嘘じゃない場所にいる実感がある。杉咲 花
――今回のモノクロ表現は、最初からコンセプトに含まれていたのでしょうか。
三宅:そうですね。この物語をモノクロで撮ってみたいと思えたし、撮休シリーズでやっていないことって何だろう?と考えた結果でもあります。放送可能かWOWOW側に確認したら全然問題ないとのことでした。それはやっぱり難しい場合もあるので、懐の深さを感じましたね。あと、モノクロに挑戦したことで、衣装選びがすごく楽しかったです。写真を撮って白黒に変換しながら、見え方を探っていきました。その中で特に気に入っているのが、マフラー。モノクロに非常に映えるものだったと思います。
杉咲:素敵でした。
第6話「五年前の話」より
――シックでフォーマルな衣装も印象的でした。
三宅:30歳になった未来の杉咲さんが登場するため、衣装で色々と模索しました。ドラマの中の30歳の杉咲さん、めっちゃカッコいいですよね?杉咲さんには貫録や成熟した部分があると僕は思っているので、世間に浸透しているかもしれないキュートな一面とはまた違うところを見てみたいと思っていました。新しい俳優の一面が見られるのも、このシリーズの魅力ですから。
あとは、インタビューシーンの撮影も楽しかったです。「俳優のインタビュー場面」だけで1本撮れちゃうなと思いました。インタビューって面白いんですよね。一つとして同じインタビューはなくて、面白い時間も、正直、そうじゃない時間もあって。30分や1時間という持ち時間が終わるとその場にいた人達がパッと離れてしまうのもいい。そういう、インタビューという面白い時間が撮れたらなと考えていました。取材場所に元カレがカメラマンとしているシーン、毎回爆笑しちゃうんだよね。どういう顔してそこにいたの?って(笑)。
杉咲:そのあと写真を撮りますしね(笑)。
三宅:そうそう。インタビューの間、どんな気持ちだったのか想像すると毎回笑ってしまう(笑)。
杉咲:三宅さんの台本には、すべての登場人物の「人物設定」が書かれていたことも印象的でした。そのシーンに登場するライター役の方にも、「ライター1」「ライター2」という役割を記したものではなく、役名とその人の背景が書かれていて愛情を感じました。
石上 有一郎(ライター)
フリーランスのライター。日芸の文芸学科出身で何度も文学賞に応募したが、箸にも棒にも引っかからなかった。几帳面な性格で、花の取材のために映画の台詞まで書き起こした。既婚者。小学二年生の娘がいる。
上は、三宅さんの台本に書かれていた「人物設定」。
この前、偶然にも以前三宅組に参加された方とご飯に行ったのですが、「カメラに映らない部分にまでセットの作り込みがあった」という話を聞いて。例えば小道具の引き出しの中がほとんど映らなければ、そこには何も書いていないコピー用紙などがざっくりと入っている場合もあるのですが、三宅組ではそうではなくて、入っていた紙には、役や場面に通じる内容が書かれていた――という話を聞いて、私が三宅組で、物語と現実の境界線を限りなく透明に感じたのはそういうことだったのではないかなと感じました。そういった説得力から、嘘じゃない場所にいる実感があるというか。そんな現場に携わらせていただけて幸せでした。
第5話「従姉妹」より
――部屋で過ごすシーンでも、動線が非常に滑らかでした。生活感があるというか。
杉咲:確かに、どこへでも行きたくなるような空間でした。宅急便が届いたときに箱を開けてみるシーンでは、その作業をするのにちょうどいい場所が色々なところにありました。身体が自然と反応する空間ができあがっていました。
――撮影としては「どこに動いてもいいよ」という形式だったのでしょうか。
三宅:基本はそうですね。荷物を受け取るシーンでも、こちらが決めずともきっと身体で判断されるだろうなと思っていました。まぁ、きっとそこに座るだろうなとは思ってたけどね!(笑)
杉咲:見抜かれていた……(笑)。
三宅:映画やドラマって所詮嘘ですし、だからこそ面白いものです。でも作っている間、特に出ている人には、それが「もう一個の世界だ」とちゃんと信じてほしい。となると身体は嘘をつけないですから、やっぱり座り心地のいい場所に座らないとそうは思えないですよね。
その場所はあくまで杉咲さんが住んでいる家なので、僕が指示するよりも杉咲さんが自分の身体で素直に選んだところのほうが、きっと家で過ごすみたいにいられるはず。クラムチャウダーを食べているところも自然でしたし、テレビを観るときだって別に椅子に座らなくていいわけです。完成形が見えていて当てはめていくのではなく「どこに座るんだろう」と思って色々準備はしつつも委ねて、杉咲さんが心地いい場所を見つけたら「じゃあ撮ります」という感じでした。
――観ている側からすると様式美を感じる部分もあったからこそ、ある種ライブ的に作られていったと聞いて驚きです。
三宅:確かに、だいぶライブ感がありましたよね。「この監督、何も決めてないな」と思わなかった?
