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気になる3つの現代メンズファッションの歴史
2020S History of Men’s 3 styles

2025.09.26

雑誌『装苑』2022年7月号の内容を一部変更して掲載

text: Shigeaki Arai (AFFECTUS)
コレクション写真:文化学園ファッションリソースセンター蔵

ファッションの主役はレディスで、メンズといえばレディスに追従する形でトレンドが生まれたり、ディテールの変化により狭い範囲で流行が繰り返される時代が長く続いた。

だが、ストリートとモードの双方から性規範の再考がなされ、ポップスターたちも新時代のファッションを実践する昨今。それは日本独自の文脈ともつながり、今、日本の男性は、ファッションを最も自由に楽しめる時代を生きている。「メンズファッションを自由にする3つのムーブメント」をその源流とともに考える。

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すっかり定着したリモートワークによって、ビジネススーツ市場は急速に縮小した。しかしその代わりというべきか、昨今、スーツは時代に呼応するようにリラックス感も漂わせたファッションの一アイテムとしての提案が際立つ。その源流を探るため1980年代に時間を巻き戻すと、現代スーツのプロトタイプが流行していた。ジョルジオ アルマーニが1975年以降に打ち出していたソフトなジャケットとパンツから成るスーツが、好景気に沸く日本でも旋風を巻き起こす。

アルマーニのジャケットは肩パッドを外し、裏地と芯地を使用しないもので、そのゆとりのあるシルエットは、ラグジュアリー感を巧みに演出した。当時のスーツのメインは、アルマーニのコピーを含めてこの「アンコンストラクテッド・ジャケット(通称・アンコンジャケット)」となる。しかしバブル景気を象徴するそのスタイルは、1991年のバブル崩壊と時を同じくして消滅していく。

その後登場し、長い間流行したのはクラシコイタリアと呼ばれるスーツ。服飾評論家の落合正勝が紹介し、ピッティ・ウオモを訪れた日本人バイヤーから火がついたスタイルで、シルエットはソフトスーツとは真逆でタイト、パンツの裾はダブルで、常に靴下が見えているような短い丈だった。

2010年代半ばを過ぎると、再びスーツはゆるやかなシルエットに戻る。しかしそれは’80年代のラグジュアリーとは異なり、’90年代のストリートファッションのリバイバルの文脈である。

そんな中、2017-’18年秋冬シーズンにルイ ヴィトンはシュプリームとのコラボコレクションで世界を熱狂させ、当時のディレクターであったキム・ジョーンズは、現代のリラックススーツに先んじたスーツを発表した。バンツはスケーターにも似合うルーズなラインを描き、ジャケットはオーバーサイズ。足もとにはオールドスクールなデザインの白いスニーカーを合わせ、それはスーツの形をした別の服のようだった。

以降、メンズシーンにはストリートラグジュアリーからエレガンスへの回帰が見られ、キム・ジョーンズ自身のクリエイションも変わるのだった。2018年に移籍したクリスチャンディオールでは、刺繍や色、花柄を多用して装飾性を高め、男性の中に潜むフェミニニティを呼び起こし、メンズスーツに高貴な空気をまとわせた。

コロナ禍によって自宅で過ごす時間が増加するにつれ、服をイージーに着るだけでなく、着飾りたいという気分が生まれだす。そんな気分にフィットするファッションとしてのスーツが現代の男性の気持ちを代弁するのだ。

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ストリートファッションが世界を席巻した2010年代、ヴェトモンを設立したデムナ・ヴァザリアがファッションに新しい概念を生んだ。彼が生み出したのは、色や柄を複雑かつ重層的に使用した、超ビッグシルエットのカジュアルウエア。そのスタイルは英語で「醜い」を意味する“アグリー”と呼ばれたが、特にそのシルエットは2015年から、デムナがヴェトモンを去る2019年頃までの定番としてストリートもランウェイも席巻する。

海の向こうで生まれたアグリーだが、その源流を日本の裏原宿にたどることができる。キーパーソンは藤原ヒロシ。藤原は、グラフィックデザイナーであるスケートシングこと中村晋一郎と、1990年にグッドイナフを設立する。グラフィックTシャツが人気となったグッドイナフは、日本初のストリートブランドであると同時に裏原ブームの原初だった。

程なくして、日本にストリートカルチャーを確立した藤原ヒロシに似ていたことから「藤原ヒロシ2号」という意味の愛称を持つ若者、NIGO®が裏原をリードする時が訪れる。

