自由であるためには、不自由であることに気が付くこと

奥浜:物語の冒頭に、経済的にも状況的にも避妊が難しい女性に対して、アヌがピルを差し出すシーンがありました。そこからすでに女性の連帯を描いていく作品なんだなということが強く香ってきたんですが、シトウさんはその辺りどうお感じになりましたか?
シトウ:そうですね。立場や階級が違う女性たちが繋がり合って、今の状況を変えていこうとすることはすごいなと思ったし、自分にそれができるかと考えたら、割と難しい気がします。家を無くした友達が故郷に帰るとき、じゃあついてくよ!って言えるほどの気概を出せるかなって。故郷に帰るマダム(パルヴァティ)にとってはすごくありがたかっただろうな。
奥浜:まさにタイトルにある「光」のひとつなんだろうなと思いますよね。プラバに対してアヌが家賃をちょっと払ってもらえないかと打診している状況を見ると、二人の給料に差があるのかな、なんてことも感じたり。
シトウ:病院で着ている服も違いましたよね。
奥浜:想像でしかないですが、アヌは日本で言うところの准看護師的な立ち位置なのかなと。そういった人たちがムンバイという商業都市で、家賃がとても高騰している中で、手を取り合って生活をしている。女性同士の連帯を描く作品は、今世界中で作られていて、インド映画でもエッセンスとして取り入れている作品はありますけど、こういう直球な描き方は新しい波だと感じました。主人公たちは自由を求めて、必死に生活をしているわけですが、シトウさんにとって、自由に生きるとは? 自由を保つためには何を大切にしたらいいのか教えていただけますか?
シトウ:そうですね。自由ってすごい難しいなと思ってて。まずは自分が不自由であることに気がつくことなんですよね。例えば日本だったら同調圧力ってあるじゃないですか。例えば、女の人は30歳を過ぎたらミニスカートをはかないとか。当たり前だと思ってたけど、実はそうじゃないことってたくさんあって、まずはおかしいということに気がつくことが大事だと思います。仕方ないんだって受け止めるんじゃなくて、ちゃんと気がつきつつ、うまいことそれを知らんぷりする「鈍感力」が必要だと思っていて。つまり、圧力と戦うんじゃなくて、圧力をかわす力。綺麗にかわす力を身につけたらいいかなと。そういうこと言わないでよ!とか、ミニスカートはいたっていいじゃないか!って反発するよりも、はい、そうですよね~って言いながらミニスカートをはく(笑)。
奥浜:知らんぷりするぐらいの。
シトウ:そうです。ただ、知ってて知らんぷりするのと、知らないで知らんぷりするのは全然質が違う。知った上で鈍感力を発揮することは、自由に生きるための処世術として私は必要だと思っております(笑)。
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今、ファッション界やアート界でインドがアツいわけ
奥浜:今、銀座のシャネル・ネクサス・ホールではインド出身のアーティスト、プシュパマラNさんの展覧会が開かれていますが、インドは近年ファッションやアートなどの分野で注目されているんですかね。
シトウ:それはすごい感じてます。特に2023年以降ですね。例えば、2025年春夏のパリ・メンズコレクションでは、ルイ・ヴィトンがインドにオマージュを捧げたクリエーションを発表したり、 2026年春夏のミラノ・メンズコレクションでプラダがインドの伝統的なハンドクラフトにインスパイアされたサンダルをお披露目したり、ファッション業界でインドが重要なキーワードになっているなと思ってて。ちょっと調べてみたら2023年が1つの分岐点で、この年に人口の世界一がインドになったんですよ。
奥浜:今年、日本がインドにGDPを抜かれるんじゃないかみたいな話もありますからね。
シトウ:そうすると、人間も多いし、経済成長もしてるってことはラグジュアリーマーケットが注目するんですよ。お金を使う人が増えてくるんじゃないかとか、経済的に成長したら文化も成熟しますし、文化が成熟するっていうことはファッションに興味を持つ人が増えるだろうと。これ、2023年以前は中国だったんですよ。中国っぽい、中国の人が好きそうなコレクションを発表して、中国マーケットを見たものづくりをしてたブランドが多かったけども、それがゲームチェンジして、これからはインドなのかなって私的には予想をしております。
奥浜:なるほど!興味深いですね。先ほど話題に上がったルイ・ヴィトンやプラダであるとか、ブランドが文化を商業的にしていくにあたって大切なのは、その文化を搾取しないことだと思うんですが、その辺りの工夫はされてたかご存知ですか?
