
5 月 1 日の日米同時公開後、全世界興行収入 1 位を記録し、日本でも空前の大ヒットとなっている『プラダを着た悪魔2』。「悪魔のような編集長」、ミランダ・プリーストリーとアンディ・サックス、二人の20年ぶりの物語は、世代を超えて大きな反響を呼んでいる。
本作で衣装デザイン総指揮を務めたのは、前作で衣装デザイナーのパトリシア・フィールドとタッグを組んでいたモリー・ロジャース。20年という時の流れを、地続きのリアリティとして表現した彼女のスタイリングは、いかにして生まれたのか? 「装苑オンライン」では、作品の世界観を衣装で支えたモリーさんへの書面インタビューを敢行。
キャラクターの進化と不変を同時に物語る衣装は「熟考」と「直感」、そしてキャストやデザイナー、スタッフとの「協働」によって形作られていました。その舞台裏を、モリーさん自身の言葉で解き明かします。衣装の仕事を志す日本の若い世代に向けたメッセージも。
記事の中には映画の内容に触れる記述がございます。ネタバレを気にされる方は、鑑賞後にぜひお楽しみください!
interview & text : SO-EN
モードを扱いながら、キャラクターを語るために
── 『プラダを着た悪魔2』の製作が決まり、衣装デザイン総指揮のオファーを受けた際、どのようなことを感じられましたか?期待や、もしプレッシャーに感じられたことなどもあれば教えてください。
モリー・ロジャース(以下、ロジャース):オファーの電話を受けた時、本当に興奮しました。パトリシア・フィールドが前作で築き上げた伝統を受け継げることを、心から嬉しく感じたのです。私は、ただひたすらベストを尽くしたいと願っていました──ライバルは自分自身だけでしたから。喜びを持って仕事に取り組みたいので、外部からのプレッシャーを感じながら仕事をすることはできません。

── モリーさんの衣装は、前作でパトリシア・フィールドさんが作り上げた強固なキャラクター性と作品のトーンを大事にしつつ現代のリアリティを取り入れていました。流動的であるモードが、変化しつつも変わらずに人間性を物語っていると感じ、非常に刺激的でした。
ロジャース:そのようなお褒めの言葉をいただき、ありがとうございます。パトリシア・フィールドは、前作で時代を超越した衣装を構築するよう尽力していたので、私もその部分を目指しました。つまり、「2026年春のルック12」といったように、特定の時期を示すことができないようなスタイリングにしたかったのです。
アンディがセルリアンブルーのベストにいたるまで
── とてもよくそのことが伝わってきました。アンディ、ミランダ、エミリーという3人の女性について詳しくお伺いします。
まず、アンディについて。アンディは『アニー・ホール』(’77年)とキャサリン・ヘップバーンが融合したような「フェミニン・メンズウェア」スタイルがテーマになったと聞いていますが、そのクラシックベースのスタイルを現代風に見せつつ、彼女独自の個性を保つために、どのようなスタイリングのテクニックを用いたのでしょうか?


『プラダを着た悪魔2』アンディのデザイン画。右は、ミラノの場面でアンディが着用。ジョルジオ アルマーニ プリヴェの2024年秋コレクションから、メンズウェアを彷彿とさせる黒のベルベットパンツにビーズをあしらったストライプのサスペンダーを合わせたルック。

ロジャース:アンディのスタイルは、リアルなプロセスから生まれています。アン・ハサウェイとは、他のどの俳優よりも頻繁に打ち合わせを行いました。なぜなら、アンディは成長の軌跡が最も長いキャラクターだったからです。
彼女は20年の間に、記者として世界中を飛び回るニューヨーカーとなり、キャリアにおいて飛躍的な成長を遂げていました。私たちは、現代的なアイテムを用いながら、可能な限りメンズウェアのさりげないオマージュを散りばめることで、その成長を表現する必要がありました。
── 映画を観た人が皆、感動するのは、最後のアンディの装いです。前作でミランダの印象的なモノローグを引き出した「セルリアンブルーのセーター」が最後の場面で再び登場します。ただ、前作ではクルーネックの長袖セーターでしたが、今回は、ほつれ加工のVネックベストになっていましたね。そこにはどのようなストーリーがあったのでしょうか?
ロジャース:脚本を初めて読み終えた時、私はあのセルリアンブルーのセーターを登場させるべきだと直感しました。まるでアンディが長年大切に持ち続けている、捨てられないお気に入りのTシャツのように、かなり擦り切れた感じにしたかったのです。そのセーターにぴったりなのが、最後のシーンでした。それでスタジオのアーカイブに問い合わせると、オリジナルのセーターがまだ残っていたんです。ただし、皆さんご存じのように前面にコーンチャウダーのシミがついていました。
そこで似たようなセーターを探し出したのですが、フィッティングの際にアン(・ハサウェイ)が、袖を切り落としたのです。そうして長袖のセーターが、アンディの装いのキーアイテムになっていたようなメンズウェア風のベストになりました。衣装が、キャラクターが歩んだ変遷と完璧に合致するものになったのです。

