
漫画家、東村アキコさんの自伝的作品であり代表作『かくかくしかじか』が、待望の実写映画化(5月16日公開)。
恩師とのかけがえのない9年間を描く本作は、心の奥底にしまっていた大切な人との思い出が浮かび上がる、記憶のトリガーのよう。
そんな本作において、主人公・林明子の友人で、明子が日高先生と出会うきっかけを作った北見を演じた見上 愛さんと、後に人気漫画家となる明子と地元で出会い、やがて弟子になる佐藤を演じた畑 芽育さんに、映画の舞台裏と、自身にとっての恩師との大切な記憶、“先生”という存在についてお話していただきました。
photographs : Jun Tsuchiya (B.P.B.) / styling : Satsuki Shimoyama (Ai Mikami) , Kaori Kawasaki (Mei Hata) / hair & make up : Kenji Toyota (Ai Mikami), Yuki Murohashi (ROI,Mei Hata) / interview & text : SO-EN
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体当たりで関わってくれる人なんて、人生で一人出会えるかどうか。
──映画『かくかくしかじか』をどのようにご覧になりましたか?原作も読まれていれば、漫画と映画の比較で感じられたことも含めて教えてください。
見上 愛(以下、見上):本当に、みんな漫画から飛び出してきたみたいだなって思いました。皆さんが、漫画を読んで想像していたものをはるかに超えるお芝居をされていてすごく魅力的でした。
畑 芽育(以下、畑):私も原作『かくかくしかじか』が大好きでずっと読んでいたので、実写化されることにすごく期待感がありました。それで実際の映像を見てみたら、本当に素敵な役者さんたちが個性豊かなキャラクターを演じられていて、日高先生と明子の掛け合いを含めた会話や、会話がない時の表情も繊細に映し出されていたので、とても勉強になりました。
──日高先生の絵画教室には匂い立つような雰囲気があって、実写化するとこうなるんだ!という驚きがありました。実際、あの場所はどんな雰囲気でしたか?
見上:あの場所、私が高校生の頃に通っていた塾の合宿所に似ているんです。
畑:えっ、あの木目調の感じですか?
見上:ああいう木のおうちで、 先生がお昼の時間にお茶を淹れてくれたり、たまにご飯を作ってくれたところも似ていて。行ったことがないはずなのに、すごく懐かしいと感じる雰囲気がある場所でした。
畑:私は絵画教室での撮影が長かったわけではないのですが、独特な雰囲気を感じ取っていました。少し張り詰めた緊張感があったので、デッサンや絵の勉強ってものすごい集中力を使うのだなと。でも穏やかで、あの場所にしかない空気感でした。

──日高先生と明子のやりとりがお二人にどう写っていたのかも、とても気になります。
見上:お互いのことを心の奥深くで思っていて、羨ましくなるような関係性だと思いました。 こんな風に体当たりで関わってくれる人なんて、人生で一人出会えるかどうか。そういう人に出会えたお互いがすごく幸せ者だな、と感じながら見ていました。
畑:私も、羨ましさが一番あるかもしれないです。ふとした瞬間に見える先生の優しさや温かさって、父親ともまた違うもの。言葉を介さずとも伝わるものがありました。本当に、人生においてそんな存在の人が一人でもいたら素敵です。 恩師や恩人、家族含め、自分のことを応援してくれたり、支えてくれる人を大事にしたいなと改めて感じましたし、自分も誰かにとってのそういう存在でいられたらいいなと思いました。

映画『かくかくしかじか』より
──お二人には、明子にとっての日高先生のような恩師はいらっしゃるのでしょうか?
見上:まさに、先ほどお話しした塾の先生かなと思います。その先生も、生徒一人ひとりと深く関わってくれるような先生で、 厳しいことも言うけれど、それが本当に生徒のためを思って言ってくれていることが伝わるんです。自分が進路を選ぶ時や大学を受ける時も「できることは何でもするよ」と、どんな時も見守っていただいたという感覚です。
畑:いいなぁ、憧れます。
見上:卒業してからは、たまに先生のお手伝いに行っていました。高校1年生の頃から通っていた場所で、今でも先生とは一緒にご飯を食べたりしています。長く付き合っていただいていることも含めて、すごくありがたいなと思っています。
畑:私は中・高時代に受けていた事務所の演技レッスンの先生が印象に残っています。その先生がかけてくれた言葉やお芝居へのアプローチの仕方は、本当に勉強になりました。
あとは、私の性格やメンタル面も気にかけて寄り添ってくれるような先生で、何も言わずとも見透かされているような、不思議な方でした。いまだに、お芝居で立ち止まってしまった時や頭を悩ませた時は、当時のレッスンノートを見返しながら脱却する道を探します。その先生から学んだことは、今もずっと生かされています。勉強会みたいなお芝居のレッスンも本当に楽しくて、青春でした。

