『杉咲花の撮休』特集 VOL.1 杉咲花 × 松居大悟 
過ぎゆく時間に抗う物語を作る、特別な時間の重なり

2023.02.10

WOWOWの人気企画「撮休」シリーズ。人気俳優が突然訪れた撮休=オフ日に何をする?という設定で、各クリエイターが、当て書き(役者を想定してキャラクターを書き下ろすこと)したパラレルワールド的な物語が展開する。

その第4弾となるのが、『杉咲花の撮休』。今泉力哉さん、松居大悟さん、三宅唱さんの3名の監督が自身の書き下ろし×脚本家とのコラボ作の2本を撮り上げ、計6本の物語が作られた。装苑オンラインでは、杉咲花さんと各話の監督の対談を全3回でお届けします!

第1弾は、杉咲さんと松居監督の対談。コインランドリーを訪れた杉咲さんが小銭を手に入れるために奮闘する第1話「丸いもの」、中国語の先生(ロン・モンロウ)との交流を描く第4話「リリー」(脚本:向井康介)の制作秘話を中心に、各々の表現論をひもといていく。

photographs : Jun Tsuchiya (B.P.B.) / styling : Miwako Tanaka / hair & make up : Mai Ozawa (mod’s hair)  / interview & text : SYO

連続ドラマW-30「杉咲花の撮休」
多忙な毎日を送る人気俳優、杉咲花さん。彼女はドラマや映画の撮影期間に突然訪れた休日、通称“撮休”をどのように過ごすのか?知られざる杉咲さんのオフの姿をクリエイターたちが妄想を膨らませて描き、杉咲さん自身が演じる。全6話の物語を、今泉力哉さん、松居大悟さん、三宅唱さんという現代日本映画を面白くする3名の監督が手がけた。

2023年2月10日(金)23時30分放送・配信スタート
放送:毎週金曜23時30分(第1話無料放送)WOWOWプライム
配信:各月の初回放送終了後、同月放送分を一挙配信(無料トライアル実施中)

出演:杉咲花
上白石萌歌、松浦祐也
若葉竜也、芹澤興人、中田青渚、岡部たかし、塚本晋也
泉澤祐希、菊池亜希子
ロン・モンロウ、光石研
坂東龍汰、芋生悠、足立智充 / 橋本愛
松尾諭 ※話数順
監督:松居大悟、今泉力哉、三宅唱
脚本:松居大悟、燃え殻、今泉力哉、向井康介、和田清人・三宅唱

ちょっと身震いしてしまって、松居さんに助けを求めたところがありました――杉咲花

――この前に行なった今泉力哉監督と杉咲さんの対談で、今泉監督から「自分の現場の撮影が早く終わったから、松居さんにプレッシャーをかけた」というエピソードを教えていただきました。

松居:すごく嫌でした(笑)。スタッフさん達もとても良いムードで「2時間巻いたんですよ」と言っていて。

杉咲:松居さんは、今泉組の現場にも来てくださったんです。

松居:猫のシーンを見学しました。

――ちなみに、松居監督の現場は……。

松居:ほぼオンタイムです。それが一番いいと思います!

杉咲:そうですね(笑)。

――松居監督が脚本と監督を手がけられた第1話「丸いもの」と、監督を松居さんが、脚本を向井康介さんが手がけられた第4話「リリー」は独立した話でありながら、「お金」や「スマホ」という日常的に使っているものがなくなったら何が見えるんだろう?という共通した世界を描いているようにも感じました。向井さんとは示し合わせたのでしょうか。

松居:いえ、「日常的なものが離れていったらどうしようというテーマにしましょう」と事前にすり合わせることはなく、向井さんが杉咲さんにあてて書きたいものが既にあったので、それを聞きつつ自分の脚本も進めていった形でした。

 自分の中では、「撮休」というコンセプトで「杉咲さんが休みの日に何をする?」となったときに、撮影現場で普段仕事をしていたら出会わないような人と交流が生まれ、ハッピーエンドでもバッドエンドでもなく1日が終われば成立する、と考えていました。

松居大悟監督作、第1話「丸いもの」(上)、第4話「リリー」(下)より

――第1話と第4話の対比も非常に面白く拝見しました。第1話ではコインランドリーの客に、いろんな役柄を無茶ぶりされた杉咲さんが「もっといい演技ができる」とのめり込み、第4話では仕事の選び方を考える。どちらも表現者としてクオリティを重視する姿が描かれますが、笑いと真面目と逆方向のベクトルに向かいます。

杉咲:確かに、そう考えると共通していますね。ただ、コインランドリーの方は追求の仕方が凄かった(笑)。

松居:昼から夜までずっと一人芝居をやっていますからね(笑)。

杉咲:周りが見えなくなっていましたもんね(笑)。台本を読んだとき、「ここは一体、どう演じたらいいんだろう」とちょっと身震いしてしまって、松居さんに助けを求めたところがありました。

