『装苑』2026年9月号より掲載

デザイン、音楽、アート、テクノロジー、あらゆる分野の壁が融解しつつある現代において、時代のゲームチェンジャーとなるのは、軽快に「越境」を繰り返すクリエイターたち。異なる視点を掛け合わせることで生まれる、新しいクリエイティブの可能性とは?
LOM BABY
photographs : Norifumi Fukuda(B.P.B.)
interview & text : Mizuki Kanno
styling : Yujin Nagashima
ジャンルを越境するクリエイターたち🔻
デジタルが飽和した時代に、バイオテクノロジーを駆使した表現で世界の度肝を抜くクリエイティブ集団、LOM BABY。代表の浪岡拓也と青木寛和が前衛的な「バイオアート」に着手した理由は、極めて純粋な美術史への探求と、批評精神に裏打ちされている。
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「バイオアートで美術史の
「未踏の概念」に挑む
「未踏の概念」に挑む

「ダミアン・ハーストがホルマリン漬けのサメで『死』を超越したように、人類がまだアートで超えられていない概念が『生命の誕生』です。最新のDNA合成技術を使えば、〝ピカチュウ〟や〝綾波レイ〟といったこの世に実在しないキャラクターに、物理的な命を授けることができる。キャラクターの特性を反映したDNAを設計し、それをもとに細胞培養していけば、理論上は本物の生命ができ上がるというわけです。とはいえ、本当に人造人間を作ろうってことではなく、その可能性を提示することで社会に対して問いかけをしているんです。そんなアイデアを形にしてくれる研究仲間を探し歩き、僕らの夢を急加速させていきました」
その最新形が、セガのキャラクター、「ソニック」の35周年を記念した、ソニックの等身大フィギュアだ。
「肉眼では見えないDNAをどう見える化するかにこだわっています。今回は、ソニックのDNAを作品のキーアイテムであるカオスエメラルドに封入し、メタリックなフィギュアの胸もとに搭載しました。ソニックのゲノムは50億文字で設計していて、ハリネズミの全ゲノムに筋肉や骨を増強するDNAを加えることで、身長100cm・体重35kgというリアルな体格を再現しました。ほかにも、泳げないという設定を再現するDNAや、青色の細胞を作るピグメントDNA、さらにはソニック特有の冒険心が強い精神性を作るヒロイズムDNAまで、実際にDNAを合成し、封入しています」

ソニックのフィギュアを制作する過程で生まれたサンプル。開発中の「アンバー化」という技術を用い、人工の樹液にDNAを封入することで、常温下では短期間で劣化するDNAを50〜100年にわたり保管できる。


アートという限定的な枠組みを飛び越え、彼らはその表現を「社会のインフラ」へと接続していく。
「僕たちが目指しているのは、美術館に飾られる1億円のアートではなく、バイオプロダクトとして社会にどれだけ影響を与えるか。学者だけで集まると遊びがなくなるし、アーティストに寄りすぎるとバイオである意味がなくなる。僕らはそのグレーゾーンを目指していて、『セクシーか、セクシーじゃないか』が大切なんです(笑)。デジタルテクノロジーは人類の歴史から見ればここ100年ほどのものですが、DNAは万年単位で残り続ける情報です。ソニックをバイオに落とし込むことで、1000年先まで残したい。例えば、絶滅しそうなニホンミツバチのDNAを入れた『ガチャガチャ』を世界中に流通させて、みんながおもちゃとして家に持って帰ってくれれば、世界中にDNAが分散保存され、未来の技術で復活させることができるかもしれない。そんな仕組みを、エンタメとして社会に実装していきたいんです」



2025年の大阪・関西万博の展示。「SFを現実に」をテーマに、宇宙人のDNAを搭載したフィギュア(上)や、ダメージを感知して自ら修復するスニーカー「Heal Sneaker」(左下)、神話や伝承からの情報をもとに作られた「龍肉」(右下)で注目を集めた。
ロム ベイビー
「生命の誕生」をテーマに、アーティスト、エンジニア、科学者など多様な分野のメンバーによって構成されるサイエンスコレクティブ。ニューヨークのワールド・トレード・センター、パリのグラン・パレ、東京の国立新美術館など国内外で作品を発表し、国際的に注目を集めている。
Instagram: @lombabyofficial









