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上白石萌歌の
ぐるぐるまわる、ときめきめぐり
Vol.19  音楽プロデューサー Yaffle

上白石萌歌さんがジャンルを問わず、今気になる人を訪ねて循環問題やサスティナブルをキーワードにお話を伺う連載。今回は上白石さんのもう一つの顔、ミュージシャンのadieuに曲のアレンジや楽曲提供をするYaffleさん。初めての出会いは高校生の時の「ナラタージュ」のレコーディング。当時のレコーディング秘話も聞けそうです。

Yaffleさんのスタジオへ

上白石萌歌(以下 上白石) ここがYaffleさんのスタジオですね。この部屋で名曲が生まれるんだ!

Yaffle そう、ほぼここで。

上白石 Yaffleさんとは16、17歳ぐらいの時に初めてご一緒しました。小袋さん(音楽プロデューサーで音楽レーベル「TOKA」代表の小袋成彬さん)と二人でいらして。制服でレコーディングに行ったんですよ。

Yaffle そうそう高校を卒業するくらいのタイミングだったね。

上白石 映画「ナラタージュ」で主人公に制服のシーンがあったから、その方が等身大で歌えるかなって。その時のYaffleさんはちょっと怖い印象でした。(笑)

Yaffle 僕たちも25、6歳のときで、まだこの業界になれていなくて緊張してたんだよ。

上白石 そもそも音楽をやり始めたのは、音大卒業後すぐに?

Yaffle 音楽については似たようなことは学生の時からやっていたけど、大学時代はなんか違う方向に行きそうになって。会社に就職して、ひたすら曲を書き続けるみたいな。そういう進路がはっきりしている方が学校側も良いと思ってる気がしてたんだよね。

上白石 手に職をつける方が、学校的にもいいんですね。作曲学科ですよね?どんな授業をしていたんですか?

Yaffle 最終的には作曲家になるということなんだけど、大学の非常勤講師を経てゴールは教授を目指す人もいるし、あとは映画音楽を手がけるとか。僕は大学時代からパソコンで曲をつくってたよ。それで映像とかCM制作をやるようになった。でも本当は歌が好きだったから、「これでいいのかな」って考えていたところに小袋があらわれた。(笑)

音楽を仕事にするということ

上白石 小袋さんとはどういう出会いだったんですか?

Yaffle 大学の時にジャズをやっていて、ちょうどその頃からこの部屋を改装してスタジオにしていて、まだこんな感じじゃなくてドラムとか楽器がたくさん置いてあって。ジャズ好きな同級生の仲間が夜中に集まってやるみたいな。その仲間のドラムの人が小袋の高校の友達だったんだよね。

上白石 そこから伝説がはじまったんですね。

Yaffle 小袋は立教大学で経営を学んでいたから、マーケティングがとか価値を高めるのが大事とか昔から言ってた。すごいよね。独立して自分たちでレーベル作ったんだけど、その頃アイチューンズストアに、自分たちでも曲があげられるようなチューンコアみたいなサービスがでてきて、CDを作らないで配信だけでやるようなレーベルがたくさんあった。昔より簡単に曲を出せるみたいなね。そういう流れで自分たちもやってたんだ。

上白石 学校はいばらの道だったんですね。

Yaffle 学校もどう扱ったらいいかわからなかったのかもしれないね。そういえば2年ぐらいまえに、母校で特別講義やったんだよね。

上白石 どんな事を教えたんですか? 

Yaffle キャリアで悩んでいる学生が多いから、講義も音楽のことはYouTubeで開けばわかるから、進路のこととかを伝えたよ。そもそもレールがないし、そうじゃないことを目指す人もいるからね。

上白石 音大にいながらも自分の意志で動いていくしかないんですね。

Yaffle 突然学生に“君の進路は自分自身で掴み取ろう”と言っても、どうしていいかわからない人が多いと思う。授業用に音楽業界の会社の名前をリストアップして、最終的に目指したい会社に行くためにはこう攻めると良いよって話もしたよ。

上白石 こうしたらこうなれますよという流れって、専門家じゃないとわからないところはありますよね。

Yaffle どこからはいっても最終的に頂点に行く、という考え方もあるし。行きたい場所には決まったところから入らないといけない場合もある。ミュージシャンに関して言えば、昔はデビューできる人はほんの一握り。いまは違うけれどね。

上白石 人が多いですよね。役者も音楽をやるひとも、誰かに認められてなるものではないし、そう思うとどんどん人数は増えますよね。

“あの頃の萌歌ちゃんはどう考えていた?”

Yaffle 萌歌ちゃんはこの世界でやっていこうと、どのタイミングで腹くくった(笑)の?

