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ヴィヴィアン・ウエストウッドとラフ・シモンズに見る新しさ
デザイナーズ・アーカイブ研究 

今なお、多くのファッションデザイナーに影響を与え続けているヴィヴィアン・ウエストウッドとラフ・シモンズ。
現代ファッションに革命を起こした二人の「新しさ」とは? アーカイブアイテムを解析して再考する。

photogprahs : Jun Tsuchiya (B.P.B.)
コレクション写真:文化学園ファッションリソースセンター

『装苑』2021年5月号掲載

ヴィヴィアン・ウエストウッドとは?
1941年生まれ、イギリス出身。小学校の美術教師をしながら、’71年、マルコム・マクラーレンと、古着やオリジナルの服も扱う中古レコード店を始める。パンクファッションの流行を作り出した後、一転、歴史服や民族服から着想したロマンティックなコレクション「Pirate」(’81-’82AW)や「Savage」(’82SS)でファッション界の注目を浴びる。その後は体を意識した造形の探求、英国の伝統の昇華、18世紀の画家アントワーヌ・ヴァトーから着想したドラマティックなコレクションなどを展開。代表的なアイテムに、ジャケットのラペルをハート形にしたラブジャケット、ヴィヴィアン風のグラマラスなワトードレス、クリノリンスカートをミニ丈にしたミニクリニ、コルセット、ブーツに木底をつけたロッキング・ホースシューズがある。

構築的なワンピースの造形的工夫と新しさ

1997-’98AW 
 プリントワンピース、セットアップジャケット 

胸元を強調したホルターネックのワンピースと、ミニマムなジャケットのセットアップ。このワンピースを特徴づけるウエストから胸元、ホルターネックにかけてのドレープは、四角い大きな布を対角線に折った三角布をはめ込み造形されている。

折り山が胸元にあり、ホルターネックを結ぶとしなやかなドレープが現れる設計で、このドレープによってフェミニンでロマンティックな印象に。また、胸のカップのパーツは、四角い布を対角線に折った際に折り山のヘムラインに縦の布目が通るよう計算されている。この仕様で寄せた胸をしっかりホールドすることができる。優美なドレープと細いウエスト、ホールドした胸。このバランスの取り方に、ヴィヴィアン・ウエストウッドならではのセンスと、新鮮味があるだろう。また、セットのジャケットは非常にコンパクトなサイズ感。

後ろ身頃から続くタックで成形された、フレンチスリーブのように小さな変形袖と、対照的に身頃を覆うほど大きなラペルが特徴的だ。胸元は大胆に開かれ、シングルブレストのフロントにつながる。シームはプリンセスラインで、ジャケットでもバストを強調。着用時は、第1ボタンを閉じるとバストアップされ、あけると胸元が大きく開く形。一方、後ろ身頃はシンプルな1枚布で、オリジナルテキスタイルの美しさを強調する意図がうかがえる。構築性とテキスタイルを絵のように見せることが両立されている点も新しい。

解説:太田るみ子(文化服装学院ファッション高度専門士科教諭)

1998SS
 ビスチェトップ、スカート 

ゴールドレーベル、クチュールのもの。プリントワンピースと同じく、トップは四角布のパターンを生かしたドレープが印象的なデザイン。内側には胸元から裾までボーンが入り、特に胸部分はボーンが二重。そのことで、豊かな胸元とほっそりしたウエストを作ることができる。トップとそろいのスカートは、ストライプ柄を巧みに組み合わせた切り替えのフレアスカート。臀部の下部分にダーツをとり、下半身にメリハリが出るよう工夫が凝らされている。トップの背中のジッパーはスイスのMerasのもの。生地はシルク100%、イタリア製。

1999年頃
 ベルベットジャケット、スカート 

このセットアップはレッドレーベルコレクション。ベルベットで変形のダブルジャケットとAラインのミディアム丈スカートを造形。ダブルジャケットの用尺でとられた前合わせは、左側に寄せて前ボタンをとめるアシンメトリーなデザイン。ボディの切り替え線からそのまま左右ポケットへと連なる有機的な美しさがある。バックスタイルの切り替えも、この前合わせに呼応するよう曲線でアシンメトリックに作られている。

1986年、’89〜’90年頃 
 プリントブラウス 

2体のブラウスは’86年購入のメンズでビスコース100%。ヴィヴィアン・ウエストウッドが日本の感度の高い人々の間で流行しはじめた頃に人気があったという、象徴的な生地。ドットや星は定番的なプリントだが、ここまでの大柄は新奇性があり目を引く。

