
ブラックミュージックを軸に、あらゆるジャンルのミクスチャーを実践する5人組バンド、Kroi。コロナ禍の真っ只中にあった2021年にメジャーデビューを果たした彼らは逆境をものともせず、ツアーや全国のフェス出演を重ねながら、急速に支持を拡大し、2024年1月に初の武道館ワンマン公演を大成功のうちに終えると、そのままの勢いで約2年ぶりとなるサードアルバム『Unspoiled』を完成させた。砂地の風景にインスパイアされ、ワールドミュージックのエキゾチックな要素を溶かし込んだモダンなミクスチャーサウンドによってオリジナリティを強固なものとした彼らにお話をうかがいました。
photographs: Jun Tsuchiya(B.P.B) / interview & text: Yu Onoda/Hair & Make Up : Chika Ueno / Styling : Minoru Sugahara

Kroiはもともと変なアプローチが好きな人間の集まり
──Kroiのメジャーデビューはコロナ禍の真っ只中の2021年でした。腕利きプレイヤー揃いのバンドにとって、ライブがなかなか出来なかった時期を振り返っていただけますか?
関 将典(以下、関)「今所属しているIRORI Recordsから声をかけて頂いたのがちょうどコロナが流行り出したタイミングだったんですけど、ライブ以外の部分でメジャーデビューに向けた準備で活動は出来ましたし、その後、コロナ禍においてもライブをやっていこうという流れのなかで、ルールの範囲内で徐々にツアーを回らせてもらえるようになって。もちろん、集客は半分に制限されたり、苦労はあったんですけど、コロナ禍によってバンドが立ち止まることはなかったですし、その経験が今の自分たちにかなり繋がっていると思いますね」
──そして、コロナが収束していくなか、デビューから3年後の2024年1月には早くも初の日本武道館公演を成功させて。バンドの成長スピードは加速度的に高まっているように感じられますが、ご自身が感じる手応えはいかがですか?
関:主観的な視点では、ただただライブをやり続けてきただけなので、それが早いかどうかはよく分からないんですけど、客観的に見れば、確かにすごい本数のライブをやってきたし、周りから見たら、成長スピードは早く感じるのかもしれないですね。ただ、自分たちは武道館に向けて、一歩ずつ着実に会場規模を上げてこれたなと思いましたね。

──そして、前作『telegraph』から今回のアルバム『Unspoiled』まで2年。アルバムのインターバルは長く取ったんですね。
関:昨年は3月に『MAGNET』というEPを出した後、武道館にお客さんを集めるために色んなフェスに出させてもらって。その裏で去年の末くらいからアルバム制作を始めました。
──サビを繰り返すことで、リスナーに曲を印象付けるのがポップミュージックの定石であるのに対して、Kroiがユニークなのは、曲がどんどん展開していって終わるところ。規格外の音楽をやっていると思いますが、そういう楽曲でリスナーを惹きつける秘密はどこにあると思いますか?
内田怜央(以下、内田):自分はファンクとかヒップホップがそうであるように、同じことを延々繰り返すループミュージック指向派ではあるので、曲がどんどん展開していくのは意図したものというより、焦りからそうなってしまっているのかも(笑)。というのは冗談で、Kroiはもともと変なアプローチが好きな人間の集まりだったりはするんですけど、ループミュージックそれ自体は地味になりがちで、リスナーに届きにくかったりするので、ループミュージックを土台に、展開を付けたり、装飾を施して、ごちゃ混ぜ感を出すことで、聴き手に強い印象を残そうと考えています。

恥をかかないと面白い表現は出来ないなと思いますね
──そして、武道館公演を経た今回のサードアルバム『Unspoiled』はバンドにとって勝負作でもあります。アルバムタイトルにはどんな思いが込められているんでしょうか。
関:自分たちはインディーズの頃から「ダサいものが実は格好いい」とか「古いものが今となっては新しく感じる」というテーマを掲げてきたんですけど、“損なわれていない”とか“ダメではない”という意味を持つ今回のアルバムタイトル『Unspoiled』はKroiの価値観を代表するもの。このアルバムを聴くことで、より多くの人に新しい気づきがあるとうれしいなと思いつつ、本当にダサいものはダサいし、本当に古臭いものは古臭いままなので(笑)、それをどう格好よく、新しく聴かせるか、そのバランスは難しいなって。
内田:でも、恥かかないと面白い表現は出来ないなと思いますね。格好いいものを作ることはいくらでも出来るんですよ。でも、マニュアルや手法、手段が確立されている現代において、そういうものを普通に作っても何も面白くない。そうではなく、自分たち自身が面白がって、ちょっと気を抜いて表現することで、音楽に他にはない個性を乗せることが出来るし、いい意味での歪さが問われる時代なのかなって。だから、斬新なもの、画期的なものを世の中に出していくためには真剣にふざけることが大事だと思っていますね。

