
米国ミシガン州アナーバー出身で、日本人の母を持つシンガーソングライター、Mei Semones(芽依シモネス)。
2025年のFUJI ROCK FESTIVALにて、初出演のレッドマーキーステージに5000人の聴衆を集めた彼女が、英語、日本語を併用した歌詞とジャズとボサノヴァにインスパイアされたインディJ-POPサウンドに彩られた初のフルアルバム『ANIMARU』について語ってくれた。
photographs: Jun Tsuchiya(B.P.B.) / interview & text: Yu Onoda
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多言語で奏でる“自分の音楽”
──芽依さんはご自身の音楽を“ジャズとボサノヴァにインスパイアされたインディJ-POP”と評されていますが、アメリカで生まれ育つなかでJ-POPを聴き親しんできたんでしょうか?
(日本人である)母が紅白歌合戦やミュージックステーションをよく見ていたので、小さい頃は時々J-POPを聞いたりはしていたんですけど、私の音楽がいわゆるJ-POPに似ているかというとそう思っていなくて。ただ、アメリカだとJ-POPと呼べば、日本語の歌詞が入っている音楽だと分かってくれるから
──出身大学がジャズの名門として知られるボストンのバークリーということですが、それ以前から曲作りやバンド活動をやられていたのですか?
4歳からクラシカルピアノのレッスンを取っていて、11歳でギターにスイッチして、ロックっぽい音楽を弾くようになったり、ロックバンドに入ったりして。高校の時もロックバンドで活動しつつ、ジャズのプログラムでジャズギターを勉強するようになりました
──ボサノバとの出会いはいつ頃ですか?
ボサノバもジャズと同じ時期、高校のジャズプログラムでジョアン・ジルベルトやアントニオ・カルロス・ジョビンなどのボサノバのスタンダードを弾き始めて、すごく気に入りました。ポルトガル語も綺麗な言語で歌ってみたいと思い、それが自分の音楽にも入ってきました


自分が気持ちいいと感じるような音と言葉で
──曲を作るときはどのようにしていますか?スコアを作成して組み立てるのか、それとももっと自然に作っていくのか?
私は全然スコアとか作っていなくて、全部携帯でボイスメモをするだけで、それをバンドに送って、みんなで一緒に演奏する感じです。かなり自然な感じで出てきていると思います。曲のストラクチャーを考えすぎると自然さがなくなってしまうと思うので、自分が気持ちいいと感じるようにやっています
──では、ジャズの影響はどのような形で曲に表れているんでしょう?
例えば、アルバム1曲目「Dumb Feeling」はギターリックで始まるんですけど、そのリックはジャズサックス奏者のチャーリー・パーカーのフレーズとジャズスタンダードの「Polka Dots And Moonbeams」のメロディを一緒にして作ったもの。それから「ザリガニ」はサックス奏者のジョン・コルトレーンのソロから移し換えたフレーズを長く引き延ばして作ったもの。「Norwegian Shag」もジャズスタンダードのコードを三つ使って、それを拡張して作った曲だったりします
──自然と生まれる多様な要素をセッション的にまとめあげるとポストロック的な楽曲になるというわけですね。では、アメリカを拠点に活動しながら、歌詞で英語と日本語を併用するという選択をしたのはどういう理由だったんですか?
私は生まれたときから日本語と英語の両方を話しているので、自分の音楽にも両方を使った方が自分らしいと思ったからです。英語だけだとちょっと違うし、日本語だけでもちょっと違うので、両方使った方が自然な感じがします
──例えば、「カブトムシ」では、日本に滞在した過去の記憶が歌い綴られていますが、そこで出てくる“ごまあえ”や“おはぎ”は英語に置き換えられないというか、日本語でしか伝わらないニュアンスは確かにあるなと思いました。
子供の頃、1年に1回くらい日本に来て、おばあちゃんの家に行って、日本の友達と遊んだり、日本の学校に行ってたりしたんですけど、例えば、アメリカには“おはぎ”や“上履き”はないし、日本語じゃなきゃ書けないことが結構あるなって。あと、歌詞に関して、私は日本語でも英語でもストレートに歌詞を書くようにしていて。英語はもっと難しく書こうと思ったらできるんですけど、難しく書くのが好きじゃなくて、私の歌詞は全部ストレートだし、シンプルだなと思います
──メロディや演奏に対して、日本語と英語を乗せるときのノリの違いについてはどう感じていますか?
私はアメリカで育ったので日本語が完璧ではなく、もし日本語がもっと上手だったらメロディと言葉の合わせ方をもっと気にすると思いますが、日本語が完璧ではないからあまり気にしていません。何となくハマればそれでいいという感じで、あまり意識していないというか、それが逆に面白いのかもしれないですね
──アメリカのリスナーは日本語も英語も共存している芽衣さんの音楽をどのように受け止めているんでしょうか?
私は両方の言語がわかるので、日本語がわからない人がどう聞こえているかはよくわかりませんが、音楽が一番大事なので言葉の意味がわからなくても気持ちは伝わっていると思います。言葉の意味がわからなくても聞いていて楽しいとか嬉しいという気持ちがあるのではないかと思います


