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文化服装学院の卒業生に尋ねた、自分のショップを持つということは?
【文化服装学院100周年記念連載vol.10】

2024.07.03

2023年、創立100周年を迎えた文化服装学院。文化の100歳をお祝いした好評連載の10回目では、自分の店を持つ方々へインタビュー。ブランドの旗艦店、コンセプトストア、セレクトショップ、ヴィンテージショップとそれぞれの実店舗を作る楽しさとそのプロセス、現在地を尋ねました。

photographs: Jun Tsuchiya(B.P.B.)

 ブランドの旗艦店 
KUON Flagship Store

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もの・ことの両方から価値を伝える場所

 襤褸や裂き織り、刺し子などの日本の伝統文化を現代の洋服につなぐ、KUON(クオン)。デザイナーの石橋真一郎さんは、2020年、築50年の二軒長屋を改装した建物に、初の直営店を構えた。

「シーズンごとの世界観を前面に出せる場所が欲しい、というのが、店を作った一番の動機でした。店のPR方法を考える前に、まずは、行ってみたいと思ってもらえる場所を、きちんと作ろうというところからスタートしていたので、明治初期頃の蔵の扉を入口にしたり、店内の一角に小上がりを作ったりしたんです。高揚感があって記憶に残る場所を作る。それが第一に考えていたことでした」

「実際、始めてみると、場所があることで金継ぎワークショップなどの『こと』提案もでき、自分たちがやっていることをダイレクトに伝えられるよさがありましたね。連日、世界各地からお客さまがいらっしゃるので、おみやげみたいな商品も置いています。観光名所のようになるのもいいなって(笑)」

「コミュニティ作りの意識も強くあり、近隣の店舗と一緒に、お客さまが集まれるイベントも行っています。実は、僕はもともとお店をやりたくて文化に入っていたんです。それがものづくりの世界に行き、作り続けてきた先に、意図せず昔の夢だったお店もできたー面白いものだなと思います。今、拡散力の面でSNSが大切なのはもちろん、行けば何かがあって誰かに会える場所がある、その両軸で価値を伝えていくことが、より重要になっていると感じます」

Shinichiro Ishibashi 1984年生まれ、岩手県出身。文化服装学院MD科(現・インダストリアルマーチャンダイジング科)卒業後、東京・丸の内の老舗テーラーで修業。その後パタンナーとしてパリ・コレクション参加ブランドを支える。2016年、藤原新とともにクオンをスタート。サステイナビリティというテーマにファッション、アート、素材の観点からアプローチし、襤褸と刺し子を多用するなど日本の伝統技術や素材を用いながら、西洋的な観点でアップデートした表現が評価される。’17年、TOKYO FASHION AWARD 2018を受賞。

 コンセプトショップ 
N!ce shop

自分たちで作り、売る。
究極のブランドの形を

 2023年に10周年を迎えたTTTMSW(ティー)が、予約制店舗「N!ce shop」をオープンしたのは’24年2月のこと。「ブランドの店舗というよりも、人が集まっておしゃべりできる場所を作りたかった」と、デザイナーの玉田翔太さんは言う。集合住宅だった築80年の建物の柱や梁を生かした空間には、ギャラリーのように多くの作家の作品が共存するが、緊張感はなく、居心地がいい。

「自分自身、堅苦しいことが得意ではなくて、うんちくよりも、感覚的にいいと思えるものが大事だと思っています。その精神性を表すのに、“ナイス”ほど軽くてキャッチーで、かつ全世界の人が知っている言葉はないなと思って店名にしました。1時間の予約制で、来店までのハードルは高いのですが、その1時間をゆっくり過ごすことができて、帰る時には楽しかった、と思える場所にするのが目指すところ。ただ服を売るだけということとは真逆のことをしたかったんです」

「’24年AWから、ティーは国内店舗の卸を辞めて、このお店とオンラインのみで販売します。N!ceとして作るものも含めて、毎月、新しいものを出すので忙しくはあるのですが、自分の中ではかなりシンプルになりました。今後は、前々から準備しているハンドソープやルームスプレーを販売したり、他ブランドの商品やコラボレーションアイテム、書籍も置く予定です。究極のブランドの形って、自分たちで作って売ることだと思うんです。今はそのための第一歩。1年目に戻ったような気持ちですね」

Shota Tamada 1993年生まれ、兵庫県出身。文化服装学院ファッション流通科卒業。在学中よりT.T.T.のブランド名で服作りを始め、2013年にTTTMSWをスタート。ジャンルレス、ジェンダレス、ボーダレスをブランドコンセプトに掲げ、ライフスタイルの一部となり得るモダンなデザインに定評がある。’18年に東京で初のランウェイショーを開催。アーティストの衣装制作やスタイリング、ディレクションの仕事も行う。

