るネクターと鍵盤奏者からなるデュオでの登場となった今回の日本でのライブについて、どのような意図がありましたか?
「初めての東京でのライブだったので、自分を知ってもらいたいという思いがありました。余計なものをそぎ落として核の部分を見せ、曲を聴いてもらうというシンプルな形が良いと思いました。これはロンドンで音楽活動を始めた頃のスタイルでもあります」
──そのライブ中に「私をここに連れてきてくれた曲」と紹介されていた「Good Vibration」という曲に反映されているネクターさんのマインドセットは何ですか?
「とにかく気持ちよくなってほしいという思いがあります。自分も気持ちよくなりたいし、聴いている人にも気持ちよくなってもらいたい。みんなそれぞれ肩に重圧を抱えていると思うので、それが消えるような感じになってほしいと思っています。ハッピーな気持ちで帰ってほしいです」
──「Good Vibration」に象徴されるネクターさんのヘルシーさやポジティブなエネルギーはどこから来ているんでしょうか?
「ライブと同じで、会う人に良い気持ちになってもらいたいと思っています。ライブはお客さんとの会話だと考えていますし、インタビューのような仕事でも、お互いに気持ちよくなりたいし、相手のことも知りたいという気持ちからかもしれません」
──歌詞を書く上で大切にしていることは何ですか?
「誠実に曲作りをしたいという気持ちがあります。ソングライティングは自分にとって無料のセラピーのようなものです。より内面的でダークな歌詞に集中する時は、スタジオの雰囲気にも左右されますが、安心して自分の一面を発散できる時に生まれます。ネガティブな感情を分析して外に発散させることが好きです」



多様なカルチャーが私と私の音楽にも流れている。
──イギリスとガーナにルーツがあるネクターさんにとって、イギリス人としてのアイデンティティやイギリス人らしさはどこにあると思いますか?
「ロンドンには様々な文化的背景を持つ人々がいて、それぞれが家では別の文化を持ちながら、外ではイギリスの文化の中で暮らしています。自分の母はイギリス人ですが、家庭ではガーナの影響が強く、食べ物や音楽などに表れていますし、ジャマイカ出身の友人など、異なるバックグラウンドを持つ人々が集まり、ハイブリッドな文化を築いています。それがロンドンの特徴だと思いますし、自分の音楽にも反映されています」
──今年2月にもう一つの母国であるガーナを初めて訪問したということですが、どのようなインスピレーションを得ましたか?
「最新EP『it’s like I never left』のオープニングナンバー「Only Happen」は、ガーナに対する自分の気持ちから生まれました。イギリスでハーフであることは、私にとってそのどちらにも完全に属していないという感覚があるんですが。ガーナに行くことで、自分には二つの国があるという認識を得たかったのです。父は30年住んでいたので降り立った瞬間から故郷と感じていたようですが、私にとっては初めての経験でした」
──ガーナの音楽はネクターさんにとってどのような意味がありますか?また、新しいEPでガーナのコレクティブ、スーパージャズクラブとのコラボレーションからどのような感触を得ましたか?
「スーパージャズクラブとの曲作りのアプローチは今までの経験と全く異なりました。私は通常ギター一本で曲作りを始めるのに対して、彼らはビートやドラムの音を先に決めてから曲を作るんです。そして、彼らは私がオールドスクールのハイライフを好むことを笑っていました。今の若者は新世代のハイライフや世界的に注目されているアフロビーツを好むので、若い世代にとってオールドスクールなハイライフは時代遅れに感じられるようです(笑)。私は新しいものも古いものもどちらも好きですが、ガーナの音楽は自由に、あまり規則にとらわれずに作られている印象があります。感情に忠実で、悲しい曲でもビートが心地よいので結局気持ちよくなります。楽しい曲も気持ちよく、その気持ちよさが全面に出ているのがガーナ音楽の特徴だと思いますし、自分の中のガーナの部分は、好きな食べ物やファッションの鮮やかな色使い、物事へのアプローチの仕方などにも表れていると思います」