──そんなふうに、出会えてよかったと思えるような深い関係を他者と結んでいくために必要なものって一体なんでしょう・・・?
見上:私は、壁を作ったり殻に閉じこもったりして、自分を守った状態のまま、相手のことだけ見せてくださいって言うのはおこがましいと考えていて、「この人とはもしかしたら今後、長い関係性を築けるかもしれない」と思ったら、なるべく先にさらけ出すようにします。
畑:わ、本当に全く同じことを考えていました!私も、自己開示することを心がけています。あまりにさらけ出しすぎてもよくないですが、大事ですよね。自分のほうから見せていくこと。
見上:「開いても大丈夫だよ!」って先に見せてしまうというか、その結果、あんまり仲良くなれなかったかも、ごめんなさい!みたいなこともありますが(笑)。

――この作品は、東村さんが大切な恩師のことを描いた漫画の映画化で、自ら脚本も手がけられるなど、並々ならぬ思いが込められているものです。撮影中、そうした東村さんの「本気」を感じるような出来事はありましたか?
畑:東村先生、たくさん現場に来てくださっていましたね。
見上:そうでしたね。ロケ地の宮崎で様々なつながりがあるから、ロケハンに行ったり、絵画教室の撮影をした場所も、ゆかりがあるところだと聞きました。
東村先生の縁で宮崎の方々がお手伝いに来てくださって、お弁当にプラスして伊勢海老のお味噌汁を作っていただいたりと、現場でたくさんの温かさを感じました。先生はもちろん、先生の周りの方々の「この映画を支えていくぞ」「いい映画にしたい」という思いが、すごく伝わってきました。
マンゴーの差し入れもいただきました。「どんどん食べて」って東村先生自ら、みんなに切って振る舞ってくださっていたのもよく覚えています。
畑: 私は、東村先生の育児エッセイ漫画『ママはテンパリスト』が大好きで、それをお伝えしたら、ごっちゃん(作品に登場する東村さんのご子息)の今のことを教えてもらったのが、ファンとして嬉しかったです(笑)。
あとは見上さんが言ってくださったように本当に温かい現場で、チーム全体にいい空気が流れていました。こういう現場っていいな、私もこんな現場の空気を作る一人になりたいと思いました。
見上:衣装あわせにも先生がいらしていて、その時「北見に似てるね」と言っていただきました。

映画『かくかくしかじか』より
──それはすごいですね。衣装あわせでそれぞれの衣装をご覧になった時は、どんな印象を受けましたか?
見上:衣装の多くが古着で、今、またリバイバルしているタイトなショート丈のトップや、北見はエスニックな雰囲気のアイテムもありました。衣装だけでも時代を感じることができました。
畑:佐藤は基本はパンツスタイルで、そこに少し奇抜なシャツを合わせたり。衣装から役について得られるヒントは大きかったです。衣装、全体的にかわいかったですよね!
見上:かわいかった!色鮮やかで。

映画『かくかくしかじか』より
──関連してお伺いしたいのですが、普段の衣装あわせは、お二人はどんな姿勢で臨んでいらっしゃるのでしょうか?積極的に意見を伝えるのか、あるいは用意されたものからイメージを受け取られていくのか。
見上:基本的には、用意していただいた衣装から役のヒントをいただこうという気持ちなのですが、監督やスタイリストさんによっては意見を聞いてくださるので、そういう時はアイディアを出します。今まで、衣装に私服を使ってもらったことも結構あって……。
畑:えーーすごい!
見上:できる限り衣装あわせは、自分のイメージでその役っぽい色やテイストの私服を着ていくんです。「あれ、こういうイメージじゃない?」と監督が言ってくださることもあって、スタイリストさんから(私服を)貸してほしいと言われる流れが何度かありました。北見の衣装あわせは、古着っぽい感じで行った記憶があります。
畑: かっこいい!私は着替えが得意ではなくて、衣装あわせに少し苦手意識があったのですが、見上さんの、役のイメージを持って衣装あわせに挑むっていうのがカッコ良すぎて、私も絶対これからまねしようと思いました!
見上:すっごい量の服を着るから、衣装あわせって、確かに「服酔い」しちゃいますよね。
畑:します。あまりに着すぎて、どれがいいかわからなくなったりもして。私も、プロの皆さんにお任せしつつ、どっちが好み?とか、キャラクター的にどう?と聞いてくださった時だけ、ちょこっと、こんな感じの思いを持っていますと伝えています。


