映画『ハケンアニメ!』出演、吉岡里帆インタビュー。
“ものづくり映画”に挑む精神性

映画・ドラマ・舞台・CM・ラジオ……多方面に活躍する俳優・吉岡里帆は、表現者であると同時に文化芸術の信奉者でもある。アートやエンタメ、カルチャーをこよなく愛する彼女が“ものづくり映画”で主演を務めるのは、運命的といえるだろう。

しかも今回吉岡が演じるのは、新人アニメーション監督。小説家・辻村深月の人気作を実写映画化した『ハケンアニメ!』(5月20日公開)で、中村倫也扮する天才監督と土曜の夕方枠の“ハケン(覇権)”をかけてしのぎを削る。メガホンをとったのは『君の名は。』のCGクリエイターを務め、中村が7役に挑戦した『水曜日が消えた』で長編監督デビューを飾った吉野耕平。

アニメへの愛情、作り手としての信念――。表現(発信)と鑑賞(受信)、二つの側面から吉岡にものづくり論を伺った。

photographs : Jun Tsuchiya (B.P.B.) / styling : Maki Maruko / hair & make up : Mifune Nakamine / interview & text : SYO

ハケンアニメ!
連続アニメ『サウンドバック 奏の石』で夢の監督デビューが決定した斎藤瞳(吉岡里帆)。だが、気合いが空回りして制作現場には早くも暗雲が立ち込める。瞳を大抜擢してくれたはずのプロデューサー・行城理(柄本佑)は、ビジネス最優先で瞳にとって最大のストレスメーカー。「なんで分かってくれないの!」と憤りながら、瞳は日本中に最高のアニメを届けたいという思いから、目下大奮闘していた。
『サウンドバック 奏の石』のライバルは、同じ時期に放送が始まった『運命戦線リデルライト』。監督を手がけたのは、瞳が憧れる天才・王子千晴(中村倫也)だ。そのプロデューサー・有科香屋子(尾野真千子)も、千晴のワガママと気まぐれに振り回されて悪戦苦闘中だった。瞳は一筋縄じゃいかないスタッフや声優たちも巻き込んで、熱い想いをぶつけ合いながら、“ハケン=覇権”を争う戦いを繰り広げる。

*このインタビュー記事の内容*
p1 吉岡里帆さんが好きなアニメや映画と、その理由は?
p2 吉岡さんが表現者として譲れないこと、『ハケンアニメ!』衣装合わせの舞台裏

クリエイターを描いた作品が好きなんです。

映画『ハケンアニメ!』より

――吉岡さんは『海獣の子供』『鉄コン筋クリート』など、スタジオ4℃作品がお好きと伺いました。スタジオ4℃の『漁港の肉子ちゃん』や超平和バスターズの『空の青さを知る人よ』等、様々なアニメ作品に出演されていますが、ご自身の表現につながる、アニメーションから受けた恩恵にはどのようなものがありますか?

 恩恵というとやっぱり、世界にトリップできる方法を教えてもらったことでしょうか。小さい頃から、弟と一緒にジャンルを問わずに色々なアニメを観てきました。実写映画ももちろん大好きですが、アニメにしかできない表現方法が本当にたくさんあるなっていつもワクワクします。

 特に好きな部分は、「不可能を可能にする」ところ。実写ではできない表現をいとも簡単に成し遂げちゃうところもアニメならではで好きですし、生身の人間のような感情の起伏をアニメの表情から感じられるときはすごく感動します。

 去年、京都アニメーションの『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』を劇場で観たときに、涙が止まらなさすぎて「どうしてこんな表情を描けるんだろう。もし実写化したら、人間がこの表情を出せるんだろうか、無理なんじゃないか」とさえ感じました。アニメを観ているとき、そういった部分にいつもグッと来てしまいます。

 また『空の青さを知る人よ』のときに、アニメーターの方々と乾杯をする会があって。それぞれの部署の方にご挨拶をしに行ったら、皆さんが「私はこのシーンのこの瞬間のこれ担当なんです」と教えて下さるんです。こんなに大勢の方がコツコツと描いたものが1本の作品になって、そこに自分が声を入れさせていただいたんだと思うと感極まるものがあって、アニメーターの方って本当にカッコいいなと感じました。『ハケンアニメ!』は、あのときの想いをそのままぶつけられる作品でした。

映画『ハケンアニメ!』吉岡里帆さん演じる斎藤瞳監督作の『サウンドバック 奏の石』より

――吉岡さんは読書家ですし、『ジュゼップ 戦場の画家』『ある画家の数奇な運命』『逃げた女』等のミニシアター系の映画にも推薦コメントを寄せていらっしゃいますよね。本当に幅広く様々な作品を摂取している印象です。直近だと『コーダ あいのうた』をご覧になったと伺いました。

 そこまで見ていただいてうれしいです。『コーダ あいのうた』、いまの最推しです!

(※余談:インタビューの後日、本作は第94回アカデミー賞作品賞を受賞)

 映画が好きな友だちが周りに多いので、みんなで常に情報交換をしています。そのうえで予告を観たり、監督のお名前で「あっこれは絶対観ておかなきゃ」と思うことが多いですね。作品を選ぶ際には、テーマも大事にしています。

――クリエイターを描いた作品、結構お好きなのでは?と思いました。

 すごく好きです。ミュージシャンやデザイナーを追いかけているドキュメンタリー映画もよく観ますし、劇映画でもクリエイターの人生を描いたものに惹かれますね。

――パーソナリティを務められているラジオ番組『UR LIFESTYLE COLLEGE』でも、数多くのクリエイターとコラボレーションされています。

 これは自分の根っこにあるものですが、ものを作る人へのリスペクトが滅茶苦茶強いタイプなんです。クリエイターの方々への敬意と、ものづくりについて知りたいという欲求、あとは何かを生み出している人は、人間としての根本的な感情が揺れ動いていないと何も始まらないと思うので、その感情の動きに興味があるんだと思います。だからこの仕事が好きだし、都度感動もしてしまうんでしょうね。

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