北村匠海、中川大志、松岡茉優、古川琴音――。いまをときめく人気俳優が共演した映画『スクロール』が、2月3日に劇場公開を迎える。YOASOBIのヒット曲「ハルジオン」の原作者・橋爪駿輝のデビュー小説を、『CUBE 一度入ったら、最後』の清水康彦監督が映画化した青春群像劇だ。
会社や組織といった社会に馴染めず、一方で、結婚などの社会的な幸せを求めてしまう男女4人の苦悩を等身大の痛みとして描く本作。結婚願望に取りつかれてしまう菜穂に扮した松岡茉優と、何者かになりたい想いを抱える〈私〉を演じた古川琴音に、映画の舞台裏や表現論を教えてもらった。
photographs : Jun Tsuchiya (B.P.B.) / styling : Kozue Onuma (Mayu Matsuoka),Makiko Fujii (Kotone Furukawa) / hair & make up : Ai Miyamoto (yosine.,Mayu Matsuoka),Yoko Fuseya (ESPER,Kotone Furukawa) / interview & text : SYO
『スクロール』
学生時代に友だちだった〈僕〉(北村匠海)とユウスケ(中川大志)のもとに、友人の森が自殺したという報せが届く。就職はしたものの上司からすべてを否定され、「この社会で夢など見てはいけない」とSNSに想いをアップすることで何とか自分を保っていた〈僕〉と、毎日が楽しければそれでいいと刹那的に生きてきたユウスケ。森の死をきっかけに“生きること・愛すること”を見つめ直す二人に、〈僕〉の書き込みに共鳴し特別な自分になりたいと願う〈私〉(古川琴音)と、ユウスケとの結婚がからっぽな心を満たしてくれると信じる菜穂(松岡茉優)の時間が交錯していく。
監督・脚本:清水康彦、北村匠海、中川大志、松岡茉優、古川琴音ほか出演。
2023年2月3日(金)より全国公開。ショウゲート配給。
(C)橋爪駿輝/講談社 (C)2023映画『スクロール』製作委員会
全員が緊張感を持って、役の精神性に肉薄していた ――松岡茉優
――本作で松岡さんが演じられた菜穂の衣装・髪型・メイクはTPOに合わせた絶妙にコンサバなもので、対照的に古川さんが演じられた〈私〉のナチュラルウェーブ×ボーイッシュなスタイルは自身を貫こうとする意志の表れと感じました。ルックから人となりがわかる作り込みでしたが、衣装合わせはどのように行われたのでしょう?
古川:衣装合わせ自体が結構前に行なったのでぼんやりとしている部分もあるのですが、覚えているのはとにかく衣装をたくさん着たことです。
松岡:多かったね。私もたくさん着た。
古川:ただ、用意していただいた衣装は全部キャラクターの芯を捉えたものでした。例えばサロペットも個性的なデザインだけどよく見ると主張しすぎないものだったり、抜け感のあるカッコいい服が多かったです。そういったところから〈私〉というキャラクターをつかんでいきました。
松岡:作品によっては4パターンくらいの個性から一つを選ぶこともあるのですが、今回は一つの方向性の中で、どう差し引きをしていくかでした。スタイリングの写真を見ながら他のキャラクターと比べたり、並んでみてどうか、といったバランスを見つつ調整されていた印象です。それもすべて、衣装部が事前に清水監督と詰めて下さっていたからできたことだと感じました。
これは現場全体に言えることですが、清水監督に対するスタッフさんの信頼が厚くて監督を喜ばせたいという想いを感じました。監督が嬉しいとみんなも嬉しいという現場だった印象です。
映画『スクロール』より
――おふたりの共演シーン然り緊張感のあるやり取りも収められていますが、現場は和やかなものだったのですね。
古川:そうですね。共演シーンは1日で撮りきったのですが、休憩時間にたくさんお話したことが印象に残っています。
松岡:嬉しいです。そのシーンにはMEGUMIさんも出演されていて、3人で美容トークばっかりしていたよね。バーを遮蔽しながら撮影していたから、時間の感覚もなくて。
古川:そうでしたね。
松岡:清水監督はすごく繊細に一つひとつのシーンを創り上げていくのですが、俳優部とも丁寧に話し合ってくださいました。その清水監督を監督補の長田亮さんがサポートされていて、演じていて違和感を覚えることがなかったです。
ただ、今回は多くのシーンがワンシーンワンカット形式の撮影だったので、私自身は内心ハラハラしているところがありました。
――緊張感があったのでしょうか?
