奥平大兼 × 宮原秀晃対談
服に熱中するのは、夢みたいな時間
ゼロから服を作ることはずっと憧れでした。奥平
宮原 今日は僕のスパルタによく耐えましたね!
奥平 いえいえ(笑)! すごく優しく教えていただきました! 僕は中学1年生の頃にファッションショーを見て服を好きになり、「こんな服が欲しいけど買えないな」というところから、似たものを作るためにリメイクをするようになったんです。そうして既存のものに足したり引いたりするうちに、やっぱりゼロから作りたくなってきて。それで中学・高校の頃には服飾の学校に行こうと決めていたのですが、途中で俳優のお仕事に出会い、両立して通える状況ではなかったので独学でやってみよう、と。実は、ジャケットの構造が知りたくて自分で解体したこともあるのですが、やっぱり分からなかったんです……。だからゼロから服を作ることはずっと憧れでした。まだでき上がったわけでもないですが、そのプロセスの第1段階をこうして教えていただけて、今日は夢みたいです。忘れられない日になりました。嬉しかったです。
宮原 自分でパターンを引いて服を作るのは嬉しいよね。今日は基準線から引いたから、何が始まるんだろうって感じなかった?
奥平 びっくりしました! それがだんだんジャケットの形になっていくから感動しました。
仕事をする線は美しい。宮原
宮原 今日引いた線は、全部に理由があるんです。肩線が後ろにあるのは、バイアス方向に"いせ"がたくさん入って動きやすくなるから、とかね。そういう「仕事をする線」は美しいんです。そして、テーラーは型紙を使わない直裁ちが原則なので、僕がフリーハンドでパターンの線を引くのもその流れ。曲線定規は便利でいいかもしれないけど、そうしたら定規どおりの線しか引けないでしょ? パタンナーは、「自分の線」で、肩も脇も表現できなきゃいけないと思っています。だから同じ絵型を10人のパタンナーが起こしたとしても、一つとして同じものはできない。しかも、それには点数もつかないし、正解も不正解もないんです。それって役者の仕事にも通じるんじゃないかな?
奥平 その人の感覚っていうことですよね。確かに芝居にもその人にしか出せないバランスがありますし、僕にもそれはあるかなと思います。僕も自分一人でこのパターンを引けるようになりたいなぁ。おすすめの勉強法はありますか?
宮原 僕のベースにあるのはイギリスのエドワーディアン時代のテーラリングで、そのよさを生かして、サイ流のパターンに仕上げることを目指しています。だから、すごくたくさん古着を見ています。それで、かっこいいと思った服があれば、測ったり仕様を見たりして研究する。分解は、僕は安易な近道のような気がしてやらないんです。中はのぞくけど、ほどかない。こんなに肩がきれいなのはなぜだろう、腕が動かしやすいけど袖はどうなってるんだろう、と探究心と研究心を持って古い良いものをどんどん見ることが成長につながると思うよ。服の地の目を追っていって構造を探るのもおすすめです。そうして形を見たり、服を測ったりするうちに、全体のバランスがつかめるようになってきます。
それにしても、初めてゼロから服を作るなら本当はシャツからです(笑)。あえてジャケットからいくっていうのはすごい。ジャケットは、ここからくせ取りがあったり、工程数も多いし大変だよ。
奥平 ドキドキしますね……。この後の工程も頑張りたいです!
NEXT …
vol.2は裁断&縫製編。思いがけない細かな工程の連続に、制作時間は8時間にも及び……。ジャケットマスターへの、次なる旅路もお楽しみに!
Daiken Okudaira
2003年生まれ、東京都出身。演技未経験ながら初めて臨んだオーディションでメインキャストに抜擢され、映画『MOTHER マザー』(’20年)で俳優デビュー。同作で第44回日本アカデミー賞新人俳優賞ほか数々の新人賞を受賞。映画出演作に『マイスモールランド』『ヴィレッジ』『君は放課後インソムニア』など。’23年9月まで放送されていたテレビドラマ「最高の教師 1年後、私は生徒に■された」での星崎透役も大きな話題となった。今年、第15回TAMA映画賞最優秀新進男優賞を受賞。Disney+の完全オリジナル大作「ワンダーハッチ -空飛ぶ竜の島-」(12月20日配信開始)でW主演、映画『PLAY! 〜勝つとか負けるとかは、どーでもよくて〜』(’24年春公開予定)でW主演を務めるなど、今、最も活躍が期待されている俳優。
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