1993年、NIGO®は自身と同じく文化服装学院出身の高橋盾とともに、表参道の裏手=裏原にノーウェア(NOWHERE) をオープン。高橋盾がアンダーカバーを、NIGO®が海外ブランドのセレクトを経て、自身のブランド、ア ベイシング エイプ®を始動する。特にNIGO®が映画『猿の惑星』に登場した類人猿の顔からヒントを得て、猿の顔をブランドロゴにしたTシャツは当時の裏原人気を加速させていく。

それは1980年代まで日本のメンズウエアのメインストリームだったトラッドの価値観とは全く異なる視点で作られた服だった。だからこそ、1993年から1999年当時の日本の若者に新しいカッコよさとして熱狂を持って歓迎された。

また、アイテムの希少性(一部の人気商品は、ショップ店員から得た情報などをもとにして店頭に並ばなければ買うことができなかった)も、その爆発的ブームに勢いをつけた。

裏原に熱狂したのは日本の若者だけではない。ヴァージル・アブローはNIGO®をストリートウエアの先駆者だと公言し、メンターとして敬愛。キム・ジョーンズは1990年代にロンドンのギミーファイブ在籍時に、藤原ヒロシやNIGO®と出会って多大な影詈を受け、2020年にルーク・メイヤーは自身のブランドOAMCで、藤原ヒロシが率いるフラグメントデザインとコラボコレクションを発表した。

裏原に潜んでいたかつての若者たちは、2010年代以降のスターデザイナーから賞賛と尊敬を集める、ストリートウエアのヒーローとなった。

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男性らしさ、女性らしさではなく、大切なのはあなたらしさ。メンズというカテゴリーに縛られず、自分が気に入った服ならば自由に着て、男性が甘いファッションも楽しめる時代が訪れている。

メンズウエアの価値観が変わってきた背景には、現代のスーパースターの影響が見てとれる。ワン・ダイレクションのメンバーとして活躍したハリー・スタイルズは、レディスウエアの世界を大胆に取り入れ、そのスタイルは度々物議を醸す。しかし、フリルシャツ、ピンクやイエロー、レース、パールネックレスと、1970年代前半のピーコックスタイルやグラムロック以来、これまで男性が積極的に使うことのなかったレディスウエアのアイテムやディテール、素材、色を組み込んだそのファッションは、21世紀のスタイルを確立する。

もちろん、モードが果たした役割も大きい。転換点は2000年代前半で、エディ・スリマンがディオール オムから発表したロック&スキニースタイルだ。エディは、ファッショナブルな男性像を力強くたくましいイメージから繊細で儚げなイメージヘと変え、男性たちの精神を解放する。

この流れに最も寄与したのは、グッチにいたアレッサンドロ・ミケーレだ。2015年から’22年までグッチを指揮したミケーレは、2020-’21年秋冬コレクションで性別の曖昧化に時間軸の概念を取り入れた。ショーツとハイソックスのスタイルは幼い男の子を思わせ、パンツとガーリーなミニワンピースを合わせたスタイルは、幼い女の子の影を呼び起こす。ミケーレは、性別の曖昧化が大人と子ども、双方の世界を行き来することでも可能なのだと証明した。また、ミケーレの影響を受けたロンドンの新星ハリス・リードが見せるドラマティックなメンズウエアは、装飾性が美の象徴だった中世ヨーロッパを生きた女性たちの姿を想像させ、ミケーレが示した時問軸をさらに拡張する。

21世紀の重要なデザイナーたちは、強さやたくましさという伝統的男性像から男性を解放するファッションを生んでいる。古来、ファッションは常に社会や人の精神性を映し出してきた。ノンバイナリーなスタイルが映し出すものとは何だろうか。それは、もうステレオタイプな生き方に縛られる必要はないということだろう。現に、家父長制や異性愛規範に基づく既存の社会制度は見直しを迫られている。男性が新しい生き方を探る、新しい時代がやってきたのだ。


2025年9月4日、ジョルジオ・アルマーニが91歳でその生涯を閉じました。
アルマーニがその初期に発表したソフトな仕立てのアンコンストラクテッド・ジャケットのスーツは、それまで硬質だった男性のスーツスタイルに軽やかさをもたらし、服飾史の革命となりました。その革新は’80年代後半に日本のビジネスシーンにも浸透し、メンズファッションに新風を吹き込みました。

『装苑』掲載の「メンズファッションの歴史」では、アルマーニの功績とともに、時代ごとに移り変わってきた男性服の姿に触れています。
この記事の転載にあたり、編集部一同、心より哀悼の意を表します。

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