松岡:一つのシーンを複数のカットを重ねて撮る経験も多いので、それぞれの想いがこぼれ落ちていないだろうか、という感覚が少しあったというか。
でも完成した映画を観たら、全員が緊張感を持って役の精神性に肉薄していると感じました。ワンカット撮影はどうでした?
古川:私はそっちの方が好きです(笑)。
松岡:あら!
古川:ワンカットのほうが新鮮に捉えられるし勢いに乗れる感覚があって、楽しんでいました。
松岡:素晴らしい。
〈私〉の生きざまには強さを感じました。――古川琴音
――清水監督や長田さんとは、役の心情部分も現場で細かく話されたのでしょうか。
松岡:そうですね。私が演じた菜穂ちゃんは、自分で設定したリミットが迫りくることに苦しめられている女の子。清水監督はそんな菜穂の気持ちに寄り添ってくれていて、私がある場面で「そうできないかもしれないです」と相談したら「そうだよね。ここでの菜穂ちゃんはこういう気持ちだもんね。じゃあこうしようか」と気持ちを汲んで、別の方法を提示してくださって。 ワンカットの緊張感はありつつも密にお話しできたことで、撮影の中で生じる誤差みたいなものも、話し合うことでフラットにできていました。
映画『スクロール』より
――本作は、観客が4人の登場人物と自身の人生観を照らし合わせる効果があるかと思います。ある種“自分事化”する映画ですが、演じられる際はいかがでしたか?
松岡:私はずっと自分が役の一番の理解者でありたい、と思っていました。でも、20代前半のときに役の悪いところ、短所のようなものも、私が分かっていないといけない、と考えるようになりました。だから、菜穂ちゃんにはきちんと短所も設定しました。観ている人が「ウッ」と思うようなところがある子でないといけないと思ったんです。
彼女自身は面倒見もいいし、決して悪い人ではない。ただ視野が狭くなっちゃっているだけなんですよね。「悪い人じゃないのはわかっているけどこういうところはあるよね」という短所を認めてあげるだけで、わざと出すわけじゃなくても自然とにじむものがあるんです。それがあることで、〈私〉ちゃんに何か言われたときの「それは譲れない」という引っかかりにつながるから、菜穂ちゃんの弱点や欠点もちゃんと見つめてあげたいと思っていました。
古川:私は、〈私〉という役に対して憧れを持っていて、「こうなってみたいな」という気持ちで演じていました。台本を読んだ時から、自分が理想としている生き方をしている人だなと感じたんです。
きっと誰しも「自分らしさ」を求めて生きていくものだと思うのですが、〈私〉の場合は自分らしさが何なのか、自分が一番大事にしているものが何なのかをはっきりとわかっている。いまは色々なものを比べられるし、他の人の生き方を簡単に覗ける世の中でもあります。だからこそ揺らいでしまったり迷ってしまうこともあるなか、〈私〉の生きざまには強さを感じました。
映画『スクロール』より
松岡:『スクロール』の台本を読んでいて、〈僕〉くんにしても〈私〉ちゃんにしても不確定な要素が多いなと感じていました。役名があって、誰かがその名前を呼び、本人も自分の名前を自覚することで人ってできていくものだと思うので、読んでいる段階では、〈僕〉と〈私〉をうまく捉えられていなかったな、と思って。
でも、古川さんが〈私〉のセリフをしゃべるとすごく説得力があって、古川琴音さんという人を通した際のセリフがとても心地よかった。お会いしたのも、一緒にお芝居をしたのも今回が初めてだったのですが、彼女を求めるクリエイターさんの気持ちがすごくよくわかりました。存在しているという説得力があって、作らない美しさのある、特別な魅力のある女優さんだなと感じながら、ご一緒していました。
古川:照れます……。
松岡:隣でこんなこと言われたら恥ずかしいよね(笑)。
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