
ジュリー・ケーゲル2026年春夏コレクションより。
2025年のファッション界は、単なるトレンドの更新ではなく、産業の価値観そのものを問い直す一年だった。ラグジュアリーメゾンのデザイナー交代が激化し、シャネル、ディオール、バレンシアガをはじめ、前例のない数のメゾンが新体制でコレクションを発表。業界全体が再編の年となった。
一方で、次世代デザイナーの台頭、サヴォアフェール(高度な技能・職人技)の再評価、スマート素材の発展も見逃せないテーマであり、それぞれ独立しありながらも相互に影響し合い、ファッションの方向性を形づくっている。2025年を象徴する3つの重要トピックスを通して、これからのファッション業界がどこへ向かうのかを読み解いていく。
業界に新風を吹き込む次世代デザイナーたち
Julie Kegels(ジュリー・ケーゲル)

アントワープ王立芸術アカデミー出身のジュリー・ケーゲルは順風満帆なスタートを切った新人のひとり。メリル ロッゲやアライアで経験を積み、2024年に自身の名前を冠したブランド「JULIE KEGELS(ジュリー ケーゲル)を設立。パリ・ファッションウィークで、小規模ながら趣向を凝らしたプレゼンテーションを披露し、リアルクローズのなかに見せるコンセプチャルなアプローチが好評を博した。以降、公式スケジュールでコレクションを発表。11月には東京でポップアップストアを開設し、来日も果たした。
▶若手注目株のジュリー ケーゲルは、ジュエリーシールでドレスアップ。
2026年春夏パリ・ファッションウィーク記事はこちら


「クイック・チェンジ」と題した2026年春夏のショーでは、すばやくイメージチェンジできるルックを提案。ジュエリー・シールをアクセントに、キッチュな感覚を取り入れた遊び心のあるクリエイションを披露した。
Torishéju Dumi(トリジェジュ・ドゥマイ)
u-Dumi_2025.jpg)
今年のLVMHプライズでサヴォアフェール賞を獲得したトリシェジュ・ドゥマイも脚光を浴びるデザイナーである。ナイジェリアとブラジルにルーツを持つイギリス人のドゥマイは、2021年にセントラル・セント・マーチンズを卒業。在学中にはフィービー・ファイロのセリーヌでインターンを経験している。2023年に「TORISHÉJU(トリシェジュ)」を立ち上げ、パリ・ファッションウィークのオフスケジュールでデビュー。早くも、憧れだった「ドーバー ストリート マーケット」に買い付けられ、年一回のペースでショーを行っている。
▶LVMHプライズで脚光を浴びたトリシェジュが新作を発表。
2026年春夏パリ・ファッションウィーク記事はこちら


最新作では、現代社会の混乱を映し出すカオスと秩序の交錯を表現。制服を題材に、衣服を単なる実用の域にとどめることなく、個人のアイデンティティと社会の規範の間で揺れ動く存在として描き出した。
Danial Aitouganov (ダニアル・アイトゥガノフ) & Imruh Asha(イムル・アシャ)

オランダ出身のダニアル・アイトゥガノフも、期待される若手。同郷のスタイリスト、イムル・アシャとともに2023年に設立した「ZOMER(ゾマー)」は、オランダ語で“夏”を意味し、その名のとおり陽気な色彩が持ち味となっている。“子どものように遊び、創造する”をモットーに、既成概念にとらわれないユニークなクリエイションを展開。今年は、ヴィンセント・ヴァン・デ・ウィンヤールトが撮り下ろしたブランドの写真集『Travel To The Sun』を出版し、LVMHプライズのファイナリストにも選出された。
▶ユーモア全開!ゾマーが見せる超ビッグスケールの遊び心。
2026年春夏パリ・ファッションウィーク記事はこちら


プロポーションの変化で遊んだ2026年春夏コレクション。特大ベルトやフラフープのようなエンゲージリングが登場し、巨大バレッタはトップスに変身。奇想天外なアイデアであふれていた。
Alain Paul(アラン・ポール)

同じくLVMHプライズ 2025のファイナリストであるアラン・ポールも着実にキャリアを積み上げている。マルセイユ国立高等舞踊学校出身という異色の経歴を持つポールは、自己表現の新たな手段を求めてファッションを学んだ。デムナのヴェトモン、ヴァージル・アブローのルイ・ヴィトンを経て、2023年に「ALAINPAUL(アランポール)」を設立。ダンサーとして培った表現力を活かし、振り付けするように服をデザインするという。今年はANDAMファッションアワーズでも特別賞に輝き、12月にパリ・オペラ座で上演される『ドリフト・ウッド』の衣装も手がけた。
▶アランポールが新作を発表。
2026年春夏パリ・ファッションウィーク記事はこちら


2026年春夏は「オーディション」をテーマに、ダンサーの審査会場のような演出の中、ショーを開催。バレエ衣装やレッスン着から発想したシルエットに厳格なテーラードを重ねることで、構築・脱構築の妙技を見せる。
Niccolò Pasqualetti(ニッコロ・パスカレッティ)

©Laura Marie Cieplik
パリと故郷トスカーナを拠点に活動するニッコロ・パスカレッティも波に乗るデザイナーだ。ザ・ロウとロエベを経て2021年に自身のブランド「NICCOLÒ PASQUALETTI(ニッコロ パスカレッティ)」を設立。自国イタリアの職人技を取り入れたコレクションは、エレガントでありながら強い個性を放つ。デビュー時のジュエリー作品が「Who is on Next ?」のフランカ・ソッツァーニ賞を受賞し、LVMHプライズ 2024ではファイナリストに選出された。今年は「ピッティ・イマージネ・ウオモ」のゲストデザイナーに抜擢され、初のメンズショーを開催。真珠のジュエリーブランドTASAKIとのコラボレーショーンも話題になった。
▶職人技とモダンなカッティングが光る、ニッコロ・パスカレッティのコレクション。
2026年春夏パリ・ファッションウィーク記事はこちら


洗練されたミニマルなラインと手仕事を盛り込んだディテールが融合する2026年春夏コレクション。パネルを組み合わせたグラフィカルなシルエットが目を引き、きらめくマテリアルが華やかな印象を与えていた。
NEXT:サヴォアフェールの再評価