SOMARTA(ソマルタ)デザイナー廣川玉枝、ロングインタビュー
“継続は力” 20年間追求してきたスキン シリーズが築く
芸術文化としての衣服の価値

2026.07.06

スキン シリーズとは。継続という力に宿る可能性

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世界にはさまざまな国があって、それぞれ文化や言語、肌の色や姿形も異なり、コミュニケーションの方法も少しずつ違います。そのなかで、衣服というのは、視覚的に自分がどういう人間なのかを伝えることができる非言語コミュニケーションツールだと思うのです。

各地には民族衣装のような土地に根付いた固有の文化がありますが、それらは気候や環境によって形や素材が決まる部分もあります。一方で、皮膚そのものは全人類が生まれながらに共通して持っている表現媒体です。

古代から現代に至るまで、世界各地で人間は皮膚にタトゥを入れたり、ペインティングを施したり身体表現してきました。皮膚に何か意味を加えることで、自分を超えた存在になれるという祈りにも似た行為は、人間にとって普遍的なものではないでしょうか。

それならば、その皮膚を衣服として表現することで、人間の根源的な夢を叶えられるかもしれないし、着脱できるタトゥのような衣服があればファッションの可能性も広げられるかもしれない。そんな思いからスキン シリーズは始まりました。

また、学生時代に先輩デザイナーたちが皮膚をテーマにした表現に取り組んでいる姿を見ていて、私自身もいつか自分らしい皮膚のデザインに挑戦したいと考えていました。そのなかで無縫製という技術に出会い、この方法で取り組もうと決めました。

それ以来、20年近くにわたって、とにかく身体や皮膚、衣服の可能性について考え続けてきました。人間の普遍的に求める美しさをテーマにしているので、時を経ても色あせることはありません。研究と開発を重ねながら、少しずつ新たな取り組みを加えて、2006年から現在に至るまで進化させてきました。

だからこそ、流行の移り変わりを前提としたファッションのサイクルとは、少し違う時間軸で考えています。もともと私は、ファッションのサイクルの速さに違和感がありました。ファッションショーを定期的に行っていた時期もありましたが、自分がやっていることは流行を追うというより、ひとつのテーマを研究し続けることに近い。半年ごとに新しいコレクションを発表するというスケジュールは、あまり合わなかったのです。コロナ禍で一度すべてが止まった時に、自分のペースで物事を進めれば良いのだと再認識しました。

人が存在する限り、衣服が必要不可欠だという考えは変わりませんでした。私は実用の中で生まれる美が好きで、デザインが好きなのです。そのなかでも衣服は、機能と表現の両方が必要となる、とても特別な存在だと考えています。人の人生にも大きく関わることができるので、人間の暮らしを豊かにする力があると信じているんですよね。

だからこそ、多くの人に衣服の面白さや魅力を知ってほしいです。衣服には消耗品としての側面もありますが、それだけではない価値がある。

日本には、着物を通して四季の色や柄を美として表現し、コミュニケーションを育んできた歴史があります。衣服は昔から、暮らしの中で文化を育み、自己を伝える表現媒体でもあったのです。そうした服飾文化の価値を、幅広い人たちに伝えていきたい。それは常に思っていることですね。

スキン シリーズは皮膚そのものをイメージしてデザインしているので、当初は身体に密着したアイテムを展開していました。その後、衣服自体が「第二の皮膚」と呼ばれていることから、タイトなものでなくても、スキン  シリーズの良さが活かせるのではないかと思い、考え方を広げていきました。Tシャツやメンズのジャケット、ワンピースなど、身体と衣服の空間を意識したスキン シリーズを徐々に開発していき、アイテム展開の幅を広げていきました。

ニットは、様々な可能性がある技術です。生地をつくるところから始まり、同時に衣服を形作ることができる面白さがあります。

つまり、ニットは素材と編み方と造形、すべてに関わりながらデザインすることができるので、例えば、最近では表と裏の二層を同時に編む「二重編み」を活用し、編みの段階でパーツ同士を接結し、衣服の縫製工程を減らす試みにも取り組んでいます。テキスタイルと造形の両方からアプローチでき、表現の幅を広げていけるのがニットの魅力だと思います。

