それって、役者のことも役や映画のことも、全部考えた上で演出も流れも作って下さってたということなんですよね。(木竜麻生)
――『装苑』7月号で監督・脚本の加藤さんにお話を伺った際、演出上「俳優の生理と役の生理に無理が生じないことを目指しています」とおっしゃっていたのですが、それは具体的に現場でどんな演出となり、お二人にどう作用するのか気になりました。
木竜:リハーサルの最初に言われて心に残っていたのは、「今回、特に優実は、どれだけ隠すかです」という言葉でした。なので、思っていても言えなかったり、言いたくないことがあったり・・・そういうものを”どれだけ隠すか”は、すごく意識していました。加藤さんは、本当によく俳優を見てくれているので、撮影中も「出すぎている」や「もうほんの少しだけ出して」などと声をかけてくださり、細かい微妙なニュアンスを調整していく丁寧な作業ができます。
あともう一つ、「しぐさの手数を増やして」と言われたこともよく覚えています。他の現場ではあまり良しとされないと思いますし、やってと言われることもないでしょうけど、「本当に些細なしぐさで良くて、さらにそのしぐさをやろうとはしなくていいけど、しぐさを増やせる時に増やすのは構わないからどんどんやって」と。すごく難しかったのですが、今回の加藤さんの作品だから体感できた難しさだったような気がしますね。
映画『わたし達はおとな』より
――それは話しながらどう動くかや、ふとした時に何をしているかなどのバリエーションを増やすということですよね。
木竜:はい。「(そういうしぐさが)何かある?」と言われて、「しぐさですか?」って考えるような動きをしたら「それだよ」と。そこで、ああ〜!って分かりました。それこそ生理だと思うんですけど、やろうとするのではなく全部が”通る”ようにしたいと思いましたし、その難しさは感じていました。
藤原:いま聞いていて思い出したのですが、最初のリハーサルの時は、自分がやっているしぐさを、まず意識化するんです。それを重ねて本番に入ると、カメラが回っていても自分の生理に沿った動きが自然と出てくる状態になる。本番には「何もしない」ということができる、整った状態を用意してくれるんですよね。だから、僕はいつも加藤さんの時は楽なんです、演じていて。木竜さんは多分苦しかったと思うのですが、僕は、木竜さんが苦しいところに運ばれていく姿を見ているだけでよかったということもあって・・・(笑)。
木竜:いや、そんなことはない(笑)。今日のインタビューの前も、藤原さんは「俺は何も言うことが無い」ってずーっと言うんだけど、そんなことは全くないんです。現場では藤原さんがちゃんと全部受け止めてくれるので、本当に安心していました。
もともと藤原さんとは友人で、出演されている作品も観ていましたし、良い俳優さんだなぁってずっと思っていましたけど、初めて今回ご一緒して、現場でその大きさを感じました。私のほうこそ、ああもう全部任せよう!って。だから分からないことも不安なこともたくさん相談しましたし、お芝居で何かをする時にも、すごく委ねて現場にいることができました。それは藤原さんがいて、加藤さんがちゃんと見ていてくれるという安心感があったから。
映画『わたし達はおとな』より
――その信頼関係は、優実と直哉が幸せなときの空気感や、何気ない会話の間(ま)に感じました。セリフというよりは現実の会話のような、これはどこまでが台本に書いてあることなのかなと思ってしまうようなやりとりで。演じ手としてはいかがでしたか?
藤原:僕は楽でしかなかったです。それはなんでかというとーーこういう話は今だからできるのですが、相手を想う「好き」っていう気持ちの総量が、優実と直哉ではちょっと違うから。僕(直哉)は、ひょっとしたら優実と話しながら違うことを考えているかもしれない、その要素が多かったんですよね。元カノの存在も、自分がやっている演劇活動のこともありましたし。だから多分、真剣に会話していないんですよ。そういう意味での楽さもあったんです。
直哉は逃げ道が自分の中にいっぱいあるような人間で、そういう人って、ちょっと何考えてるか分からない。それが優実にとっては追いかけてしまうところだったのかもしれないですよね。だから僕はやっぱり、木竜さんとは違っていたんですよね。
映画『わたし達はおとな』より
木竜:「隠すこと」っていうのを最初に言われた上でセリフを読むと、優実は人格を言葉に委ねていないんです。言葉を信頼しきって書かれているセリフではないから、言っていること=内容に感情があるのではなく、言っている人の中に感情がある。それって本当は俳優として、どの作品でもどの現場でも、きっと真摯に向かい合わなければいけないことなんですけど、特に加藤さんは台本でも現場でもそこを追求していて甘えは許されないので、大変は大変でしたが、幸せでした。
ちょっとの緩みもそうですし、内面に抱えているものの量が減っていることも増えすぎていることもちゃんと指摘して、導いてくださるので。
藤原:なるほどね。
木竜:終わってから改めて感じたことだけどね。
藤原:僕と木竜さんに対しての演出が全然違うんだね、今思うと。
木竜:違うのかもしれない。私は、普段加藤さんが(藤原さんと)一緒にやっているからか、藤原さんに対しての言い方が強いなって思ってた。
藤原:わ、全く思わなかった!
木竜:うん、全然思ってなかったよね。現場でも、むしろ木竜さんに対して当たりが強いなと思ってたって言ってた。
つまりそれって、役者がどういう人で今どういう役でどのシーンを撮っていて、それがどんな役割を持ち、なにを次のシーンにバトンパスしなければいけないか、最低限そこに何がなければいけないかをきちんと考えて、加藤さんが演出も流れもつくって下さっていたということですよね。こうやって話しながらそれに気がつくことができて、今、とても有意義です(笑)。ありがとうございます。
――こちらの方こそ、貴重なお話をありがとうございます!藤原さんは加藤さんとこれまでたくさんタッグを組まれていますが、演出方法は作品によって変わりますか?
藤原:変わらないですね。必要以上に情感を残したり、人に対して近づきすぎると指摘されることが多いと思います。
例えば、誰かを励ます場面で肩に手を添えたりしたら、ぱって来て「それいらん」とだけ言われるみたいな。それがちょっと強く見えたのかもしれないですね。僕らの間に説明はいらないんです。「それいらん」って言われたら、相手に対して近づきすぎたんだなっていうのが、説明無しでも分かるから。(加藤さんは)人と人との距離をめっちゃ大事にする人ですし、僕もそう言われたら「近づきすぎたか、オッケー」という感じ。僕らは、交わす言葉がすごく少ないかもしれないです。
映画『わたし達はおとな』より