映画『リライト』監督・松居大悟
と脚本家・上田誠が明かす、
青春映画のキャラクターを作るには?

2025.06.12

監督・松居大悟、脚本・上田誠の初タッグにより、タイムリープ×青春ミステリ映画『リライト』が誕生した。かねてより親交のあった二人は、法条遥の小説「リライト」の映画化に向けて数年前から動き出していた。原作は未来から来た転校生が登場し、「時を翔る少女」というタイトルの小説やラベンダーの香りの描写もあることから、バッドエンド版「時をかける少女」(筒井康隆著)とも評されている作品。最初は原作の難解さがハードルとなり、なかなか企画が進まなかったそうだが、予測不能な二人の共同作業により無事完成に至ったという。二人は本作をどのように映像化しようと考えたのだろうか。

text : Daisuke Watanuki

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お話を伺ったのは
松居大悟さん

上田誠さん

役者本人のイメージと台詞を掛け算して人物像を深掘りしますー上田 誠

映画『くれなずめ』『ちょっと思い出しただけ』など若者に人気の作品で知られる松居大悟さんと、映画『リバー、流れないでよ』やドラマ「時をかけるな、恋人たち」などタイムリープ作品に定評がある上田誠さんが、新たな青春タイムリープ作品を手掛ける。そんなの絶対期待できるに決まっている。今回はオリジナルではなく、原作モノ。上田さんが小説「リライト」を気に入り、松居さんに勧めたことがそもそもの始まりだった。

「原作の “怖み” はちゃんと残しつつ、感傷的な部分と希望のバランスをとれば、青春の金字塔になり得る名作になると思いました。原作がある作品を脚本に起こす際は、とにかく深掘りします。そのためにまず手書きで台詞や気になる描写を書き写して、原作を体の中に落としていくんです」(上田

「小説や漫画を映像化するというのは、登場人物の体温や街の空気を立ち上げることを意味します。だからこそ、原作の空気感や匂ってくるものをしっかり映さなければいけません。海街の風景、ラベンダーの香り……五感に訴えるものにしたいと思いました」(松居

では、監督と脚本家という立場から、「役作り」や「キャラクター」をどう捉えているのだろうか。

「僕は普段、演劇で群像劇を書いています。演劇においては引きの目線で物語を見ることが多く、いつもは一人ひとりのキャラクターというより、わりと集団を一つのキャラクターとして考えることが多いです。とはいえ、映像は一人ひとりにクローズアップしていくので、人物それぞれを深掘りするように考えます。その際は演じられる俳優さんご本人のイメージと台詞を掛け算して、この人の声であればこんなことを言ってほしいなと思いながらキャラクター像を考えることが多いですね」(上田

少し矛盾しているほうが魅力的に感じますー松居大悟

「映画のストーリーの中で生きるキャラクターを作る際は、一面的に描かないことを心がけています。とにかく明るい、優しいなどわかりやすくするのではなく、明るいけれどちょっと陰がある、暗いけれどちょっとポップな部分があるとか。キャラクターとして少し矛盾しているほうが、僕は魅力があると思っているんです。メインの人物だけでなく、それこそ通行人にまで背景を感じてもらえるように作るのが理想です」(松居

美雪(池田エライザ)はクラスの中では目立つほうではなく、端っこにいるようなキャラクター。特別な女の子というわけではない美雪が、ひと夏の特別な体験を通して主人公になっていくのだが、その変化のグラデーションはとても美しく表現されていた。

また、美雪の友達の友恵(橋本愛)は、クラスの中ではもっとも影が薄い存在。家庭環境も複雑で、業の深さを背負っている。 “図書館友達” ともいえる二人だが、美雪を演じる池田エライザさんと、友恵を演じる橋本愛さんは共に文学好きで知られている。まさにイメージ通りのキャスティングといえるだろう。

「池田さんとは役について話しながら、自分だったら学生時代に教室でどのように小説を書くか、使っている文房具は何かなど、解像度を上げるために具体的なイメージをすり合わせながら美雪像を作っていきました。

一方で橋本さん演じる友恵の場合は、本人の中でキャラクターを育てる余白が多めにあったほうがいいと思いました。卒業後の友恵は解き放たれているのですが、大人パートの友恵の赤い髪色は橋本さんからの提案で、素敵なアイデアだと思いました。軽やかさが増し、イメージにぴったりでした」(松居

「図書館で美雪と友恵が話しているシーンに二人の関係性がよく表れています。特に音のある台詞にはなっていないのですが、『あの本よかったよね』としゃべり合っていて、本当に得難いシーンだと思います。そこを起点に物語を作っていきました」(上田

松居さんは本作制作にあたり、広島県の尾道で撮影することを決めていた。土地も人と同じように特性がある。土地のキャラクター性を考慮することも、作品においては重要だ。

「尾道を訪れたとき、まるで時間が止まっていたかのように感じました。中学生たちが下校する姿、くねくねとした非効率な細い道、目にしたすべてが愛おしかったんです。『リライト』に出てくる登場人物たちの持つ穏やかな雰囲気にも合っていて、東京から戻ってきた人間との対比を描く際にも土地の魅力が際立つだろうと思いました」(松居

「土地から生まれてくるキャラクター性も、脚本作りの際の大きな手がかりになりました。やはり瀬戸内海に面した歴史情緒ある坂の街で生まれ育った人と、都会で生まれ育った人とでは当然、人物像は変わってきますから」(上田

尾道といえば、大林宣彦監督の『時をかける少女』のロケ地としても知られる、「映画の街」でもある。そこで撮影するということにも、並々ならぬ思いがあったことだろう。制作にあたり、二人はどういう役割で本作を作り上げていったのだろう。

「本作の脚本は、壮大な時間絵巻を解くのも編むのもとにかく大変でした。 “自分史上最大のパズル” といえる作品で、ピースがしっかりはまるまで、とにかく第一稿(一番最初の大まかな脚本)に時間をかけました。僕は常々第一稿が勝負だと思っているので、一稿にすべてを入れるんです。だからそれを松居くんに託した時点で、かなり力尽きていました(笑)。

そこから撮影稿に至るまではいろいろな事情を伴いつつ最適化していく作業になるのですが、その際は松居くんが僕の脚本を書き直すという〈リライト〉の攻防も。それによって作品により深みが増し、シナリオが脚本家のものから監督のものになり、そして現場へと移っていった気がします。二人の間では、僕はパズル担当で、松居くんはエモーション担当、みたいなところがあったと思います。だから僕は整合性や時間軸のロジックを作ることに専念しました」(上田

「上田さんは僕にとって師匠。上田さんの脚本はすべてに辻褄が合っていて美しかったのですが、僕はもう少し余白がほしいなと思い、情報やモノローグを減らす方向での攻防があり(笑)、最終的に託していただきました。上田さんは俯瞰で物語を司るように書いていき、僕は近視眼的に登場人物に寄り添って撮っていく。その役割分担がうまく機能したと思います」(松居


リライト
高校3年生の夏、転校生の保彦がやってきた。彼は300年先からタイムリープしてきた未来人。秘密を分かち合い、恋に落ちた美雪は、未来へ帰ってしまう保彦と、ある約束を交わし……。数々の青春映画で、若い世代から圧倒的に支持されている松居大悟監督と、時間軸作品のファンタジスタである人気脚本家、上田誠さんの初タッグによる、 “史上最悪の” パラドックス〈タイムリープ×青春ミステリ〉。池田エライザ、阿達慶、橋本愛ほか出演。6月13日(金)より全国公開。バンダイナムコフィルムワークス配給。©︎2025『リライト』製作委員会

装苑2025年7月号掲載

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