映画『サマーフィルムにのって』松本壮史(監督)× 三浦直之(脚本)
「好き」という気持ちの力について

2021.08.20

最高のライバルと戦うことは、恋愛と紙一重

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映画『サマーフィルムにのって』より

ーー伊藤万理華さんは、本当にハダシそのものという感じでした。伊藤さん自身に当て書きをして、あれほどぴったりの雰囲気が出ていたということでしょうか?

三浦 伊藤さんがハダシを演じることは決まっていたんですが、当て書きまではいってないかな。過去にご一緒した回数も少なかったですし、何となくこの雰囲気が似合いそうかな、とかそのくらいです。

松本 そうですよね、確かに当て書きはしていなくて。結果的に当て書きっぽくなったから僕もそうしたような気がしていたけれど。

三浦 松本さんと「ガールはフレンド」(伊藤万理華主演のドラマ、2018年放送)を作った時、伊藤さんはいろんな表現の引き出しを持っている人だなと思って。その時の印象から、こういう変なことを言ってもらうとどうなるんだろうな、とか思いながら書いていた気がします。

松本 クランクインの前に、1ヶ月くらい時間があったんです。その期間、特に伊藤さんとは話をする時間を多く持ちました。というのもハダシの持っている熱量が嘘っぽいと、この映画全体が白けちゃうんですよね。ハダシの熱量でお客さんのこともラストシーンまで連れていかなきゃいけないぶん、キャラクター作りには時間をかけました。劇中に出てくる時代劇は全部観てもらったり、勝新太郎さんをモチーフにした漫画を読んでもらったり、いくつか参考になると感じた映画を渡したり・・・。
伊藤さんは、本番に入ったらもうハダシでした。しっかり照準を合わせてきていたので、現場で僕は特別な演出もせず、細かい調整しかしなかったです。

三浦 伊藤さんが発する一つ一つの言葉からは、すごく”身体”を感じるんですよね。喉だけではなく、全身でセリフを言っている感じ。それは、観ていてすごくハダシにぴったりだなと思いました。

松本 ありますね。あと、少年っぽさを感じるのはなんでだろう?

三浦 僕、初めて映像を見た時、伊藤さんが秘密基地のある土手を走っているシーンで「あ、ハダシだ!!」ってすごい思ったのを覚えています。

松本 あ、それは僕も撮っている時に思いました。ハダシは前しか見ていないような走り方で、一緒に走ってるビート板(河合優実)はちょっと鈍臭そうでね。その場面で、めっちゃいい二人だなぁ、最高の青春映画になりそうだなぁって思いました。あれは、撮影初日とか2日目とかです。

三浦 そうなんだ。

松本 割と今回、順撮り(※シナリオの冒頭から順番に撮影を進める方法)をさせてもらえて。だんだん仲良くなっていく感じや、チームになっていく感じも少しずつ作れたので、それはありがたかったです。なので、ラストシーンを撮ったのも最終日の前日とかでしたね。しかもハダシと凛太郎の最後の掛け合いは、すべてワンテイク。伊藤さんと金子(大地)くんの集中力が、本当に研ぎ澄まされていました。

ーーあの忘れ難いラストシーンについて、もう少しおうかがいしたいです。「好きなものと戦う」というあり方が大好きなのですが、あのシーンはどのように着想されたのでしょうか?

三浦 時代劇を要素として入れることになってから、色々な作品を観たり読んだりしたのですが、いい時代劇は「男同士の戦い」っていう感じがあまりしなかったんです。それよりも、殺陣というものを通して、言葉のない交流みたいなものが描かれている気がして。『サマーフィルムにのって』のラストも、そういう風になるといいねという話はしたよね。

松本 しましたね。そのあと色々考えてみると、時代劇に限らず最高のライバルと戦うって恋愛と近いというか。「お前とだったら死んでもいい」って恋愛と紙一重の部分があるなと思いました。なので、最後のハダシと凛太郎も、恋愛は恋愛なんですけれど、やっぱりライバルっていう要素もすごくあります。

三浦 うんうん。

松本 もはやあの二人が互いを恋愛として好きなのかどうかも、グレーですよね。でもかけがえのない人に出会ったのは確かで。そういう意味でストレートな恋愛映画ではないなというのはあります。

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映画『サマーフィルムにのって』より。ハダシのライバル「花鈴組」の二人。

ーーライバルの存在の鮮やかさは、甲田まひるさん演じる花鈴の存在でも描かれていました。戦う/戦わない、というバランス感はプロットの段階から考えていらっしゃったということですよね。

三浦 そうですね。わかりやすい対立というのは描きたくなくて、時代劇好きvs恋愛映画好き、過去vs未来とか、全てにおいてそういう二項対立みたいなものをちょっとずらしていきたい、それを乗り越えていきたいというのは全体を通して描いていました。

松本 敵は一人も作らないというのは最初から決めていました。



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