
怖いと分かっていても、引き寄せられてしまう——。
ホラーブームは一過性の熱狂にとどまらず、映画や小説の枠を飛び越えて、ついにファッションの世界へ。ホラーから着想を得た不気味で美しいクリエイションが、あちこちで存在感を放っています。
ジャンルを越境して多くのクリエイターたちを魅了するホラーの魅力とは?
なぜこれほど人々を惹きつけるのかを探るため、ホラーをこよなく愛し、クリエイションにまで反映されている、MIKIOSAKABE(ミキオサカベ)のデザイナー・坂部三樹郎さんにインタビュー!「日本のホラー」を着想源とした2026-’27年秋冬コレクションをはじめ、坂部さんの体験談からおすすめの作品までたっぷりお話を伺いました!編集部からもこの夏イチオシのコンテンツをご紹介します。
日増しに暑さが厳しくなる今日この頃。坂部さんとともにホラーの世界を覗いて、涼をとってみてはいかがですか?👻

MIKIOSAKABE
2026-27年秋冬コレクション
ミッションクリア型のホラーアトラクションを展開する「オバケン」と2度目のタッグを組んだ2026-27年秋冬コレクション。2026年3月21日(土)に東京・浜松にある「凶遡 咽び家」を舞台に、プレゼンテーション形式で発表された。





坂部三樹郎(Sakabe Mikio)
1976年生まれ、東京都出身。2006年にアントワープ王立芸術アカデミー ファッション科マスターコースを首席で卒業。’07年、シュエ・ジェンファンとともにミキオサカベを設立。フットウエアブランド、グラウンズのクリエイティブディレクター、スリー トレジャーズ代表も務める。’19年には、自身がヨーロッパで学んだ経験をファッションデザイナーを志す多くの人へ教えるべく、ファッションスクール「me」を立ち上げる。東京を拠点に、次世代の新たな人間像を、時代や感情の象徴となるファッションを通して提案している。
MIKIOSAKABE
WEB:https://mikiosakabejennyfax.store
Instagram:@mikiosakabe
ホラーはいちばん身近な
ファンタジー体験
―― MIKIOSAKABEの2026-’27年秋冬コレクションのテーマは「日本のホラー」。装苑6月号の対談では、現在はほぼホラーにインスピレーションを得ているとお話されていました。なぜホラーなのでしょうか?
クリエイションをする中で、常識にとらわれすぎないことはとても大事ですが、現実の存在感が強いために、そこから抜け出す方法を見つけるのはなかなか難しい。その点、ホラーは現実を簡単に引きはがせる面白い要素だと思っています。
大人でもホラー映画をみた後は1人でいるのが少し怖くなったりしますよね。それってファンタジーな体験要素だと思うんですよ。妖精や怪獣がいるということは大人になるとあまり信じられないけれど、ホラーはファンタジーな世界に入りこみやすい。そんなところに惹かれて、今シーズンを含め、最近はホラーからインスピレーションを得ています。
―― 2026年春夏コレクションから引き続き、2度目となる「オバケン」とのコラボですが、実際に体験することで、ファンタジーの世界に没入してほしいという狙いがあるのでしょうか?
そうですね。オバケン自体がエンターテイメント性が強いので、ホラーをあまり知らない人にもコンセプトや世界感が伝わりやすいかなと思い、ご一緒させていただきました。
来ていただいた方々には、不気味さだったり異様さだったり、日常とずれた体験をしてもらうことができたのではないかと思います。




MIKIOSAKABE 2026年春夏コレクション
―― ルックで表現されている昭和のレトロなエッセンスや、違和感を覚えるディテールが印象的でした。「日本のホラー」を表現するにあたっていちばんこだわったポイントはどこですか?
経年変化を思わせる、使い古したようなほつれや穴あき、皺を寄せた加工を全体に施しているのがポイントです。また、そういったディティールを含め、ただ単純にホラーに寄せるのではなく、モダンな要素を効かせてファッションとしてのバランスをとっています。