 コンセプトショップ 
CAPSULE by Peace and After

好きなもの・ことを表現するための空間

 文化服装学院の同級生だったカルバンとMORIYUKIがOEMやPRのサポートを経て2019年に設立したストリートブランド、Peace and After。ファッションと漫画やゲーム、アニメなどのカルチャーをつないで人気を博し、’23年3月に店舗を開店した。

「ブランドもお店も、自分たちが好きなカルチャーやファッションを楽しく表現することを大切にしています。カプセルという名前も、何が出てくるかわからないワクワクするもの、という意味から。そもそも僕らの服は、ECだと伝えきれない情報が多すぎるので、触ったり世界観を感じてもらえる場所が必要でした」

「2週間に一度は商品ごとVMDを変え、新鮮に見せる工夫もしていますね。今思うと、学生時代に好きで突き詰めたものは、全部自分に返ってきています。今、学生の方は好きな場所に足を運び、服を見て、たくさんの人に出会ってください」

MORIYUKI 文化服装学院MD科(現・インダストリアルマーチャンダイジング科)卒業。同級生のカルバンとともに、2019年にPeace and Afterを立ち上げ、同ブランドのデザイナーを務める。テレビアニメ「チェンソーマン」や「地獄楽」とのコラボレーションも話題に。

 セレクト型アウトドアショップ 
YAMANAMI

人と人の縁で生まれるもの

 バッグブランド、ripa(リーパ)の廣江太志さんは、親交のあった埼玉県川口市のカフェ「senkiya」のオーナーから、同じ敷地内に店舗を開く提案を受け、“いつか”の夢を2021年に叶えた。

「学生時代からモンベルで販売のアルバイトをしていたこともあり、ブランドの旗艦店というよりも、生活寄りのアウトドアショップを開きたいと思っていました。ここに置いてあるのは、ほぼすべて、僕が顔を知っている作り手のもの。作り手とお客さまをつなぐような気持ちでいます」

「開店は急に決断したことだったので、少ない資金で、DIYをしながらコンパクトに始めました。初めから完璧である必要はないな、と。その時、力になってくれたのは、木工や大道具などを生業にする友人たち。やっぱり最後は人と人。お店には出会いや縁が大切だと感じます」

Futoshi Hiroe 文化服装学院ファッション工芸専門課程バッグデザイン科卒業。2010年にメッセンジャーバッグから制作をスタートし、’11年よりripa(リーパ)に。埼玉のアトリエですべて自ら制作し、年に一度、自転車で全国を回る「行商ライド」を行う。

 ヴィンテージショップ 
OZ VINTAGE

オープンまで数々のチャレンジを経て見えた景色

 古着店での販売や、移動式のヴィンテージショップ「FUROL」のオーナーを経て、2018年、東京・渋谷の桜並木が眼下に広がるビルの4階に店舗を構えた鈴木里美さん。スタイリスト志望だった鈴木さんが古着に惹かれたのは、「夢中になる多くのお店に出会ったこと」から。

「独立して自分のお店を出すのはとてもハードルが高いこと。移動式店舗を運営していた2年弱は、自分と時代へのチャレンジ期間でもありました。同じ業態が増え、はからずも移動型のロールモデルと言われることが増える中、自分の表現したいことについてずっと考えていました。その頃、ありがたいことにヘッドハンティングや支援のお声がけをいただいたこともあったのですが、たくさんの方からの応援に背中を押され、自分の手でお店をつくり、続けていくことが何よりの夢だと気づいたのです。実は内装が一度頓挫し、家賃を払うだけの期間が数か月続いて……。絶望と焦りの中、什器を見に行ったギャラリーの方が引き継いでくださり、その後は猛スピードで進めることができました」

「開店までは苦労の連続でしたが、店舗をつくってよかった、と思います。日々お客さまとコミュニケーションがとれることで、自分の好きな商品と相手に丁寧に寄り添っていけるんです。古着店は、感覚を拾い上げてバランスを作る仕事。これから古着店を開きたい方は、誰かのやり方をまねせずに自分のバランスを見つければ、それが強みになっていくはずです」

Satomi Suzuki 文化女子短期大学(現・文化学園大学)卒業、文化服装学院スタイリスト科(現・ファッション流通科スタイリストコース)卒業。都内のヴィンテージショップで12年間働いた後、独立。移動式ヴィンテージショップ「FUROL」を経て「OZ VINTAGE」のオーナー。買い付け、接客、SNS運営を自ら行う。Instagramで発信するスタイリング写真も人気。

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