上白石 Yaffleさんと出会った頃はまだ学生で、この仕事やっていくのかなってぼんやりした感じはあったけれど。

Yaffle いろいろあるけどって考えながら大学に入って?

上白石 大学に行きたいという思いはずっと昔からありました。ただ、当時はあまり自分の将来をイメージできていなかったので、腹くくってこの仕事やっていくと実感したのは18歳ぐらいの時。そう思うと、自分のキャリアの中で、Yaffleさんと出会ったのは、10代の半ばぐらいだから早かったですね。10代から自分のこと知ってくれている人は、本当に限られていて稀有です。お芝居の現場って、3か月ごとに人が変わったりするから、何年も通して一緒にものを作っている人はなかなかいなくて。不思議なご縁だなって思います。

Yaffle 映画の世界を見ていると、3か月ずっと一緒だから人間関係がぎゅっと凝縮されているでしょ。

上白石 でも3か月ですぐ解散だから、すごく不思議。濃度があるんだけど、あんなに仲良かったのにさっと離れて行ってしまう。ちょっと失恋みたいな感覚。だからいろんな出会いはあるけど、Yaffleさんのように長く続くご縁にはホッとする。ホームに戻ったみたいな気がして。

Yaffleさんの心地よいディレクション

上白石 この前、初めてYaffleさん作曲の「背中」っていう曲をリリースしたんですよね。私あの曲大好きです。自分の曲は全部大事だけど、自分の今のリズムとか感覚に近い曲だなって。この場所で生まれたんですか?

Yaffle そう、ここで。いろんな人が関わって出来るまで長かったね。でも結果とても良かった。

上白石 MVにも出ていただいてありがとうございます。毎回レコーディングに立ち会ってくださるんですが、ディレクションがとても心地よくて。褒めちゃっていいです?(笑)

Yaffle 褒めて!(笑)

上白石 長くやっている安心感もあるんですけど、的確で端的。いろいろ見透かされている気もして・・・。以前「旅立ち」のレコーディングのとき、“今どんなテンション?”って聞かれたのを覚えているんですけど、歌っている人の心境まで気にかけてくれる人はなかなかいないと思うんです。

Yaffle 逆に自分以外のディレクションをみたことないから、萌歌ちゃんの方が詳しいと思うよ。

上白石 いろんなディレクションの方法があるけど、歌っている人の内面と照らし合わせて聴いてくれているんだなって。

Yaffle ディレクションしている人も歌っている人も、求める結果は同じで「いいものを作りたい」じゃない。こうしたらより良くなるというのを、どのレバーを引いて伝えればいいかって考えてる。ものすごく音響的なことを言って伝えてうまくいく人もいるし、そういうことを言うと逆に気にしてしまってダメとかね。

上白石 私、多分そっちかな。

さまざまな人へのそれぞれのディレクション

Yaffle 萌歌ちゃんに伝えるときは、こうなってほしいという状態を作るために、どういう感情を引き出せばいいかを大事にしたかな。それも会話でのコミュニケーションが大事になってくるんだけど。

上白石 それは人によって全然違いますよね。それを読み取って、“この人はこのレバー”って出来るのがすごいですよね。いろんな人に指示したりアレンジしたり、どのように相手のことを見ているんですか?

Yaffle もともと人をコントロールをしようと思っていないかもね。ただディレクションするうえで、あまりよくないと思っているのは、録る前にみなまですべて言ってしまうこと。

上白石 録る前に思っていることをすべて伝えてしまうより、一旦ちょっとやってみようかという?

Yaffle そう。言うとしても、ちょっとした感情のことや実務的なこと。むかしテープで録っていた時は制限もあったけど、今はパソコンだから納得いくまで何回やってもいいし。声が枯れちゃわない範囲で。その人にとっての正解って他の人にはわからないじゃない。ベストを尽くすってよく言うけど、その人のベストが上限値50だとすると、もう50出ているのに何回もくり返したり。その逆でこの人まだまだいけるのに、自分がわかってあげてないということもある。

上白石 関係が浅いとそこを図るのは難しいですね。

Yaffle 初めての人だと比較ができないから難しいね。だけど決断は早くする。例えばAかBのどちらかに決めなければなならない時、どっちかに決めても間違った選択肢はないから決めた後その選択からどのように良いものを作るか?を考える。いい方向に持って行ける方法は必ずあると思っているから。