── アンディは今作を通しても変貌を遂げていきます。初めはより記者らしく、次第にメンズライクな要素を伴ったモードを着こなし、そしてまた最後にセルリアンブルーのベストで自分らしさにかえるというような変化です。アンディの変化を描く衣装の設計を教えていただけますか。
さらに、ジェマ・ウィンのゴールドのトグルネックレス、タムシュカのパールネックレス、コーチのメッセンジャーバッグといった、彼女にとって不変のワードローブが物語ることについても伺えますか?
ロジャース:それはまさしく、「彼女のスタイルを確立していく旅」でした。最初はジャーナリズムの世界に根ざしていましたが、ナイジェルの影響や、ハンプトンズのパーティ、ミラノ・ファッションウィークのイベントでの『ランウェイ』のクローゼットへのアクセスを通じて、そのスタイルは進化していきます。
言っていただいたゴールドのトグルネックレスは、実は時計のチェーンなんです。私たちにとってそれは、ニュースルームや、フェミニンなメンズウェアとのつながりを感じさせるものでした。真珠のネックレスはアンが気に入っていたものですが、同時に、彼女はアンディが後々それをあまり身につけなくなるだろうとも考えていました。コーチのメッセンジャーバッグは、完璧なアイテムです!実用的で、本物感があり、最高に柔らかいレザーでした。彼女が持った途端、このバッグが正解だと確信しましたね。
ミランダの衣装が語る感情、オマージュ、
卓越した共同作業

── ミランダについてもお伺いします。威厳を感じさせる彼女のスタイルを表すキーワードを教えて下さい。
ロジャース:クリーン、モダンなシルエット、シャープなラペル。袖はロールアップせずにたくし上げること。くっきりした肩のライン、存在感のあるジュエリー。めまぐるしいスピードで流れる世界を軽やかに駆け抜ける服。

ミランダのデザイン画。印象的なドリス ヴァン ノッテンのタッセルジャケット。
── アーヴの誕生日のシーンや『ランウェイ』のミラノのガラ・パーティ、「最後の晩餐」の前でのディナーなど、ミランダが煌びやかに装う重要な場面で、彼女にとって感傷的にならざるを得ない出来事や、心を乱されることが起こりますね。衣装は、ミランダの心情をどのように表現していたのでしょうか?
ロジャース:アーヴの誕生パーティでミランダが装っていたラインストーンのヴィンテージのつけ衿は、偉大なエディター、ダイアナ・ヴリーランド※ へのオマージュでした。
ランウェイのガラでは、宝石をあしらったジョルジオ アルマーニ プリヴェのスーツを選んでいます。これは華やかな雰囲気を演出するだけでなく、イタリアのデザイナーたちを讃えるものです。
ミラノのシーンで彼女の内省的な気分を反映していたのは、ジョルジオ アルマーニ プリヴェのコートと、ルレックス®︎(Lurex®︎)のブラウスです。私は、濡れて煌めいた街路を彷彿とさせるイブニングルックが好きです。それは映像美に作用するだけでなく、感情的な質感を加えてくれますから。

ミランダが着用したジョルジオ アルマーニ プリヴェのコートと、ルレックス®︎のボウブラウスのルックのデザイン画。
※Diana Vreeland 1903年〜1989年。約40年にわたり第一線で活躍した伝説の編集者。1937年より『ハーパース・バザー』に携わり、ファッションエディターに。’62年『ヴォーグ』 に引き抜かれて編集長となる。’72年、現在は「メットガラ」で有名なニューヨークのメトロポリタン美術館の衣装研究所顧問に。赤色を愛し、パーク・アヴェニューにある自宅の部屋が、壁からクッションに至るまで赤色に彩られていたのは有名な話。

