映画『サマーフィルムにのって』松本壮史(監督)× 三浦直之(脚本)
「好き」という気持ちの力について

2021.08.20

創作のパワーバランス、「好き」という気持ちがつなぐもの

Processed with VSCO with c1 preset

映画『サマーフィルムにのって』より

ーーありがとうございます。凛太郎がハダシの作品に出会って感じたように、お二人が「過去から呼ばれている」と思うくらい強い縁を感じたような作品はありますか?

松本 特別好きな映画ではないんですけれど、僕はガス・ヴァン・サントの『エレファント』(2003年)ですかね。高校生の時に観たのですが、その頃、全然楽しくなくて。面白いこともないから友達と図書館に行って、棚にあるDVDを端から観ていってたんです。それは作業って感じでまたつまんなかったんですけれど、『エレファント』を見た時はちょっと違ったんですよね。観たあとみんな「超つまんねぇ〜」って言ってて、僕もその場では「つまんないよね〜」って言ったけど、帰り道自転車に乗りながら、面白かった気がする・・・と思ったんです。
セリフも少なくてわかりにくい映画なんですけど、このちょっと面白いと感じる感覚ってなんだろう、と。それから自分の中で映画が少し特別になっていって、自発的にいろんな作品を見るようになりました。

ーー面白いお話です。三浦さんはいかがですか?

三浦 今、ずっと考えていたんですけれど。

松本 いっぱいありそうだよね。

三浦 ありますね。でも縁みたいなことで言うとーーー僕、松本さんが撮った(乃木坂46)桜井玲香さん個人PVの「アイラブユー」(2016年)を見て、すごいシンパシーを感じたんですよね。その劇中でかかっている江本祐介さんの楽曲「ライトブルー」を自分の舞台でも使ったら、アニメーション作家のひらのりょうさんと松本さんが、その舞台を観にきてくれて。当時、僕はひらのさんとは交流があったけど松本さんは面識もなかったですし、ひらのさんと松本さんが仲がいいことも知らなかった。そこから松本さんと一緒に「ライトブルー」のMVを作り一緒に仕事をするようになって・・・というきっかけになった作品。

松本 そのとき観た『魔法』(2016年)っていう舞台に、僕もめちゃくちゃシンパシーを感じていました。僕は高校生の時に流れていた”MATCH”のCM・・・チャコールフィルターの曲で女子高生が踊るところを引きで撮っている、というものがすごく好きだったんですけれど、それが『魔法』で引用されていたんです。あとは『リンダ リンダ リンダ』(山下敦弘監督、2005年)からの引用もあったりして、同世代を感じると同時に感覚がめちゃくちゃ近いなと思ったんですよね。ちょっと怖ってなるくらい。それ以降、ぼんやりと知っているだけだったロロや三浦さんに、グッと興味を持つようになりました。でもまさか一緒に物を作ったりするとは思っていなかった。

三浦 不思議な繋がりでここまでこられましたよね。

松本 あとはヒコさん。

三浦 そうそう。「アイラブユー」を見たのもヒコさんのブログ「青春ゾンビ」に書いてあったのがきっかけだった。

松本 ヒコさんが、そこに三浦直之っぽいって書いてたんでしたよね。僕もそれを読んでいたので、インターネットが繋いでくれたものでもあります。

ーー松本監督も三浦さんもまさしく、ハダシの「好きなもので生きていく」を体現されているんだなと思いました。最後に、お二人が考える「好きなもので生きていく」というのは今、一体どういうことなのかを実感も込めて教えていただけたら。

三浦 うわ、難しい。

松本 僕は今だって十分新人なんですけれど、周囲から監督として見られることによって、自分の発言に力が出てきてしまっているのを最近感じていて。質問内容に対する答えとは少し違うのかもしれないのですが、「みんなで好きなものを楽しく作りたい」という自分の気持ちと、肩書きや属性が与える力のバランスが、自分の中で取りにくくなってる気がしています。自分自身のライフステージが変わり時代も変化している中で、楽しく創作を続けるために「自分の発言の力」と「皆で楽しく作っていく」という部分のバランスをいかに取っていくか、というのはめちゃくちゃ考えて、今も失敗しながらやっています。

三浦 自分も、昔は創作の場で好きな物事を好き勝手に話していたのですが、演出家の立場を続けていると、そのことで周りに圧をかけてしまったり萎縮させてしまったりするんじゃないか、気を遣わせちゃうんじゃないかっていうのはすごい考えるようになりました。

松本 自分で自分が権力を持っているとは思わないけれど、持つ側になってきているので。

三浦 うん。すごいそういう段階ですね。30代半ばなので、年齢的なものでもあるのかなと思います。
あと、僕は「好きなことについて語っている人の話を聞く」のがすごい好きなんですよ。

松本 「アメトーーク!」とか?

三浦 あ、そうね。それもめちゃめちゃいいし、ロロでオーディションをさせてもらうと、僕は絶対に「好きなものとかことについて話してください」って言うんです。すると、それまでめちゃめちゃ緊張していたのに、いきなり話が止まらなくなる人もいて。

松本 うわ、いいですね。

三浦 うん。そういうのを見ていると、なんて素敵な人なんだ!!って思う。好きなことを好きって言うことに対して、なんの恥じらいもない人が僕はすごく好きだから、考えていかないといけない部分はありつつも、自分もそういう風になりたいなって思っています。

松本壮史 Soshi Matsumoto
1988 年生まれ、埼玉県出身。CM、映画、ドラマなど映像の監督。主な作品に、北欧、暮らしの道具店オリジナルドラマ「青葉家のテーブル」やドラマ「お耳に合いましたら。」(テレビ東京)等。監督作「江本祐介/ライトブルー」(MV) が第 21 回 文化庁メディア芸術祭 エンターテインメント部門審査委員会推薦作品に選出。
長編デビュー作「サマーフィルムにのって」は第33回東京国際映画祭 特別招待作品に選出され、多くの映画ファンからの注目を浴びた。今年は長編二作目の映画「青葉家のテーブル」も公開。


三浦直之 Naoyuki Miura
1987年生まれ、宮城県出身。2009年、日本大学藝術学部演劇学科劇作コース在学中に、処女作 『家族のこと、その他たくさんのこと』が王子小劇場「筆に覚えあり戯曲募集」に史上初入選。 同年、主宰としてロロを立ち上げ、全作品の脚本・演出を担当する。2015年より、高校生に捧げる「いつ高シリーズ」を始動し、戯曲の無料公開、高校生以下観劇・戯曲使用 無料など、高校演劇の活性化を目指す。そのほか脚本提供、歌詞提供、ワークショップ講師など、演劇の枠にとらわれず幅広く活動中。2016年『ハンサムな大悟』第60回岸田國士戯曲賞最終候補作品ノミネート。2019年のドラマ「腐女子、うっかりゲイに告る」で、コンフィデンスアワード・ドラマ賞の脚本賞受賞。

1 2 3