新しいテクノロジーであるAIの要素と人間性を融合して見せたかったのは、白いエロティシズム。
──MVにおける、あなたの代表作の一つに、1999年の『All Is Full of Love』があります。あのビデオでは、すでにAI的な要素と人間性の融合を描いてましたよね。『Cornucopia』よりずっと前から。
ミュージシャンの中には、新しいテクノロジーを敬遠する人も多い中で、あなたはずっとテクノロジーを積極的に取り入れていました。あのビデオの制作過程は、どのようなものだったのですか?
当時、クリス(・カニンガム)はロンドンで一番仲が良い友達で、よく一緒に遊んでたの。リチャード(・D・ジェームス /エイフェックス・ツイン)やレイラ・アラブ(プロデューサー、DJ)ともよくつるんでた。その頃すでに、クリスはすでにエイフェックス・ツインのビデオ「Come to Daddy」 を手掛けていて、あれがもう本当にすごい作品で、衝撃的だった。まさにアイコニックで、強烈で、心に焼きつくような作品だった。
だから私も彼とはいつか何かやりたいとは思っていたんだけど、ぴったりなプロジェクトが見つかるまで、ずっと待っていたの。もっと違う方向性で挑戦したいと思っていたから。
彼がポーティスヘッドと一緒に作ったビデオ 「Only You」 もすごく好きだった。とても感情的で、深みがあって。あれについて話したとき、彼の子ども時代に基づいていると言っていて、私はそこにすごく惹かれた。このビデオでも、もっと感情の深い主人公を描きたいって思っていて。彼って、そういう表現もできる人だから。もちろん、彼がエイフェックス・ツインと作ったビデオのいたずらっ子っぽさとか、トリックスター的な感性も大好きなんだけど。本当に独特で最高だったから。でもここでは、ちょっと違う方向を探していたの。
それで、彼の家に行った時、小さな日本の彫刻、象牙で作られたエロティックな“根付”をいくつか持って行って、彼に話したの「この曲はすごくシンプルだけど、それがすごくいいと思ってる」って。そのシンプルさが、私にとっては“真っ白なパレット”みたいでちょうどよかったし、同時に、この曲は“愛”と“欲望”が交わる場所についての歌でもある。どっちかだけじゃなくて、両方。だけど、それをよくある“ダーク”な表現にはしたくなかった。セックスってよく、ゴシックで黒っぽくて、どこか地下室で起きてるみたいなイメージで描かれることが多いでしょ。私が描きたかったのは、そういうのとは真逆のことで、“天国でのセックス”。
つまり、“白いエロティシズム”だった。たとえば、さっき話した日本の小さな像みたいに、でもそれが愛とかセックスで溶け出してるような、そんな感じにしたかった。それで、クリスが最初に出してきたアイディアを見たとき、最高!って思ったの。でも彼は「いや、まだダメだ。これじゃ満足できない」って言って(笑)。それから何ヶ月も待つことになって、「ねぇクリス、そろそろ……!」ってなってたのよね。そしてようやく彼が「これならいける。自分でも納得してる」持ってきた2つ目のアイディアは、最初のとはまったく違うものだった。そこからあのロボットたちの愛の世界が生まれたの。それが完璧だった。
ロボット同士が触れ合って、混ざり合って、“溶けていく”感じを表現している。しかもそこにエロスも感情も、同時に存在していた。その表現が、あまりに美しかった。エロティックな要素も、すごく巧みに、洗練されたかたちで織り込まれていて。本当に、ひとつ上のレベルに到達していたと思う。
──それでは最後に。『装苑』をご覧のみなさん、そしてファッション、デザイン、アート音楽など、未来のクリエイティブを担う若い世代に向けてアドバイスをいただけないでしょうか?
うーん………(しばらく考えて)結局、いつも同じことを言ってるんだけど、特に今はAIとかいろんなことが進んでる時代だからこそ、自分の声を見つけることが本当に大事だと思う。それから自分の視点を持つこと。それを信じて、貫くこと。結局、それが長い目で見て、一番強い武器になる。
マラソンみたいなもので、自分の軸を持って、5年、10年、20年っていう時間をかけて、自分の感覚に忠実に一貫していれば、ちゃんと伝わっていくから。それがやがて作品を通して滲み出てくる。だから“自分の声”を探して、それに誠実でいてほしいなって思う。それが私からのアドバイスかな。
──本当に素晴らしいお話をありがとうございました。
こちらこそ、ありがとう。とても楽しかったわ。バイバイ!
Björk
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