松居:でも僕としては「慣れたら脚本の感じが出ないな」と思い、難しいシーンほどリハーサルもほぼせずに早々に本番に移行しました。そうすることで、少し照れみたいなものが混ざるのがいいだろうと思って(笑)。

杉咲:だから段取り(※動きの確認)をする前、松居さんに「どうしましょう」と相談に行っても、全然助けてくれなかったんですね(笑)。「やってこい!」みたいな感じで放り出されたので「怖いな……」と思いました(笑)。

松居:(笑)。困っていれば困っているほど、あのシーンは味が出ますからね。でも、風を表現する仕草などは一緒に相談して。

杉咲:そう、徐々に肉付けしてくださいました(笑)。

松居:「降ってくる雪を手刀で切りながら荷物を運ぶのはどうだろう」とか(笑)。

「ある1日でいかに色々な人と交流し、どんなお休みを過ごせるか」を考えていた――松居大悟

――第1話はストリートミュージシャン(上白石萌歌)とのやり取りもあり、要素が満載ですが、よく24分の尺に収まりましたね。

松居:実は結構カットしています。主に、コインランドリーの客を演じてくれた松浦祐也さんの芝居を(笑)。同じセリフを同じテンションで2回言うみたいなことがあって、4分くらいオーバーしてしまって。でもそれくらいかな?

「コインランドリーで小銭に困る」と「最後に歌いたい」というのは当初から自分の中にあり、最後に歌えば大丈夫だ!むしろとっ散らかっていこう、という感覚でした。杉咲さんが色々な人と出会って振り回されていく姿を見せたかったんです。

――演じる側としては、実際にやってみないとどうなるかがわからない要素が多い物語でもありますよね。

杉咲:私としては、現場で何が起こるんだろう?というワクワク感が大きかったですね。萌歌ちゃんがどんな風に歌うのかもとても楽しみでした。

第1話「丸いもの」より、杉咲花さんと上白石萌歌さんの場面

――本作は杉咲さんが杉咲花という役者を演じるメタフィクションであり、さらにそこで即興芝居をするという多重構造ですが、演じる際の脳内がどうなっていたのか気になります。

杉咲:確かに…。ですが自分としては、あまり複雑に捉えていなかったと思います。とにかく目の前のことに全力で取り組もうという気持ちでした。

――役者さんの中には、役への共感を重要視される方も、わからなくてもまずやってみることで見えてくるという方もいらっしゃいますが、杉咲さんはいかがですか?

杉咲:確かに共感できる部分があると感覚的に飛び込みやすいですが、わからなかったらわからなかったで、「一度やってみよう」と向き合ってみることにしています。どちらも楽しめるようになることが目標です。
 以前読んだ山崎努さんのエッセイに「演じる役の、世の中とうまく折り合えない部分を探して、そこからキャラクターに入っていくクセがある」と書かれていて、その文章がとても腑に落ちて。そんな発見がひとつできれば十分なのかもしれないなと思ったんです。共感はできなくても、理解をすることが大事なのかな、と。

松居:演出する側からすると、役者が「飛び込んでみよう」となったときの面白さは確かにあります。今回の杉咲さんだと、こちらが「この台本をきっとこう演じるだろう」と予想していたものに対して「わ、なんでこう演じたんだろう」と、予想と違ったり予想を上回るものを返してくれるような面白さがありました。

――だからこそ「助けない」という選択になるのですね。

松居:そうですね。どうなるんだろう?と思いながら見ていました。

杉咲:私は「助けて!」と思っていました(笑)。

――松居監督は「MIRRORLIAR FILMS」や「ROMAN PORNO NOW」等、複数のクリエイターが参加する企画が続きましたが、この経験を通して得た発見はありますか?

松居:ありました。僕は個人的に「負けたくない」という想いが強いのですが、まず勝負しようと思っている階層自体が違うことにびっくりしました。今回も、三宅さんと今泉さんの作品を観たときに「もっと前の段階で違う方向を見ていたんだ」と思いました。

 僕は『撮休』で「ある1日でいかに色々な人と交流し、どんなお休みを過ごせるか」を考えていたけど、ふたりともそうではない捉え方をしているんですよね。それはすごい発見でした。テーマや時間の制約がはっきりしているからこそ、作家性というか、それぞれがものづくりで大事にしているものが浮き彫りになってくるように感じました。

 本当はこうした複数人が参加するプロジェクトはあんまり得意じゃないんです。エゴサしたら絶対に、自分のものがいいって言う人以上に、他の作品が一番面白かったと言う人を見つけてしまいますし。勝手に同じスタートラインに並べられて比べられ、誰かの物差しで評価されるのが苦手なんですが、そういうところに入れられがちなんですよね……(苦笑)。

第4話「リリー」より

――今回は監督作が2本あるため、また特殊ですね。

松居:そうですね。でも、自分で脚本を書いたものも、向井さんに書いていただいたものもどっちも好きなので両方気に入っていただけたら嬉しいです。

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