SOMARTA(ソマルタ)デザイナー廣川玉枝、ロングインタビュー
“継続は力” 20年間追求してきたスキン シリーズが築く
芸術文化としての衣服の価値

2026.07.06

アメリカ・ニューヨーク、世界最大級の美術館『メトロポリタン美術館』に新たに常設された、ギャラリー「Condé M. Nast Galleries」。開設を記念し行われたコスチューム・インスティテュート特別展「Costume Art」にて、廣川玉枝さんが手掛ける「SOMARTA(ソマルタ)」の無縫製ニットのスキン シリーズから9点のアイテムが展示、収蔵された。ブランドのシグネチャーアイテムである無縫製ニット スキン シリーズは、「身体における衣服の可能性」をコンセプトに2006年から研究開発を続けてきた。身体にあわせ、デジタルプログラミングを活用しながら360度継ぎ目なく高密度に編むシームレス製法が特徴で、”第二の皮膚”とも称されている。装苑オンラインでは、記念すべきこの機会に、廣川さんに、改めてスキン シリーズについて、そして今のクリエイション、次世代のデザイナーに向けたメッセージを伺った。

profile
廣川玉枝●Tamae Hirokawa 神奈川県出身。文化服装学院アパレルデザイン科卒業後、イッセイ ミヤケを経て、2006年「SOMA DESIGN」を設立。同時にブランド「SOMARTA」を立ち上げる。第25回毎日ファッション大賞新人賞・資生堂奨励賞受賞。単独個展「廣川玉枝展 身体の系譜」の他、Canon[NEOREAL]展/ TOYOTA [iQ×SOMARTA MICROCOSMOS]展/ YAMAHA MOTOR DESIGN [02Gen-Taurs]など企業コラボレーション作品を多数手がける。 2017年SOMARTAのシグネチャーアイテム”Skin Series”がMoMAに収蔵される。2018年WIRED Audi INNOVATION AWARDを受賞。2021年東京オリンピック・パラリンピックの表彰台ジャケットをアシックスと共同開発。同年、大分県別府市の招聘アーティストとして芸術祭『廣川玉枝 in BEPPU』を開催、市民とともに新たな祭を発表。2025年大阪・関西万博にてシグネチャーパビリオン「いのちの未来」、「住友館」の衣装をデザイン。2026年メトロポリタン美術館で開催中の展覧会「Costume Art」において”Skin Series”が展示、収蔵される。著書に『皮膚のデザイン』(晶文社)。

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とても嬉しいお話でした。メトロポリタン美術館は世界3大美術館のひとつですし、そんな偉大な場所からのお声がけに大変感激しました。私も以前訪れたことがありますが、1日では見切れないほど多くの彫刻や絵画など、歴史的な芸術作品が展示されています。そこに同じ美術作品として価値を認められ、収蔵されるということは、とても光栄な事でした。

昨年、展覧会の企画の為に主任キュレーターであるアンドリュー・ボルトンさんが来日される機会があり、服飾美術に対する思いをお伺いしました。

アンドリューさんは、「衣服は人が着用できるという実用的な側面を持ちながら、芸術作品としての表現性も兼ね備えています。衣服をアートと同等の文化的価値を持つ存在として一般的に広く認知してもらえるように、この展覧会を開催したい」と熱く語られました。

私はその言葉から、本展が服飾の歴史や文化の価値を広く社会に伝え、未来につないでいく上で重要な役割を担う展覧会であると強く感じました。アンドリューさんの想いや意図も含めて、この展覧会は多くの方に認知していただける貴重な機会であり、非常に楽しみでした。

世界各国のデザイナーの作品がたくさん並んでいることに圧倒されると同時に、その衣服とメトロポリタン美術館の彫刻や絵画、現代美術といった収蔵品がペアリングとして関連付けられ展示されている構成が大変ユニークで、この展覧会ならではの魅力だと感じました。展示を通底するテーマとして、“身体と衣服の関係性”を明示する構成となっていて、そうした意味でも、ソマルタのスキン シリーズは長年人間工学的な思想や追求を重ねてきているので、注目していただけて嬉しかったです。会場には、様々な角度から身体との関係性が思案された衣服が並んでおり、これまで見てきた様々な展覧会の中で、最も心を動かされました。

衣服はいまだに、芸術として十分に評価されているとは言い難い側面がありますが、この展覧会を通じて、人の身体と密接に関わる実用品としての性質や工芸的な価値、さらにはメッセージを伝える表現媒体としての力など、衣服でしか表わせない芸術表現がたくさんあると改めて実感する事ができます。