100年先というと遠い未来に感じますが、小さな視点、つまり目の前の仕事に向き合いながらも、その先に何が残っていくのかを考える、俯瞰の視点を常に大切にしています。

時代によって人々の暮らしや価値観は変わりますが、人間が根源的に持つ美しいという感覚は必ずあると思っていて。例えば、夕日や神社仏閣のように、時代に関わらず人が美しいと感じるものがありますよね。デザインでは、そうした普遍的な美しさを追求したいと思っています。

100年後、私はもうこの世にいないと思いますが、本当に美しいものは時代を超えて残っていく可能性がある。私は、美しさこそが最もサステナブルなことだと考えています。環境のために再生素材を使うことももちろん大切ですが、そもそもデザインそのものが美しくなければ長く生き続けることはできません。神社仏閣や教会などが長い時を生き続け、今も大切にされてるのも、美しいからこそだと感じています。

人間がつくる崇高な芸術やデザインには、人に「残したい」と思わせる力があります。そのように、人が本能的に美しいと感じるものを探していきたいと思う一方で、美術や技術、装飾性だけを追い求めたものは日常ではなかなか着る機会がありません。だからこそ、その美しさを日常の中で自然に纏える形へ落とし込んでいきたいと常日頃考えています。

柔軟性でしかないと思います。一貫したコンセプトは大切にしつつも、それに囚われすぎると新しいことに挑戦できなくなってしまう。だから一番大事にしているのは、好奇心と挑戦ですね。

つまり、何にでも対応できるデザイナーでありたいです。例えば、衣服をデザインする中で培った技術を車椅子や家具、空間デザインにも応用することができます。

個人的には、葛飾北斎やレオナルド・ダ・ヴィンチのような存在に憧れを持っていて、北斎はとにかく描くことを探求した画家で、風景画も描けば、人々の暮らしや静物画まで描き尽くしています。レオナルド・ダ・ヴィンチも絵画だけではなく、工学や都市計画、プロダクトのような領域まで手がけていますよね。

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ひとつの分野に限定されるよりも、自分の持っている能力をさまざまな領域へ展開し、応用していける人を魅力的だと感じます。自分の表現軸としてはブランドを持っていて、それ以外のクライアントワークにも、自分が身につけてきたデザイン力を応用できれば、表現できる幅はもっと広がっていきます。自分らしさを生かす美術の力というのは本来そういうものだと思いますし、応用美術として、これからも多様なことに挑戦していきたいですね。

何事も常に挑戦、 失敗を恐れずに好奇心を持って挑むことが1番大切です。社会にはたくさんの情報や評価が溢れている。簡単に言えば好き嫌い、良い悪いみたいな価値観が人それぞれありますが、自分が本当に良いと思ったものを信じて、やり続ける、それしかないと思うんです。

私もスキン シリーズをファッションショーで披露していた頃、「毎回同じで新しくない」とご意見をいただくこともありました。それも一つの意見だと受け止めつつも、私の中では、常に新しい表現に挑戦しているという実感がありましたので、強い信念を持って続けて取り組んできました。その気持ちを信じて続けた結果、メトロポリタン美術館に収蔵されるような素晴らしい機会にも恵まれたわけです。

今の若い世代を見ていると、周りの意見や評価を気にしすぎているように感じます。他人と比較せずに、自分の内側から湧き出てくるものに素直に向き合って取り組めば、面白いものが生まれるチャンスがある。 もちろん人の意見を完全にシャットダウンするのではなく、周りの声にも耳を傾けながら、自分が信じるものは大切にしてほしい。自分自身が喜びを感じられる仕事をすることが、結局は一番楽しく生き甲斐になりますし、だから、心から自分自身が素晴らしいと思うことを信じて続けてほしいです。

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