MIKIOSAKABE 2026-27年秋冬コレクション
―― 学生服を思わせるルックも多く見られました。ミキオサカベのコレクションに通底する少女性とホラーは、なにか通ずるものがあるのでしょうか?
デザインをする際は若い人を起点に進めていくことが多いのですが、それは若い人たちや子供は常識に囚われすぎていない状態だから。
ホラー映画でも、小さな子供がきっかけで大人がお化けの存在や異常に気が付いたりなど、展開のなかで子供がカギになっていくことが多い。そういったことがイメージのひとつにありますね。




MIKIOSAKABE 2026-27年秋冬コレクション
―― お話を伺っていて、本当に沢山のホラー作品をご覧になっているんだなと感じます。ホラー作品は元々お好きだったのですか?
昔から、映画や小説、漫画など、どのジャンルのホラーも好きです。
『ハリーポッター』や『ロード・オブ・ザ・リング』などのファンタジー作品は怖くないし、あまりにも現実味がないから見る前にこちら側が寄り添わないといけないからハマれなくて。でも、ホラーは向こうからこちらの日常に入り込んできてくれるので、意外とすんなり世界観に入れてしまうんですよね。
―― やはり日常を感じられるかどうかがキーポイントなのでしょうか?
ホラーでも日常を感じられないものは怖くないと思います。ハリウッド映画では、デーモンやサタンが登場する作品が数多くありますが、日本人はサタンといわれてもピンとこない人が多いと思うんです。その一方、邦画は日本の価値観に基づいた呪いなどをテーマにしているので、日本人は怖いと感じる人が多い。そういった面で、自分の日常との関わり方っていうのはホラーにおいて結構大事な要素ですね。
―― 確かに、個人的に海外のホラーより日本のホラーの方が自分の生活の地続きにあるので怖いと感じます。
でも海外に住んだらそっちの生活が普通になっていくので、海外のホラーも怖いと感じるようになるんですよ。環境によって身近なものや価値観が変化するのに合わせて、怖いと感じるものは変わっていくのだと思います。
―― 坂部さんご自身はホラー体験をしたことがありますか?
お化けを見たことはないのですが、すこしおかしな体験をしたことはあります。
約20年前、東京ミッドタウンの21_21 DESIGN SIGHTで開催された「ヨーロッパで出会った新人たち」展での出来事です。展示では、「TARO HORIUCHI」の堀内太郎をはじめ、6ブランド11名のデザイナーが参加。僕にとっては、東京で初めてちゃんとした形でコレクションをインスタレーション形式で発表した場でした。
イベントが終わった夜遅く、太郎と僕は片付けた荷物を抱え、六本木のギャラリーへ向かって歩いていました。疲れているうえに、途中で雨まで降り出す始末。少しでも近道をしようと、途中にあったトンネルを通っていくことにしたんです。でも、トンネルにさしかかったらものすごい耳鳴りがし始めて、嫌な感じがしたんですよ。近道はしたいけれど通ろうとするとすごく苦しくなる。太郎も僕と同様、変な耳鳴りがしたようで、通りたくないと言ったので、結局遠回りしてギャラリーまで向かいました。霊感なのかはわからないですが、それが唯一のホラー体験です。
―― 第六感ですね。
太郎もお化けを見た経験はないそうですが、2人揃って変な耳鳴りがしたっていうのが少し怖かったな。今通っちゃだめな気がする、って感じたんです。
その体験から、変な耳鳴りと普通の耳鳴りの違いがわかるようになりました。通って違和感があるところだったり、異様な雰囲気の建物があると、普通の耳鳴りとは違う耳鳴りが……。でも実際にお化けを見ているわけではないんですけどね。
―― 第六感といえば、坂部さんは夢からインスピレーションを得るんだとか……。やはりそういった感覚的なものがクリエイションに影響しているのでしょうか?
元々、チベット仏教に「半分寝ている状態の時に高僧に導かれて夢の中で悟りを開く」というのものがあるんです。僕の場合は瞑想の類というよりはツールに近いですね。ランニングしているときやお風呂に入っているときにひらめきやすいとか、それに近い感覚だと思います。
夢は自分から常識を引きはがさなくても、勝手にはがれていくもの。夢の中で犬が日本語を話していてもおかしいと思わないじゃないですか。常識だけを忘れてクリエイションを考えられるからプロセスを早送りできるんです。
