萩原利久と河合優実が考える“等身大”とは?『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』対談

『勝手にふるえてろ』『私をくいとめて』で知られる大九明子監督が、お笑いコンビ・ジャルジャルの福徳秀介による恋愛小説を映画化した『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』(4月25日公開)。冴えない大学生活を送る小西(萩原利久)はある日、孤高の存在・桜田(河合優実)に目を奪われる。言葉を交わすようになり、少しずつ親密になっていく二人だったが、ささやかな日常を揺るがす出来事が発生し——。

ひねりの効いた構成に、大九監督らしい遊び心あふれるビジュアルやテンポ感、セリフ回し等々が融合した本作。本作で初共演を果たした萩原利久と河合優実に、フィクションとリアルの境界線で実感を生み出す演技の方法論を語っていただいた。

photographs : Jun Tsuchiya (B.P.B.) / styling : TOKITA (Riku Hagiwara), Mana Yamamoto (Yuumi Kawai) / hair & make up : Emiy (Three Gateee LLC.,Riku Hagiwara) , Aya Murakami (Yuumi Kawai) / interview & text : SYO

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萩原利久(以下、萩原):小西には特別なキーカラーやキーアイテムがあったというよりは、あるルックを目指していくなかで、色々な衣装を着てみて外れたものを除外していく形でした。短パンを結構合わせた気がしますが、衣装によっては活発に見えてしまうため塩梅を探っていたように思います。あとは、部屋着にも出来るし近所なら外に出ても不思議じゃないくらいのラフな格好を目指していました。全体的に「こういうの着るんですか?」といった驚きはなく、想像の範囲内ではありました。

河合優実(以下、河合):私はびっくりしました。衣装の宮本茉莉さんとは『敵』などでもご一緒していますが、いつも驚きをくれる方です。

台本を読んでいる段階では、もう少し凛とした方向に踏み切るアプローチも可能だったかと思いますが、そうではない桜田独特の美意識を感じられますよね。

トレンドを追うわけではないけれど見られていることを意識しているし、自分の「可愛い」センサーも持っている人物なんだと感じました。ショート丈のベストなど「どこに売ってるんだろう?」と感じるようなアイテムが多く、衣装から人間としてのチャーミングな“隙”も感じられて、役どころを掴めました。

メイクにおいても、「すっぴんではないと思う。でもみんなが思う“可愛い”とはちょっと違う色を使っている気がする」という意見から青いアイシャドウを使っています。

萩原:小西を演じるうえで重要だったのは、傘です。彼は傘を常に持ち歩いていますが、収納する肩掛けバッグや、どういった傘にするかも様々な候補の中から決定しました。

萩原:自分の部屋のシーンなどでは、何が置いてあるかは気にします。「意外とこういうタイプなんだ」とギャップを感じることもあります。あとは、内装や家具のレイアウト。たとえば「テレビがここにあるということは、寝たまま観るタイプなんだな」といったようなことをインプットして、演じるうえでのアクセントにしています。

河合:桜田は、小西の視線が強烈に向いてしまう人であり、特に前半は彼が素敵だと思うところの描写が続くため、本当はどういう人なのか、どんな生活を送っているのかは最初はわかりませんでした。

ただ、物語上の役割として「まずは小西から見て輝いている子であれば、その他は謎に包まれていてもいい」と思い、そのことを胸に撮影を進めつつ、会話の中や他者との関わり方で少しずつ桜田の人柄が見えてくるようにできればと意識していました。後半の展開で桜田の人生が開示されて人間味が明らかになりますが、前半とギャップがあっても構わないと考えていました。

河合:あるシーンで二人が接触するので、それまでは避けていたとおっしゃっていましたよね。ただ私も、そのことは大九監督のインタビューを読んで知ったため、事前に指示を受けてはいませんでした。

萩原:小西の心情的にも、水族館のシーンを除いて「触れる」になりうる選択がなかったようにも思います。そのため、何か縛りがある感覚はありませんでした。現場でまずは段取り(動きの確認)を行ってから本番という形でしたが、「いま触れそうになっちゃったね」というようなやり取りもなかったかと思います。


河合:好きだけど触れられない、好きだから触れたい、といった種類とも少し違いますしね。まだ届いていない関係性といいますか。

そのため自然に受け入れられましたが、水族館のシーンで小西が泣き、桜田が寄り添うくだりにおいては大九監督に「まだ触らない方がいいですか?」と確認を取ったりもしていました。

萩原:ケースバイケースですが、何かがかみ合っていなくてうまくセリフが出てこないことはあります。ただ、しっくりこなくて出てこないときは大抵、原因が見えている場合が多いため、「じゃあどうすれば言えるだろうか」と考え方を変えてトライするようにしています。自分の場合は言いにくいから変えるというよりも、言いにくい理由を探って解決する形です。

河合:自分の価値観と、脚本の世界のリアリティが違うように感じることは往々にしてありますが、そういったときは落とし込む作業を挟めばセリフを言える状態になります。

「言いやすい感じに語尾や言い回しを変えてもいいよ」という監督もいらっしゃいますが、以前、坂元裕二さんのドキュメンタリーを拝見した際、一行のセリフを書くのに一日かけられている姿を目にして、「言いやすさ」のみによって現場でセリフを変えることはしなくなりました。脚本家の方からしたら「現場に預けます」と思ってくれている方もいらっしゃるかもしれませんが、ここに書いてある言葉はそれだけ時間も命も削って書かれているものなのだ、と再確認する出来事でした。そのリスペクトの上で、俳優もより良い表現を提案していいとは思います。

