木竜麻生×藤原季節 対談、
映画『わたし達はおとな』のバックステージ

自分や友達の日常が、スクリーンで再生されているような不思議な心地と緊張感。大学生の男女の恋愛を描く『わたし達はおとな』(2022年6月10日公開)は、日常で感じるこの空気感をそのまま慎重に封じ込め、放出させたような作品だ。画面に見入り、出来事に一喜一憂するうちにラストまで連れていかれる、そんな映画観賞の根源的な喜びにも満ちている。

監督と脚本を手がけたのは、主宰する「劇団た組」などでの演劇と、テレビドラマの脚本を中心に作品を発表してきた新鋭、加藤拓也さん。主役の優実を演じるのは、『菊とギロチン』『鈴木家の嘘』以来、高い評価を得ている木竜麻生さん。そして映画好きならその出演作をチェックせざるを得ない藤原季節さんを相手役の直哉に迎え完成した本作の、静かなる創造性はどのように作られたのだろう。

映画をもっと楽しむための舞台裏を、木竜さんと藤原さんのお話を通して覗いてみます!

photographs : Jun Tsuchiya (B.P.B.) / styling : Momomi Kanda (Mai Kiryu), Hironori Yagi (Kisetsu Fujiwara) / hair & make up : Miki Nushiro (Mai Kiryu), Motoko Suga (Kisetsu Fujiwara) / interview & text : SO-EN

『わたし達はおとな』

監督・脚本:加藤拓也、出演:木竜麻生、藤原季節、菅野莉央、清水くるみ、森田想、桜田通、山崎紘菜、片岡礼子、石田ひかり、佐戸井けん太

STORY 大学でデザインの勉強をしている優実(木竜麻生)には、演劇サークルに所属する直哉(藤原季節)という恋人がいる。ある日、自分が妊娠していることに気づいた優実は、悩みながらも妊娠とある事実を直哉に告げる。直哉は将来、自分の劇団を持ちたいと願っていた。現実を受け入れようとすればするほど二人の想いや考えはすれ違っていく……。

2022年6月10日(金)より、東京の「新宿武蔵野館」ほかにて全国公開。ラビットハウス配給。
(C) 2022 『わたし達はおとな』製作委員会

:::この記事の内容:::

p1 撮影に入るまで
p2 役と自分自身の間。二人が撮影中に感じていたこと
p3 最も印象的な場面、演じた役とのクロスオーバ
p4 二人にとっての「恋愛」と「現在地」

※p3に作品内容に触れる記述があります。ネタバレが気になる方は、p3を映画観賞後にお読みください。

キラキラしてないんだけど、してる。(藤原季節)

映画『わたし達はおとな』より

――ここ数年、日本では20代の男女の恋愛映画に多くの名作が生まれていますよね。木竜さんは、オムニバスドラマ「初情事まであと1時間」内「初体験まであと1時間」(監督:三浦大輔、2021年)で男女のワンシチュエーションの恋愛ものを演じられていましたが、長編の恋愛映画は、今回が初めてでしょうか?

木竜麻生(以下、木竜):はい、初めてでした。

――役や映画のための特別な準備はされましたか?

木竜:今回は、撮影前にリハーサルをちゃんとやらせていただいていたんです。なので、私が一人ですごく準備したというよりは、全体できちんと準備をして臨んだという感じかもしれません。
 私は加藤さんと「初めまして」だったのですが、加藤さんは、そのリハーサルの間に共通言語を作って下さっていました。普段の作品づくりのやり方に巻き込んでいただいたんだろうなぁと思っています。ありがたい時間でした。

――映画でリハーサル、よくあることなのでしょうか?

木竜:あんまりないと思います。

藤原季節(以下、藤原):今回、カメラを実際に置いてリハーサルをしていたのですが、それは珍しいです。カット割りも、どこにカメラを置けば優実の撮りたい表情をおさえられるのかも、リハーサルの場で全部計算していました。実際にセットに入った時にはすべて決まっているので、すぐに撮り終わるという。すごく効率的です。

木竜:ほとんど全部のシーンを(リハーサルで)あたって下さっていましたし、だからこそ全く想像がつかないみたいなシーンはそんなになくて。それでも現場でこうなるんだっていう驚きがある場面もありましたが・・・。

――その場面のことも、あとでぜひ教えてくださいね。藤原さんは、昨年3月の『佐々木、イン、マイマイン』(監督:内山拓也、2020年)のリモートトークイベントの際ーーその時は『花束みたいな恋をした』の公開タイミングでもあったのですが、恋愛映画にも出たいなと、ちらっとおっしゃっていたように記憶しています。

藤原:それが加藤拓也かあっていう感じです(笑)。恋愛映画といいつつ、ほかの恋愛映画とは一線を画している感じはしますよね。キラキラしてないんだけど、してるみたいな。

――確かに一筋縄ではいかないですよね。『DIVOC-12』の「よろこびのうた Ode to Joy」(監督:三島有紀子、2021年)の際は衣装を着て、実際に東北に赴いて準備をなさったそうですが、今回に関してはいかがですか?

藤原:何もしないということを心がけていました。加藤さんの現場では、演者は何もしなくていい。それは、僕が加藤さんのことをすごく信頼しているというのもありますし、加藤さんの前で何かをしようとすると、「俳優が何かを表現しようとしている」という作為がバレてしまうからです。加藤さんが書いているセリフと、そこに書いてある役に全部任せて、預ける。僕の意図や意思は、この作品の中にほぼ介入していないです。

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