シトウ:ルイ・ヴィトンのクリエイティブ・ディレクターのファレル・ウィリアムスの場合は、何度もインドに足を運んで、現地の人たちを見て、ちゃんと文化を吸収していった背景があると聞いています。一方、プラダのサンダルの場合、実は炎上しちゃったんですけど、ちょっと文化に対するリスペクトが足りなかった。例えば、ものを作る時は、なぜそれが作られたかという背景や歴史まで調べて、それをフィーチャーするっていうのはすごく大事なことだと思うんですけど、表面的な部分だけ見て、このサンダル可愛いから作っちゃおうだと、やっぱりそれは文化の盗用になってしまう。だから、何か物を作るときは一歩踏み込んで考えながら、そして現地の人、インドだったらインドにリスペクトを持ちながらやっていく。現地の職人たちに還元するというのはすごく大事だと思いますね。
奥浜:そうですね。そういった意味では、インドの方を一緒に作っていく仲間として迎え入れるであるとか、もちろん今回、パヤル・カパーリヤー監督みたいに、インドで活動されている女性の監督がどんどん表に出ていって、主体的に文化を外に発信しているっていうのはとても心強いなって思います。
シトウ:よりインドに行ってみたくなりましたもんね。
奥浜:インドに行かれた経験はありますか?
シトウ:10年くらい前にあります。実はインドにもファッションウィークがありまして。
奥浜:そうですか!どんな雰囲気なんですか?
シトウ:その時は独特でしたね。ファッションウィークなんですけど、ファッションショーまで文化は成熟していなくて、合同展示会みたいな感じでした。不思議だったのが、1、2日前に会場の様子を見に行ったらまだ何も作ってないんですよ。えっ?みたいな。でもギリギリになったらなんかできてるんです(笑)。それがインドあるあるらしくて、絶対グダグダなのに最後に帳尻が合う国(笑)。この瞬発力があればそりゃ経済成長しますよ。
奥浜:私も音楽の仕事で海外のフェスに行ったりするんですが、まさにそんな感じでした(笑)興味深い話がいろいろですが、そろそろお時間が迫ってきたので、最後にシトウさんからみなさんに向けて一言お願いします。
シトウ:この映画は、私的にはフランスのヌーヴェルヴァーグみたいな、新しいインドの流れだと思っているので、こんな面白い映画あるよっていうのを未来に伝えていってもらいたいなってすごく思いますね。ちょっと新しいインドの流れを見に行かない?みたいな感じで誘ってもらうと興味を持ってもらえる方がいるんじゃないかなと思います。
奥浜:ありがとうございます。
シトウレイ
日本を代表するストリートスタイルフォトグラファー・ジャーナリスト。石川県出身。早稲田大学卒業。被写体の魅力を写真と言葉で紡ぐスタイルのファンは国内外に多数。毎シーズン、世界各国のコレクション取材を行い、類稀なセンスで見極められた写真とコメントを発信中。ストリートスタイルの随一の目利きであり、「東京スタイル」の案内人。ストリートスタイルフォトグラファーとしての経験を元に TVやラジオ、ファッションセミナー、執筆、講演等、活動は多岐に渡る。
Instagram:@reishito
Youtube:https://www.youtube.com/@rei_shito
奥浜レイラ
タレント・MC・ライター。1984年6月3日生まれ、神奈川県藤沢市出身。2006年から『ズームイン!!SUPER』コーナーキャスターを務め、以降ラジオや洋楽番組のVJ、映画の舞台挨拶司会、夏フェスのステージMCとして活躍。ファッション誌やWebで音楽レビューも執筆し、海外フェス取材も行っている。現在は文化系MCとして多方面で精力的に活動中。
Instagram:@laylaokuhama
『私たちが光と想うすべて』
WEB:https://watahika.com/