──ネクターさんのなかで音楽とファッションの関係性をどう捉えていますか?
「母がファッションの世界にいるので、ファッションも自己表現の一つだと思っています。母はステージ用やイベント用の衣装も作ってくれるので、着たいものを自由に着られることがとても嬉しいです。特にデニムを着るのが好き。母は古いデニムをリサイクルしているので、それも好きです」
──最後にネクターさんはこの先どんなアーティストになりたいですか?
「音楽は生涯続けていきたいと思っています。皆さんが楽しめ、自分も楽しめる音楽を作り続けられる人は幸運だと思います。今後はハッピーか悲しいかだけでなく、より深みのある内容や遊び心のある歌詞も作っていきたいです。目標は、その時に自分が感じていることに忠実に曲作りをすることです」

ネクター・ウッド
1999年生まれ、イングランド・ミルトンキーンズ出身。現在はロンドンを拠点のシンガーソングライター。ガーナ人の父とイギリス人の母を持ち、幼少期から音楽とアートに囲まれて育つ。ロンドンの音楽学校に進学し、在学中からオープンマイクや即興セッション、バンド活動を通じて活動をスタート。2022年、Mom Tudieとの共作「Fear Leads Us On」で注目を集め、同年にソロデビューシングル「For the Best」を自主リリース。‘23年に英国のインディレーベルCommunion Recordsと契約し、「Good Vibrations」「God Talks Back」などのシングルを発表。Spotifyでの累計再生回数は100万回を突破するなど注目の存在に。西アフリカの音楽のリズムや感情表現などにもインスピレーションを得て、独自のスタイルを確立。’25年7月にリリースしたEP『it’s like I never left』では二重のルーツや家族愛を祝福したあたたかな作品になっている。
公式サイト:https://www.nectarwoo.de/
Link Tree:https://linktr.ee/nectarwoode
Instagram:@nectarwoode
X:@nectarwoode
TikTok:@nectarwoode

Nectar Woode
EP『it’s like I never left|イッツ・ライク・アイ・ネヴァー・レフト』
デジタル配信 Sony Music Labels
イギリス出身でガーナにルーツを持つ新世代ソウル・アーティストが自身のルーツ、アイデンティティ、自己愛をテーマにしたサードEP。ジョーダン・ラカイとの共作曲「Only Happen、ガーナのスーパージャズクラブとコラボレーションを行った「LOSE」、実父が吹くサックスをフィーチャーした「Ama Said」など、ルーツと向き合うことでソウルフルでエモーショナルな楽曲に生まれた説得力にアーティストとしての大きな成長が感じられる。
Streaming&Download: https://nectarwoodejp.lnk.to/ItsLikeINeverLeft
Nectar Woode – When The Rain Stops(Official Video)
Nectar Woode – LOSE(Official Video)
Nectar Woode – Only Happen(Official Video)
【CHATTING MUSIC】
Vol. 1 さとうもか
Vol. 2 Maika Loubté
Vol. 3 水曜日のカンパネラ
vol. 4 ELAIZA
vol. 5 長屋晴子(緑黄色社会)
vol. 6 塩塚モエカ(羊文学)
vol. 7 beabadoobee(ビーバドゥービー)
vol. 8 DYGL(デイグロー)
Vol. 9 カメレオン・ライム・ウーピーパイ
Vol.10 奇妙礼太郎
Vol.11 キタニタツヤ
Vol.12 吉澤嘉代子
Vol.13 ミイナオカベ
Vol.14 WEDNESDAY
Vol.15 imase
Vol.16 Kroi
Vol.17 北山宏光
Vol.18 アイナ・ジ・エンド
Vol.19 Ayumu Imazu
Vol.20 The Last Dinner Party
Vol.21 HANA
Vol.22 Mei Semones(メイ・シモネス)
Vol.23 KUROMI
特別編 シンガーソングライター 澤田 空海理×映画監督 枝優花