上白石 だから信じられるんです。YaffleさんがOKと言えば大丈夫なんだなって。そこがいろんな人が信頼しているところなんですね。

Yaffle Bは絶対だめじゃないけどAでいこうって、そこを濁しているとどんどん責任とれなくなってくるかな。

上白石 それをだれより先に判断するって大変なんだろうなって思います。本人にしかわからないこともきっとあるし、俯瞰でしかわからないこともある。それを思うと宅録でやる人はすごいですね。行き詰まったりしないのかな。自分がいいと思ったことが絶対にいいとは限らないじゃないですか。ある程度の客観はどんなものであっても大事ですし。

レゴのように積み重ねて作る曲

上白石 某音楽番組で、あるミュージシャンが“今っぽさとか令和っぽさを取り入れるようにしています”と言っていたのですが、Yaffleさんが思う今っぽさってどんなことですか?Yaffleさんがアレンジすると、もとの骨組みより世界が広がって、より神聖な音楽になると思うんですが、どういう風に肉付けをしていくんだろうなって。

Yaffle 音楽にも文脈というのはあると思っていて、何もない状態で新しい音楽はできない。だから前からあるものが、どういう文脈できているかっていうのをある程度分かっていないといけない。それと、よく言うのはテクスチャーが大事だということ。映画だったらあらすじみたいな大ざっぱなストーリーがあって、例えば恋愛映画だと、出会って、苦難があって、最後は結ばれるという。

上白石 型は決まってきますよね。

Yaffle 全体的にブロック化して音を組み立てるって言うのが自分としては今っぽいと思っている。例えばレゴを組み立てていくイメージ。一筆書きみたいにすらすら書いていくっていうのはコンサバティブな音楽の型だと思っていて。adieuとかもそんなにブロックっぽくとらえてないかもしれないけど、曲の中で結構反復が続いたりしてるでしょう。そこがそういう部分。

上白石 特に小袋さんの曲とかそうですね。

Yaffle 曲自体の構造は流れているんだけど、後ろのアレンジのテクスチャーは実は、AがBになってCになるというよりは、Aの上にA+がのっていてという感覚。構造の遠近感が伴奏とは違ってみんなブロックの一部になっていて。その平等な感じが今っぽいんだろうな。

上白石 前にユーミンさんにお会いしたときに、adieuのことを“聴いてますよ。すごくアンビエントな音楽ね”って言ってくださって。それがすごく嬉しくて。そういうことですよね。乖離してないっていうか、歌に音楽や楽器がついてきている感じが。

Yaffle カラオケと歌みたいな感じにならないようにしていく。使うレゴの数は少なく、積み方で広い世界を見せていく感じね。

上白石 音数が少ないから難しいですよね。歌っていて誰も助けてくれない、ドラムもギターも。私が音を刻まなきゃって。

Yaffle それはある意味声が一番聞こえてくる。僕はそれがいいと思ってるんだよね。

上白石 デモよりも音が削がれているというか余計なものがなくなる感覚があって、シンプルになることで見せたいものがはっきりするような気がします。

あの時の声で歌うあの時の歌の良さ

Yaffle 歌は、歌ってもらわないとわからないところがあるから、とりあえず一回歌ってもらうんだけど、すごくストイックになって歌いづらいときもあるでしょう。いろいろやってみて、ここは歌だけでもグッとくるからむしろ他のところをレスしようとかという場合もあるね。

上白石 絵も、最初のひと筆よりも最後どこで終わらせるかの方が難しいらしいです。アレンジもそうなのかな。ここにもう一音足すとか、最後の判断が難しそう。

Yaffle 録音でパッケージに一度収めなければいけないから一旦切っているけど、あんまりシビアに考えすぎずにと思っている。歌はどんどん変わっていくから。

上白石 声も歌い方も変わっていきますよね。私も今「ナラタージュ」を聴いたら、きっと自分の声が幼いって思います。でもその当時の歌はその時しか歌えないし、今は今しか歌えない。そこも魅力だと思います。歌も変わっていくんですね。

Yaffle その時の一番良かった状態を、パッケージ化して包むってことだね。曲って概念だから、それが進化すればいいんだなって。だけどどこで作業を止めるかっていうのはいつも悩む。思いつかなくなったからな。

声も一つの楽器と考えて

上白石 いつもアレンジされた曲を聴くのが楽しみなんです。こういう感じに仕上がったんだなって。でもいつも後から重ねるコーラスがすごく大変。メインの歌以上にハモに時間をかけることもありますよね。「背中」のハモも大好きです。

Yaffle 楽器の要素を減らして、声に空間を埋めてもらうのが好きなんだよね。

上白石 私も声が重なっていくのは大好きです。山下達郎さんの「クリスマス・イブ」みたいに。人の声しか出せない厚みってありますよね。

Yaffle 声が一つの楽器になれるのはすごいよね。それだけでシグネチャーっていうか。

上白石 顔は変えられても、声は変えられないですからね。人の声は特別です。その時にしか出せない声もあるし、歌えない歌もある。

Yaffle 僕はテクノロジーをすごく大事にしていて。現代性っていうか、ダビングも簡単にできるし・・・。どんどん縦にトラックを重ねるとかね。昔って4トラックぐらいしかなくて。ドラム、ベース、ギター。それをダビングして、もう一回上から重ねたり。昔のアーティストはそのやり方でいいものが作れたから、もうそれは十分。この先はテクノロジーを駆使して、ブロックっぽく作っていくんだ。例えば・・・こんな感じに。

上白石 作業しているところを見るのは初めて!