── ミランダの最初の場面で着用された深紅のボールガウン(写真上)は、現バレンシアガのクリエイティブ・ディレクター、ピエールパオロ・ピッチョーリが本作のためにデザインを手がけたものだそうですね。制作過程を教えていただけますか?
ロジャース:それは本当に楽しい瞬間でした!メリル(・ストリープ)も私も、ミランダのカムバックにふさわしい色はただ一つ、深紅だと感じていました。パリから生地見本が届き、ピエールパオロ・ピッチョーリが私たちと一緒に制作に携わってくれることになったのです。
メリル自身がバレンシアガのアーカイブからインスピレーションを得て、アイデアスケッチまで描いてくれました。彼女は、ファッション誌の撮影のような遊び心を加えるために、片袖を長くするアシンメトリーなデザインを希望しました。パリのチームは、あのボールガウンのフィッティングのため、二度もニューヨークまで来てくれたのです。
あの生地は息をのむほど素晴らしく、私がこれまで見た中で最も軽く、扱いやすいタフタでした。メリルの特段のお気に入りは、首元、肩、ヘアスタイルが美しく引き立つネックラインです。

特別なセンスを描く衣装の設計
── エミリーに関してはいかがでしょうか。エミリーはファッションへの愛と理解があり、劇中で、彼女が働くディオールのアイテムはもちろんのこと、マックイーンやリック オウエンス、ジャンポール・ゴルチエのアーカイブといった尖ったブランドのチョイスを行い、魅力的にスタイリングしています。ブランドのチョイスはどのような基準で行われましたか?
ロジャース:彼女は、登場人物の中で最もファッションセンスが際立っています。前作で、エミリーはリック オウエンスやヴィヴィアン・ウエストウッド、メゾン マルジェラ(当時はメゾン マルタン マルジェラ)を多く着用していました。そのエッジの効いた美学を引き継ぎつつ、彼女がディオールで働いているという立場も強調したかったのです。それがブランドを選ぶ際の基準になりました。
── エミリーのための特注衣装はありましたか?
ロジャース:エミリーがドナテラ・ヴェルサーチとランチしている時に着ている、美しいウールの千鳥格子柄のスパンコールスーツは、ディオールのジョナサン・アンダーソンが制作してくれたものです。彼はガラ用のガウンもデザインしましたが、完成した映画では、エミリーがレッドカーペットに登場することはありませんでした。

── パーティなどのシーンでは、大勢の華やかなキャストの中でもアンディやミランダ、エミリーといった主要人物を際立たせる必要があると思います。その存在感を印象づけるため、衣装はどのように設計されたのでしょうか?
ロジャース:そうした大規模なシーンでは、ミランダの衣装が全体のアートディレクションを左右します。たとえば、アーヴのパーティはもともとビジネス向けのカクテルパーティーという設定だったのですが、彼女の印象的な衿のおかげで、より格調高い雰囲気になりました。その時、アンはラバンヌのブルーのドレス、エミリーはリック オウエンスのダメージ加工を施した金色レザーのコラムドレス(細身のストレートシルエットのドレス)をまとい、配色に完璧にフィットするようにしました。重要なのは、統一感を保ちつつ、焦点を明確にすることです。
衣装を志す若い人たちへ
── 昨今、日本では衣装デザイナーを志す若い服飾学生が増加傾向にあります。そんな若者たちにアドバイスをいただけたら嬉しいです。
ロジャース:教育の重要性は認めますが、何よりも大切なのは、この業界でどんな形でも実際に働くことです。そうして一から学んでください。そして旅をし、本を読み、広い世界から影響を受けてください。外に出て思い切って行動もしてください。安全な道を選ばないこと。自分自身に挑戦し、探求し、失敗を恐れないでくださいね。
── 貴重なお話をありがとうございます。最後に伺います。モリーさんご自身が衣装デザイナーとして最も大切にしていることはなんでしょうか?
ロジャース:私が最も大切にしているのは、人々の思考や感情と関わり合い、物語を表現する手助けをすることです。私は人が大好きで、人々を観察するのが大好きです。ここ、ニューヨークの街角にいる一人一人の方々からインスピレーションを受けています。ダイアナ・ヴリーランドがかつて言ったように「目は旅をしなければならない(The eye has to travel)」のです。
Molly Rogers 衣装デザイナー。パトリシア・フィールドのクリエイティブパートナーとして、長年、共に仕事をしてきた。「セックス・アンド・ザ・シテ」シリーズや「アグリー・ベティ」『プラダを着た悪魔』に携わる。
『プラダを着た悪魔2』

監督:デヴィッド・フランケル
脚本:アライン・ブロッシュ・マッケンナ
出演:メリル・ストリープ、アン・ハサウェイ、エミリー・ブラント、スタンリー・トゥッチ、トレイシー・トムズ、ティボー・フェルドマン、ケネス・ブラナー、シモーヌ・アシュリー、ジャスティン・セロー、ルーシー・リュー、パトリック・ブラモール、ケイレブ・ヒーロン、ヘレン・J・シェン、ポーリーン・シャラメ、B・J・ノヴァク、コンラッド・リカモラ
大ヒット公開中。ウォルト・ディズニー・ジャパン配給。
© 2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.
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