
これまでラフ・シモンズやクレイグ・グリーンなど、数々のデザイナーと協業してきたフレッドペリーが、最新のコラボレーションパートナーとして迎えたのは、モダン・ミニマリズムを代表するデザイナー、クリス・ヴァン・アッシュ。2007年から2018年までディオール・オム、2018年から2021年までベルルッティでクリエイティブ・ディレクターを務め、自身のブランドでカルト的な人気を博した。
本コラボレーションを記念し、クリス・ヴァン・アッシュさん本人を招いたトークセッションが開催された。ゲストにスタイリストのTEPPEIさんと、お笑いトリオ、四千頭身の都築拓紀さんを迎え、クリエイションの哲学、そして今後のビジョンまでを語った貴重な一夜の模様をお届けします。
photographs : Josui Yasuda(B.P.B.)
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ユースカルチャーをさらなるレベルに持っていきたかった

―― クリスさん、来日は久しぶりでしょうか。日本の印象をお聞かせください。
クリス・ヴァン・アッシュ(以下、クリス):みなさん、こんばんは。私を迎えてくださって本当にありがとうございます。なかにはディオールのジャケットを着てくださっている方もたくさんいて、とても嬉しいです。日本にはとても思い入れがあるので、こうやってまた戻ってこれて嬉しいです。
―― 早速、今回のコラボレーションについてお伺いします。クリスさんからコンセプトを教えていただけますでしょうか。
クリス:これまでの仕事では、どうやって自分のストリートの要素を、新鮮な形でラグジュアリーに取り入れるかということに長年取り組んできました。でも、このコレクションでは逆のアプローチになっていて、フレッドペリーという存在に、シックで洗練された要素を加えて、ユースカルチャーをどういうやり方でさらなるレベルに持っていけるかということを念頭に置いています。

―― 都築さんとTEPPEIさんは、このコラボレーションをどう思いましたか?
都築拓紀(以下、都築):僕はフレッドペリーの古着を着ることは多かったんですけど、個人的にテーラードのイメージはあまりありませんでした。そこにクリスさんが手がけるテーラードが1着入ってくると、コラボと言いつつも、かなりクリエイターの色が出るものなのかなと。ただのテーラードじゃなくて、ちゃんとスポーツだったり、フレッドペリーが持つ歴史の要素が入っているあたりが、それぞれが生き生きした上で気持ちのいい融合ができているのかなと思いました。
TEPPEI:ルックを見る前は、カルチャーとしては密接に関わってきたし相性がいいのは分かるけど、今の時代にどういう作品を作ってくれるんだろうって、すごくワクワクしていました。実際に見てみると、すごくウェアラブルで、フレッドペリーの良さもあるし、クリスさんが作ってきたレガシーみたいなものがしっかりと取り込まれていて、とても気に入っています。
ルールがあればあるほど、それを広げて解釈するのが楽しい

―― 既存のルールを打ち破ることについてお伺いさせてください。今回のコレクションでは、ユニフォームを再定義し、アップデートしたとのことですが、ユニフォームをどう捉え、どう崩したのでしょうか。
クリス:実は、ユニフォームという考えにとても魅了されてきました。特にメンズウェアではデザインコードやルールが多く存在します。例えば、労働者、軍隊、スポーツのグループ、学校の制服など。ルールやコードがあればあるほど自分は楽しくなります。それをより広げて、どれぐらい遠くまで解釈できるかというのを楽しんでいます。
フレッドペリーといえば、まずポロシャツがあります。そのポロシャツをいかにクリス・ヴァン・アッシュらしく昇華できるか、違う形で提示できるかをすごく考えました。例えば、ポロをドレスシャツのような雰囲気にできるか試したり、トラックスーツというスポーティーなアイテムに、ピンストライプやテーラリングの要素を融合させて、曖昧に壊していく。そこがとてもポイントになる作業でした。