ベン・ウエストウッドのデザインによる宇宙柄のテキスタイルを用いた綿のシャツ。このシャツと、写真上右の星柄のシャツのカフは、切り込みを入れ幅広のガゼットを縫い返す略式での処理。

肩パッド入りコンケーブジャケットの造形的特徴と現代性

 1994年〜’95年頃 
 ベルベットの肩パッド入りダブルジャケット 

1700年代に見られる男性用スーツ、アビ・ア・ラ・フランセーズのアビやフロックコートに近いシルエットを、女性用のジャケットに翻案している。歴史服の知識と、デザイナー独自の創造性が結びついたこのヴィヴィアン・ウエストウッド ゴールドレーベルのジャケットは、細かな作り込みによる構築的なシルエットが、今見ると新しい。このジャケットの魅力や、歴史服を現代の女性服に落とし込む際に重要と思われるポイントを取り上げる。

最も目を引くのは、誇張した肩。肩先に向かって肩線が弓なりに反り上がったライン生む「コンケーブショルダー」は、肩パッドを入れてその形を成形している。

袖つけには3本のダーツがあり、袖山の膨らみをキープするため山布も入れられ、大きな膨らみを作り出す。肘から袖口にかけてはメンズライクな袖の振りで、伝統に沿った形だ。

ウエストは胸下の補助ダーツと脇の縫い目によって、かなり細身の造形。ウエストから腰にかけては再びなだらかに膨らむが、特筆すべきはフラップポケットのデザイン。生地分量を多めにとったフラップが腰回りで少し波打つことで、ペプラムのような効果を発揮し、ジャケットにフェミニンな印象を与えているのだ。相反する要素を美しくまとめあげ、モダンに見せるヴィヴィアンの真骨頂といえるだろう。フェミニンさを作るポイントは、ラペルやフロントの打ち合わせにも。幅広のラペルの返り止まりは高いウエスト位置まで届き、胸元のVゾーンのあきを深くして、体を美しく見せる。

バックスタイルは縫い目を利用した、ウエスト近くまで切り込みのあるサイドベンツ。これは、同時期に発表されたヒップパッドやミニクリニスカートと合わせて着るためのものだ。表地はブラックのベルベットだが、ボタンをあけると可憐なピンク色が裏地に現れる。この二面性の色気がまさしくヴィヴィアンだと感じる。

解説:太田るみ子(文化服装学院ファッション高度専門士科教諭)

 1986年頃、’89〜’90年頃 
 ジャケット 

’89〜’90年頃の綿のショート丈ジャケット。鮮やかな赤やダブルの打ち合わせ、上衿にベルベットを用いたデザインが特徴的。フロントの両サイドには飾りポケットがある。肩が内側に入った小さめのデザインでフェミニンな印象に。

’89〜’90年頃。月腰衿のウールジャケットで、フロントは前下がりのパターン。ボタンはすべて飾りで、前をあけたまま着用する。フラップポケットは大きめに作られており、ペプラム風になる。

上のジャケットのボタン。べっ甲に、ブランドを象徴するオーブの刻印。

’86年頃。この中では最も古い年代のジャケットで、素材は綿の別珍。ウエストはゆるやかなシェイプ、肩もなだらか。ナチュラルかつ愛らしい印象で作られている。

上のジャケットのボタン。現在のブランドシグネチャーのオーブではなく、金ボタンに王冠の刻印。

ヴィヴィアン・ウエストウッドの時代別タグ


ヴィヴィアン・ウエストウッドはすべてYumi AZZLOコレクション

Yumi AZZLO●「Studio KANEKO」プロデューサー。1970年代より、画家・金子國義の弟子としてウインドーディスプレーやスタイリングの仕事を手がける。’88年、東京・四谷に「AZZLO」をオープンしボンデージファッションを日本に紹介。フェティッシュファッションのクラブイベントのオーガナイズも行なう。ボンデージファッションのリサーチのための渡英で、’86年、運命的にヴィヴィアン・ウエストウッドのショップ「ワールズ・エンド」へ足を運び、ベン・ウエストウッドとも親交を深める。ボンデージとともに、ヴィヴィアンの魅力も日本に伝えた。
Instagram @azzlo331

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