──この映画は、夢を追いかける若い人の話としても見ることができますが、日高先生のシンプルな、ひたすらに「描け!」と繰り返すメッセージは、お二人にはどのように響きましたか?
畑:ものすごく理路整然と何かを教えてもらって、論破もされながらロジカルに影響を受けたい時もあれば、ああいう日高先生のような「とにかくやれ!」というパワープレイのアドバイスが欲しい時もあって、その時どきではあるのですが、後者の、勢いで背中を押されるのは意外と刺さるんですよね。悩んでいる時は特に勢いのある助言が原動力になることが多いので、日高先生みたいな人が応援してくれたら、重い腰も上がる気がします。あのパワーでこられたら「はい、やります〜」ってならざるを得ない(笑)。
見上:本当だね(笑)。私は、学生時代に根拠のない自信がすごくあったんです。だからこそ何も考えずに前進できたのですが、社会人になってから、経験が良くも悪くも道を狭めていく感覚があって、大人になった今こそ、日高先生のような人に背中を押してもらえたらいいなって感じます。明子がなんの根拠もないのに漫画家になれるって自信を持っていたように、若い時ってそういうものだと思うんですよね。それをどこで卒業するかという感じなのですが、その「根拠のない自信」を取り戻せるような先生に、今、出会いたいです。
Ai Mikami
2000年生まれ、東京都出身。2019年のデビュー以降、映画、ドラマ、CMと活躍の幅を広げる。近年の出演作に主演映画『不死身ラヴァーズ』、Netflix「恋愛バトルロワイヤル」、ドラマ「春になったら」「マイダイアリー」「119 エマージェンシーコール」、大河ドラマ「光る君へ」など。また、’26年度前期連続テレビ小説「風、薫る」では、ヒロインの一ノ瀬りんを演じる。待機作に、映画『国宝』(6月6日公開)。
見上さん着用:シャツ、ビスチェ 各 ¥9,900、スカート ¥16,500、ネックレス ¥8,800 全てラベルエチュード(labelleetude_info@auntierosa.com)/リング ¥13,200 ソワリー(TEL 06-6377-6711)
Mei Hata
2002年生まれ、東京都出身。1歳の頃から芸能活動をスタート。主な出演作に、ドラマ・映画『99.9-刑事専門弁護士-』、ドラマ「最高の生徒〜余命1年のラストダンス〜」、「女子高生、僧になる。」、「若草物語―恋する姉妹と恋せぬ私―」、「天久鷹央の推理カルテ」、映画『なのに、千輝くんが甘すぎる。』、主演作『うちの弟どもがすみません』などに出演。待機作に、映画『君がトクベツ』(6月20日公開)、『事故物件ゾク 恐い間取り』(7月25日公開)。
畑さん着用:ジャケット ¥43,000、スカート ¥35,000 ティーチ(info@teechi.jp )、イアカフ ¥29,700 リューク(info@rieuk.com )、リング ¥148,500 PRMAL(support@prmal.com )/その他 スタイリスト私物
『かくかくしかじか』

漫画家になる夢を持つぐうたら高校生の林 明子。今や人気漫画家となった明子には、宮崎の地元で出会った、スパルタ絵画教師の日高健三先生との戦いと青春の思い出がある。先生が望んだ二人の未来、明子が先生についた嘘、言えなかった本音。宮崎、石川、東京を舞台に、人生で大事な9年間の日々が明かされる。『海月姫』、『東京タラレバ娘』などの人気漫画家、東村アキコの傑作漫画の待望の実写映画化。
原作:東村アキコ、監督:関 和亮、脚本:東村アキコ、伊達さん
出演:永野芽郁、大泉 洋、見上 愛、畑 芽育、大森南朋ほか
5月16日(金)より全国公開。ワーナー・ブラザース映画配給。
©︎東村アキコ/集英社 ©︎2025 映画「かくかくしかじか」製作委員会