都築:はい、質問です。クリスさんは子どもの頃からルールを破るような子でしたか?
クリス:その質問はぜひ私の両親に聞いてみてください(笑)
自分ではすごくいい生徒だったと思っています。ただ、今振り返ってみれば、いつも質問をしているような子どもでした。「自分のクローゼットのこの服は誰が作ったのか」「なぜこれを着なきゃいけないのか」と。子ども時代からやりたいことははっきりしていて、アントワープの芸術学校でファッションを学びたいと割と早い段階から思っていました。
都築:僕は「ルールを破っちゃだめだ」と言われて育ちました。でも子どもながらに破りたくなっちゃう。大人になると本当に破っちゃだめじゃないですか。でも、洋服ってそれを許されているところがある。僕も端くれではありますが、服を作らせてもらっている一員として、ルールを破りたいという欲望の中で、洋服を作れる立場があることはすごい救いなのかなと思ったりしました。
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現代ファッションにおける「強いDNA」の可能性

TEPPEI:現代のストリートファッションって、かなり曖昧になってきていると思っていて。ユニフォームというのは、広い意味ではトラディショナルなものに含まれると思いますが、そういったものをみなさんがどう理解して服を着るかっていうのも曖昧になっている。なので、こういったウェアラブルでスポーティーなアイテムで、しっかりしたコンセプトを持ちながらデザインされているけれども、人々にとってはとても現代的であるというものに、すごく感動しています。
クリス:日本のファッションはヨーロッパと違うかもしれないんですが、私がファッションに関わり始めたときは、ラグジュアリーブランドはそれぞれ異なる強いアイデンティティーを持っていて、すごく多様だったと思います。ただ今は、どのブランドも結構似てきているような気がしていて、ある意味「ラグジュアリーのユニフォーム化」みたいになってきている。
だからこそ、今回フレッドペリーとやりたかったんです。フレッドペリーは本当に強いDNAを持っていて、どこをとっても自分とはまた違うところがあるからこそ、お互いをリスペクトできる素晴らしい関係だったと思います。なので、彼らが持っているDNAをこうちょっと違う方向に持って行ったり、拡大したり、高めたりということはしてきましたが、壊そうということはまったくしませんでした。

都築:ルールの話に戻ってもいいですか? あくまで僕の視点なんですけど、ルールに口うるさい人間が多い気がしていて。「服が好きなのになんでヒップホップを知らないんだ」とか、「この靴を履いてるのにこのカルチャーの知識はないのか」とか。そういう固定概念とかルールに縛られたファッションをやってる人ってどう思いますか? 悪意はないですよ(笑) ただ、ルールを破るプロにお聞きしたい。

クリス:すごくよく分かります(笑) クリエイティブディレクターだったときは、5か国語を話さなきゃいけなかったし、現代アートにも精通してなきゃいけなかったし、最新の映画も展覧会もチェックしなきゃいけなくて、スーパーモデルとも友達じゃなきゃいけなくて。それで年6回コレクションをやらなきゃいけなかった。がんじがらめになっていたので、そういう気持ちもよく分かります。
都築:スケールがでかい(笑)
ファッションデザイナーじゃなかったら、花屋になりたかった

―― 印象的な缶バッジのデザインはどのようにディレクションされたのでしょうか。
クリス:花は自分にとって、とてもパーソナルなものです。このバッジの花は私の家で咲いた花で、自分でもSNSにあげている写真をプリントしました。
今はとても暴力的な世の中になってしまっていますが、その中でも花は小さな美しい瞬間を届けてくれるものだと思ってます。ファッションデザイナーにならなかったら、自分は花屋になりたかったと常々言っているんですが、ファッションと花にはすごく多くの共通点があると思っています。それは、必ずしも生きていくのに必要ではないけれど、でも日常をこう美しく生き抜くのに不可欠なものである。
都築:僕は父親から「花なんて枯れちまうようなもの何がいいんだ」って言われて育ってきたんですよ(笑)今の話を聞いていたら、クリスさんみたいなお父さんがいてくれたら、なんて良かったんだろうってすごく思いましたね。
人生の最大の喜びは、自分の服がストリートで着られているのを見ること