──昨今のミュージシャンは演奏技術が高いし、トレンドのサウンドを高い精度で再現できる能力に長けていると思うんですけど、そうしたスキルがあれば、いい音楽が生まれるかと言えば、必ずしもそうとは言い切れないですよね。
内田:今はインターネットで色んな情報が手に入れられて、誰もが簡単に音楽を作ることができる。iPhoneにはGarageBandという音楽制作のアプリが入っていますからね。だから、曲を作れるからと言って、すごいということにはならないんですよね。そのうえで作品にどれだけ己を乗せることが出来るか。現代においてはその点が重視されるようになってきていると思うんです。もちろん、技術面の向上によって表現の幅が広がるので、そこはずっと突き詰めていかなければいけないんですけど、それ以外の普段の日常生活も面白くしていかないとなって。

──今回のアルバムは1曲目の「Stellar」にフィーチャーしたインドの楽器を電化したエレキシタールをはじめ、6曲目の「Hyper」にはメロディカで弾いたアラビックな旋律が盛り込まれていたり、ワールドミュージックのエキゾチックな要素が盛り込まれていますよね。
長谷部悠生(以下、長谷部):今回のアルバムで最初に録り始めたのがシングル曲の「Water Carrier」だったんですけど、そのデモにシタールの音源が入っていたので、それをエレキシタールに置き換えたのが最初のチャレンジだったんですけど、今回はスライドギターだったり、シタールだったり、エレキギター、アコギ以外の楽器に挑戦してみました。
関:2年前ぐらいから(内田)怜央が持ってくるデモ曲に砂地っぽい歌詞の世界観やエスニックなサウンドが盛り込まれるようになって。日本の音楽と世界のルーツ感のある音楽の融合というのは斬新じゃないですか。それをこの1、2年かけて、バンドが一体となって挑戦的に具現化していったことで今回の作品に繋がりました。
──砂地っぽいイメージのデモはどのように生まれたんですか?
内田:これまでKroiの歌詞は心象風景の描写だったり、考えていることを風景のメタファーで語る手法を用いてきて。身近な都会を舞台に書くことが多かったんですけど、昨今、そういうアーティストは増えてきているし、自分自身、都会を舞台に色んな曲を書いてきたので、新しい舞台を見つけたいなって。そう思っていた時期に観た映画『デューン 砂の惑星』に大感動して。その作品で広がっていた砂地や砂漠の風景に触発された歌詞を書くようになったんです。そして、歌詞の舞台の変化と共に、サウンド面においても、Kroiが得意とするマイナー調の曲には砂地や砂漠の風景に通じるアラビックなメロディだったり、タイやインドの音楽が醸し出すエキゾチックな要素がフィットするという発見もあって。昨今、クルアンビンのようなタイファンクに影響を受けたアメリカのバンドが出てきたり、今度フジロックに来るオーストラリア・メルボルンのグラスビームスもエキゾチックな音楽をやっているし、イギリスでもリトル・シムズがアフロビートのトラックでラップしていたり、ワールドミュージックを巧みに取り入れたサウンドがトレンドだったりするじゃないですか?今回の作品はそうした音楽シーンの流れに呼応したアルバムでもあります。