萩原:僕は『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』の際、今泉力哉監督に気づかせていただきました。高校を卒業してから高校生を演じたとき、今泉さんに「もうちょっと若くていいんじゃない」と言われたんです。その経験を経て、「等身大性は絶対的なものじゃなく、相対的であり常に変化していくもの」と捉えるようになりました。ただ同時に、「高校生らしさ」といったような絶対的な等身大性も他者から見たときにはあるはずだと。

ただこれはあくまで自分の中に蓄積があるパターンで、今回においては僕自身が大学生活を経験していないため等身大性をどう“作る”のかはかなり苦労したところです。大学生の“普通”や“らしさ”を全部想像で補うしかありませんでしたから。

そういったなかで、自分の実体験も含めた感慨として「10代と20代では、等身大性の変化が大きい」というものがあります。

例えば、20代の役を演じるようになって、年齢が何歳か違っていても、その年齢の感性から大きく外れることはないと感じるのですが、10代の頃は1歳違うと価値観が大きく変化するな、というのが持論です。

成長段階にあるぶん、1つの経験でガラッとその人自身も変わってしまうんです。ということは、10代を演じるときにちょっとの人物像の認識のズレが大きく作用してしまうことになりかねません。

河合:先ほど言っていただいた発言をした際の自分は、実際の10代の子たちが画面に映ったときに身体から迸るようなエネルギーが出ている光景を目にして「そうじゃなくなったとき、どうすればいいのか」と感じていたのだと思います。反対に、長い間生きてきた方々の身体から放出されるエネルギーもありますし、それらは意図して作ることが難しいものです。

作品に出演する際に、そうした意味での等身大性を大いに利用するのは良いことだと思いつつ、期限付きの材料だとも感じます。そもそも、他者を演じるときに、自分との共通点としてたまたま実年齢を利用している、と考えるようになりました。

年齢が近くても人格や職業含めて別人ですし、結局は自分が観察したものや想像力を使って取り組むしかありません。究極的に作り物だからこそ、そのうえで上手に・面白く作ることを楽しめるようになってきました。

一方で、俳優として働いているうちに、気をつけないとどんどん浮世離れしてしまうとも感じます。だからこそ、普段からちゃんと生活することを意識しています。ご飯を作って食べて、お金を払って物を買って——そういったことを大事にして地に足をつけていないと、私は他者を演じられなくなる気がします。

萩原利久さんの過去インタビュー記事

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Riku Hagiwara 
1999年生まれ、埼玉県出身。2008年にデビュー。ドラマ「美しい彼」(2021年)で注目を浴び、以降、映画・ドラマに多数出演。近年の主な出演作に、映画『劇場版美しい彼〜eternal〜』『ミステリと言う勿れ』(ともに’23年)、『朽ちないサクラ』『キングダム 大将軍の帰還』(ともに’24年)、『世界征服やめた』(’25年)、ドラマ「月読くんの禁断お夜食」「真夏のシンデレラ」「たとえあなたを忘れても」(すべて’23年)、「めぐる未来」(24/YTV)、「降り積もれ孤独な死よ」(24/YTV)、連続テレビ小説「おむすび」(’24-’25年)、「リラの花咲くけものみち」(’25年)など。待機作に『花緑青が明ける日に』(声の出演)がある。

萩原さん着用:ジャケット ¥65,780、シャツ ¥25,410、パンツ ¥41,580 すべてアモーメント(cs@amomento.jp)/左中指リング ¥91,300〜 右親指リング ¥83,600〜 右中指リング ¥166,100 すべてマリハ(TEL 03-6459-2572)/その他スタイリスト私物

Yuumi Kawai 
2000年生まれ、東京都出身。2021年出演の映画『サマーフィルムにのって』『由宇子の天秤』での演技が高く評価される。2024年、映画『あんのこと』『ナミビアの砂漠で』で多くの主演女優賞を受賞。近年の主な出演作に映画『ルックバック』(’24年、声の出演)、『敵』『悪い夏』(ともに’25年)、ドラマ「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」(’23年)、「不適切にもほどがある!」(’24年)など。放送中のNHK連続テレビ小説「あんぱん」(’25年前期)に出演している。

河合さん着用:赤のドレス ¥297,000 メリル ロッゲ、ゴールドのリング ¥63,800 ソフィオゴングリ(ともにジジナ1996.gigina@gmail.com)/ストーン4連のフィンガーリング ¥68,200 ラブバイ イー・エム、パール イヤカフ ¥36,300 イー・エム(ともにイー・エム アオヤマ TEL 03-6712-6797)/シューズ スタイリスト私物

『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』
小西徹(萩原利久)は、大好きな祖母を半年前に亡くしたばかり。学内唯一の友人である山根や、銭湯のバイト仲間のさっちゃんとは他愛もない会話をしたり、ふざけ合ったりもするが、思い描いていた大学生活とはほど遠い、冴えない毎日を送っていた。そんなある日の授業終わり、お団子頭の凛々しい女の子に目を奪われる。彼女の名前は桜田花(河合優実)。小西が思い切って桜田に声をかけてから、二人は偶然の力もあり急速に意気投合する。恋をして小西の世界が色づき始めた矢先、ある衝撃的な出来事が起こる。
監督・脚本:大九明子
出演:萩原利久、河合優実、伊東蒼、黒崎煌代、安齋肇、浅香航大、松本穂香、古田新太
2025年4月25日(金)より全国公開中。日活配給。
©︎2025「今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は」製作委員会

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