杉咲:全然!
三宅:良かった(笑)。初めてのスタッフも多かったけどみんな楽しんでやってくれたから僕も楽しかったです。
第5話「従姉妹」より
――松居監督、今泉監督はこの尺に収めるのに試行錯誤されたと話されていましたが、三宅監督はいかがでしたか?
三宅:僕はその苦労はなかったですね。もっと長くてももっと短くてもいけるような、不思議な作品でした。掃除のシーンや内見のシーンも素材自体は長いけど、切るぶんには悩まなかったかな。
杉咲:(恋人役の)坂東龍汰くんとのやり取りがありましたよね。
三宅:あっそうだ! あれはごっそり削ったな、ごめん。ケンカするという一番感情的なやり取りがあったのですが、落としちゃいました。
杉咲:どこが使われたのかなと思って本編を観たら「ない!」って、笑いました(笑)。
三宅:あのシーンを撮ったからこそ、その後のシーンで「何かあったな」と、見る人が思えるものが撮れたんじゃないかなと思っています。作品にならなくても、無駄には一切なっていないはずです。
杉咲:掃除のシーンで、掃除機を立てかけてコップを持って台所に行くとき、誰も映っていない瞬間がありましたよね。ああいった時間って、なかなか他のドラマでは見られないんじゃないかなと個人的に印象に残った場面だったのですが、それがあるからこそ、この後に何かが起こるのではないかという予感も生まれました。
――そうした“予兆”のつくり方は、杉咲さんが冒頭に話されていた「想像への信頼」でもありますね。
三宅:数多くのドラマがあるなか、「撮休」シリーズは「休みの日は何があってもいい」という自由な気構えで見られるものだと思っています。今回はそこに乗っかって、好き放題やらせて頂きました。“普通”の作品は他にたくさんありますし、このシリーズではきっと「ちょっと違う時間」に触れられるのが面白いはずだと信じています。
杉咲さん着用:(メインビジュアル)ジャケット¥44,000、パンツ¥25,000 CONTEMPO(YAECA HOME STORE) / サンダル¥52,800(FOOTWORKS)/ ソックス 私物
(インタビューカット)リネンバンドカラードレス ¥46,200 グラフペーパー(TEL:03-6418-9402) http://www.graphpaper-tokyo.com
Hana Sugisaki ● 主な出演作に、映画『湯を沸かすほどの熱い愛』、ドラマ「花のち晴れ~花男Next Season~」、NHK連続テレビ小説「おちょやん」でのヒロイン、竹井千代役など。2022年は、NHKドラマ「プリズム」や、劇場アニメ『ぼくらのよあけ』(声の出演)に出演。待機作に、映画『大名倒産』(6月23日公開予定)。『装苑』本誌では、写真とテキストによる「蜜の音」を連載中。
Sho Miyake ●1984年生れ、北海道出身。一橋大学社会学部卒業、映画美学校・フィクションコース初等科修了。主な監督作に『THE COCKPIT』(’14年)、『きみの鳥はうたえる』(’18年)、『ワイルドツアー』(’19年)、Netflixシリーズ『呪怨:呪いの家』(’20年)など。’12年の『Playback』では、ロカルノ国際映画祭コンペティション部門に正式出品され、第22回日本映画プロフェッショナル大賞新人監督賞を受賞。’22年公開の最新作『ケイコ 目を澄ませて』がロングラン公開中。同作は、「第77回毎日映画コンクール」で日本映画大賞、監督賞など5冠受賞、また「第36回高崎映画祭」では優秀作品賞と最優秀作主演俳優賞を受賞、「第96回キネマ旬報ベスト・テン」の日本映画作品賞をはじめとする4部門を受賞するなど、高く評価されている。
「杉咲花の撮休」
WEB : https://www.wowow.co.jp/drama/original/satsukyu4/
【関連記事】
『杉咲花の撮級』特集 vol.2 杉咲花×今泉力哉
『杉咲花の撮休』特集 vo.1 杉咲花 × 松居大悟
杉咲花さんインタビュー 『ぼくらのよあけ』の純真さとの共鳴