
中谷芙二子『Cloud #07156』(2026年)の展示より。
パリの中心で、日本人アーティストが生み出す幻想的な霧が注目を集めている。その作者は、半世紀以上にわたり霧を素材に作品を制作してきた中谷芙二子(なかや・ふじこ)。展示されているのは、中谷を代表するシリーズ「霧の彫刻(Fog Sculpture)」の新作『Cloud #07156』である。
場所は、現代美術館「ブルス・ドゥ・コメルス – ピノー・コレクション(Bourse de Commerce — Pinault Collection)」の中心に位置する円形空間。同館は、グッチ、サンローラン、バレンシアガなどを擁する世界的ラグジュアリー・グループ、ケリングの創業者フランソワ・ピノーが築いた美術コレクションの展示拠点だ。

「ブルス・ドゥ・コメルス – ピノー・コレクション」は、歴史的建造物の内部に安藤忠雄が巨大なコンクリートの円筒を挿入した建築としても知られている。
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中谷は、1933年札幌生まれ。「霧の彫刻」の原点は1970年の大阪万博に遡る。エンジニアのトーマス・ミーとともに、純水を高圧で微細な水滴にして噴霧するシステムを開発し、ペプシ館を霧で包み込んだ。以来、その土地の風、湿度、気温、建物などと呼応する作品を世界各地で発表してきた。
『Cloud #07156』では、微細な水滴から生まれる白い霧が空間を満たし、風や空気の流れによって刻々と姿を変える。霧が濃くなると、コンクリートの円筒も人々も輪郭を失い、やがて再び姿を現す。その中へ足を踏み入れ、霧の変化を全身で体感できる作品だ。


1889年に5人の画家によって制作された巨大な壁画「商業のパノラマ」の下に、コンクリートの円筒と中谷芙二子の『Cloud #07156』が広がる。
この空間は、ファッションとも無縁ではない。近年ここをショー会場として使用しているサンローランは、2026年6月に発表した2027年夏メンズ・コレクションでもこの場所を舞台に選んだ。モデルたちは濃密な霧の中から現れ、再び消えていく。服のシルエットさえ見え隠れする光景は、「見る」という行為を揺さぶる中谷の作品と呼応した。


サンローラン 2027年春夏メンズコレクションより。© Tadao Ando Architect & Associates, Niney et Marca Architectes, Agence Pierre-Antoine Gatier. Courtesy of Saint Laurent
近年、ますます境界を越え、その距離を縮めているファッションとアート。アーティストとのコラボレーションにとどまらず、作品や建築、そして人の身体までもが交わり、ひとつの体験を生み出す試みが広がっている。中谷芙二子の霧とサンローランが出会い、刻々と変化する一瞬の風景を生み出したこのショーも、両者の新たな関係を象徴するものといえるだろう。
●Fujiko Nakaya
2026年9月14日(月)まで。
Bourse de Commerce — Pinault Collection
2 Rue de Viarmes 75001 Paris, France
公式サイト
Photographs:Chieko Hama(濱 千恵子)
Text:B.P.B. Paris