

ピエール・バルマンが手がけたシリキット王妃の宮廷衣装。左は、タイの伝統衣装「チョン・クラベン」を再解釈したドレス(1982年)。右は、王妃がアメリカ公式訪問で着用したイブニングドレス(1985年)。
パリの装飾芸術美術館(Musée des Arts décoratifs)で、1960年代から現代までのタイ王室における衣装の変遷を紹介する展覧会を開催している。タイトルは「威厳あるモード。タイ王室におけるオートクチュールと伝統(La Mode en Majesté. Haute couture et tradition à la cour de Thaïlande)」。

ピエール・バルマン作、タイの伝統衣装「チャクリー」とルネサンス風のスカートを掛け合わせたイブニングドレス(1960年)。シリキット王妃が1960年のフランス公式訪問で着用した。
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これは、1686年に始まったフランスとタイ(当時のシャム王国)の最初の外交交流から340年、さらに1856年に締結された友好・通商条約に基づく近代外交関係の樹立170周年を記念して企画されたもの。核となるのは、ラーマ9世国王とともに世界各国を歴訪したシリキット王妃の外交ファッションだ。

タイ王室の正装「8つの様式」を紹介する展示の様子。1960年代にシリキット王妃の主導で体系化され、公式行事や外交の場でタイの文化と美意識を象徴する装いとして用いられてきた。

タイ王室の格式高い女性礼装「タイ・チャクラパット」。1981年に韓国の大統領夫妻を迎えた王室晩餐会で、シリキット王妃が着用した。
展示される衣装の多くは、フランスのクチュリエであるピエール・バルマン(Pierre Balmain)とパリの名高い刺繍工房「ルサージュ(LESAGE)」が手がけたフォーマルウェアで、タイ王室の宮廷衣装がどのように発展し、自国の文化や美意識をいかに世界へ発信してきたのかを読み解く内容となっている。

シリキット王妃の外交を支えた優雅なイブニングドレスの数々。1960〜’70年代にピエール・バルマンが制作。タイの伝統的な織物とフランスのオートクチュール技術が調和する。
王妃は、1960年の欧米公式訪問を前に、タイの伝統衣装を国際舞台にふさわしい装いへと昇華させるため、パリのクチュリエであるピエール・バルマンにワードローブの制作を依頼した。バルマンは、西洋服の裁断を基本とするのではなく、「布を身体に巻き付ける」「ドレープを生かす」というタイの衣装を綿密に研究。タイシルクやブロケード、イカットなどを用いながら、その美意識を尊重したオートクチュールを生み出した。こうして、タイ王室の新たなエレガンスは、民族的なアイデンティティと現代性を兼ね備えたスタイルとして世界に示されたのである。

1957〜1981年の「バルマン」のデザイン画と、1979年の「ルサージュ」の刺繍サンプル。タイを象徴するモチーフや王室のシンボルがデザインに取り入れられている。


「ルサージュ」の刺繍サンプル。イカット模様を生かした刺繍の試作が興味深い。
会場には、シリキット王妃が着用した衣装を中心に、バルマンによるデザイン画や「ルサージュ」の刺繍サンプルなど、約200点を展示。王室コレクションに所蔵される工芸品、織物、写真といったヨーロッパで目にする機会の少ない作品や資料も見ることができる。

髪を整えるためのワックスや香料、水差しなどを収めたヘアケア用具一式。シャム文化において、身だしなみや香りが重要な役割を果たしていたことをうかがわせる。

タイを代表するクチュールブランド「ティラパン(TIRAPAN)」の2018年の作品。いずれもシリワンナワリー王女が着用。左は、王女が2019年の誕生日にまとったツーピース。右は、王室主催の冬の祭典での装い。西洋のジゴスリーブとタイの伝統衣装を融合したデザインになっている。
終盤では、ピエール・バルマンの死後、メゾン「バルマン(BALMAIN)」を引き継いだエリック・モーテンセン(Erik Mortensen)の作品も紹介され、シリキット王妃の衣装制作が継承されていく過程を解説。また、王妃の孫のシリワンナワリー王女が手がけるブランド「シリワンナワリー(SIRIVANNAVARI)」をはじめ、「アサヴァ(ASAVA)」や「ウィシャラウィッシュ(WISHARAWISH)」など、現代のタイデザイナーの作品も並ぶ。

左:2018年「シリワンナワリー」のイブニングドレス。パリのインターコンチネンタル・ル・グランでのガラディナーで王女が着用。右:1981年、ピエール・バルマン作のイブニングドレス。1969~’70年頃の自身の作品から着想を得たもので、シリキット王妃のアメリカ公式訪問に向けて制作された。


エリック・モーテンセンによる「バルマン」の作品。左は、シリキット王妃旧蔵のイブニングドレスとコート(1985年)。イカットシルクにフォックスファー、キルティング、ガラスビーズ刺繍が施されている。右は、王妃が世界自然保護基金(WWF)のチャリティー晩餐会で着用したイブニングドレス(1983年)。

「シリワンナワリー」のコレクションより。左は、タイのドレープ技法を取り入れたイブニングドレス(2025年)。中は、タイの肩掛け布「サバーイ」の意匠を取り入れた作品(2024年)。右は、ラーマ5世時代に確立された男性の正装「ラージ・パターン」を女性向けに再解釈したツーピース(2025年)。
シリキット王妃が築いた美の理念は、現代のクリエーションへと確かに受け継がれ、新たな表現へと発展していることを実感させる締めくくりとなっていた。

● La Mode en Majesté. Haute couture et tradition à la cour de Thaïlande
「威厳あるモード。タイ王室におけるオートクチュールと伝統」展
2026年11月1日(日曜)まで。
Musée des Arts Décoratifs
107, rue de Rivoli 75001 Paris, France
公式サイト
Photographs:濱 千恵子 Chieko Hama
Text:B.P.B. Paris