──Kroiは音楽指向が異なる5人の個性がミックスされたバンドですし、世界のトレンドを横目に、他にはないミクスチャーを推し進めたのが今回のアルバムというわけですね。
益田英知(以下、益田):自分は今回のレコーディングで気持ちに余裕がなくて、挑戦することを常に意識出来ていたかというと何とも言えないんですけど、制作前の方向性として、当初はルーツを突き詰めた作品になるのかと漠然と考えていたんです。でも、例えば、ヴィンテージソウル的な「明滅」では敢えてヴィンテージソウル的なドラムではなく、モダンなリズムアプローチで臨んでみたり、出来上がった作品は結果としてルーツミュージックが元にありつつ、それを現代的に解釈した作品になったと思います。
千葉大樹(以下、千葉):Kroiは演奏の自由度が高いところが良さでもあり、個人的には自分の鍵盤のプレイが時として自由すぎる気がして。もうちょっと理路整然と作った方が曲の聞こえ方が良くなるんじゃないかと思ったので、今回は譜面を書いてレコーディングに臨みましたね。以前は譜面なしで、その場の思いつきを活かそうとしていたんですけど、その場ではどうしても思い付かないこともあるじゃないですか? 今回は事前に準備することで、表現に広がりが出たアルバムになりましたね。

関:今回、タイアップ曲がこれだけ詰まったアルバムはKroiとしては初めてで。だから、それ以外のアルバム収録曲ではタイアップに対するカウンターを個人的に意識しました。タイアップ曲では速いパッセージで出来るだけ盛り上がるようなアプローチをしていたのに対して、アルバム収録曲ではあまり派手なベースプレイをしすぎないように自分をセーブすることを考えましたね。
──メンバーそれぞれが独自の視点のもと、意識的、無意識的に行った新しい試みが詰まった作品でもあると。
内田:初期衝動で作ったファーストアルバム『LENS』、セカンドアルバム『telegraph』はその初期衝動を整理した作品、そして、3枚目の今回のアルバムは何をするか。ミュージシャンとしてのキャリアを考えると、そこで何かを確立できたら、今後もずっといい作品が出来るような気がして。だから、制作にはすごい気合いが入っちゃっていたんです。それが入っていたのが良かったのか悪かったのか。自分たちとしては何とも言えないので、みんな、今回のアルバムを聴いたら、俺にDMください(笑)。

Kroi着用:
HOLO MARKET(MAIL:info@studiofabwork.com)
DAIRIKU(MAIL:info@dairiku-cinema.com)
elephant TRIBAL fabrics(MAIL:info@elephab.com)
refomed(MAIL:refomed@i-a-m.jp)
CASPER JOHN(MAIL : info@sian-creative.com)

Kroi
2018年2月に結成した5ピースバンド。内田怜央(Vo/Gt/Per 作詞)、長谷部悠生(Gu)、関将典(Ba)、千葉大樹(Key)、益田英知(Dr)から成る。
R&B、ファンク、ソウル、ロック、ヒップホップなど、あらゆる音楽ジャンルからの影響を昇華したミクスチャーな音楽性を提示する。‘18年10月に1stシングル「Suck a Lemon」をリリース。’21年6月には1stアルバム『LENS』でメジャーデビューを果たす。今年の1月20日には初の東京・日本武道館ライブ「Kroi Live at 日本武道館」を開催し、その中で、3rdアルバム『Unspoiled』のリリースと全国ツアー「Kroi Live Tour 2024 “Unspoil”」の開催を発表した。またその勢いは音楽活動にとどまらず、ファッションモデルやデザイン、楽曲プロデュースなど、メンバーそれぞれが多様な活動を展開し、カルチャーシーンへの発信を行っている。
公式サイト: https://kroi.net/
X @KroiOfficial
Instagram @kroi_official
YouTube @KroiOfficial

前作『telegraph』から約2年ぶりとなるサードアルバム。ソウル、ファンク、ヒップホップ、ロックを軸に、渦巻くグルーヴとキャッチーなメロディが一体となったバンドサウンドにアフロビーツやインド音楽、アラブ音楽といったエキゾチックな要素をさらにミックス。現代的なミクスチャーの挑戦を重ね、バンドとして大きな進化を遂げている。
Kroi
3rd Album『Unspoiled』
◯CD Only ¥3,080
◯CD+LIVE DVD「Kroi Live at 日本武道館」¥6,050
◯CD+Live Blu-ray「Kroi Live at 日本武道館」¥6,050
©️PONY CANYON
MV「Water Carrier」
MV「Sesami」(TVアニメ『ぶっちぎり⁈』オープニング・テーマ
MV「Hyper」