―今のお話から、楽しかった現場の空気も伝わってきます。どんな雰囲気で撮影は進んでいたのでしょうか?印象的なことはありましたか?
伊藤:すごく印象的だったのは、キャストもスタッフも、皆がこの物語を本当に好きなんだろうなと感じられたことです。あえて言葉にしなくても「絶対にいいものにするぞ」というのは、多分皆がそれぞれに持っていた思いで。いつだったか、板橋(駿谷)さんも含めて「これはうまくいったら、すごく良い映画になる」って話をしたよね。
祷:うん、したね。
伊藤:板橋さんの、作品に対する強い思いに引っ張られていた部分もあったと思います。本読みの時には、板橋さんがいらっしゃったことでようやく皆が打ち解けた雰囲気になって。
河合:そこから、がらっと”陽”の空気に変わったよね。この映画では、ネガティブな方向にいくエネルギーが全然なかった。松本監督をはじめ、優しくて、温かい人ばかりでした。
祷:『サマーフィルムにのって』では、映画に興味のある人もない人も、皆が力を合わせて映画づくりをしていきます。でも実際の私達は皆映画が好きで、映画に関わりたい!という思いで、映画づくりに向かっている。そういう私達自身がこの物語と共鳴しながら、さらに高揚していって力が一つになる・・・そんな空気が現場にはありました。
伊藤:私は、このキャストの皆さんとなら、映画内で撮る映画も絶対にうまくいくと思えて。私がハダシとしてその感情になれれば『サマーフィルムにのって』もきっといいものになるはず。だから、そう確信を持てたことはすごくうれしかったです。
―まさに物語と映画撮影時の現実が結びついて、あれほど熱量の高い映画が生まれていたんですね。「何かに夢中になる」という登場人物の状態と接続し得る、皆さん自身の記憶はありますか?
河合:私にとっては、高校時代のダンス部です。発表会や文化祭のために、音源を探したり振付けをしたり練習をしたりと、皆で一つのものを作る体験をたくさんしてきました。それが、今お芝居をしたいという気持ちにもつながっています。私が演じたビート板は、映画づくりに熱中しているような人ではなくて、どちらかといえば「二人(ハダシ、ブルーハワイ)といられるのが楽しいから」という動機で参加しているけど、高校時代はそれでいいのかなって。めちゃめちゃ強いこだわりみたいなものが無くても、皆で作ること自体が本当に楽しかったから。『サマーフィルムにのって』で、そういうものの価値を思い出しました。
祷:二人には一緒に銭湯に行った時に話したことだけど・・・私は中学生の時に映画を作ったことがあります。修学旅行で、移動中の「バスレク係」になり、どうせなら皆見たことがなくて、バスの中で盛り上がれるものをやりたいって考えた結果、バスの中で観る映画を作ることになって。そうして放課後に同級生と撮った映画は、2~30分くらいのSF+殺人事件もので、内容はぐちゃぐちゃだったのですが(笑)。エンドロールはジャッキー・チェンの映画みたいにNG集にして。
―凝っていますね(笑)。
祷:はい、意外と(笑)。その時も『サマーフィルムにのって』みたいに、映画が好きな人もそうでない人もいたけど、一緒に一つのものを作ったら面白いかなとか、なんか気になるからやってみるとか、そういうことが皆の動機になっていたような気がします。それが集まったら、結果的にすごいエネルギーになった。完成した映画をバスの中で流した時に皆が笑ってくれたのですが、それが本当にうれしくて。その時の気持ちは、今、東京で仕事をしている自分のうれしさーー舞台挨拶でお辞儀をしたときに拍手をいただけてうれしいとかーーにもつながっていると思います。