それぞれのデザイナーが、衣服という媒体を通して多様な身体を表現し、骨や内臓、血管をモチーフにした作品も展示されていました。また、展覧会全体で使用されているオリジナルのマネキンも、現代的に構築された理想の体型のものから、ふくよかなフォルムやデフォルメされた身体、妊婦や障害者までそれぞれの魅力や美しさがあり、異なる身体観や美意識の多様性を表現しています。身体の美しさには特定の基準があるわけではなく、それと同時に、人間の身体と密接な関係を築いて創られた衣服は、時を経ても普遍的な美しさがあるという表明でもありました。こうした身体と美の関係を、ここまで多角的に扱った展示は過去に存在しないと思います。

紀元前5世紀後半に造られたニケの彫刻と、そのドレープを想起させる現代作家の衣服が並べて展示されていて、年代別に並んでいるわけでもなく、新旧の作品が混在しているところも印象的で、本当に面白い構成でした。メトロポリタン美術館にしかできない展示ですよね。人間が、身体の美しさや理想の姿に対して抱く憧れや欲望が、時代を超えて変わらず存在してきたことを示しているようで壮観でした。

Skin Series Atlas Ⅲは、多様な肌の色、取り替え可能な皮膚の可能性を探求したもので、筋肉の流れに着目し、身体美を表現した厚手のスキン シリーズです。2018年にプロトタイプを開発し、今回の展示のためにさらに伸縮率を上げるために編み組織に改良を加え製作し、その5体が展示されました。アメリカの現代美術家アンダース・バーグストロム(Anders Bergstrom)の代表作である、肌色の人種差別を題材にした、「ブラウン・バックテスト」の紙袋のグラデーション作品と一緒に展示されていました。

Skin Series 「Tribal-SOMA Bijou」「Tribal-Rabi Bijou」は、ブランド設立時より研究する皮膚への装飾表現をベースに、デジタル技術で組んだタトゥの編み文様にハンドクラフトを加えて具現化したシリーズです。2008年に開発したトライバル文様に、2014年に更にアイデアを加え、プリミティブなタトゥの編み文様に沿って、ビーズやシークインの細かいパーツを全身に手刺繍し、職人技が集結したソマルタのアートクチュールを象徴するモデルを完成させました。こちらは縄文時代晩期の遮光器土偶と一緒に展示されていました。よく見ると、この土偶の皮膚にも渦のようなトライバル文様が刻まれており、古代から身体に装飾表現を加えていたことがわかります。私は縄文ファンなので、思いもよらないペアリングに気持ちが上がりました。

美術館に収蔵されるということは、作品が自分の寿命を超えて生き続けることだと感じています。ギリシャ彫刻や古代の土器などと同じように、美術作品として扱われることはとても嬉しいことです。

また、美術館は子どもから大人まで、幅広い世代の人が訪れる場所です。そこで作品が未来に向けてインスピレーションを与え続けることができる。そのこと自体に大きな価値があると思っています。

同時に、衣服を芸術として捉える視点や、その魅力をより多くの人に知ってもらう機会にもなるという意味でも、展示や収蔵には大きな意義があると感じています。

衣服というのは、道具のなかで唯一、人間と常に一緒に活動することができる道具です。毎日必ず何かを着て過ごしますし、裸で出かけることはありません。私たちの生活に不可欠な「第二の皮膚」といえる存在で、身体と一体になることができるのです。

本来、衣服というのは寒さや暑さ、さまざまな外的要因から身体を守る役割を担っています。その本来の機能さえ備わっていれば道具としては成立するはずですが、人間はそれだけでは満足しません。人間には古代から自分自身を超えて「こうなりたい」という欲望があり、生まれたままの動物の姿では満足できない生き物なのです。だから衣服を選び、化粧を施して、自分で選択しながら、なりたい自分に近づいていく。

人間は衣服を纏うことで自分らしく振る舞えたり自信が持てたりしますよね。精神的に前向きな気持ちにもなれる、すごく特別な道具だと思っています。機能だけではなく、人間の願望や想像力に応えることができる。そこにファッションのアート的な要素があるのではないでしょうか。

スキン シリーズもまた、着脱可能な「第二の皮膚」を身に纏うという点で、そうした可能性を持っていると言えます。それは、人類が探求してきた皮膚への装飾表現や、なりたい姿に近づこうとする欲望に関わる根源的なものです。

そう考えると、スキン シリーズは、第一の皮膚と第二の皮膚が融合した究極の道具なんですよね。

NEXT:スキン シリーズの歩み。次世代に思うこと。

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