
修復された国際列車「エトワール・デュ・ノール(北極星号)」の食堂車。壁には美しい寄木細工が施されている。この列車は、1929年から1996年までパリとアムステルダム間で運行されていた。
アール・デコが世界の舞台に登場するきっかけとなったのは、1925年にパリで開かれた国際博覧会。それから100年。パリの装飾芸術美術館で、このモダンなスタイルを祝福する展覧会「1925-2025 アール・デコの100年(1925-2025. One Hundred Years of Art Deco) 」が開幕しました。

吹き抜けの大ホールには、空に向かって発車するかのようにオリエント急行の模型がそびえる。
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来館者を迎えるのは“狂騒の20年代”が生んだ創造性と、後世に受け継がれた傑作品を巡る旅。彫刻的な家具から斬新なファッションアイテムまで、約1,000点の作品がアール・デコ様式の豊かさを物語ります。

ドレスはマドレーヌ・ヴィオネ作。左は、小馬とギリシャの壺をモチーフにしたドレス(1921年冬)。右は、四角い布を組み合わせたパネルドレス(1920年冬)。アームチェアはアルマン=アルベール・ラトー作(1920–1922年)。オーギュスト・ハイリゲンシュタインの花瓶(1933年)、ジャン・マヨドンの壺(1926年)とともに展示。

1925年の博覧会で高級ジュエラーのブシュロンが出品した胸飾り(1925年)。ラピスラズリ、ひすい、オニキスを組み合わせた鮮やかな色彩と幾何学的なデザインがひときわ目を引いたという。
最大の見どころは、伝説の「オリエント急行」の展示。大ホール中央には、修復された1929年の国際列車「エトワール・デュ・ノール(北極星号)」の車両が配置され、2027年に運行が予定される未来のオリエント急行の実物大モデルも披露されています。豪奢なインテリアには卓越した職人技が随所にちりばめられ、まさに夢の列車といえるでしょう。

洗練された旅と職人技の象徴であった「オリエント急行」は、1920年代に黄金期を迎えた。写真は、建築家のマキシム・ダンジャック(Maxime d’Angeac)が手がけた新オリエント急行の模型。



新オリエント急行の廊下、食堂、バーの車両の模型(2021–’25年)。

国際寝台車会社(Compagnie Internationale des Wagons-Lits)が誇る豪華な寝台車の再現(2005年)。小さな洗面台を備えた個室で、ソファはベッドになる。


写真左:高級クリスタルで知られる老舗メゾン、サンルイ、バカラ、モーザーが手がけたグラス類。右:ルネ・ラリック作、ブドウと小鳥のモチーフが優雅なガラスの装飾パネル。寝台列車「コート・ダジュール・プルマン」のために制作された(1928年)。

新オリエント急行スイートルームの壁面装飾。木地に日本製ビーズが刺繍されている(2022–’25年)。
ファッションとテキスタイルの展示では、マドレーヌ・ヴィオネ、ソニア・ドローネー、ジャンヌ・ランバンなど、当時の流行を牽引したデザイナーたちの作品が陳列。テキスタイル図案やショーウィンドウのデザイン案も興味を誘います。


写真左:工芸、インテリア、ファッションと、ジャンルを超えて活動した装飾美術家ジャン・デュナンによるクロッシュ帽(1925年)。右:ジャンヌ・ランバンのドレス(1925年)。ガラスビーズやラメ糸の刺繍がきらびやか。

エドガー・ブラント作の屏風「オアシス」(1925年)。豊かな自然を思わせる背景の中で、鉄と真鍮による噴水が噴き上がっている。国際博覧会に出品されたこの作品は、傑作品として称賛された。ビーズ刺繍のイブニングドレスは、フランツ・ジュルダン作(1925年)。


写真左:ソニア・ドローネー作のジャケット(1924年)。刺繍で表現された幾何学模様が印象的。右:シルクの生地に漆で模様を施したブラウス(1926年頃)。メゾン・ルイーズブーランジェによる作品と考えられている。漆装飾はジャン・デュナンが手がけた。
誕生から1世紀が経っても、その魅力を失うことなく進化し続けているアール・デコ。本展は、歴史をたどるだけでなく、アール・デコが今なお創造の源であり続けることを改めて感じさせてくれます。

ジャック=エミール・リュールマン作の収納キャビネット(1920年頃)。リュールマンは、希少な木材や象牙の扱いに卓越した才能を持っていた人物。この独特の小石模様のキャビネットは、1926 年にエリゼ宮へ納められた。白い水鳥の置物は、彫刻家フランソワ・ポンポンによるもの(1911年)。

装飾美術家アンドレ・グルー作のチェスト(1925年)。ガルーシャ(エイ革)、ブナ材、マホガニー、象牙といった豊かな素材が使われている。

1925-2025. One Hundred Years of Art Deco
2026年4月26日まで。
Musée des Arts Décoratifs
107 rue de Rivoli 75001 Paris
公式サイトからの予約をおすすめします。
Photographs : Chieko Hama(濱 千恵子)
Text:B.P.B. Paris