―― 半分寝ているところから起きるのは大変ではないですか?
起きること自体より、起きたときに内容を覚えているのが大変です。そのまま寝てしまうと忘れちゃうので、ぱっと起きてメモします。
―― 坂部さんが一番怖いと思った映画や興味深い作品を教えてください。
Netflixオリジナルシリーズの『呪怨:呪いの家』が好きです。
ホラー映画を何本も観ていると、「この展開のあとは間違いなくお化けが出るな」といった定番の法則やルールが分かってきますよね。でも、このドラマはタイミングや間の取り方が独特で、展開も予測がつかないし、怖い雰囲気の作り方が上手いんです。
あとは、ホラー映画はリアルな生活感を出すためにプロップ(小道具)が本当に大事だと思っているのですが、このドラマはそこもよく作り上げられています。カーテンが特にいいですね。
また、最近のものではYoutubeで廃墟とか心霊スポットにいく動画が面白くてよく見ています。『ゾゾゾ』というユーチューバーの動画が結構怖くて好きですね。
―― 確かにホラー映画では細部の違和感で怖さがぐっと違う気がします。
『リング』という人気作品があるじゃないですか。映画も面白いんですが、小説の方が個人的にはものすごく怖いと感じます。ざっくりと概要を話すと、呪いのビデオというものがあってそれをみたら呪われて1週間以内に死んでしまうという内容です。
そのビデオは一見普通のビデオなのですが、じっくり見ていると何かがおかしいと気づくんです。普通の人がカメラで撮影するだけでは出ないような生々しさがあって、スローでよくみてみると、その違和感の正体に気づくのですが、その描写が生々しくて結構気持ち悪い。映画だとどうしても尺の関係で省かないといけない場面も、本では細かく異様さや気持ち悪さを描写してくれているのでおすすめです。
―― 海外の作品はいかがですか?
『シャイニング』や『エクソシスト』、『ポルターガイスト』などのホラーの代表格的な作品は、やっぱり本当によくできていてすごいですね。
『シャイニング』は、主演のジャック・ニコルソンの演技がとても怖くて好きです。映像も綺麗ですし、巨匠のスタンリー・キューブリック監督が撮っているだけあってすごくよく撮られている。序盤の秋の景色が山奥にいくにつれて真冬になっていく1カットのシーンもかっこいいですね。ただ脅かすというのではなく、ああいった独特な空気感や表現力のあるホラーに魅力を感じます。
―― フランケンシュタインなど、いわゆるゴシックホラー作品もお好きですか?
フランケンシュタインは何作か見たことがありますが、あまり面白いと思ったことはないです。古典ホラーで好きなのは、ゾンビ映画。『トレインスポッティング』のダニー・ボイルが監督を務める『28日後…』は特に好きな映画です。
昔のゾンビは動きが遅くて全然怖くないんですが、最近のゾンビは早いので結構怖いんです。その近年の動きの速いゾンビを開発したのがダニー・ボイルです。

―― 今回のコレクションでオバケンとコラボされていますが、お化け屋敷はよくいかれますか?
いきなりわっと驚かせてくるようなお化け屋敷は面白いイメージがなく、惹かれないのであまり行かないですね。
オバケンはストーリーや設定がずば抜けて面白いので、プライベートで何度も足を運んでいます。方南町のオバケンが特におすすめです。殺人鬼のいる家から無事生還するという内容で、1人暮らしの家を不動産屋さんと見に行くために方南町駅で待ち合わせするところからアトラクションが始まります。オバケンが全体を改修した築60年越えの古民家の一室を間借りしようと考えているという設定で、一緒にその物件に向かいます。到着すると、大家さんに即決してくれるなら月1万で貸しますよと言われるのですが、OKしたらそれがスタートの合図。書類を取りに行くために不動産屋の方が出ていくと、1階の方から女性の助けてという声が聞こえてきて….。というような内容です。近くに潜んでいる殺人鬼から隠れないといけないという悪夢のような体験ができます。
もちろんゲームなので本当に怖いことはされないので、ぜひ楽しんでやってみてほしいです。

方南町にある「畏怖咽び家」
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