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自分が好きな音楽を作り続けたい
──自分の音楽を作るときの信条や哲学はありますか?
あまり深く考えていません。本当にシンプルに自分が好きな曲を作りたいだけで、楽しければそれでいい、自分が弾いて楽しければそれでOKという考えです。“Be honest with yourself”というのかな、自分と向き合って、正直でいることが一番大事で、そうすれば、みんな分かってくれるんじゃないかなって
──芽衣さんはどんな人ですか?
ライブではいろんなファンと話したりしますが、プライベートでは一人でいることが多いです。家でギター練習をしたり、作曲したり、YouTubeを見たり。音楽以外の趣味としては、時々漫画を読んだり村上春樹の本を読んだりしています。ニューヨークでは普通はいろんなクラブや賑やかな場所に行く人が多いと思いますが、私はずっと家にいる感じの人です。でも、例えば、ニューヨークに住んでいて、楽しいことを考えながら書いた「Dumb Feeling」は電車が出てきたりもするし、「Rat With Wings」はニューヨークに住んでいると頻繁に遭遇するネズミが出てきたりとか(笑)、目の前の日常を曲にしていますね
──アートワークの羽が映えたネズミのイラストはデザイナーであるお母様が手掛けたものなんですよね?
母がアートを作ってくれると私の個性がちゃんと出てくる感じがします。ビジュアルからの影響はあまり受けていないと思いますが(笑)、母は私のことをよく知っているし、それが作品に表れていると思っています
──最後の質問です。2026年1月には全国6都市を回るツアーが控えていますが、今後どのような音楽を作っていきたいですか?
自分が好きな音楽を作り続けたいです。ジャンルのことはあまり考えないようにして、本当に自分が好きな音楽を作れば面白い音楽ができると思います。でもスタイルはきっとだんだん変わっていくんじゃないかな。これからもたくさん練習して、いろんなソロやスタンダードを勉強したいので、それによって、影響を受けて変わっていくと思います




芽生シモネス
米国ミシガン州アナーバー出身。日本人の母を持ち、4歳でピアノを始め、11歳でエレクトリック・ギターに転向。バークリー音楽大学でジャズを中心にギター演奏を学んだ。数枚のシングルとEPをリリースし、2022年にニューヨークへ拠点を移す。‘24年春にリリースしたEP『Kabutomushi』で、Rolling Stoneの「Artist You Need to Know」やPasteの「Best of What’s Next」に選ばれる。今年5月には初のフルアルバム『Animaru』をリリースし、この夏には苗場FUJI ROCK FESTIVAL’25に出演し話題に。来たる、’26年1月に大阪、名古屋、東京でのライブも決定した。これからが楽しみなシンガーソングライターの一人。
2026年1月には全国6都市を巡る『JAPAN TOUR 2026』を開催予定で、2月1日の東京での追加公演(9月13日に一般発売開始)も決定!さらにMEN I TRUSTのサポートとして彼らと共に大阪、名古屋、東京を巡るツアー「EQUUS JAPAN TOUR」も開催する。
公式サイト:https://www.meisemones.com/
ジャパン・オフィシャル・サイト:https://bignothing.net/meisemones.html
Instgaram @mei_semones
TikTok @meisemones
YouTube @meisemones

Mei Semones
『ANIMARU』
CD ¥2,750 BIG NOTHING / ULTRA VIBE
「後先考えず、また考えすぎないこと。私が望む生き方は、自分にとって大切なことをすること。そして、誰もがそう生きるべきだと思う」と語るメイシモネスが、自身の直感に深い信頼を寄せてつくりあげた作品。これまで以上に冒険的で、傷つきやすく、自信に満ちたサウンドが詰まっている。芽衣と5人編成のバンドメンバーとで、2024年の夏にネチカット州の農場にあるスタジオでレコーディングしたという、彼女らしい“自然体”から生まれた10曲を収録。
Mei Semones – Animaru(Official Video)
Mei Semones – Zarigani(Official Video)
Mei Semones – I can do what I want(Official Video)
Mei Semones – Dumb Feeling(Official Video)
【CHATTING MUSIC】
Vol. 1 さとうもか
Vol. 2 Maika Loubté
Vol. 3 水曜日のカンパネラ
vol. 4 ELAIZA
vol. 5 長屋晴子(緑黄色社会)
vol. 6 塩塚モエカ(羊文学)
vol. 7 beabadoobee(ビーバドゥービー)
vol. 8 DYGL(デイグロー)
Vol. 9 カメレオン・ライム・ウーピーパイ
Vol.10 奇妙礼太郎
Vol.11 キタニタツヤ
Vol.12 吉澤嘉代子
Vol.13 ミイナオカベ
Vol.14 WEDNESDAY
Vol.15 imase
Vol.16 Kroi
Vol.17 北山宏光
Vol.18 アイナ・ジ・エンド
Vol.19 Ayumu Imazu
Vol.20 The Last Dinner Party
Vol.21 HANA
特別編 シンガーソングライター 澤田 空海理×映画監督 枝優花