Yaffle こういう発想だから、昔のように譜面を見てピアノの前でというのとはちょっと違うよね。

上白石 編み物みたい。この次赤い毛糸使おうとか。そういう感覚に近いかなって思いました。すごく楽しいですね!こうやって曲が生まれているんですね。

Yaffle 一回いろいろ足してみて、いらないなって思ったら引いて。

上白石 だから削ぎ落とされたものになっていくんですね。足し算と引き算が大事な世界なんだなって思いました。

Yaffle 昔は、足すこと自体にお金がかかったけど、今はパソコンで無限に足せちゃうから、だからどこまで引き算が出来るかだね。

上白石 こんなスピード感でやるんですね。貴重な光景を拝見しました。

ライブの楽しさは完璧じゃないところ

Yaffle こういう風にアーティストとセッションもしていて。あんまり準備しないで行って、今みたいに雑談しながら、今何好き?何にはまってる?とか。それに歌をのせていく感じかな。

上白石 あ、それやってみたいです!

Yaffle 今度やってみる?

上白石 私、The  Japanese Houseに今ハマっているので、それ系でお願いします!

Yaffle いいね!

上白石 即興でステージでやることもありますか?

Yaffle 少しデザインしておいて、あとは出たとこ勝負。どうやって不完全なものの面白さをもってこれるか。完全ていうのは口パクで音源を流せばいいんだから。でもそうじゃないってことは、何かたりないことにライブの魅力があるんだよね。

上白石 ライブとか、お芝居もそうだけど、今ちょっとセリフを間違えたのかな?とか、歌詞間違ったかな?というライブ感ならではのハプニングが見たい所もありますよね。

Yaffle 自分では気になっちゃうんだけどね。

上白石 そう。完璧は求めるんですけど。ライブするたびに、今日は今日の歌だなって。そういうのは思うかな。

Yaffle 不完全さが美しいみたいなところあるからね。

上白石 この夏は一緒にサマソニですね! 

Yaffle そうだね。ジャムっぽくしようか!

上白石 いいですね!今から楽しみです。よろしくお願いいします。

――撮影を終えて――

photographs : Jun Tsuchiya (B.P.B.)
hair & makeup :Kenji Toyoda
styling:hao

上白石萌歌着用
ジャケット ¥66,000、パンツ ¥55,000 共に テーロプラン(テーロプラン カスタマーサポート)/トップ ¥18,700 イロジカケ/その他スタイリスト私物

【SHOPLIST】
・イロジカケ
TEL : 03-6427-2504
・テーロプラン カスタマーサポート
MAIL : customer@teloplan.co

Kamishiraishi Moka
2000年2月28日生まれ。鹿児島県出身。2011年第7回「東宝シンデレラ」オーディショングランプリ受賞し、デビュー。2019年、映画『羊と鋼の森』で第42回 日本アカデミー賞 新人俳優賞を受賞。数多くのドラマ、映画に出演する傍ら、「The Covers」(NHKBSプレミアム)のMCも務める。adieu名義で音楽活動も行い、adieuとして8月17日(土)、「SUMMER SONIC 2024」東京会場での出演も決定している。2024年7月10日、作詞をAwesome City ClubのPORIN、作曲・編曲をYaffleが手掛けた約2年ぶりとなる新曲「背中」を配信リリース。

Yaffle
1991年3月3日生まれ。東京都出身。クリエイティブカンパニーTOKAのプロデューサーとして、藤井 風、iri、米津玄師、SIRUP、小袋成彬、eill、adieu、ao、SEKAI NO OWARI、AIなど数多くのアーティスト楽曲を手がける。8/9公開の映画『ブルーピリオド』をはじめ、『キャラクター』『変な家』など劇伴も数多く担当。2021年10月、ポケモン25周年を記念したコンピレーション・ アルバムに唯一日本人アーティストとして参加。2023年2月、クラシック・レーベルのドイツ・グラモフォンからアルバム『After the chaos』をリリース。

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