――クリスさんの新しいクリエイションを見たいという方もたくさんいらっしゃる中で、今後のビジョンについてお聞かせいただけますでしょうか。
クリス:過去に自分のブランドを休止したのは、人生で最も難しい決断で、軽い気持ちではありませんでした。経済的にも、インディペンデントなレーベルを運営するということはとても難しいことです。ブランドを立ち上げた2004年と比べても、今はより状況が複雑になっています。
それに、15年間ラグジュアリーの世界で、素晴らしいクラフツマンシップや技術を経験してきたので、それをもう一度自分のブランドで表現できるのか、という問いもあります。なので、今の段階では、フレッドペリーのように何かの分野のエキスパートの方たちと多様な観点を持って物作りをしたり、花瓶のデザインをしたりと、たくさんのプロジェクトを楽しんでいます。

都築:服作りって、100パーセント自由には作れないじゃないですか。予算だったり、技術的な問題だったり、マーケットを意識したり、と我慢しなきゃいけないことが多い。クリスさんは、服作りでどのくらい我慢しますか。
クリス:私はちょっと違うアプローチかもしれません。というのも、私にとって人生の最大の喜びは、こうやって皆さんが自分のコレクションを着てくれることだからです。ストリートで、過去に作ったコレクションを皆さんが着てくれるのを見ると本当に喜びを感じます。なので、現実が自分を制限したりや縛るものというよりは、その制限があるからこそ、それを広げて新しい価値を作り出していく。料理人みたいなものでしょうか。どんなものを作っても、最後には食べてくれる人が一番大事。そこはずっと変わりません。
都築:僕の考えがとても傲慢でした。
日々を積み重ね、振り返ることで見つかる自分らしさ

TEPPEI:最後に、クリスさんにとって、ご自身らしさというのはどのように確立されたのでしょうか。
クリス:日々、自分のことを学んでいくことが大事なのではないでしょうか。2005年に自分のブランドを始めたときと、今の自分はまったく違う人間です。ベルルッティを離れたあと、自分がどういうデザイナーなのか分からなくなったときがあって、それまで手掛けた55のコレクションを1冊の本にしました。アーカイブをしっかり見ると、自分がどういう人間なのかが透けてきた気がします。
インディペンデントな自分のブランド、巨大なラグジュアリーブランドのディオール、職人技が光るベルルッティと、すごくいろんなタイプのファッションをしてきたことで混乱していたんです。でも、自分の歩んできた道を振り返ったことで、変わらない部分も見つけることができました。今では、コラボレーションでも、自分らしいものを胸を張って表現できるようになったと思います。素材や形態は変わっても、自分らしさというものは20年間かけてやっと見つけてこれました。

Kris Van Asshce
クリス・ヴァン・アッシュ●1976年生まれ、ベルギー出身。アントワープ王立芸術アカデミー卒業後、エディ・スリマンの右腕として「イヴ・サンローラン」や「ディオール オム」で経験を積む。2007年、エディの後任として「ディオール オム」のクリエイティブ・ディレクターに就任。約11年にわたり、伝統的なテーラリングにストリートの感性を融合させた独自のスタイルを確立した。その後「ベルルッティ」のアーティスティック・ディレクターを経て、現在は家具やプロダクトのデザインなど多角的に活動している。2026年に、「フレッドペリー」との初のコラボレーションを発表。ブランドの象徴であるポロシャツに、自身のシグネチャーである「花」のバッジやタイを添えるなど、ユースカルチャーのユニフォームをエレガントに再構築し、大きな話題を呼んでいる。
Instagram:@kris_van_assche
FRED PERRY
WEB: https://www.fredperry.jp/
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都築拓紀(四千頭身)
Instagram:@tzk4000
TEPPEI
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